トップ犬のしつけ方室内で必要となるしつけ犬を音に慣らす

犬を音に慣らす

 犬を音に慣らすこととは、犬が気になる音を聞いても取り乱さない状態のことです。人間と共生していく上では、日常生活に存在する生活音にある程度慣れておく必要があります。

犬を音に慣らすことの必要性

犬を音に慣らすことはペットを社会に溶け込ませるということ  散歩中には自動車や自転車、オートバイなどの乗り物が必ず存在します。エンジン音やブレーキ音、クラクションやベルの音にいちいち反応して取り乱していたら、いつか興奮した犬が道路に飛び出して事故にあってしまうでしょう。あるいは他の犬の吠え声や猫の鳴き声などにおびえていたら、いつまでたっても家の中に閉じこもりっきりの引きこもり犬になってしまう危険性もあります。つまり犬を音に慣らすことはペットを社会に溶け込ませるという意味があるのです。
 なお、ある特定の音に対して恐怖や不安を示すことを音嫌悪(おとけんお)、音恐怖症(おときょうふしょう)などといいます。犬や猫が音恐怖症になる原因としては、主に以下のようなものが挙げられます。 獣医行動学の適用と展望(インターズー)
犬や猫が音恐怖症になる原因
  • 馴化不足 馴化(じゅんか)とは外界の刺激になれることです。2006年、Iimura氏の研究によると、6ヶ月例未満の犬に花火、エンジン音、ドアの音、クラッカー、掃除機、大声などに鳴らしておくと予防的な効果があるそうです。子犬の社会化期における刺激への暴露(ばくろ)が重要ということです。
  • トラウマ トラウマとは心的外傷のことで、非常に強い刺激にさらされたことが原因で恐怖心が植えつけられることです。たとえば風船とじゃれあっていて「パン!」と割れたときなどです。
  • 感作 感作(かんさ)とは、トラウマのようにいきなりではなく徐々に苦手意識が芽生えていく過程のことです。エンジン音や雷の音などに繰り返しさらされることで少しずつ恐怖心が強まっていきます。
  • 脱馴化 脱馴化(だつじゅんか)とは、一度なれた刺激に対し、再び苦手意識がよみがえることです。全く無関係なストレスが原因となることがあります。
  • 社会的促進 社会的促進(しゃかいてきそくしん)とは他の犬や飼い主の恐怖心が犬に伝染することです。2006年、Iimura氏の研究によると、1つ以上の音刺激に過敏な犬の飼い主283人の内、22.6%が他の犬の恐怖行動を観察することで恐怖を学習、または模倣したと回答しています。
 では具体的に犬を音に慣らすトレーニングを見ていきましょう。
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犬を音に慣らす~基本方針

 犬を音に慣らすに際して、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
犬を音を聞いても取り乱したり興奮しない
してほしくない行動
いろいろな音を聞くと取り乱したり興奮してしまう
 してほしい行動と快(ごほうび)、してほしくない行動と不快(おしおき)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえて犬をいろいろな音に慣らす場合を考えて見ましょう。
強化
「いろいろな音を聞いても取り乱したり興奮しなかった」瞬間に快(賞)を与える
弱化
「いろいろな音を聞いて取り乱したり興奮してしまった」瞬間に不快(罰)を与える
 犬をいろいろな音に慣らす際は強化の方が効果的です。
 音に対する慣れという面においては、後述する系統的脱感作法(けいとうてきだつかんさほう)が最も効果的であると思われます。従って当サイトでは、主にごほうびを用いた正の強化をメイントレーニングとして解説していきます。
望ましくないしつけ方  犬が音に対して恐怖反応を示しているときに、追い討ちを掛けるように嫌悪刺激を与えるのは望ましくありません。人間で言うと、牛乳を飲むとどうしても下痢を起こしてしまう小学生に、先生が「どうして飲まないの!」と怒鳴りながら無理やり飲ませるようなものです。
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犬を音に慣らす~実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ実践に入りましょう。まずは犬のしつけの基本理論で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」、「一つの刺激と快不快を混在させないこと」、「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」、「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」、を念頭においてください。

しつけの準備

 犬を音に慣らすにおいては、以下の4つのことを準備します。

準備1: ごほうびを用意する

 犬をある特定の行動に対して積極的にさせるためには、何らかの快(賞)を与える必要があります。以下は代表的な犬に対するごほうびです。
犬に対するごほうびいろいろ
  • おやつ おやつをごほうびとして使う場合は犬がおいしいと感じるもの+カロリーの低いものを選ぶようにしましょう。与えるときは犬が満腹にならないよう、なるべく少量だけにします。
  • おもちゃ おもちゃを選ぶときは、あらかじめ犬に何種類かのおもちゃを与えておいて一番のお気に入りを確かめておきます。ただし一度与えると回収するのが困難になるため、しつけセッションの最後に与えるようにします。
  • なでる なでるときは軽く「よーし」や「いいこ」や「グッド」などのほめ言葉を決めておき、その言葉と同時に軽く一回なでてあげます。あまり激しく撫で回してしまうのは望ましくありません。第一に犬が興奮しすぎて集中力がなくなりますし、第二になでられることに慣れてしまって「なでる」という行為が犬にとって賞(快を与えるもの)でなくなってしまう危険性があるからです。
  

