トップ犬のケア犬の歯磨きの仕方

犬の歯磨きの仕方・完全ガイド~準備・コツから嫌がるときの対処法まで

 犬の歯磨きのやり方を写真や動画とともに詳しく解説します。犬の口臭や歯周病を予防するためには、1日1回の頻度で歯ブラシを用いて歯磨きを行うのが必須。歯につけるだけで歯磨きの代わりになるような商品は残念ながらありませんので、すべての飼い主が歯磨きのコツをマスターしておく必要があります。

犬の歯磨きの準備

 犬の歯周病を予防するために歯磨きは欠かせません。しかしいきなり犬の口を開けて歯ブラシを突っ込むと、まず間違いなく逃げ出してしまいます。歯磨きを嫌なイベントとして記憶してしまわないよう、事前の準備をしっかりと終えておきましょう。

犬の歯の基本構造

 人間の歯と犬の歯は数も構造も大きく異なります。歯磨きを行う前に犬の口の中をしっかりイメージできるようにしておきましょう。
犬の歯の名称と機能
犬の歯の種類は門歯、犬歯、臼歯に大別されます
  • 門歯門歯(もんし, incisor)は食物を噛み切る役割を果たします。永久歯は3~5ヶ月目から生え始め、数は上6本+下6本の計12本です。「切歯」と呼ばれることもあります。
  • 犬歯犬歯(けんし, canine)は全歯の中で最も長く、先端が鋭いのが特徴です。食物や獲物を固定する役割を果たします。永久歯が生え始めるのは5~7ヶ月頃で、数は上2本+下2本の計4本です。
  • 前臼歯前臼歯(ぜんきゅうし, premolar)は食物を切ったり固定したりする役割を果たします。平べったいためハサミのように食物を引き裂くのに適しています。第1~第4まであり、生え始めるのはおおよそ4~6ヶ月頃で、数は上8本+下8本の計16本です。
  • 後臼歯後臼歯(こうきゅうし, molar)は人間の奥歯と同様、上面がすりこぎ状になっており、食物をすりつぶすのに適しています。生え始めるのはおおよそ5~7ヶ月頃で、数は上4本+下6本の計10本です。
犬の歯の外面図
犬の臼歯を外側から見た模式図
  • 歯肉歯肉(しにく)とは歯の根元を覆い尽くす上皮組織のことです。「歯茎」と言った場合は、歯肉の中で外側から見える部分を指します。歯と歯肉の境界線は「歯肉縁」(しにくえん)と呼ばれ、ここの溝が深くなると歯周ポケットを形成します。
  • 歯冠歯冠(しかん)は、歯の中で歯茎から外に飛び出している部分のことです。歯肉の上にあることから「歯肉縁上」(しにくえんじょう)と呼ばれます。
  • 歯肉溝歯肉溝(しにくこう)とは、歯冠と歯肉の境目にできる小さな溝のことです。通常は隙間が小さく細菌の侵入などを防いでくれますが、炎症などでこの溝が深くなってしまうと、食べかすなどがたまりやすくなり「歯周ポケット」と呼ばれるようになります。

