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犬との生活・夏の注意完全ガイド

 夏とは6月、7月、8月のことです。気温がぐんと高くなり、暑い時期ならではの風物詩やイベントもたくさんあります。犬との生活において、夏に注意しなければならないこととはいったい何なのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

屋外での怪我や事故

 以下は夏の屋外において負いやすい怪我や遭遇しやすい事故の一覧リストです。全て避けられるものですので、飼い主がしっかりとリスク管理をしてあげましょう。

熱中症

 日差しが強くなり、太陽が出ている日照時間が伸びる夏においては、犬が火傷を負ったり熱中症にかかるリスクが劇的に増えます。
 熱中症とは体温をうまく下げることができず、平熱を上回った状態が続いて体調不良に陥ってしまうこと。犬においては体の芯の温度(直腸温)が41℃を上回ったときに熱中症と診断されます。犬は汗をかかない分、人間に比べて体温を下げることがあまり得意ではありません。その結果、人間が「暑いなぁ」くらいに感じている時、犬は「暑くて死にそう!」と感じている可能性があります。体感温度をイメージで示すと以下のような感じです。 犬と人の体感温度の違い~人が「暑い」と感じている時犬は「死ぬほど暑い」と感じている可能性あり  夏場の散歩は外気温や日差しの強さを確認し、日の出や日没など涼しい時間帯にずらしてあげるのが基本です。また携帯用の水は絶対に忘れないでください。熱中症における犬の死亡率は30~50%と報告されています。ひとたび発症すると、昨日まで元気だったペットと突然のお別れをしなければならなくなりますので、飼い主が責任を持って確実に予防してあげましょう。 夏場の日中の散歩はなるべく避けて!  なお犬の体温調整能力や熱中症の予防法に関しては以下のページでもかなり詳しく解説してあります。市販本やネットのまとめ記事には書かれていないことまで網羅してありますので「だいたい知っているから大丈夫!」と言わず、もう一度だけ確認してみてください。また知らなそうな人が周りにいたら積極的に教えてあげてください。 犬の体温調整・暑いとき 犬の熱中症対策

火傷

 夏の暑い日差しは容赦なく犬の背中を照りつけます。また太陽光に熱せられた地面は犬の肉球をじりじりと焼き焦がします。ちょうど2面グリルでサンマを焼いている状態と同じですので、火傷を負ってしまうリスクが劇的に増加します。
 夏になると日差しが強くなり、立っているだけで頭がクラクラしてきますが、それは犬でも同じことです。犬の体は被毛で覆われており太陽光をある程度は遮断してくれますが、完全にガードできているわけではありません。被毛の隙間を縫って地肌に届いた放射熱が皮膚を焼き、「日光皮膚炎」を引き起こしてしまうことがあります。特に被毛が黒に近く日光を吸収しやすい犬種では要注意です。例えば以下は2018年6月、テキサス州サンアントニオで長時間外につながれっぱなしになっていた犬の「モリー」の写真です。重症例では炎症を起こした皮膚がボロリと剥がれ落ちてしまいます! 長時間の日照で皮膚に火傷が生じる「日光皮膚炎」(sunburn)  日光皮膚炎と同じくらい危険なのが肉球の火傷です。長時間太陽を浴びた地面やアスファルトは驚くほど高熱になっていることがあります。ひどいときは60℃近くに達し、道路の熱だけで目玉焼きを作れるくらいです。にもかかわらず、日中の最も太陽が暑い時に犬を散歩に連れ出す飼い主が後をたちません…。 夏の日差しに熱せられた道路上では目玉焼きを作れることも  気温が高まる夏に散歩を行うときは、まず日差しが比較的弱い日の出近くや日没近くに時間をずらすようにします。そして必ず飼い主自身が地面をタッチし、熱くなっていないことを確認しましょう。目安は「手のひらをペタッと10秒間つけても大丈夫」です。くれぐれも犬が「2面グリルのサンマ」や「目玉焼き」にならないようご注意ください。 犬の散歩の基本
サマーカットに要注意!  夏の間だけに被毛を短く刈りこんでしまう「サマーカット」は要注意です。地肌が見えるくらい短くしてしまうと、太陽光が直接皮膚に届き逆に日光皮膚炎の危険性を高めてしまいます。カットするときは太陽光をある程度遮断してくれるくらいの長さを保つようにしてください。 サマーカットで被毛を短く刈り込みすぎると逆に日光皮膚炎のリスク増大