準備2: 馴化の基礎理論を理解する

 刺激に対して自然に慣れることを馴化(じゅんか)と言いますが、犬を特定の音に馴化させる際は、系統的脱感作法(けいとうてきだつかんさほう)という手法を用います。これは、犬が苦手としている音刺激を、弱いものから段階的に強いものへと高めていき、最終的には刺激に対して無反応にするというものです。この手法は、犬に対するストレスを最小限にしつつ、人為的に馴化プロセスを進めることと言ってもよいでしょう。
免疫的脱感作療法  系統的脱感作法に近いものとしては、免疫的脱感作療法(めんえきてきだつかんさりょうほう)が挙げられます。これは、アレルギーを引き起こすアレルゲンを、皮下注射、経口投与、舌下投与などの方法でほんの少し体内に摂り入れ、徐々に体を慣らしていく治療法のことです。アレルギー症状を軽減する対症療法ではなく、アレルギー反応自体をなくす根治療法として注目されています。
いきなり強烈な刺激にさらす氾濫法は、高所恐怖症の人にいきなりバンジージャンプをさせるようなもの  さて、動物を馴化させる方法として系統的脱感作法の対極にあるのは、氾濫法(はんらんほう, flooding therapy)と呼ばれる手法です。これは、犬に最大の恐怖を引き起こすような強い刺激に、予行演習無しでいきなりさらしてしまうという荒治療のことで、まるで氾濫した川の水のように刺激を浴びせかけることからこの名が付けられました。
 具体的には、高所恐怖症の人にいきなりバンジージャンプさせたり、子犬をクレートの中に閉じ込め、雷の音を大音量で聞かせ続けたりするなどです。
 この手法は、刺激に対する反応を鋭敏化(後述)して恐怖心を逆に強めてしまったり、攻撃性が増したりする危険性をはらんでいるため、素人が面白半分や実験感覚でやってよいものではありません
鋭敏化 刺激への鋭敏化とは、ちょっとした刺激に対しても過剰に反応してしまうこと  「鋭敏化」(えいびんか)とは、ある刺激に対する反応が強くなることをいい、馴化の対極にある概念です。指の皮が厚くなることが「馴化」だとすると、「鋭敏化」とは指先に切り傷がある状態だとお考えください。切れた(鋭敏化した)状態の指先に刺激を加えると、痛みが倍増して感じられるはずです。
 ある特定の音を怖がる犬に対し、その音を大音量で聞かせるという「氾濫法」は、ちょうど指先を刃物で切ってしまうように、犬の感覚を鋭くしてしまう危険性があるわけです。
 犬をある特定の刺激に対して系統的に慣らしていく場合は、犬がすでに鋭敏化している可能性を考慮し、原因となっている刺激そのものだけでなく、その刺激によく似た刺激も含めて、脱感作の対象にする必要があるでしょう。たとえば、雷の音を怖がる犬の場合は、ベビーカーのゴロゴロという音や、カメラのシャッター音、そして場合によっては人間のくしゃみの音などにも慣らしておく必要があるということです。

準備3: 犬にオスワリをマスターさせる

 事前の下準備として、まずは犬にオスワリをしつけましょう。落ち着いてじっとしていればごほうびがもらえるという思考パターンを植え込んでおきます。

準備4: 生活音を用意する

 普段よく耳にする代表的な生活音を当サイトで用意しました。小さな音量から初めて徐々に大きな音量にしていきます(別ウィンドウ・YouTube)。
生活音いろいろ
雷恐怖症
 犬では雷恐怖症が特に有名です。気圧の低下、空が暗くなること、雨、風などを察知して、歩き回る、警戒、クンクン鳴き、震え、飼い主の追い回し、破壊行動、逃避、硬直、トイレが増えるなどの不安徴候を示します。

しつけの実践

 犬を音に慣らすを実践するに当たっては、以下の5ステップに沿って行います。

ステップ1: 気になる音を出してみる

 犬にオスワリを命じ、リラックスした状態にして上記「生活の中のいろいろな音」中のサウンドを小さい音で一つずつ出してみましょう。犬によっては全く関心を示さずおとなしくしている犬や、逆に完全に興奮して無駄吠えを繰り返してしまう犬がいるかもしれません。ひとまず音を出して犬の反応を見て見ましょう。なお、犬用フェロモン「DAP」には、犬の音恐怖症に対する脱感作を促進するという効果が報告されています。併用してみるのも一案でしょう。

