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犬の四肢骨(前足と後ろ足)に発症した骨肉腫の疫学~16年分の医療データから見る危険犬種、発症リスク、好発部位

 骨に発生した腫瘍のうち8割以上を占めると言われる骨肉腫。16年間に渡る医療記録を調べたところ、骨肉腫の発症リスクが高い犬種や発症しやすい部位が明らかになりました。

犬の四肢骨肉腫疫学

 調査を行ったのはアメリカにある複数の大学からなる共同チーム。米国内にある15の教育動物病院に蓄積された電子医療記録(2000年から2015年までの16年間)を元に、骨の原発性悪性腫瘍のうち85%を占めるとされる骨肉腫に関する疫学を検証しました。チームが焦点を絞ったのは、体軸(脊柱や骨盤)ではなく四肢骨に発生した症例で、具体的には前肢骨(肩甲骨・上腕骨・橈骨・尺骨・中手骨・指骨)と後肢骨(大腿骨・脛骨・足根骨・中足骨・膝蓋骨・趾骨)が含まれます。 犬の四肢に発症した骨肉腫  調査の結果、全部で11,848の骨肉腫症例が見つかり、そのうち四肢骨に原発箇所を持つ症例が8,338見つかったといいます。最終的にはこのうちの744症例が疫学調査に回されました。

骨肉腫と性別

 オス363症例(48.8%)に対しメス381症例(51.2%)で、比率は0.95:1となりました。過去の報告ではメスと比較してオスの方が2~5割ほど発症リスクが高いとされています。内因性の性ホルモンが肉腫の発症に関与しているとの仮説が以前からあるものの、当調査においてオスのリスクが高いという傾向は確認できませんでした。なお不妊手術の割合は80.9%(602/744)でしたが、発症していない集団の割合と比較したわけではないため、因果関係の検証まではできないとしています。

骨肉腫と年齢

犬の四肢骨に発症した骨肉腫と年齢との関係グラフ
  • 6~12ヶ月齢=0.1%
  • 1~2歳未満=3.1%
  • 2~4歳未満=5.2%
  • 4~7歳未満=23.0%
  • 7~10歳未満=36.0%
  • 10~15歳未満=31.5%
  • 15歳未満以上=0.4%
 過去の報告では、診断時の年齢中央値が6歳から9歳に集中しているとされています。当調査においても7~10歳で診断が下るケースが多数確認されました。

骨肉腫と体の大きさ

犬の四肢骨に発症した骨肉腫と体の大きさとの関係グラフ
  • 超大型=28.3%
  • 大型=49.5%
  • 小~中型=2.6%
  • 不明=19.6%
 過去の報告同様、大型~超大型犬が全体の77.8%という大多数を占めていました。なお体型分類はアメリカンケネルクラブ(AKC)やヒルズによる定義に準拠しています。

骨肉腫と好発犬種

 当調査では56犬種に属する合計598頭が純血種とされました。これは全体の80.4%に相当する数字です。高い割合で見られた犬種を単純に並べると以下のようになりますが、米国内における飼育頭数を分母にしないと発症リスクが高いのか低いのかまではわかりません。
 アイリッシュウルフハウンド、グレーハウンド、ロットワイラーにおいては33の遺伝子座が50~80%骨肉腫の発症に関与しているとの報告があります。またスコテッシュディアハウンドにおいては常染色体による遺伝が示唆されています。こうした事実から、少なくともこれらの犬種においては遺伝的な要因が強いものと推測されています。

骨肉腫の好発部位

 前肢骨が64.2%(478/744)、後肢骨が35.8%(266/744)という割合でした。また 個別の骨で見ると以下のような割合になりました。
  • 上腕骨=20.9%
  • 大腿骨=18.5%
  • 橈骨=14.1%
  • 脛骨=13.5%
  • 尺骨=9.1%
  • 肩甲骨=8.5%
  • 前腕骨=7.6%
  • 手根骨=3.5%
  • 足根骨=2.5%
  • 中手骨=1.1%
  • 中足骨=0.7%
 過去の報告では後肢より前肢に多く、また橈骨遠位端(手首付近)や上腕骨近位端(肩の付け根付近)など長骨骨幹端における発症例が多いとされています。当調査においてもほとんどが長骨に発症していましたが、データの関係上、遠位端か近位端かまでは精査されませんでした。

系統分岐グループと骨肉腫

 今回の調査では系統分岐グループと骨肉腫との関連性が検討されました。ここで言うグループとは、130頭の犬を対象として行われたマイクロサテライト分析により5つに分類されたグループのことです出典資料:H.G. Parker, 2012
マイクロサテライト解析
マイクロサテライトとは、複数の塩基を1単位とした配列が複数回繰り返されているゲノム上の領域のこと。この領域を目印として親子関係や集団内遺伝を識別するのがマイクロサテライト解析。
 調査対象となった774頭のうち、73.4%に当たる546頭がグループに分類されました。具体的な内訳は以下です。 マイクロサテライト解析で分類した犬の系統分岐グループ5種

系統分岐群と発症年齢

 系統分岐グループをベースとして発症年齢との関連性を調べたところ、以下のグラフのようになりました。「A-A」では10~15歳時の診断が多いのに対し、「H-S」では7~10歳時の診断が多いなど、分岐グループによって大きく異なることがわかります。 犬の系統分岐群をベースにしてみた四肢骨肉腫の発症年齢傾向  逆に診断時の年齢をベースとして系統分岐グループとの関連性を示したグラフが以下です。「M-T」においては6~12ヶ月齢というかなり早い段階と、15歳以上というかなり遅い段階の二峰性で発症する傾向が見て取れます。 犬が四肢骨肉腫を発症した年齢をベースにしてみた系統分岐群の傾向

系統分岐群と発症部位

 系統分岐グループをベースとして発症部位との関連性を調べたところ、以下のグラフのようになりました。「A-A」では前足の尺骨で多く発症するケースが多いのに対し、「Md」では後ろ足の大腿骨に多く発症するなどの傾向が確認できます。 犬の系統分岐群をベースにしてみた四肢骨肉腫の発症好発部位  逆に発症部位をベースとして系統分岐グループとの関連性を示したグラフが以下です。「M-T」においてのみ、他のグループで見られない肩甲骨の発症例が多く見て取れます。 犬が四肢骨肉腫を発症した部位をベースにしてみた系統分岐群の傾向  犬の骨肉腫は発症メカニズムがよくわかっていません。遺伝性が強く疑われる犬種がいる一方、単純に体の大きさが影響しているような犬種もいます。例えばグレーハウンドウィペットは同じ系統分岐グループに属しますが、発症リスクに関しては前者のほうが圧倒的に大きいなどです。
 犬においては上腕骨の発症例で予後が悪いとされています。この部位の発症が多い「M-T」や「Mn」グループを対象として病因を精査すれば、効果的な治療法への糸口が見つかるのではないかと期待されています。なお当論文はオープンアクセスです。興味のある方は原文が記載されている以下のリンクなどもご参照ください。
Demographic characteristics, site and phylogenetic distribution of dogs with appendicular osteosarcoma: 744 dogs (2000-2015)
Tuohy JL, Shaevitz MH, Garrett LD, Ruple A, Selmic LE (2019) PLoS ONE 14(12): e0223243. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0223243