車でのドライブ

 夏になると犬を車に乗せて泊まりがけの旅行やキャンプに出かけることもあるでしょう。しかし車にまつわる事故は少なくありませんので事前にシミュレーションしておく必要があります。

車内熱中症

 車の中は風通しが悪くあっという間に温度が上昇してしまいます。実験では気温が22℃のとき、1時間で車内温度は47℃に達し、気温が31℃のときはわずか10分で40℃に達し、さらに1時間で60℃に達したそうです。 夏場に犬を車の中に閉じ込めるのは動物虐待 ですから暑さに弱い犬を絶対に車内に置き去りにしてはいけません。気温が29℃、湿度90%の車内に閉じ込められた犬の50%は平均48分で死ぬという恐ろしいデータもあります。

首吊り事故

 犬に首輪を装着した状態で固定していると、窓から飛び出して首吊り状態になってしまうことがあります。 車から出ようとした犬がリードと首輪で絞首刑状態になる  例えば上の写真は2016年5月、イギリスにおいて暑い車内から逃げ出そうとして首吊り状態になってしまった大型犬の写真です(左)。また 2016年7月にはアメリカのアーカンソー州で小型犬が同じような事故に巻き込まれています(右)。犬を車内に係留する際は首が締まらないハーネスや犬用シートベルトを用いたほうが良いでしょう。

車内から投げ出される

 たとえ犬にハーネスを装着していても、それをどこにもつないでいないと全く意味がありません。2017年8月、イギリスに暮らすジャックラッセルテリアの「ペニー」は、飼い主が運転する車に乗って橋の上を渡っていました。しかし犬用シートベルトは装着していたもののどこにも係留されていなかったため、横転事故を起こした際に車から投げ出され、そのまま命を落としてしまいました。 犬にシートベルト装着したら必ず一端を固定すること  このようにハーネスやシートベルトを装着していても、それが固定されていないと全く意味がありませんので、必ず安定性がある場所につなぐようにしましょう。 犬と車に乗るときの安全ガイド

夜間の散歩

 日中の強い日差しを避け、散歩時間を日の出近くや日没近くにずらすのは良いことです。しかし日の光があまりにも少ないと周囲の見通しが悪くなり、事故に巻き込まれてしまう危険性が高まります。
 2017年、横浜市内の鶴見川沿いに設置された遊歩道で犬の散歩をしていた高齢女性(79)が、中学生(14)の乗った「自転車」にはねられて死亡するという事故が起こりました。道幅は5mと広めでしたが、街灯が設置されていなかったため夜間は真っ暗だったそうです。
 日没後は太陽光が少なく歩きやすくなる反面、見通しが悪くなって思わぬ事故に巻き込まれてしまう危険性があります。車や自転車の運転手から見えやすいよう暗い色の服を避けるとか、人工灯がある場所を選んで歩くとか、犬に反射板を取り付けるといった配慮が必要となるでしょう。 犬の散歩グッズ

水難事故

 プール開きや海開きが行われる夏は水泳や海水浴を楽しむ季節です。犬も水遊びが大好きですが、好き勝手に遊ばせておけばよいというわけではありません。以下は夏に多い水難事故のパターンです。

溺れる

 足がつかないくらい深い水に入った犬は本能的に「犬かき」(doggy paddle)を行い、足が付く場所まで自力で泳ぎつくことができます。しかし川や海など水流がある場所ではそううまくはいきません。流れに押し流されてそのまま溺れてしまうことがありますので、犬に水浴びをさせるときは水流がない場所を選ぶようにしましょう。また子供用プールで遊ばせるときは、必ず飼い主が監督し、水は足がつくくらいの深さに止めておきます。 犬の心肺蘇生術

水中毒

 水流がない湖は一見安全そうに見えますが、水を飲み込みすぎて中毒に陥るというケースがあります。
 2017年8月、アメリカ・カリフォルニア州にある湖で、投げ入れられた棒を取ってくるフェッチ(取ってこい)をしていた犬の「ハンツ」が突如として死んでしまいました。死因は大量の水を飲み込みんだことによる低ナトリウム血症(水中毒)だったとのこと。棒を取ろうとして口を開けた時に水が入ったものと推測されます。 海や湖の中で取ってこい遊びをすると口を開けた時に大量の水を飲み込んでしまう  犬に水浴びをさせながらのフェッチ(取ってこい)は控えた方が賢明かもしれません。海においてこれをやると、水中毒のほか塩水を飲み込むことで急性食塩中毒に陥る危険もあります。

