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犬の皮膚・触覚

 犬の触覚や犬が触られて嫌がる弱点などについて写真やイラストつきで解説していきます。
 なお、犬の被毛や皮膚の健康チェックや手入れの仕方については犬の毛のケアで詳述してあります。

犬の触覚の発達

有髄化した神経線維は、無髄のものよりも電気信号(インパルス)を速く伝えることができます。 犬の触覚(しょっかく)は五感の中で最も早熟です。五感(ごかん)とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚という、生きていく上で重要な5つの感覚のことを指します。生後間もない子犬は目も見えず鼻もそれほどよくありませんが、触覚に対応する脳の部位だけは既に有髄化(ゆうずいか=神経が成熟している状態)していると言われています。これは母犬や兄弟犬にくっついて外敵から身を守るためと、はぐれて飢え死にしないようにするためだと考えられます。
子犬の鼻の先には、母犬の体や乳房を探知する赤外線センサーが備わっている  また、スウェーデン研究協議会のイングフ・ゾッターマン氏は、子犬の鼻にだけ存在している熱センサーを発見しました。子犬の鼻の真ん中の割れ目と鼻腔につながる開口部に存在しているこのセンサーは、温かいものから発せられる赤外線エネルギーを感知することができるそうです。母犬から引き離された子犬がクーンと哀れっぽい声を出しながら、張り子のように首を左右に振りますが(ルーティング反射)、これはこうすることで母犬のぬくもりを探しているものと考えられます。成犬にこのようなセンサーが見られないことから、生後間もない子犬の頃だけに存在する特殊なセンサーなのでしょう。
 なお、犬に施される整形手術の中には、しっぽを切り落としてしまう断尾(だんび)や耳を切り取る断耳(だんじ)というものがあります。この断尾や断耳を行う人は「子犬の神経が発達していない内に行うので、子犬は苦痛を感じない」という話を信じているようですが、生理解剖学的な見地から言うと、実はその話を頭ごなしに信用することはできません。 犬の整形手術
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犬の触覚いろいろ

 一言で「触覚」といっても、そこには様々な感覚要素が含まれています。以下では犬の触覚を構成している触圧覚、温冷覚、痛覚について解説します。

皮膚の基本構造

 犬の皮膚は上から「表皮」、「真皮」、「皮下組織」に分かれています。以下は皮膚の断面図、および各層の特徴です。
犬の皮膚層~表皮・真皮・皮下組織
  • 表皮 表皮とは皮膚の一番外に位置している細胞の層です。ケラチンと呼ばれるタンパク質の隙間を脂質が埋めるようにしてつなぎ合わせて防水性を保っており、細胞成分としては「角質化細胞」、「ランゲルハンス細胞」、「メラニン細胞」、「メルケル細胞」などがあります。主な役割は「外傷や細菌からの防御」、「色素の産生と紫外線の遮断」などです。
  • 真皮 真皮とは表皮を下から支える屋台骨のような存在です。コラーゲンと呼ばれるタンパク質の間を、弾性繊維(エラスチンやミクロフィブリルタンパク)と呼ばれるタンパク質が縫うように走って全体を形作っています。神経、血管、リンパ管といった組織が存在しているのもこの層で、感覚受容器の大部分はこの層に組み込まれています。
  • 皮下組織 皮下組織とは真皮の下にある層で、主に皮下脂肪から成り立っています。この層に脂肪が付き過ぎた状態が、いわゆる「肥満」です。

犬の触圧覚

 犬の触圧覚(しょくあっかく)は2つの要素から成り立っており、1つは「接触受容体」(せっしょくじゅようたい)、もう1つは「圧迫受容体」(あっぱくじゅようたい)です。

接触と圧迫

 接触受容体は皮膚の表面付近にあり、何かに軽く触れたり皮膚が捻れたり伸びたりしたときに反応し、脳へ電気信号を送ります。被毛の先端へ何らかの動きが加えられると、毛のシャフトがちょうど「てこ」になり、動きが増幅されて、毛穴付近にある接触受容器を刺激するという仕組みです。
 一方、圧迫受容体は皮膚の深い部分にあり、体にどのような圧力がどのくらいの力で加わっているのかを感知します。