犬の歯磨きの頻度

 過去に行われた膨大な数の調査により、犬の歯磨きの理想的な頻度は1日1回であることが判明しています。これは歯周病の原因である歯垢が、食事からわずか24時間で形成されてしまうためです。
歯周病の発生過程
歯周病を招く菌膜・歯垢・歯石の模式図
  • 菌膜菌膜(きんまく, ペリクル, エナメル薄膜)とは、歯を磨いた直後から歯の表面に形成される薄い膜のことです。時間がたつにつれて細菌成分が加わるようになり歯垢の土台となります。
  • 歯垢歯垢(しこう, プラーク)とは細菌コロニーと唾液に含まれる成分によって形成されるネバネバした塊のことです。菌膜が歯の表面に付着してから約24時間で形成されます。
  • 歯石歯石(しせき, ターター)とは歯垢とカルシウムやリン酸塩が結合し、石灰化して硬くなったものです。歯垢を除去しないまま2~3日放置すると形成されます。
 上の図で示したように、歯磨きを行わなかった場合、24時間程度でバクテリアが歯の表面で繁殖して歯垢と呼ばれるネバネバを形成してしまいます。やがてバクテリアは歯と歯茎の隙間に入り込み、そこで炎症を起こして歯肉炎を引き起こします。歯肉炎が長期化すると歯周組織(歯周靭帯・セメント質・歯槽骨)に炎症が広がり歯周炎に発展します。こうして引き起こされるのが歯周病です。
 歯周病を予防するための最も効果的な方法は、歯垢が形成されたタイミングですばやく歯磨きを行い、歯の表面から炎症の元となるバクテリアを機械的にはがしてしまうことです。
歯石が形成されたり歯肉炎が発生してからでは手遅れですので、犬の年齢にかかわらず1日1回の頻度で歯磨きを行ってプラークコントロールするのが理想ということになります。

犬の歯磨きのしつけ

 犬の歯磨きは半年に1回行うものではなく毎日行うものです。歯磨きを行うごとに嫌がる犬の体を無理やり押さえつけていたのでは、犬も飼い主も疲れてしまいますし、それ以前に双方にとって大きな精神的ストレスになってしまいます。できれば犬が自発的に口を開けるようしつけておくこと、最低でも口を触られても暴れない程度にしつけておくことが必要になります。

いつから始める?

 歯磨きの訓練は子犬のころから始めるのが理想です。外の世界に対する好奇心が強い社会化期のうち、脳が最も柔軟になっていると考えられる6~8週齢くらいから始めましょう。犬がとっくの昔に社会化期を終えているような場合はすぐにトレーニングを始めて構いません。

口元を触る

 歯磨きの訓練はまず口元に触るところからスタートします。犬が大好きなおやつを用意し、急に動き出せないようお座りの姿勢にしましょう。お座りをマスターしていない場合は、まずそちらのしつけを優先して下さい。 犬のオスワリのしつけ  犬をお座りの姿勢にしたら、指先で口元を外側から軽くタッチし、おとなしくしていたらご褒美を与えます。口周りの色々な場所を触り、おとなしくしていたらそのたびごとにおやつを与えて下さい。そうすることで犬は「口元を触られるといいことがある!」と学習していきます。 【画像の元動画】Vet Tutorial / How to Brush a Dog's Teeth 犬を歯磨きに慣らせる第一歩は口元へのタッチから  犬が人間の手を極端に怖がる「ハンドシャイ」である場合は、口元にタッチする前にまず人間の手の存在に慣らせておかなければなりません。詳しくは「ボディコントロールのしつけ」で解説してありますのでご参照ください。面倒くさがってこの作業をスキップすると、最悪のケースでは手を噛まれてしまいます。 犬のボディコントロールのしつけ

歯茎を触る

 犬が口元へのタッチに慣れてきたら、今度は歯茎を触りましょう。口の中に指を入れ、歯茎を軽くタッチします。指にはめ込むタイプの犬用歯ブラシ、歯みがきシート、歯磨きガーゼを用いても構いません。犬がおとなしくしていたらおやつを与えましょう。1ヶ所が終わったら別の場所を触り、おとなしくしていたら、そのたびごとにおやつを与えます。慣れてきたら歯ブラシの動きを真似してマッサージするように歯茎をこすってみましょう。 歯茎へのタッチにならせておかないと犬が指を噛んでしまうことも  犬が顔を動かしてしまう場合は、空いている方の手でマズル(口先)を固定するとやりやすくなります。歯の裏側までタッチできるのが理想ですが、犬が指を噛んでしまうことがありますので嫌がっているような場合は無理しなくて結構です。その代わり歯茎の外側はまんべんなく触れるようにしておきましょう。