藻中毒

 水の中で繁殖した藻が時として犬の命を奪ってしまうことがあります。
 2015年6月、アメリカ・ミネソタ州で、藻が生い茂った水を摂取した犬が死亡するという事故がありました。ミネソタ汚染管制局(MPCA)によると、藻が原因と考えられる犬の死亡例は今回のほかにも、2014年に3件の報告があるとのこと。 藻が生い茂った水辺に犬を連れて行かないのが無難  藍藻の中には「プロトテカ」と呼ばれる有毒種があります。日本における報告例は数えるほどしかありませんが、抹茶のような色をした水に犬を近づけないようご注意ください。外観だけから有害な藻と無害な藻を見分けるのが困難ですので、「とにかく色のついた汚い水には近づけない」と覚えておけばよいでしょう。

砂の誤飲誤食

 「水の中は危険だからビーチで遊ぼう!」と思いたち、砂浜でボール遊びやスティック遊びをする人もいるでしょう。しかしそれはそれで危険が伴います。
 2013年、フロリダ州に暮らすドーベルマンの「サディ」が突然の食欲不振と吐き気に見舞われました。心配した飼い主が動物病院へ連れて行ったところ、胃袋の中から大量の砂が見つかったそうです。前日、ビーチで棒を使った取ってこい遊びをした際、砂を一緒に飲み込んでしまった可能性が高いとのこと。また2015年にはオーストラリアで人気の子供用おもちゃ「キネティックサンド」を大量に飲み込んでしまった犬の症例が報告されています。 犬は「キネティックサンド」のような砂のおもちゃを飲み込んでしまうこともある  人間のように「ペッペッ!」と吐き出すことができない犬は、口の中に入った砂をそのまま飲み込んでしまう習性があるのかもしれません。フェッチ(取ってこい)をするときは、砂浜やビーチを避けた方が無難でしょう。

バーベキュー

 ベランダや裏庭など開放的な空間で楽しむバーベキューは夏の風物詩の1つです。しかし飼い主は未調理であれ調理済みであれ、ある特定の食材は絶対に犬から遠ざけておかなければなりません。
 その食材とは玉ねぎです。ねぎ類全般に含まれるアリルプロピルジスルファイドという物質が赤血球(せっけっきゅう=血液中に含まれ、酸素を運ぶ役割を担う)を破壊し溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)の原因になります。 バーベキューの串に刺さっている玉ねぎや長ネギは犬に毒  この物質は加熱しても残るため、玉ねぎが未調理であっても調理済みであっても絶対犬に盗み食いされてはいけません。そもそも犬がグリルのそばに近づけないようにしてしまいましょう。これは鉄板や熱源に触れて生じる火傷 を予防する上でも重要です。 犬にとって危険な毒物 NEXT:室内での怪我や事故

室内での怪我や事故

 以下は夏の室内において負いやすい怪我や遭遇しやすい事故の一覧リストです。ほとんどは飼い主のうっかりミスを原因とするものですので、気持ちを引き締めてしっかりとリスク管理をしてあげましょう。

花火と雷

 夏の夜空に無遠慮に響き渡るものが2つあります。1つは花火、そしてもう1つは雷です。ともに夏の風物詩ですが、犬にとってはそんなこと関係なく、恐怖の対象でしかありません。飼い主がこの事実をしっかり把握していなければ、とんでもない事故に発展する危険性があります。

犬は大きな音が怖い!

