トップ犬のしつけ方室内で必要となるしつけ犬のボディコントロール

犬のボディコントロール

 犬のボディコントロールとは、飼い主が犬の体を触ったり、体の一部を自由に動かしても犬が全く抵抗(ていこう)を示さない状態のことです。犬が人間によって容易にハンドル(handle=操る)されるという意味合いで「ハンドリング・エクササイズ」(handling exercise)とも呼ばれます。

犬のボディコントロールの必要性

頭をなでようと差し出した人の手をかんでしまったら大変!  犬が人間に対して警戒心を示し、身を任せることができない状態を放置すると、犬にとっても飼い主にとってもやっかいな状況がたびたび発生します。
 たとえば散歩中にマナーを知らない女性が「かわいい~!!」などと言って飼い主の許可を得ず勝手に犬に近づき、頭の上から手を差し出してなでようとした瞬間、怖がった犬が女性の手を噛(か)んだら大変です。或いは動物病院で獣医さんが犬を寝かしつけようとした途端、嫌がって逃げ出しては治療になりません。また犬の扱い方を知らない乳幼児がいたずらに犬の尻尾を引っ張り、驚いた犬がその乳幼児を噛んでしまうかもしれません。
 このように、人間に対して完全に身を任せるというしつけができていないと、非常に困った状況になることは容易に想像できるでしょう。そこで必要となってくるのが「ボディコントロール」のしつけです。
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犬のボディコントロール~基本方針

 犬のボディコントロールに際して、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
ペットの体を触り、体の一部を動かしても全く抵抗しないこと
してほしくない行動
ペットの体を触り、体の一部を動かそうとすると嫌がること
 してほしい行動と快(ごほうび)、してほしくない行動と不快(おしおき)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえてボディコントロールをしつける場合を考えて見ましょう。
強化
「ペットの体を触り、体の一部を動かしてもじっとしていた」瞬間に快(賞)を与える
弱化
「ペットの体を触り、体の一部を動かすと抵抗した」瞬間に不快(罰)を与える
 犬のボディコントロールのしつけに際しては正の強化を基本方針とします。
 これは「体を触った⇒抵抗した⇒大きな物音で不快感を与えた」という形でしつけをしてしまうと、犬は「体を触られた⇒不快な大きな音がした」と誤解してしまう危険性があるためです。これでは逆に体を触ろうとしたら犬がどこかに逃げてしまいます。
 ですから犬が誤解してしまうようなしつけではなく、体を触ったり動かしたりしてもじっとしていた瞬間におやつなどの快を与えるという正の強化でボディコントロールをしつけるのが基本方針となります。
望ましくない手法  力ずくで仰向けに寝かせて押さえつける「アルファロール」、および力ずくで横向きに寝かせる「ドミナンスダウン」は、人間で言うと、体重150キロのお相撲さんが上に覆いかぶさるようなものです。犬に大変な不快感を与え、時には反撃を誘発する危険性がありますので、現在では特殊な状況を除き、否定されているしつけ方です。
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犬のボディコントロール~実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ実践に入りましょう。まずは犬のしつけの基本理論で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」、「一つの刺激と快不快を混在させないこと」、「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」、「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」、を念頭に置きましょう。

しつけの準備

 犬のボディコントロールにおいては、以下の3つのことを準備します。

準備1: ごほうびを用意する

 犬をある特定の行動に対して積極的にさせるためには、何らかの快(賞)を与える必要があります。以下は代表的な犬に対するごほうびです。
犬に対するごほうびいろいろ
  • おやつ おやつをごほうびとして使う場合は犬がおいしいと感じるもの+カロリーの低いものを選ぶようにしましょう。与えるときは犬が満腹にならないよう、なるべく少量だけにします。
  • おもちゃ おもちゃを選ぶときは、あらかじめ犬に何種類かのおもちゃを与えておいて一番のお気に入りを確かめておきます。ただし一度与えると回収するのが困難になるため、しつけセッションの最後に与えるようにします。
  • なでる なでるときは軽く「よーし」や「いいこ」や「グッド」などのほめ言葉を決めておき、その言葉と同時に軽く一回なでてあげます。あまり激しく撫で回してしまうのは望ましくありません。第一に犬が興奮しす ぎて集中力がなくなりますし、第二になでられることに慣れてしまって「なでる」という行為が犬にとって賞(快を与えるもの)でなくなってしまう危険性があるからです。
  

準備2: 集中できる環境を作る

 一つのことを覚えるには集中力が大切です。気が散るような魅力的なおもちゃなどが視界にあると集中できずに学習効果が低下しますので、しつけの前には犬の気を引くものを一掃して理想的な環境を作っておきます。