唇をめくる

 犬が口元に触られることに慣れてきたら、今度は唇をめくる練習に移りましょう。まずは上唇をめくり、犬がおとなしくしていたらおやつを与えます。今度は下唇をめくり、犬がおとなしくしていたら同じようにおやつを与えましょう。こうすることで犬は「唇をめくられるといいことがある!」と学習していきます。 【画像の元動画】How To Brush Your Dogs Teeth 犬の唇をまくれる状態にしておくとデンタルリンスなどを注ぎやすくなる  犬が顔を動かしてしまう場合は、空いている方の手でマズルを固定するとやりやすくなります。口の前の方と後ろの方両方をまんべんなくめくり、歯茎を露出することに十分に慣らせておきましょう。なお、犬が暴れる場合は無理強いせず、前のステップに戻って口元や歯茎へのタッチをもう一度繰り返します。最悪のケースでは指を噛むことがありますのでご注意ください。

歯ブラシに慣らせる

 犬が口元へのタッチに十分慣れてきたら、今度は指ではなく実際に歯磨きに用いる歯ブラシの感触に慣らせていきましょう。まずは犬用歯ブラシで犬の口元を外側から軽くタッチします。おとなしくできたらおやつを与え、今度は唇をめくって歯茎にタッチしてみましょう。 犬が抵抗しないよう歯ブラシの先の感触に歯茎を慣らせておく  最初は1秒程度のタッチで構いません。犬がおとなしくできたらそのたびごとにおやつを与えます。1秒をクリアできたら2秒、2秒をクリアできたら3秒という具合に、少しずつ時間を延ばしていきます。1本の歯を磨くのにかかる時間はせいぜい5秒ですので、さしあたりは5秒間我慢できたら合格としましょう。

歯磨き粉に慣らせる

 歯磨き粉を使って歯を磨く場合は、あらかじめ味や感触に慣らせておく必要があります。歯ブラシの先に犬用歯磨き粉を付け、前に説明した要領で犬の歯茎にタッチしてみましょう。まだこする必要はありません。犬が口をパクパク動かしてしまう場合は、歯についたペイストをなめとっておとなしくなるまで待ちます。動きが少なくなったタイミングでもう一度歯ブラシに歯磨き粉を付け、別の場所をタッチしましょう。なおこの時、人間用の歯磨き粉は絶対に使わないで下さい。 犬用歯磨き粉には犬が好む味付けがなされている
犬が慣れてきたら、歯ブラシの先で歯の根元をこすりながら歯磨き粉を塗りつける練習をします。ここまでできるようになったらほぼ実際の歯磨きと同じですので、しつけは完了です。

歯磨きのやり方とコツ

 適切なデンタルケアを怠ると、わずか2週間で歯周ポケットの炎症が再発するとされています。また、たとえ動物病院でしっかりとしたデンタルクリーニングを行ったとしても、その後の口腔ケアを怠るとわずか6週間で歯周ポケットの深さが元に戻ってしまうとも(Rober M, 2007)
 要するに犬の歯周病を予防するためには、何が何でも飼い主が犬のデンタルケアを行ってあげなければならないということです。では具体的な歯磨きのやり方や手順を見ていきましょう。

犬用の歯ブラシ

 犬のデンタルケアで最も大切なのが歯磨きです。中でも歯ブラシを用いてゴシゴシ擦る機械的な刺激が最も有効とされています。
 犬に歯磨きを行う際は、犬用の歯ブラシもしくは子供用の小さくて柔らかい歯ブラシを用いるようにします。大人用の固い歯ブラシを使ってしまうと歯茎を傷つけて出血してしまいますので使わないようにしてください。小型犬には小型犬用、大型犬には大型犬用を用いるようにします。
 指に取り付けるタイプの指サック型ガーゼや歯みがきシートも売られていますが、歯周病の予防で最も大切とされる歯肉溝にはアプローチしにくいため基本的には使わないほうがよいでしょう。歯ブラシを口に入れる前の練習として用いるなら構いません。