触圧覚の部位別感度

 犬の触圧覚は体の部位によって感度が異なります。
 たとえば足の肉球には振動に対して敏感に反応する特殊な神経があり、さらに肉球と肉球の溝の中にも鋭敏な神経終末が存在しています。これらの神経は、自分が走っている地面の安定度や、自分の走っている速度を瞬時にモニターするために発達したものだと考えられます。
 また鼻やマズルの周辺には感覚神経が数多く集まっており、非常に鋭い感覚を持っています。犬の脳内を調査したところ、触覚情報に関連する脳の領域の、実に40%近くが顔からの情報を担当しているとか。しかも、ひげを含む上顎部分からの情報量が圧倒的に多く、ひげの1本1本に関し、それに対応した脳内の特別区画を発見することができたそうです。
 なお2016年に行われた調査(→詳細)では、物体表面の質感や皮膚の歪みを感受する際に機能している「メルケル細胞」に関し、以下のような密度の違いが確認されました。数字は全て「皮膚基底部1cm²当たりの平均細胞数」を意味しています。つまり数字が大きいほど敏感という意味です。 犬の口内におけるメルケル細胞の分布 犬の体表面におけるメルケル細胞の分布

犬のひげの役割

 ひげは犬をはじめネズミ、クマ、アザラシなど多様な動物に見られますが、とりわけ猫においての研究が進んでいます。猫のひげは別名触毛(しょくもう, vibrissa)とも呼ばれており、通常の体毛よりも2倍太く、また通常の3倍も深く体内に埋め込まれています。ひげの根元には感覚受容器が豊富に存在しており、その感度は、人間の毛幅のわずか1/2000程度の動きを検知できるほどです。特にひげの根元にある環状洞(かんじょうどう)と呼ばれる部分は血液で満たされており、ひげの振動を増幅して近くに分布している知覚神経へと信号を伝える働きを持ちます。 猫のひげの根元にある環状洞(かんじょうどう)の微細構造と役割  いくつかの調査において犬のひげの形態と機能は、ひげをもつ全ての動物と共通することが確認されているため、猫同様、犬にとってもひげが重要な役割を担っていることは間違いなさそうです。猫のひげがもつ機能から考えると、犬のひげには以下のような役割があると考えられます。
犬のひげが持つ役割
  • 空気の流れを読み、獲物の匂いを察知する
  • 目の上の「上毛」(じょうもう)に何かが当たると反射的に目を閉じる
  • 獲物に触れ、生死を振動で判断する
  • 障害物を感知し、通れるかどうかを判断する
  • 気分を表す
 犬が何かに近づくときは、まずひげを動かす小さな筋肉がひげをわずかに前方へ動かすといわれます。犬は近くのものがよく見えないため、ひげを用いて何か危険なものが無いかどうかを「手探り」しているのかもしれません。「目の見えない犬のひげをカットしたら、家の中をぶつからずに歩けなくなった」という事例があることからも、犬のひげはちょうど、人間が用いる白杖(びゃくじょう)のような大事な役割をもっていることをうかがわせます。 犬も平気でうそをつく?(文春文庫)

犬の温覚・冷覚

 温覚(おんかく)とは熱さ(暑さ)や温かさ(暖かさ)を感じる感覚のことで、冷覚(れいかく)とは冷たさや寒さを感じる感覚のことです。

犬の冷覚

体温の放出を呼吸器系の気化熱に頼っている犬は、一般的に暑さに弱いといわれます。  犬の体は、基本的に寒さに強くできています。寒い地域で生まれ育ったシベリアンハスキーアラスカンマラミュートなどの長毛種は、一説では-20℃の中でも丸まって眠ることができると言われています。ただし全ての犬が寒さに強いわけではなく、短毛種や子犬、老犬などは逆に寒さに弱いといっても過言ではありません。

