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犬のアトピー性皮膚炎

 犬のアトピー性皮膚炎について病態、症状、原因、治療法別にまとめました。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬のアトピー性皮膚炎の病態と症状

 犬のアトピー性皮膚炎とは、皮膚のバリア機能が低下したり、アレルギーの原因となるアレルゲンが皮膚を通じて体内に入ることによって引き起こされる皮膚炎です。

皮膚のバリア機能低下

 「皮膚のバリア機能」とは、体内の水分が蒸発しないよう内部にとどめておく機能、および外界の異物が体内に侵入しないよう防御する機能のことです。
 体内からの蒸発予防には、皮膚最上部の角質層内にある「天然保湿成分」や、皮膚内部に埋め込まれている皮脂腺から分泌される「皮脂」が重要な役割を果たします。前者は水分を抱え込んで動けないようにする機能、後者は体外に出ていこうとする水分を角質層レベルでブロックする機能を有しています。
 体外からの異物防御には、皮膚の最も外側を覆っている「角質層」が重要な役割を果たします。健常な角質細胞の隙間は「角質細胞間脂質」と呼ばれる脂成分で埋められており、細胞同士を強固に結びつけることで外界からの異物侵入をシャットアウトしています。
 アトピー性皮膚炎の一因は、何らかの理由で上記バリア機能が損なわれ、皮膚が乾燥したり異物が入り込むことで炎症が生じてしまうことです。 皮膚最上部の角質層からバリア機能が失われた様子

アレルギー(I型)のメカニズム

 「アレルギー」とは、体内に侵入した異物を除去しようとする反応が強すぎて、自分自身を傷つけてしまう現象のことです。アレルギーを引き起こす「アレルゲン」は犬によってまちまちですが、アレルギーが起こるメカニズムは共通しています。
 アレルゲンが皮膚や粘膜から体内に侵入すると、まずT細胞と呼ばれる免疫細胞に認識されます。その後T細胞はB細胞を活性化し、細胞内に含まれる「IgE抗体」と呼ばれる物質の放出を促します。そしてこのIgE抗体は肥満細胞と呼ばれる別の細胞の表面に付着し、次にアレルゲンが体内に入ってきたときに備えて待機します。 アレルゲンの侵入~T細胞によるB細胞の活性化~B細胞からのIgE抗体放出
 アレルゲンが再び体内に入ってくると、そのアレルゲンは肥満細胞表面にあるIgE抗体で認識されます。すると、まるで起動スイッチを押したように肥満細胞が目覚め、内部に含む様々な生物活性物質を放出します。この現象が「脱顆粒」(だつかりゅう)です。
 生物活性物質にはヘパリン、コンドロイチン硫酸、血小板活性化因子、腫瘍壊死因子、プロスタグランジン、ロイコトリエンなど様々なものが含まれますが、アレルギーと最も関係が深いのは「ヒスタミン」と呼ばれる物質です。この物質が血管に作用すると「血圧降下」、「平滑筋収縮」、「血管透過性の亢進」といった反応を引き起こし、血流が促進されます。血の巡りがよくなっただけなら単なる免疫反応ですが、反応が強すぎて生体に苦痛を与えてしまうことがあります。この現象が「アレルギー」です。鼻の粘膜で起これば「アレルギー性鼻炎」、気管の粘膜で起これば「アレルギー性喘息」、そして皮膚で起これば「アレルギー性皮膚炎」、もしくは「アトピー性皮膚炎」と呼ばれます。 アレルゲンの再侵入~IgE抗体による認識~肥満細胞における脱顆粒 Allergy 3D Medical Animation(YouTube)

アトピー性皮膚炎の症状

 犬におけるアトピー性皮膚炎の好発部位は、指の間、手首足首付近、マズル、目の周辺、結膜、腋の下、鼠径部(そけいぶ=腿の付け根)、耳介、下腹部、肛門周辺などです。好発年齢は1~3歳とされますが、早ければ3ヶ月齢から症状を示すこともあります。最初のころは季節の変化に応じて症状が出たり消えたりしますが、徐々に期間が長くなっていき、最終的には通年性になるというのがよくあるパターンです。 犬のアトピー性皮膚炎好発部位  犬のアトピー性皮膚炎の症状としては以下のようなものが挙げられます。犬種別の好発部位に関してはこちらの記事をご参照ください。
アトピー性皮膚炎の主症状
犬のアトピー性皮膚炎~耳や目の周りに多発する
  • かゆみ
  • 患部の乾燥
  • 患部をひっかく・こすりつける・なめる
  • 患部のただれや膿皮症
  • 慢性的な外耳炎
  • 慢性的な結膜炎
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犬のアトピー性皮膚炎の原因