犬用の歯磨き粉

 歯磨き粉は人間用ではなく必ずペット用のものを使うよう気をつけます。
 人間用の歯磨き粉は泡が出るようになっており、これを嫌う犬がたくさんいます。重炭酸ナトリウム(重曹, ベーキングソーダ)を含んでいる場合、飲み込んで尿のpHが変わってしまうかもしれません。またフッ素を含んでいる場合、歯磨き粉を飲み込んでフッ素中毒になってるしまう危険性があります。さらにキシリトールを含んでいる場合、急性低血糖発作で死亡してしまう危険性すらありますので絶対に使ってはいけません。
 一方、ペット用の歯磨き粉は発泡性がなく、犬が好みやすい味がついていますので、スムーズに歯ブラシを受け入れてくれるようになります。

歯ブラシの動かし方

 犬の歯磨きでもっとも大切なのは、歯周病の原因である歯肉溝の歯垢やバクテリアを除去することです。見た目のインパクトとは裏腹に、歯茎より上(歯肉縁上)にある歯垢や歯石に病原性はありません。諸悪の根源は、歯肉縁上から歯茎の隙間に入り込み歯肉縁下に侵入した歯垢やバクテリアの方ですので、歯の表面を磨くと同時に歯と歯茎の隙間にもしっかりと歯ブラシを入れる必要があります。 【画像の元動画】Proper Brushing 歯周病を予防するためには歯肉溝にたまった歯垢をかき出す必要がある  歯ブラシを動かすときは歯肉溝に対して45度の角度で当て、回すように動かします。溝にたまったカスを外に掻き出すようなイメージです。犬のストレスを考慮し、片側を30~60秒で手早く終わらせるようにしましょう。
 歯磨きは力を入れればきれいになるというものではありません。ほうきを使う時、あまりにも力を入れすぎてしまうと先端の「穂」が折れ曲がってしまい、枯れ葉をちゃんと集められなくなってしまいます。これと同様、むやみやたらに力を入れて歯磨きすると、歯ブラシの先端が曲がってしまい歯垢を十分に取り除けないばかりか、歯茎を痛めてしまいます。

優先的に磨く場所

 すべての歯をまんべんなく磨くのが理想ですが、犬がなかなか歯を磨かせてくれないという場合は、優先順位の高い場所だけを短時間で磨くようにします。具体的には小型犬の場合、切歯、第四前臼歯、第一後臼歯です。
2014年、「WALTHAM Centre for Pet Nutrition」のチームは、歯周病の発症率が高いとされるミニチュアシュナウザー52頭を対象とした調査を行いました(Mark D Marshall, 2014)。以下はその概要です。
 歯磨きを一切行わない状態で60週間にわたる長期的な観察を行ったところ、すべての歯にまんべんなく歯周炎が発症するわけではないことが明らかになったといいます。具体的には以下です。 ミニチュアシュナウザーの歯における歯周病の発生率一覧グラフ
  • 切歯=54.1%
  • 犬歯=2.0%
  • 前臼歯=29.8%
  • 後臼歯=14.1%
 上のグラフで示したように、ミニチュアシュナウザーでは特に切歯、前臼歯(特に第四前臼歯)、後臼歯(特に第一後臼歯)に歯周炎が発症しやすいことが明らかになりました。さらに歯のどの面において炎症リスクが高いのかを細かく検証したところ、切歯では歯の裏側に相当する「舌面」(45.0%)、前臼歯では歯の表側に相当する「頬面」(17.9%)における発症率が高かったといいます。図で表すと以下のようになります。色の濃い側が「ハイリスク」という意味です。 小型犬の口内には歯周病を発症しやすい部位があると考えられる  こうしたデータから、優先的に磨くべき場所は切歯(前歯)、第四前臼歯(前寄りの奥歯)、第一後臼歯(後ろ寄りの奥歯)であると考えられます。切歯の裏側も磨きたいところですが、難しい場合は切歯、第四前臼歯、第一後臼歯の表面を優先的に磨くのがよいと思われます。