準備3: 犬の弱点部位を知る

 犬の体には弱点部位、すなわち触られたくない場所があります。具体的には下図の赤で示した部分が弱点ですが、他の犬と争いになったとき、噛み付かれて怪我をしやすい耳の先端、鼻先、足の先、尻尾、雄であれば性器などへのタッチを本能的に嫌います。
 基本的には触られても平気な部位から初めて徐々に赤い弱点部位のボディコントロールに移っていきます。理由は、いきなり苦手な場所から始めると、触られること自体が嫌になる危険性があるからです。 犬の皮膚・触覚
犬は争ったときに攻撃を受けやすい先端部分へのタッチを本能的に嫌がります。

しつけの実践

 犬のボディコントロールを実践するに当たっては、以下の10ステップに沿って行います。ここで行っているのは、「人の手で触られる」という刺激と快をリンクする古典的条件付け、および、「抵抗せずじっとしている」という行動と快とをリンクするオペラント条件付けです。全てのステップで触る→じっとしている→ごほうびという手順を流れるように行ってください。

ステップ1: 犬の嫌がらない場所を触る

犬の嫌がらない場所を触る  犬が嫌がらない背中や頭などを軽く1回なでます。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。犬の頭の中では「触られる=いいことがある」という強化がなされます。
 次に2回なでてみましょう。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。同様に3回⇒4回・・・となでる回数を増やしていきます。背中、頭、脇腹(わきばら)など犬が嫌がらない部位に関してまんべんなく触っていきましょう。

ステップ2: 犬の耳を触る

犬の耳を触る  次に犬が嫌がる耳先を軽く1回触ります。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。
 次に2回触ってみましょう。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。同様に3回⇒4回・・・と触る回数を増やしていきます。
 このトレーニングによって「耳を触られるのは何だか嫌だなぁ・・・でもおいしいものくれるからまあいいや!」という考え方が強化されます。耳掃除をするときには必ず犬の耳を触る必要性がありますので、耳の先端に触られることへの抵抗を、予めなくしておくことが重要なのです。

ステップ3: 犬の足をつかむ

犬の足をつかむ  次に犬の前足をつかんでみます。前足をつかむ(かむ)という行為は、犬社会においては上位のものが下位のものに対して行う行為であり、支配=従属関係(しはい・じゅうぞくかんけい)を示します。
 軽く犬の前足をぎゅっとつかんでみましょう。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えます。同様に3回⇒4回・・・と触る回数を増やしていきます。前足が終わったら同様に後ろ足もつかんでみましょう。
 犬の爪切りをする際には、足をつかむということが必要になります。足をつかまれることに対する抵抗を、予め取り除いておきましょう。また飼い主と犬の上下関係が自然と築かれるという意味においても、このトレーニングは重要です。

ステップ4: 犬の鼻先をつかむ

犬の鼻先をつかむ  犬の鼻先(マズル)を飼い主が自由に障ったり動かしたりすることをマズルコントロールといいます。マズルの触り方としては下顎(したあご)の下から鼻先をつかむようにしましょう(上からつかむと呼吸できなくなります)。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。
 次に2回触ってみましょう。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。同様に3回⇒4回・・・と触る回数を増やしていきます。
 つかまれることに慣れたら、今度はマズルをつかんだまま上下左右にゆっくりと鼻先を回します。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。2回⇒3回・・・とまわす回数を増やしていきます。じっとしていたらその度に「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。
 マズルコントロールは犬の歯磨き、薬を飲ませるときなどに必要となります。

ステップ5: 犬の腰を押さえつける

犬の腰を押さえつける  犬の背後に回り、腰の辺りに軽く手をおきます。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。
 次に2回手を置いてみましょう。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。同様に3回⇒4回・・・と触る回数を増やしていきます。
 これはいわゆるマウンティングの疑似行為(ぎじこうい)です。犬社会においては一方の犬が他方の犬の腰に乗ること、すなわち「マウンティング」は上位のものが下位のものに対して行う行為であり、支配=従属関係を示します。手で腰を押さえつけるという行為は「マウンティング」を人間の手で疑似的に再現しているわけです。

ステップ6: 犬の尾を触る

犬の尾を触る  犬の尾を軽く触ります。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。
 次に2回触ってみましょう。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。同様に3回⇒4回・・・と触る回数を増やしていきます。
 尾は犬が非常に嫌がるデリケートな部分ですが、シャンプーをするときなどは必ず触る必要がありますので今のうち慣らしておきましょう。また乳幼児が面白半分で犬の尻尾を引っ張るなどという突発的な出来事もあるでしょうから、飼い主が望まない事故の予防にもなります。