犬の温覚

 犬の皮膚は冷たさを感じることはできるものの、少し熱いものを押し付けてもほとんど反応しないそうです。皮膚がやけどを起こし、痛みが発生したときにはさすがに反応しますが、熱さに対しての反応はほとんどないといいます。ですから、犬は私たちが思っているより「熱い/暑い」という感覚に関しては鈍感なのかもしれません。とはいえ、体感温度と熱に対する抵抗力を同一視するのは厳禁で、犬は暑さが苦手という事実に変わりはありません。
犬が暑さに鈍感ということは、犬が暑さに強いということではない  まず第一に換毛期(かんもうき=夏と冬で体毛の厚さを変えること)があるとはいえ、常時体毛で覆われているため熱が体にこもりやすいという特性があります。第二に「汗腺」(かんせん)と呼ばれる汗をかく器官が犬の体にはほとんどないため、汗が蒸発するときの気化熱(きかねつ)によって体温を外に逃がすことができないという特性もあります。こうした人間には無い幾つかの特性により、犬は体温を外界に逃がすことが苦手なのです。ですから夏場は熱中症にならないよう、特別な配慮が必要となります。 犬に関する夏の注意 犬が熱中症にかかった 犬の毛

犬の痛覚

 犬の痛覚(つうかく)とは、痛みを感じる感覚のことです。
 痛みに反応する神経系は犬も人間も非常によく似たものを持っています。皮膚には痛みを感じる神経終末があり、その神経終末で発生した電気信号が、神経線維を通じて脳内に達し、「痛み」として認識されるまでの基本メカニズムも同じです。犬の痛みの症状が、人間用と同じ成分からなる鎮痛剤によって緩和されるという事実も、「犬も人間と同じように痛みを感じる」ことの正当性を証明しています。
 しかし犬は痛みを大げさに表現しないため、いつしか「犬は痛みに鈍感である」という風説ができあがってしまいました。犬がこうした習性を形成した要因としては、主に以下のようなものが考えられます。
犬が痛みを表現しない理由
  • 捕食者に狙われる 犬の祖先はオオカミで、基本的には他の動物を捕食して生きています。しかし、自分自身が他の捕食動物(クマなど)の餌食にならない保証はどこにもありません。キャンキャン鳴いて弱っている姿を見せてしまうと、捕食者に気づかれてしまう危険性が高まるため、痛みを感じていてもそれを大げさに表現しないよう進化したものと考えられます。
  • 群れの仲間に襲われる 犬の祖先であるオオカミは、閉塞された空間の中では序列を持つ傾向があり、序列が高ければ高いほど摂食や交尾の優先順位が上がります。群れの中でキャンキャン鳴いて弱っている姿を見せてしまうと、虎視眈々と順位アップを狙っている他のオスから攻撃対象になる危険性が高まるため、この本能的な恐怖感が、痛みを押さえ込むという習性につながった可能性もあります。
 オーストラリアのクイーンズランド大学で、50頭の子犬を対象にして行われた研究では、子犬たちはしっぽを切断される瞬間、100%の確率で鋭い悲鳴を上げたといいます。こうした事実からも、「犬は痛みを感じない・鈍感」という説にはかなりの無理があることは明白です。 犬の断尾
動物機械論
 17世紀のフランスの哲学者、ルネ・デカルトは「動物機械論」(どうぶつきかいろん)なるものを唱えました。これは、「動物は人間とは全く異なる、命を持った機械のようなものだ」というもので、極端な例を挙げると、犬が悲鳴を上げるのは、痛いからではなく、ぜんまい仕掛けのおもちゃを落としたときにガチャンと音が鳴るのと同じことである、という考えです。こうした考えの影響があってかなくてか、現代の獣医師の中にも「犬は痛みを感じないか、あっても鈍感である」と主張する人がおり、断尾・断耳手術を正当化する際の免罪符としてしばしば使われます。
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犬とのスキンシップ