歯周病になりやすい犬種

 過去に行われた調査では、小型犬や短頭種で歯周病の発症リスクが高いと報告されています。はっきりとした原因はわかっていませんが、切歯(前歯)に関しては歯と歯の隙間が狭くて歯垢(プラーク)がたまりやすいこと、前臼歯と後臼歯(奥歯)に関しては唾液腺との位置や唾液の流れ方が発症リスクを高めているのではないかと推測されています。例えば以下のような犬種が当てはまります。
超小型犬
小型犬
ミニチュアシュナウザーのみならず、上で示したような小型犬種では歯周病を発症しやすいと考えられますので、飼い主は日常的なデンタルチェックと歯磨きを忘れないようにしましょう。

犬が嫌がる・噛み付くとき

 犬の歯磨きに対してやる気満々の飼い主でも、6ヶ月後には半数の人が脱落してしまうと言います(Miller & Harvey, 1994)。挫折の原因の多くは、犬が歯磨きを嫌がるとか口元を触ると噛み付くということです。歯ブラシ以外の方法で犬の歯にアプローチすることができれば、完璧とは言わないまでも多少の補助にはなってくれるでしょう。以下では犬向けに販売されているデンタルグッズの一例をご紹介します。

デンタルガム

 デンタルガムとは歯垢や歯石の蓄積予防に効果があるとされているおやつのことです。チューインガムのようにくちゃくちゃ噛むことからフードとは区別して「デンタルガム」もしくは「デンタルチュー」と呼ばれます。
 小麦とセルロースを圧縮して作ったデンタルガムや生皮(ローハイド)に関しては部分的に効果が示されています(Roudebush et al., 2005)。しかし接触する部分が限られているため犬歯(きば)や切歯(前歯)にはそれほど効果がありません。一方、デメリットとしては誤飲誤食、歯の破折、食べ過ぎによる肥満などが報告されています。
 デンタルガムとその効果に関しては、アメリカの独立評価組織「VOHC」がメーカーのデータを検証して認証制度を設けています。商品が「VOHC® Accepted Products for Dogs(PDF)に記載されている場合、普通の商品よりもいくらか効果が期待できるということです。デンタルガムとして有名な「グリニーズ」なども認証されています。
 なおヘキサメタリン酸ナトリウム(HMP)を含んだ製品に関しては、歯垢・歯石予防に効果があったという報告(Stookey et al., 1995)となかったという報告(Logan et al., 2010)が入り混じっており、よくわかっていません。ただ大量に食べすぎることによって腎臓病が悪化する危険性が示唆されています。

デンタルフード

 デンタルフードとは食べることによって歯の表面に付着した歯垢や歯石を減らしてくれる効果をもったフードのことです。
 フードの形状や食感によって歯の表面を機械的に磨くタイプと、フードに含まれる何らかの成分(ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)によって化学的に口内環境を変えてしまうタイプとがあります。詳しくは以下のページをご参照ください。 犬の歯に良いフードとは?

デンタルリンス

 デンタルリンスとは、犬の口の中に直接注ぎ込む液体状の口腔衛生アイテムです。
 亜鉛塩を含んだデンタルリンスはプラークのバイオマスを減少させると報告されています(Wolinsky LE et al 2000)。またアスコルビン酸(ビタミンC)はコラーゲンの生合成を促しますので、歯周組織の再生に貢献してくれるかもしれません。ただし人間のようにガラガラとうがいはできませんので、すべての歯にまんべんなく効果を発揮するかどうかは疑問です。

