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犬におすすめの歯ブラシの種類は?~ブラシタイプと繊維タイプの洗浄力比較

 犬の歯周病予防におけるゴールドスタンダードは飼い主による毎日の歯磨きです。では歯ブラシの種類によって洗浄能力に違いはあるのでしょうか?検証実験が行われました。

犬用歯ブラシの洗浄力比較

 調査を行ったのはウプサラにあるスウェーデン農科学大学のチーム。犬に歯磨きを施す際、使う道具によって洗浄能力にどのような違いが出るかを検証するため、タイプが異なる4つの歯ブラシを用いた比較実験を行いました。実際に用いられた歯ブラシは以下です。
犬用歯ブラシの種類
  • 手袋型歯ブラシ手袋の形をしたナイロン繊維製/歯茎を避けるようにして歯磨き粉なしで1分間歯の表面だけをこする 手袋タイプの犬用歯ブラシ
  • 指サック型歯ブラシ指にはめるタイプのマイクロファイバー製/歯磨き粉なしで歯茎と歯の表面を1分間こする指にはめるタイプの犬用歯ブラシ
  • 超音波歯ブラシ「Emmi-pet」と呼ばれる歯磨き粉つきの製品/歯の表面に歯ブラシをあてがい、1ヶ所につき10秒間ホールド超音波タイプの犬用歯ブラシ
  • 手動歯ブラシ当初は電動歯ブラシの予定だったが犬たちの忌避が強かったため急遽手動に変更/別売りの歯磨き粉(Petosan)を用いて上顎と下顎を30秒ずつ磨く手動タイプの犬用歯ブラシ
 柄つき歯ブラシグループには大学で飼育されているメス10頭が割り振られ、片側の歯は超音波、残りの側は手動で磨かれました。繊維製歯ブラシグループにはオス3頭とメス8頭の合計11頭が割り振られ、片側の歯は手袋型、残りの側は指サック型で磨かれました。歯磨きの対象となったのは頬側(外に向いている面)の犬歯、上顎と下顎の前臼歯、上顎の後臼歯です。
 1日1回のペースで1分間、35日間に渡って歯磨きを続けた結果、口腔内の各種指標に以下のような変化が見られたといいます。
歯磨きと口腔指標の変化
  • 歯肉の健康指標炎症なし(0)~重度の炎症・充血・浮腫・出血・潰瘍(3)/柄つき歯ブラシでも繊維製歯ブラシでも統計的に有意なレベルで改善が見られた
  • 歯垢の蓄積指標蓄積なし(0)~歯肉溝における豊富な歯垢や軟性物質(3)/柄つき歯ブラシでも繊維製歯ブラシでも統計的に有意なレベルで改善が見られた
  • 歯石の蓄積指標蓄積なし(0)~歯肉上縁や下縁における豊富な歯石(3)/4頭(柄付き3頭+繊維製1頭)で個別の改善が見られたものの、平均するとどの方法でも改善は見られなかった
柄付き歯ブラシ使用の前後における犬の口腔内健康指標変化 繊維製歯ブラシ使用の前後における犬の口腔内健康指標変化  さらに犬たちの恐怖(Fear)、不安(Anxiety)、ストレス(Stress)を「FAS指標」と呼ばれるプロトコルで評価したところ、初日と35日目では明白な低下が確認されたといいます。具体的には、柄付き歯ブラシが平均で1.8→0.5、繊維製歯ブラシが平均で2.18→1.18、全体では平均で2.00→0.86というものでした。
Improved Oral Health and Adaptation to Treatment in Dogs Using Manual or Ultrasonic Toothbrush or Textile of Nylon or Microfiber for Active Dental Home Care
Olsen, L., Brissman, A.Wiman, S., Eriksson, F., Kaj, C.Brunius Enlund, K. , Animals 2021, 11, 2481, DOI:10.3390/ani11092481

どの歯ブラシでも効果あり

 歯肉の炎症および歯垢の蓄積という観点で評価した場合、歯ブラシの種類にかかわらず改善が見られました。たとえ短時間であっても、飼い主が家庭で行う毎日のデンタルケアには歯周病予防という観点からそれなりの価値があるようです。

歯肉炎は軽減する

 実験初日と35日目を比較した場合、歯の表面に蓄積している歯垢の量には明白な減少が見られました。また歯肉の炎症の度合いにも軽減がみられました。 35日間の歯磨き前後では犬の歯垢蓄積度合いが明らかに軽減している  歯周病の発症に最も大きな影響を及ぼすのは歯と歯肉の間にある歯周ポケットと呼ばれる部位の炎症です。線維製の歯ブラシではなかなか届かない印象がありますが、少なくとも炎症の軽減という形では改善がみられるようです。
 なお超音波を当てると歯石がポロッと取れる印象があるものの、歯ブラシの種類に関わらず歯石の指標に改善は見られませんでした。しかしそもそも歯石は見た目のインパクトとは裏腹に歯周病の発症には直接関係していませんので、どちらかといえば歯垢指標の方が重要だと考えられます。

犬の馴れが生じる

 実験初日と35日目を比較した場合、歯ブラシや歯磨きに対する犬のストレス指標に改善がみられました。 35日間におよぶ歯磨き実験の後では犬のストレスレベルげ軽減する  飼い主が歯磨きを断念する大きな理由の一つは犬の拒絶ですが、うまくやれば犬も慣れてくれるようです。ここで言う「うまく」とは、いきなり犬を拘束するのではなく、マズル周辺に対するタッチやじっとしていることに対してご褒美を与え、「口を開けているといいことがある」「じっとしているといいことがある」と少しずつ信じ込ませることです。

重要なのは毎日の継続

 今回の調査では歯ブラシのタイプに関わらず口腔内の健康指標に改善が認められました。しかし以下のような注意点も指摘されています。現時点で犬に対する「おすすめ」の歯ブラシを提案することはできませんが、選ぶときのポイントにはなるでしょう。
犬用歯ブラシの注意点
  • 電気式歯ブラシ手動による歯磨きが嫌いな犬に適しているとされているが、じっとしていることが苦手な犬には不向き/超音波は人間の耳には聞こえないが犬の可聴域には聞こえて騒音と認識される可能性がある/電動歯ブラシは忌避される可能性が高い(細かい反復運動?音?専用歯磨き粉の匂い?)
  • 繊維製歯ブラシ柄付き歯ブラシに比べると歯肉溝に届きにくいかも/噛み癖が強い犬の場合、指を噛まれる危険性がある/指サックの場合、犬が誤飲してしまう危険性がある
 全身麻酔下でデンタルクリーニングを行ったとしても、それに引き続くホームケアがなければただ単に見た目を改善しただけにすぎないとされています。また飼い主による毎日の歯磨きがなければ、歯垢はクリーニング直後から蓄積を再開し、歯石は2~3日後には形成され始め、歯肉炎は10日で元に戻るとも。
飼い主による毎日の歯磨きが歯周病予防のゴールドスタンダードです。犬の反応を見て最適な歯ブラシを選び、少しずつ慣らしてください。 犬の歯周病 犬の歯磨きの仕方・完全ガイド