 私たち人間がマッサージを受けたとき、施術者の「うまい・へた」という違いを感じることができます。どうやらこれと同様、犬たちも私たちになでられたとき、厳正に「うまい・へた」を評価している可能性があります。

犬の好きな肌触り

 犬は布やぬいぐるみなど、柔らかい肌触りのものが好きなようです。
犬に最大の安心感を与えるのは、布やぬいぐるみなど肌触りが柔らかいもの  ウィスコンシン大学のハリー・ハーロー氏は、アカゲザルを用いた実験を行いました。母猿から引き離された子猿たちは、ひたすら体をゆすり続けたり、壁に頭を打ち付けたり、体の一部を血が出るまでかんだりするなど、情緒不安定な行動を見せるようになったそうです。ところが、詰め物をしてパイル地の布でくるんだ哺乳瓶を与えたところ、この布を母親とみなすようになり、すがりつき、何かにおびえたときは守ってもらおうと布に駆け寄ったといいます。その後犬を用いて同様の実験が行われましたが、ほぼ同じ結果になったそうです。
 すなわち、犬に安心感を与えたのは、食べ物や固いおもちゃではなく、ぬいぐるみや布など、柔らかくて母犬を連想させるようなものだったのです。

犬の好きな触り方

 1988年にJulia K. VormbrockとJohn M. Grossbergが行った実験では、犬をなでているときに被験者の血圧が低下することが報告されました。それと同様、人間になでられている犬の側にも、ストレスを緩和するような癒し効果が生まれているようです。
 ライト大学とオハイオ州立大学の心理学者チームは、犬を用いて接触効果に関する実験を行いました。採血という不快な経験をしている間、なでられたりさすられたりした犬は、されなかった犬よりもストレスホルモンの分泌量が少なかったといいます。なで方としては、以下のような方法が有効だったとか。
犬の好きななで方
  • なでている間、寄りかからせるなど犬と体を接触させる
  • 軽く触るだけではなく、皮膚の下にある筋肉をもみほぐすようになでる
  • 特に犬の肩、背中、首筋を念入りにさする
  • ゆったりしたストロークで念入りに頭をなでる
  • 犬をなでる間、優しく犬の気持ちを落ち着かせるように声を掛ける
 こうした基本を理解した上で犬とスキンシップを図れば、自分も犬も癒されるという理想的な互助関係が生まれやすくなります。 犬のマッサージ 犬のアニマルセラピー
テリントンタッチ
 犬に効果的なマッサージ方法として有名なのは、リンダ・テリントン・ジョーンズ女史が考案した「テリントン・タッチ」(Tellington touch, Ttouch)です。当初は馬に対して行われていましたが、その後猫や犬など他の動物にも効果があることが判明し、現在は世界中で広く行われています。
 円を描くようにゆっくりと体をなでたり(circular T touch)、皮膚をつまみあげたり(lift)、優しくなでる(stroke)ことにより、犬の体調を整えると同時に、飼い主との絆が深まるそうです。 Ttouch(YouTube)
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犬の苦手部位

 犬が「触られるのをちょっと嫌だなぁ・・」と感じる苦手部位について解説します。犬とスキンシップを図ったり、ボディコントロール(犬の体を飼い主が好き勝手に触れる状態)のしつけを行う際の参考にして下さい。 犬のマッサージ
犬が触られるのを苦手とする所
犬が本能的に触られることを嫌がるのは、戦闘時に攻撃を受けやすい四肢や尻尾など、体の末端部位です。  上図の赤で示したように、犬には触られるのが苦手な部分があります。ほとんどは他の犬とケンカしたときに攻撃対象となる体の先端部分や骨格で覆われていない構造的に弱い部分です。具体的には鼻先、のど元、足の先端、性器、腹、尾などです。こうした苦手部分を子犬の頃から人間に触られることに慣らしておかないと、動物病院などに行った時、暴れて診察になりませんので飼い主のしつけ能力が問われます。 ボディコントロールのしつけ 犬の毛のケア
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