デンタルトイ

 デンタルトイとは噛むことによって、歯垢や歯石の蓄積を予防してくれるおもちゃ(toy)のことです。
 おもちゃをガジガジかじることにより口の中の血流が促進されたり歯の表面の歯垢を取り除くという効果はあるでしょう。しかし紐やロープといったおもちゃに歯周炎の予防効果がなかったという報告がありますので(Roudebush et al., 2005)、歯周病の発症に関係が深い歯肉縁の歯垢までは取り除けないものと推測されます。
 歯より硬い素材だと歯の破折が起こりやすくなり、柔らかすぎるとすぐに破損して誤飲事故が起こりやすくなってしまいます。おもちゃを選ぶ際は、硬すぎず柔らかすぎない中国製以外のものを選ぶようにしましょう。またテニスボールは表面がヤスリ状になっており、歯のエナメル質を傷つけてしまいますのでなるべく使わないようにします。

マウスクリーナー

 マウスクリーナーとは口に直接入れたり飲み水に混ぜることで歯垢や歯石の蓄積を予防するデンタルグッズのことです。
 スプレー型やジェル型など非常に多くの商品が出回っていますが、歯磨きの代わりになるものは一つもありません。たとえ犬の口臭がなくなったとしても、歯肉溝の歯垢が取り除かれたことにはなりませんので、しっかりと歯磨きを行うことを強くおすすめします。最悪のケースでは「犬の歯が健康になった!」と勘違いして歯周病の進行を見落としてしまいますので、あくまでも歯磨きの補助グッズとしてお使い下さい。
万が一キシリトールを含んだ商品があった場合、低血糖発作を引き起こす危険性がありますので、少量・低濃度だとしても絶対に使用しないでください!

ドライフード?

 ウェットフードよりもドライフードの方が歯周病にかかりにくいとされています。その根拠は、口の中に残る食べかすが少ないため炎症が起こりにくくなるというものです。しかし過去に行われた非常に多くの調査により、上記した根拠が必ずしも正しくない可能性が浮かび上がってきました。
ドライフードと歯周病の関係
  • Watson, 1994ウェットフードを食べている犬や猫で歯垢や歯肉炎の発症率に違いはなかった
  • Logan et al., 2006もっぱらドライフードを食べている犬でも歯垢や歯石の保有率、および歯周病の発症率に大差はなかった
  • Niemiec, 2008通常のドライフードは歯が当たると同時に砕けてしまい機械的に歯垢を取り除く能力がない。歯肉縁と接触することがないため歯肉炎の発症率に違いが生じない
 上記したように、ドライフードだから歯周病になりにくいという風説は必ずしも真実ではないようです。食べているフードのタイプにかかわらず、毎日歯磨きを行うことが推奨されます。

ローフード?

 ローフードとは加熱処理をしていない生(raw)の食材をそのまま与えることです。「自然界に存在している食材が一番良い!」という信念を持っている人がたくさんいるようですが、少なくとも過去に行われた調査ではそうした関係性は証明されていません。
ローフードと歯周病の関係
  • Robinson, 1997生の骨を与えられていたフォックスハウンドの歯を調べた所、歯周病の発症率が低いという証拠は見つからなかった。その一方、高い確率で歯の破折が見られた
  • Steenkamp, 1999草食動物を食べて生きているリカオン29頭の歯を調べた所、歯周病が41%、歯の摩滅が83%、歯の破折が48%の確率で見られた
  • Marx et al, 2016ウシの大腿骨を与えられたビーグルの歯を調べた所、歯石の蓄積は少なめだったが歯垢の形成に関しては大差がなかった
 上記したように、生の食事が歯周病の予防に役立っているという証拠は見られません。その一方、生の食材を通した感染症の危険性が高まることは証明されており、また手作り料理によるビタミン(A、C、D、E、葉酸、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB2)の不足で歯肉炎の発症率が高まることが確認されています。少なくとも「自然食が最高!」という盲信は抱かない方がよいでしょう。
いろいろなデンタルケア商品がありますが、定期的な歯磨きにまさるものは1つもありません。歯周病予防のゴールドスタンダードは、やはり飼い主によるケアということです。次のセクションでは動物病院などで行われる「デンタルクリーニング」について詳しく見てみましょう!