 人間をはじめとする多くの動物は突発的な音に対して本能的な恐怖反応を示します。例えば、突然耳元で後ろから「ワッ!」と大声を出されると驚いて飛び上がるなどです。犬の中にもこれと同じリアクションパターンがあります。犬にとっての「ワッ!」は夜空に突然打ち上げられる花火の音や、ピカッと光った後に遅れて聞こえてくる「ゴロゴロ」という不気味な雷鳴などです。そして花火の音を怖がる犬は多くの場合、雷の音も怖がるという傾向を持っていることが明らかになりました。 犬の花火恐怖症と雷恐怖症は多くの場合共存する  2015年、ノルウェー生命科学大学の調査チームは5,000頭を超える犬を対象とした調査を行い、騒音に対する感受性の強さが何によって左右されるかを検証しました(Storengen, 2015)。その結果、最終的に17犬種/5,257頭のデータを収集することに成功し、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。
犬の騒音感受性
  • 騒音に対する恐怖を示した割合は全体の23%
  • 恐怖を示す割合は、花火>銃声のような突発的の音>雷の音>交通量の多い道路の順
  • 歳を重ねるごとに騒音に対する恐怖心が強まった
  • 強い感受性を示す割合はメス犬の方が1.3倍高かった
  • 強い感受性を示す割合は、性別にかかわらず不妊手術を受けていない犬の方が1.73倍高かった
  • 騒音に対して最も強い恐怖心を示した犬は、分離不安や新しい状況に対する不安が強く、ストレスのかかる状況において平常心を取り戻すまでにより長い時間がかかった
  • 花火、銃声のような突発的な音、雷の音に対する感受性は相互に連動することが多かった
 最後に挙げた「感受性は相互に連動する」に関しては、フィンランドのチームがさらに詳しい調査を行っています。2017年、ヘルシンキ大学のチームは192犬種の飼い主合計3,284人に対してアンケート調査を行い、雷、花火、銃声に対する犬の恐怖心は多くの場合共存することを明らかにしました(Katriina, 2017)。具体的な数値は以下です。 犬の不安症に関する統計調査
騒音恐怖の共存性
  • 雷の音が怖い時・花火が怖い=92.9%
    ・銃声が怖い=73.8%
  • 花火が怖い時・雷が怖い=71.8%
    ・銃声が怖い=70.1%
  • 銃声が怖い時・花火が怖い=90.3%
    ・雷の音が怖い=74.5%
 上記したように、花火が怖いときは雷も怖く、雷が怖い時は花火も怖いという傾向を持っているようです。平たく言えば「犬はとにかく突発的で大きな音が嫌い」となるでしょう。この事実を踏まえ、飼い主は犬を花火や雷から守る適切な方法を知っておかなければなりません。

犬を花火から守る

 犬を花火から守る時は最低限以下のポイントに注意しましょう。
  • あらかじめ音に慣らせておくどんなに怖がりな犬でも系統的脱感作と呼ばれる方法を用いてあらかじめ音に慣らせておけば、ある程度は騒音恐怖症を克服することができます。簡単に言うと、ごく小さな音から始めて少しずつボリュームを上げていき、最終的には大きな音に順応させるというものです。詳しいやり方に関しては以下のページで解説してありますのでご参照ください。 犬をいろいろな音に慣らす
  • 花火大会を確認する夏になると各地で大規模な花火大会が行われるようになります。家の近くでないかどうか開催スケジュールを事前に確認しておきましょう。またコロナ禍においては「終息祈願」と称してなんの脈絡や告知もなく花火が打ち上げられるケースもありますのでご注意下さい。 花火カレンダー2023
  • 窓を閉めて防音性を高める窓を開けっ放しだと花火の音がもろに家の中に入ってきます。また網戸を突き破って犬が飛び出してしまうかもしれません。花火大会がある日は窓を閉めて防音性を高めましょう。蒸し暑くなりますのでエアコンで室温調整します。 犬が喜ぶ部屋の作り方
  • 係留を再確認する万が一犬を外飼いしている場合は、リードがしっかり固定されていることを確認します。 犬を庭や外で飼う
  • 迷子札を再確認する万が一犬が迷子になった場合を想定し、迷子札やマイクロチップの再確認をしておきます。 迷子犬の探し方

犬を雷から守る

 犬を雷から守る時は最低限以下のポイントに注意しましょう。
  • あらかじめ音に慣らせておくどんなに怖がりな犬でも系統的脱感作と呼ばれる方法を用いてあらかじめ音に慣らせておけば、ある程度は騒音恐怖症を克服することができます。簡単に言うと、ごく小さな音から始めて少しずつボリュームを上げていき、最終的には大きな音に順応させるというものです。詳しいやり方に関しては以下のページで解説してありますのでご参照ください。 犬をいろいろな音に慣らす
  • 天気を確認する雷は夏(6~8月)になると急に多くなり、8月にピークを迎えます。100%ではありませんが、予め天気予報を見て雷雨情報がないかどうかは確認しておきましょう。
  • 窓を閉めて防音性を高める窓を開けっ放しだと雷の音がもろに家の中に入ってきます。また網戸を突き破って犬が飛び出してしまうかもしれません。雷雨の日は窓を閉めて防音性を高めましょう。蒸し暑くなりますのでエアコンで室温調整します。 犬が喜ぶ部屋の作り方
  • 係留を再確認する万が一犬を外飼いしている場合は、リードがしっかり固定されていることを確認します。 犬を庭や外で飼う
  • 迷子札を再確認する万が一犬が迷子になった場合を想定し、迷子札やマイクロチップの再確認をしておきます。 迷子犬の探し方