ステップ7: 犬を横に寝かしつける

犬を横に寝かしつける  犬を横に寝かしつけます。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。
 「横に寝そべる」という行為は犬社会においては下位のものが上位のものに見せる服従姿勢、もしくは謝罪の姿勢です。あらかじめこの姿勢に慣らしておくと、動物病院などで診察するときなどもスムーズにいくでしょう。

ステップ8: 犬を仰向けに寝かせる

犬を仰向けに寝かせる  犬を仰向けに寝かしつけます。じっとしていたら「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。その状態で弱点の一つであるおなかを触ります。じっとしていたら同様に「いいこ」などのほめ言葉と同時にごほうびを与えましょう。
 「仰向けに寝そべる」という行為は「横に寝そべる」と同様、犬社会においては下位のものが上位のものに見せる服従姿勢、もしくは謝罪の姿勢です。

ステップ9: 触る強さを変えてみる

 一通りの場所を触り犬が触られることに慣れたら、今度は触る強さを変えてみましょう。「なでる」⇒「軽くポンポンと叩く」という強度でやってみます。決して「ビシッ!!」と音がするような強さで叩いてはいけません。
 公園に散歩に行ったら子供が寄ってきて犬の頭をポンポンと叩くかもしれません。触られることに慣れていればそんなときでも衝動的に噛み付くという危険性を著しく低下させることができますよね。

ステップ10: ごほうびの回数を減らす

 常にごほうびを与えていると犬がごほうび自体に飽きてしまったり、肥満の原因になりかねません。そこでボディコントロールが一通りできるようになったら常にごほうびを与えるというスタイルから、2回に1回⇒3回に1回⇒4回に1回・・・という風に徐々に減らしていきましょう。最終的には「いいこ」というほめ言葉だけにします。
 犬が触られることにすっかりなれたら、病気のチェックをかねて犬のマッサージにも挑戦してみましょう。 犬のマッサージ
しつけをする上での注意  犬の集中力は10分~15分ほどです。集中力がなくなってきたらいさぎよくしつけを中断してその日の夜や翌日に改めて再開しましょう。飼い主がしつけを焦って犬の感情を無視して強引に行ってしまうと、しつけ自体が犬にとっての苦痛になってしまいます。
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犬のボディコントロール~実演動画

 以下でご紹介するのは、犬が体を触られても嫌がらない「ボディコントロール」(ハンドリング)のしつけ方を解説したハウツー動画です。
 人見知りするような犬は、人の手が近づいてきただけで恐怖を感じ、反動として噛み付いてしまうことがあります(ハンドシャイ)。 こうした事故が起こらないよう、あらかじめ人の手や体を触られるということに対して免疫を作っておくことがきわめて重要となります。
 なお 解説中に出てくる「拮抗条件付け」と呼ばれる手法は、簡単に言うと、不快と結びついた刺激を、逆に快に結びつけ直すというものです。
ハンドリング
  • ハンドシャイ  人間の手を病的に怖がることをハンドシャイなどといいます。こうした犬に不用意に手を伸ばすと、恐怖から噛み付かれてしまうこともありますので要注意です(恐怖性攻撃行動)。 人の手を異常に恐れるのがハンドシャイ
  • 手に慣らす  人間に叩かれたことのある犬などは、「人の手」という視覚刺激と「痛み」という体感を結び付けて記憶していることがあります。これは古典的条件付けによる学習例ですが、まずは恐怖の対象である「人の手」を、逆にごほうびの合図に変換してあげる必要があります。
     ごほうびをもった手を犬に見せた後に、その手からごほうびを落としてみましょう。この動作を何度も繰り返すことで、犬は「人の手からおいしいものが落ちてくる」と学習していき、徐々に恐怖心が薄らいでいきます。 人の手に対する拮抗条件付けを施す
  • 触られることに慣らす  手という視覚刺激になれてきたら、次は「触られる」という触覚刺激にも慣らしていきましょう。軽く触った直後にごほうびを与えます。こうした動作を繰り返すことにより、古典的条件付けのメカニズムを通して「触られる=いいこと」という学習が成立していきます。ごほうびの後に触るのではなく、必ず触った後にごほうびを与えるようにします(延滞条件付け)。 触られることとごほうびとをリンクし、古典的条件付けを完成させる
元動画は⇒こちら
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