犬のデンタルクリーニング

 飼い主が日常的に歯磨きを行っていても、歯垢や歯石が口の中に残って歯周病に発展してしまうことがあります。そこで必要となってくるのが、専門の技術を持った人が専用の道具を用いて歯のケアをするデンタルクリーニングです。全身麻酔をかけて行うパターンと麻酔をかけずに行ういわゆる「無麻酔デンタル」というパターンがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

麻酔下でのデンタルクリーニング

 麻酔下でのデンタルクリーニングは、犬に全身麻酔をかけた上で施術を行います。理想的な頻度は年に2回で、麻酔を用いますので動物病院以外ではできません。値段は病院によってまちまちですが、麻酔料金を抜いた施術料金だけで5,000~12,500円程度とされています。主なメリットとデメリットは以下です。
全身麻酔デンタルケア
  • メリット拘束ストレスがかからない | 歯周ポケットまでケアできる | 歯の裏側までケアできる | 下顎の歯までケアできる | 抜歯できる | 歯の表面をつるつるにするポリッシングまでできる
  • デメリット麻酔による事故や副作用の危険性がある(特に短頭種や高齢) | 開口器による顎関節へのダメージや血流障害の危険性がある | 料金が高い | 獣医師の説明が不十分なことがある
 デンタルクリーニングを行っている動物病院はたくさんありますがその内容は漠然としていることが多く、事前にしっかりとやり方を説明をしない獣医師も少なくありません。デンタルクリーニングをフルコース行うと以下のような内容になります。

歯肉縁上の歯石取り

 歯肉縁上の歯石取りとは、肉眼で確認できるところに蓄積した歯石を取り除くことです。大きな歯石の塊を取り除く際は歯石鉗子と呼ばれる小型のペンチのような道具が用いられ、小さな歯石を取り除く際はスケーラーと呼ばれる手持ち道具が用いられます。また歯石が頑固にこびりついている場合は音波スケーラー(2,000~6,500ヘルツ)や超音波スケーラー(25,000~45,000ヘルツ)を用いて粉砕することもあります。 【画像の元動画】Dog dental cleaning 犬の歯石を除去する際に用いられる超音波スケーラー  なお歯へのダメージが大きいため、回転式の器具を用いて削るという施術は推奨されていません。事前にどのような器具を使うか確認しておいたほうがよいでしょう。また超音波器具を用いると、口の中に含まれていたバクテリアや毒素が空気中に飛散します。施術は他の手術室や病室などから完全に隔離された専用のスペースを用いなければなりません。

歯肉縁下のクリーニング

 歯肉縁下のクリーニングとは、歯と歯茎の間のすき間(歯周ポケット)をきれいにすることです。歯の表面に付着した歯石を超音波器具などで取り除く事はもちろんのこと、邪魔な組織をキュレットと呼ばれる小さな道具で取り除いたり(歯肉縁下掻爬術)、歯の表面のデコボコを平らにしたりして(ルートプレーニング)、歯垢や歯石の蓄積を予防します。

歯冠のポリッシング

 ポリッシングとはクリーニングの途中で生じた歯の表面の小さな傷やデコボコを平らにすることです。この処理により歯の表面に付着する歯垢が少なくなり、歯石の形成が予防されます。用いられる道具は専用の研磨機と歯の研磨剤を含んだペイストです。 【画像の元動画】Professional Teeth Cleaning in a Dog or Cat 歯のポリッシングはプロフィカップに研磨剤を付けて行う