犬の脱走を防ぐ

 花火や雷の音を怖がる犬のリアクションは、「隅っこに隠れてプルプル震える」「不安そうにクンクン鳴いたりキャンキャン鳴き喚く」「パニックに陥って逃げ出す」のいずれかです。この中で最も危険なのは「犬が逃げ出してしまう」というパターンです。 花火を怖がって逃げ出した犬の「マックス」~フェンスの格子に腹部を刺されて安楽死を余儀なくされる  上の写真は2017年、花火の音を怖がって家から逃げ出し、フェンスの格子にお腹が刺さってしまったオーストラリアの犬「マックス」の哀れな姿です。怪我の程度が酷かったため、最終的には安楽死となりました。これは一例ですが、家から飛び出した犬が道路で車にひかれるとか、そのまま迷子になってしまうといった可能性は十分に考えられます。アメリカにおいて花火が盛大に打ち上げられる独立記念日(7月4日)と大晦日(12月31日)の迷子件数が激増するという事実が好例ですね。
 「人間と同じように犬も花火を楽しむことができる」と思い込み、犬をわざわざ花火会場に連れて行くのはやめた方が賢明です。また雷雨の中を傘をさしながら散歩していると、避雷針になってしまう危険性があります。 迷子犬の探し方

保冷剤中毒

 「犬の体温調整・暑いとき」でも解説したとおり、犬が暑がっている時に首元やお腹など太い血管が通っている場所に保冷剤(冷却シートや枕など)を当ててあげると、効率的に体温が下がって犬も喜びます。しかし冷却シートの破損にだけは気を付けなければなりません。
 保冷剤の中身は90%以上が水です。残りは水を吸着して膨らむ「高分子ポリマー」と、水が凍らないようにする「不凍液」などが含まれています。「高分子ポリマー」(高吸水性ポリマー)に関しては、アメリカのノースカロライナ州立大学が犬用マットに含まれていた「ポリアクリル酸ナトリウム」を大量摂取した犬の中毒症例を報告しています。この症例における摂取量は最大で「15.7g/kg」と推定されました。 犬のポリアクリル酸中毒  また不凍液の代表格はエチレングリコールとプロピレングリコールですが、前者に関しては犬や猫が間違って口にしてしまうと急性腎不全に陥って最悪のケースでは死亡してしまうため、近年はプロピレングリコールが多く含まれるようになっています。とは言え、商品によって素材の表記がバラバラで、不凍液に関してはただ単に「保冷材」「凍結防止剤」としか書かれていないものもありますのでやっかいです。 保冷マットや保冷パッドに含まれる不凍液の中には有毒なものもある  高分子ポリマーにしても不凍液にしても、犬が誤飲誤食してしまうとほぼ確実に体調不良に陥るため、何が含まれているのはさておき破損しないように気をつけましょう。たとえハードプラスチックに入っていたとしても、ガジガジ噛んでるうちに壊れて中身が出てしまうかもしれません。保冷剤を入れるカバーなどに入れて破損を防ぐ必要があります。中に含まれる防腐剤で皮膚炎を起こしたという事例もありますので(2013年, 国民生活センター)、人間の赤ちゃんに用いる時も同じように気を付けましょう。

殺虫剤中毒

 夏になると家の中に蚊が入ってくることが多くなり、殺虫剤を室内にまく機会も増えます。殺虫剤は犬を実験台(なにっ!?)にした安全性試験を行った上で市場に流通していますが、体内に入れないに越した事はありません。
 犬の体に直接殺虫剤を吹き付ける非常識な飼い主はさすがにいないでしょうが、それ以外のルートを通じて化学成分が犬の体に入ってしまうことがあります。例えば、壁や床についた成分を舐めてしまうとか、ドッグフードの上にかかった殺虫剤成分をエサごと飲み込んでしまうなどです。 室内で噴霧した殺虫剤が間接的に犬の口に入ることがある  殺虫剤に多く含まれるピレスリンやピレスロイドといった脂溶性化学物質は、皮膚よりも口からの方がよく吸収されます。小型犬の場合、体重1kg当たりの摂取量が大きくなる傾向にありますので、大型犬よりも中毒に陥る危険性が大です。死亡例はめったにありませんが、抑うつ、よだれ亢進、筋肉の震え、運動失調、呼吸困難、食欲不振、低体温、発熱といった症状が何の脈絡もなく見られた場合は、その直前に殺虫剤を使わなかったかどうかを確認してみましょう。また家の周りにワラジムシ、クモ、ナメクジ用の殺虫剤をまいている場合も、犬が近づかないようにご注意ください。 犬にとって危険な毒物