ステップ2: おとなしくしていたらごほうび

犬が音に動じずおとなしくしていたらごほうびをあげましょう。  音をきかせても犬がおとなしくじっとしていたら、その瞬間にすかさず「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えます。これは、音とごほうびの間で形成される古典的条件付けであると同時に、「じっとしていること」と報酬とを犬の頭の中で結び付けるオペラント条件付けでもあります。
 よくある間違いは、音を聞いて犬が興奮している時に「よーしいいこだ!大丈夫だからおとなしくしなさい」などといって犬を落ち着かせようとする行為です。犬の解釈としては「音を聞いた⇒興奮した⇒飼い主さんが喜んでほめてくれた⇒もっと興奮しよう!」となり、全く逆の強化を行っていることになります。 あくまでも犬がおとなしい状態がほめるタイミングです。
脱感作の注意  犬に音を聞かせるときは、30分間ずっと流し続けるよりは、5分×6回のようにセットを小分けにしたほうが効果的です。また、うろたえている犬を無理になだめようとする行為は不適切な強化であると同時に、噛み付きなど犬から思わぬ攻撃を受けることがありますので、絶対に避けるよう注意します。

ステップ3: 音量を徐々に上げていく

 犬が低音量の音に慣れてきたら、徐々に音量を上げていきましょう。静かにしていたら、そのたびごとにごほうびを与え、「音」、および「じっとしている」という行為とごほうびとを繰り返しリンクします。もし犬が再び冷静心を失うような場合は、先走りすぎですので、もう一度犬が落ち着いていられる音量まで下げ、そこからしつけを再スタートします。

ステップ4: ごほうびの回数を減らす

 犬がいろいろな音、いろいろな音量に慣れてきたら、今度はごほうびを与える回数を減らしていきましょう。常にごほうびを与えていると犬がごほうび自体に飽きてしまったり、肥満の原因になりかねません。毎回ごほうびを与える⇒2回に1回ごほうびを与える⇒3回に1回⇒4回に1回・・・と減らしてゆき、最終的には「いいこ」などのほめ言葉だけにします。

ステップ5: 実際の生活音に触れてみる

 最後の仕上げです。実際に外に出たりお友達の家に行ってみましょう。実際の生活の中で聞こえるの様々な音を聞いても、じっとおとなしくしていたら合格です。まだ興奮するようでしたら、何の音をきっかけに興奮するのかを見極め、おうちに帰ってから補習しましょう。
しつけをする上での注意  音恐怖症に対する系統的脱感作を用いた治療法を確立したのはTuber、Voithらで、1974年にまで遡ります。彼らの報告では、雷恐怖症の犬に対し、1日1時間、連続5日行ったところで、本物の雷に対する恐怖反応が消えたとしています。しかし犬の集中力は10分~15分ほどです。集中力がなくなってきたらいさぎよくしつけを中断してその日の夜や翌日に改めて再開しましょう。
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犬を音に慣らす~実演動画

 以下でご紹介するのは、犬をある特定の音に対して慣れさせる方法を解説したハウツー動画です。
 まず、犬の苦手な音が判明したら、その音を薄く「希釈」した状況をうまく作り出します。そして犬にごほうびを与えながら、徐々に状況の濃度を濃くしていき、最終的には不快だった音が犬にとってのごほうびの合図になるようにもっていく、というものです。これが当ページ内で解説した「系統的脱感作法」です。
 動画内では「洗濯機の騒音」が犬の苦手な音ですが、その音を希釈した形として「洗濯機を手で叩く」という状況からスタートし、徐々にその基準を上げて、最終的には全く反応を示さないレベルまでもっていきます。「洗濯機の音」を「電話の音」、「ドアベルの音」、「他の犬や猫の鳴き声」などに置き換えて考えると、色々な応用が利きそうですね。
犬を音に慣らす
  • 弱い音からスタート  犬が洗濯機の音に興奮する場合、まずその音を弱めた形からスタートします。たとえば洗濯機を手で叩いたときの音などです。まずこの弱めた音とごほうびとを結びつけ、しっかりとした古典的条件付けを形成します。「音→ごほうび」という順番で流れるように行ってください。 弱い音とごほうびを結びつける古典的条件付け
  • 音をやや強める  犬が弱い音に慣れてきたら、徐々に音量を上げていきます。犬がなお興奮するようなら、もう少し音を弱めた状態から再スタートです。これが系統的脱感作法の基本手順となります。 徐々に刺激を強くしていく系統的脱感作方
  • 本来の音にトライ  犬が大きめの音に慣れてきたら、今度は本来の音にさらしてみます。いきなりだと刺激が強すぎますので、最初は遠く離れた場所からスタートします。たとえば別の部屋に犬を置いて洗濯機をオンにするなどです。興奮せずにじっとしていたらごほうびを与えましょう。そして徐々に洗濯機に近づけていきます。 刺激を本来のものに置き換え、最終テスト
元動画は⇒こちら
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