歯肉溝の洗浄

 歯肉溝の洗浄とは歯と歯茎の隙間にたまった歯石のカスやポリッシングで使用した研磨ペイストの残りをきれいに洗い流すことです。こうしたものが残ったままだと、逆に歯肉溝の炎症を引き起こしてしまいますので丁寧に行わなければなりません。滅菌された生理食塩水や抗菌作用がある0.12%クロルヘキシジン水溶液をカニューレと呼ばれる小さなホースで隙間に流し込みます。

シーラント処理

 シーラントとは歯の表面にあるデコボコにフッ素樹脂をコーティングすることです。虫歯(う蝕)を予防するために行われる施術ですが、犬においてはそもそも虫歯の発症率が低いため必ずしも行われるわけではありません。 歯にシーラント処理を施すと表面が滑らかになって歯垢の付着が防がれる

全身麻酔デンタルの注意点

 デンタルクリーニングの中で最も大切なのは歯肉縁下のクリーニングです。歯周ポケットにたまった歯垢や歯石は歯槽骨、歯周靭帯、セメント質といった歯を支えている構造を弱化させ、結果として歯をぐらつかせます。歯肉縁下のクリーニングによって歯周ポケットが綺麗になると、ぐらついていた歯が再びしっかりと固定されリアタッチメント(再付着)が促されます。
 一方、外から見える歯垢や歯石を取り除くだけでは、歯肉溝で起こっている病変までは防ぎきれません。動物病院が掲げる「デンタルクリーニング」という看板に、いったいどこからどこまでが含まれているのかは必ず事前に確認しておいてください。もし、歯肉縁上の歯石を取り除くだけで歯肉縁下の歯垢や歯石には全くタッチしていない場合、歯牙疾患に力を入れており、専用の施術室と専門の技術者が整っている病院に相談しなおしたほうがよいでしょう。また施術のビフォーアフターを写真で撮ってもらうと、何が変わったのかが一目でわかるため安心です。

無麻酔のデンタルクリーニング

 無麻酔のデンタルクリーニングとは、麻酔や鎮静剤を一切用いず意識がある状態の犬に施術を行うことです。日本小動物歯科研究会では、ペット動物のデンタルケアを「全身麻酔下でトレーニングを受けた獣医師がすべき処置である」と位置付けていますが、一部の獣医師やトリマー、動物看護士、歯科衛生士などが安価で安全を売りにして無麻酔デンタルを行っています。メリットとデメリットは以下です。
無麻酔デンタルケア
  • メリット麻酔による事故や副作用の心配がない | 目に見える部分くらいはきれいにできる | 料金が安い
  • デメリット動物に拘束ストレスがかかる(特に猫) | 歯周ポケットのケアは不完全になりやすい | 歯の裏面のケアはできない | 下顎の歯のケアは困難 | 抜歯は不可 | 動物が動いて口腔内を傷つけてしまうことがある | 施術者が獣医師でないことがある
【画像の元動画】Cleaning a dog's teeth without using anesthesia! 無麻酔デンタルでは強い拘束ストレスを犬に強いてしまう  麻酔をかけておらず自由に動くことができる犬の歯に対し、1本ずつ時間をかけて施術するということはほぼ不可能でしょう。ですから無麻酔デンタルにできるのは部分的な歯石の除去だけということになります。
 犬の歯周病を予防するために大切なのは歯肉縁下のケアであって目に見える範囲の歯石を取り除くことではありません。また口腔内の目視検査で異常が見つからなかった犬のレントゲン撮影を行った所、27.8%で異常が見つかったという報告もあります(Verstraete FJ, 1998)
 無麻酔デンタルクリーニングは麻酔によるリスクがないというメリットはあるものの、レントゲン撮影も歯肉縁下ケアも行わないため、歯周病の予防効果に関してはそれほど期待できないという点は覚えておく必要があります。
体を無理やり押さえつける施術により、犬が口元に触られる事自体を拒むようになる危険性がありますので、犬が肥満や高齢で麻酔のリスクが高いという場合以外は基本的に推奨されません。