咬傷事故

 気温が暑いと「不快指数」が高まり、人々がトゲトゲしくなることはよくありますが、同じ現象は犬にもあるのでしょうか?
 2012年から2014年の期間、犬の咬傷事故で中国・北京にある病院を受診した患者を対象とし、外気温と事故件数との間に何らかの関連性があるかどうかが検証されました(Zhang, 2017)。合計42,481人のデータを調べたところ、寒い(0~10℃)とリスクが減少し、逆に暑い(25℃超)とリスクが増えるという関連性が見えてきたと言います。理由としては「不快指数が高まってイライラしている」「暑さでぼーっとしている」「薄着で怪我をしやすい」「室内にいることが多い」などが想定されています。 不快指数の上昇に伴い人も犬も不機嫌になる可能性あり  人がイライラして犬を手荒に扱ったのか、それとも犬がイライラしてちょっとしたことをきっかけに噛み付いてしまったのかはわかりません。しかし肌の露出が多い夏に咬傷事故が起こってしまうと、重症化してしまうことは否定できないようです。飼い主にとっても犬にとっても何一ついいことはありませんので、心身の健康を保つためにも室温のコントロールはしっかり行うようにしましょう。 犬が喜ぶ部屋の作り方 犬の攻撃行動 NEXT:夏の生き物や植物

夏の生き物や植物

 以下は夏に多い生き物や植物を原因とするトラブルの一覧です。薄着になる季節ですので飼い主もまた気をつけなければなりません。

ノミ

 犬に食いつくノミの数を季節別で見ると、夏の中旬から秋にかけて多くなるようです。
 アメリカ・ジョージア州で行われた調査では夏の終わりから秋にかけてピークが見られたといいます。所変わってヨーロッパのハンガリーで行われた調査では8月(夏の終わり頃)の感染率が最高で27.1%を記録したといいます。さらにドイツで行われた調査では7月~10月の感染率が最多だったとのこと。 ノミが犬に食いつきやすい季節は夏から秋にかけて  犬のノミ皮膚炎とは、ノミの刺咬によって患部が赤くなったりかゆくなったりする状態を言います。ノミ皮膚炎を引き起こしているアレルゲン(抗原)は唾液に含まれる「Cte f1」という分子成分、および糞です。これらの物質中には、アレルゲンの卵とでも言うべき低分子「ハプテン」のほか、血管を拡張する「ヒスタミン」に似た物質が含まれており、侵入した場所に痛みやかゆみを引き起こします。 犬のノミ皮膚炎  犬に感染することが多い「ネコノミ」の成虫が好む環境は湿度70%、気温21~30℃とされていますので、日本においても夏の中旬から秋(7月~10月)にかけてのノミ対策はしっかり行う必要があります。この時期はとりわけ予防薬の投与を忘れないようにしましょう。 犬のノミ皮膚炎

ダニ

 ダニは基本的に通年性で、1年中予防薬を投与することが理想です。夏は体温が高くなり、ダニに見つかって飛びつかれることが多くなりますのでとりわけ注意が必要となります。
 犬のマダニ症とは、ダニの一種である「マダニ」に咬まれることで発症する病気のこと。マダニに食い破られた皮膚表面では、破損した皮膚の細胞とマダニから分泌された唾液成分(吸着セメント)によって免疫反応が起こり、時として痛みやかゆみが生じます。 犬の体の部位別に見たダニに食われやすい場所一覧  またマダニの体内に含まれる様々な病原体が犬の体内に入り込み、重大な感染症を引き起こすこともあります。特に上の図で示したような場所が食われやすいため、散歩帰りには念入りにチェックするようにしましょう。 犬のマダニ症