 犬のアトピー性皮膚炎の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
アトピー性皮膚炎の主な原因
  • 皮膚バリア機能の低下  2016年2月、ペンシルベニア大学などを中心としたチームは、アトピー性皮膚炎を発症した犬の皮膚では、「ブドウ球菌」(Staphyloccocus)が異常増殖しているという事実を突き止めました。また同年4月、日本の理化学研究所は、「JAK1遺伝子」の異常が角質をはがす酵素「プロテアーゼ」に変化をもたらし、角質における保湿効果を低下させてアトピー性皮膚炎を発症させているというメカニズムを報告しました。両調査をまとめると、「JAK1遺伝子」の異常が皮膚のバリア機能を低下させ、皮膚細菌叢内における「ブドウ球菌」の異常増殖を招き、結果としてアトピーが発症しているとなります(→詳細)。
     全ての症例において「JAK1遺伝子」の異常が確認されているわけではありませんが、遺伝子レベルでの変異が皮膚のバリア機能を低下させ、アトピーを発症させるというルートがあることは間違いないようです。
  • アレルゲンとの接触  アレルギー反応を引き起こすアレルゲン(抗原)は、ほこり、ダニ(死骸や排泄物)、花粉、フケ、化学薬品など多様です。また近年は、アレルギーと中毒のちょうど真ん中の症状を引き起こす揮発性有機化合物(VOC)の存在も侮(あなど)れません。
  • 犬種の遺伝的特性  ある特定犬種においては、遺伝的にアトピーにかかりやすいといわれています。具体的には、ボストンテリアケアーンテリアダルメシアンブルドッグイングリッシュセターアイリッシュセッターラサアプソミニチュアシュナウザーパグシーリハムテリアスコティッシュテリアウェストハイランドホワイトテリアゴールデンレトリバーなどです。こうした犬種の中には、「JAK1遺伝子」に変異を抱えたものが含まれていると推測されます。
 以下は、アレルゲン(抗原)としてよく名前が挙がる物質の一覧リストです。腫瘍アレルゲンの季節別増減 出典:ジェネラリストのための小動物皮膚科診療(学窓社, P108) アレルゲンを見極める際は、「症状が季節に合わせて増減する」、「散歩に行った後に悪化する」、「家にいるときだけ出る」といった、アレルギー反応の引き金を注意深く観察するようにします。なおリスト中の青で示した項目はカビの一種です。
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犬のアトピー性皮膚炎の治療

 2016年に韓国で行われた調査では、アトピーの重症度が高ければ高いほど被毛中のコルチゾールレベルも高まるという関連性が確認されています(→詳細)。これはつまり、皮膚の状態が悪いほど犬が強いストレスを感じているということですので、飼い主としては何とかして症状の軽減に努めたいものです。犬のアトピー性皮膚炎の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
アトピー性皮膚炎の主な治療法
  • 基礎疾患の治療  別の疾病がアトピー性皮膚炎を悪化させている場合は、まずそれらの基礎疾患への治療が施されます。具体的には膿皮症疥癬ノミ皮膚炎などです。
  • 投薬  炎症を軽減する目的でステロイドや抗ヒスタミン薬などが投与されます。ただしステロイドは医原性のクッシング症候群、抗ヒスタミン薬は食欲不振、嘔吐、下痢といった副作用を引き起こすことがありますので、決して万能薬というわけではありません。
     近年は犬用の減感作薬も登場しています。「減感作」(げんかんさ)とは、毒性を薄めたアレルゲンをわざと体内に入れることによって、慣れを生じさせようとする治療法のことです。具体的には、ゼノアックから注射薬「アレルミューンHDM®」などが発売されています。ただしこれは犬専用で、なおかつアレルゲンはチリダニが保有する「Def 2 / Der p 2」限定です。また試験的に、薬剤を経口投与する「舌下免疫療法」の可能性も検討されています(→詳細)。
     「アトピーを発症した犬の皮膚ではブドウ球菌が異常増殖している」という事実から、抗生物質を投与して皮膚の細菌叢を変化させるというアプローチも効果的であると考えられています。
  • 脂肪酸の摂取  リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸などの脂肪酸を摂取することでアラキドン酸の生成を抑制され、症状が軽減することがあります。
  • 漢方薬  ステロイドなどの副作用が激しい場合は、時に漢方薬が用いられます。
  • シャンプー  皮膚や被毛にまとわりついたアレルゲンを物理的に洗い流します。
  • 保湿剤  皮膚が乾燥してかゆみが悪化するような場合は保湿剤を用いることがあります。日本の理化学研究所がマウスを対象として行った調査では、ただ単にワセリンを塗っただけで症状の軽減が見られたとしています。
  • 生活環境の改善  ダニやホコリ、花粉などを極力室内から除去するため、こまめに掃除をします。また目に見えないものの体に様々な影響を与える揮発性有機化合物(VOC)を可能な限り環境中から取り除くようにします。
     アレルゲンが何であるかを試行錯誤の末に見つけるという方法もありますが、病院で皮内テストを行うとその時間が短縮されることがあります。患犬の胸の外側を剃って皮膚を露出し、そこに様々なアレルゲンを注入します。もしその中にアレルゲンが含まれていると、皮膚が他の部位よりも大きく盛り上がるという理屈です。しかし全ての病院が対応しているわけではないので、事前に調べた方がよいでしょう。その他の方法としては、血液検査によってIgE抗体を調べるというものもあります。検査は民間の機関で行われますので、詳しくはかかりつけの獣医さんにご相談ください。
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