フィラリア

 夏になるとフィラリアを媒介する蚊が大量に繁殖しますので、外飼いだろうと室内飼いだろうと予防策を入念に行う必要があります。
 犬のフィラリア症とは、寄生虫の一種であるフィラリアによって引き起こされる症状のことです。犬に寄生するのは「犬糸状虫」(いぬしじょうちゅう, Dirofilaria immitis)と呼ばれる種で、犬の心臓(右心房/うしんぼう)と肺動脈(はいどうみゃく)を最終的な住みかとします。フィラリアを媒介するのは日本中どこでも見られるトウゴウヤブカ、コガタアカイエカ、ヒトスジシマカなどのありふれた蚊で、繁殖に最適な温度域が22℃~27℃、4月下旬~11月中旬が主な活動期間です。 犬のフィラリアを媒介するヒトスジシマカ  フィラリア予防は通年が理想ですが、蚊が活発に活動する春から秋にかけてはとりわけ念入りに対策を講じるようにしましょう。またフィラリア予防薬「イベルメクチン」に対して中毒症状を示しやすい犬種というものがあります。この体質には「MDR1」と呼ばれる遺伝子が関わっており、「コリー」「オーストラリアンシェパード」「シェットランドシープドッグ」といったコリー系統の犬で高い変異が確認されています。これらの犬種の飼い主においては、フィラリアと同時にフィラリア予防薬に対する注意も必要です。遺伝や予防法に関する詳しい内容は以下のページで解説してありますのでご参照ください。 フィラリア予防薬(イベルメクチン)中毒を引き起こすMDR1遺伝子の変異率調査 フィラリア症

夏の生き物

 夏になると生き物たちが活発に活動を始めます。向こうから人間の暮らしている場所にやって来ることもあれば、人間が知らないうちに彼らの生息域に侵入してしまうこともあります。必ずしも友好的な生き物ばかりではありませんので、以下に挙げるものくらいは覚えておきましょう。

スズメバチ

 夏の昆虫でとりわけ危険なのはスズメバチです。働き蜂は夏の中旬に当たる7月頃から羽化を始め、秋が始まる9月から10月にかけて個体数が最大になります。黒い服やフェロモンに似た匂いを発する香水を攻撃してくる習性がありますので、山や森などスズメバチが多く生息する場所に行く際は注意しておく必要があります。メス蜂に刺されるとただ単に痛いだけでなく、毒まで注入されますのでたまったものではありません。

ヘビ

 爬虫類で危険なのはヘビです。噛まれることによる傷のほか、毒を保有しており蛇毒症を引き起こす種類もいますので、山林や草地を歩くときは注意するようにしましょう。特にヤマカガシ、マムシ、ハブには要注意です。 日本国内で見られる代表的な毒蛇~ヤマカガシ、マムシ、ハブ

ヒキガエル

 両生類でとりわけ危険なのはヒキガエルです。他のカエルに比べて水に対する依存度が低く、草地や林の中で暮らすこともできます。皮膚からは「ブフォトキシン」とよばれる毒成分が分泌されており、触れた箇所に皮膚炎を引き起こします。また犬が間違って毒を飲み込んでしまうと嘔吐、下痢といった消化器症状のほか心臓発作などを起こし、最悪のケースでは死んでしまうこともありますので大変危険です。アメリカのフロリダ州では、1955年にマイアミ空港の貨物からヒキガエル逃げ出して以来、やっかいな外来種とみなされており、犬が耳腺の毒にやられて死亡するケースもちらほらと報告されています。

夏の植物

 夏になると様々な植物が葉を広げ、花を咲かせるようになります。しかし中には間違って食べてしまうと中毒に陥ってしまうものもありますので要注意です。散歩中に遭遇しやすい花や植物に関しては以下のページに写真付きでまとめてありますのでご参照ください。特に好奇心旺盛な子犬で誤食事故が起こりやすくなります。 散歩中によくある有毒植物 NEXT:感染症や病気

感染症や病気

 以下は気温が上がる夏において増える病気や感染症の一覧リストです。リスクを認識していれば予防することはそれほど難しくありません。

レプトスピラ症

 レプトスピラ症とはレプトスピラ属(Leptospira)の細菌の中で病原性を持った病原性レプトスピラによって引き起こされる感染症です。発症リスクは降雨量と関係している可能性があり、夏から秋にかけて症例が多くなります。
 1983年から1998年の期間、アメリカとカナダにある22の動物病院でレプトスピラ症と診断された犬を対象とし、危険因子が何であるかが検証されました(Ward, 2002)。合計340頭のデータを調べたところ、ほとんどの症例は8月から11月(夏の終わりから秋)に集中しており、診断を受ける前3ヶ月間における降雨量が多いと、症例も増えるという関係性が見られたと言います。 レプトスピラはネズミの尿などに潜伏し、汚染水を介して犬や人にも感染する  日本でも7月ころに梅雨が終わりますので、8月から11月の発症リスクが高まると考えておいたほうが無難でしょう。この感染症は人獣共通で人間にも感染しますので、水のある屋外環境や河川で犬と遊ぶ際はとりわけ注意するようにします。また家の周辺で増えたハツカネズミやドブネズミを駆除する際は、犬が殺鼠剤を間違って食べてしまわないようご注意ください。 犬のレプトスピラ症

アレルギー

 アレルギー反応を引き起こす「アレルゲン」に対する血液中の抗体価は、夏から秋にかけて増える傾向があるようです。
 ノルウェイ国内に暮らす161犬種1,313頭の犬を対象とし、血清に含まれるアレルゲン特異的IgE抗体のレベルが計測されました(Bjelland, 2014)。アトピー性皮膚炎の疑いがあるとして検査に回された血液サンプルを調べた所、84.3%で少なくとも1種類のアレルゲンに対するIgE抗体の上昇が見られたと言います。アレルゲンとして最も多かったのは室内にあるもので、具体的にはアシブトコナダニ(84.0%)、コナヒョウヒダニ(80.2%)、ケナガコナダニ(79.9%)などでした。また屋外のアレルゲンとして最も多かったのはヒメスイバ(40.0%)だったとも。季節性を調べた所、冬から春にかけて採取された血液サンプルよりも夏から秋にかけて採取されたサンプルの方が抗体価の上昇が多く見られたそうです。 主要アレルゲンの季節別増減  上の表はアレルゲン(抗原)としてよく名前が挙がる物質の一覧リストです。非常にたくさんありますが、上記調査で多く報告されたダニ類に関しては部屋(布団・カーテン・カーペット・ぬいぐるみなど)の掃除をこまめに行ったり、HEPAフィルター付きの空気清浄機を回すことである程度は軽減することが可能です。特に夏から秋にかけては意識的に増やすようにしましょう。 犬のアトピー性皮膚炎

腸管病原体・食中毒

 夏になると胃や腸の中に生息する腸管病原体が勢力を拡大するようです。
 1960年から2010年の間に公開された86の文献を精査し、人間にも動物にも感染する人獣共通感染症「カンピロバクター症」「サルモネラ症」「ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)」「クリプトスポリジウム症」「ジアルジア症」に関する季節性が調べられました(Lal, 2012)。その結果、すべての病原体に関し夏にピークが見られたと言います。また別の調査では、カンピロバクター症とサルモネラ症に関しては外気温が最高になった2~14日後にピークを迎え、クリプトスポリジウム症とジアルジア症に関しては40日以上後になってピークを迎えたとも(Naumova, 2012)。 犬の細菌性腸炎を引き起こすサルモネラ菌とカンピロバクター菌 細菌(カンピロバクター菌 | サルモネラ菌 | 大腸菌)にしても原虫(クリプトスポリジウム | ジアルジア)にしても、気温が高まる夏期において繁殖しやすくなるようです。人間に比べて犬における症状はそれほど重くありませんが、生の食材を触ったときはよく手洗いをするとか、食器をよく洗うといった配慮は最低限必要でしょう。 犬の寄生虫症 犬の細菌性腸炎

肥満・食べ過ぎ

 夏は気温が高いため、体温を維持するために消費するカロリーが少なくなります。消費カロリーの目減りに合わせて餌の量を減らさなければ犬が太ってしまうかもしれません。
 ダブルコートの短毛種であるビーグル5頭とダブルコートの長毛種であるシベリアンハスキー5頭を対象とし、季節ごとのカロリー摂取量を長期的に観察したところ、ハスキーでは11月が最高で「87 kcal/kg/day」、夏の中旬が最低で44%減の「49 kcal/kg/day」、になったといいます。またビーグルでは11月が最高で「144 kcal/kg/day」、夏の間が最低で41%減の「85 kcal/kg/day」だったとも(John L. Durrer, 1962)。 気温が上がる夏になると基礎代謝が下がるため犬の食事量も減る  上記したように、犬の必要カロリー数は外気温に合わせて変動しますので、夏の間は食事量を減らさなければなりません。ただし犬を室内飼いにしている場合、外飼いの犬のようにカロリー消費量が40%も変動するということはさすがにないでしょうから、「犬に必要な栄養量」を参考にしつつ10~20%減らした上で犬の様子を観察してみましょう。
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