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犬の目・視覚

 犬の様々な目の形や機能、解剖学的な構造などを、写真やイラストつきで解説していきます。楽しみながら犬の目に付いて勉強していきましょう。
 なお、犬の目の健康チェックや手入れの仕方については犬の目のケアで、さらに犬の目から気持ちを知る方法については犬の顔から心を読む訓練で詳述してあります。

犬の眼球

 犬の目の形や解剖学的な構造、瞳孔(どうこう)、虹彩(こうさい)、視神経、タペタム層などについて、写真を交えて解説していきます。

犬の目の形

 選択繁殖の結果、犬の目の形は千差万別(せんさばんべつ)になりました。大きく分けるとアーモンド型、三角形、丸型になります。
犬の目の形いろいろ
犬の目はアーモンド形や三角形、丸形など、犬種によって様々な特徴があります。

犬の目の構造・解剖図

 犬の眼球の構造は人間のそれと近似しており、外側から「繊維膜」(せんいまく)・「脈絡膜」(みゃくらくまく)・「網膜」(もうまく)という三層構造になっています。下の図は犬の眼球を横から見た状態を切断した断面図です。
犬の眼球を横断すると、外側から「繊維膜」(せんいまく)・「脈絡膜」(みゃくらくまく)・「網膜」(もうまく)という三層構造になっている。

繊維膜

 繊維膜(せんいまく, fibrous tunic)とは眼球の最外層を覆う膜のことで、透明度の高い「コラーゲン」と呼ばれる繊維性のたんぱく質、および伸縮性に富んだエラスチン繊維によって構成されています。 繊維膜の後方3/4を占めているのがエラスチン繊維から成る強膜(きょうまく, sclera)で、前方1/4を締めるのが主としてコラーゲン繊維から成る角膜(かくまく, cornea)です。 強膜は弾力性があり、ちょうどゼラチンを含んだゴム風船のような感じです。一方角膜は極めて薄い層からなり、外界の光を眼球内に取り入れることが出来るよう、細胞が特殊な配列をすることによって全体が透明になっています。 犬の角膜炎 犬の角膜裂傷

脈絡膜

 脈絡膜(みゃくらくまく, vascular tunic)は繊維膜の内側で層を成しており、内部には眼球に酸素や栄養素を届ける血管が張り巡らされています。脈絡膜の前方を構成しているのは毛様体(もうようたい, ciliary body)で、ここから伸びる「毛様体小帯」と呼ばれる細い繊維が、眼のレンズである水晶体を定位置に固定しています。また毛様体から出る毛様体筋(もうようたいきん)は、観察する対象の距離に合わせてレンズの厚みを調整するという働きをもっています。
 脈絡膜の最前部に位置しているのが虹彩(こうさい, iris)であり、これは瞳孔(どうこう, pupil)の大きさを調整して眼球内に入る光の量を調節します。なお、虹彩より前部を「前眼房」(ぜんがんぼう, anterior chamber)、後部を「後眼房」(こうがんぼう, posterior chamber)と呼びます。 犬の緑内障 犬の白内障

網膜

 網膜(もうまく, retina)は光受容体が存在する眼球の最も内側にある層です。 網膜で感知された光は電気信号に転換され、視神経へと伝達されます。 網膜の後部には視神経円板(ししんけいえんばん, optic disd)と呼ばれる空隙があり、ここを通じて視神経や血管が眼球内に出入りしています。ちなみにこの視神経円板は時に盲点(もうてん, blind point)と呼ばれることがありますが、それは網膜のこの部分にだけ光受容体が存在せず、視界の一部に全く見えない部分ができてしまうからです(視界の欠けた部分は脳内で自動的に補う)。
 網膜には白黒を判別する杆状体(かんじょうたい, rods)と色を判別する錐状体(すいじょうたい, cones)という光受容体があります。人間を始めとする霊長類には3種類の錐状体があり、虹の七色に代表される様々な色を識別できます。しかし霊長類以外の哺乳類には通常2種類の錐状体しかありません。理由は、霊長類が昼光性で色彩豊かな果実などを主食としてきたのに対し、犬は夜行性(薄明薄暮性)で小動物を獲物としてきたためです。つまり暗闇の中で重要なのは「色が付いているかどうか」ではなく、「動いているかどうか」なので、錐状体はそれほどたくさん必要ないというわけです。
 網膜の後方の一部には黄斑(おうはん, macula lutea)と呼ばれる部分があり、ここには色彩を認識する細胞が密集しているため、他の部分より色がやや黄色く見えます。黄斑のほぼ中央に位置しているのが視覚線条(しかくせんじょう)であり、人間では中心窩(ちゅうしんか)と呼ばれる部分に相当します。ここは鮮明な視野を必要とする全ての活動にかかわっており、鼻の長い犬種ほどより長い視覚線条を持っています。一方、光の当たらない網膜の前方には、当然光受容器が存在しません。光受容体のある部分とない部分とを分け隔てているのは「鋸状縁」(きょじょうえん, ora serrata)と呼ばれるギザギザの細胞層ですが、人間以外の家畜動物では、ギザギザはそれほど顕著ではありません。 犬の網膜剥離

犬の目の色

 犬の目の色は瞳孔(どうこう, pupil)の大きさを調整する虹彩(こうさい, iris)の色に依存しており、虹彩に含まれる色素の量によって黒~青まで様々な色が存在します。
 犬の目は発達した虹彩のおかげで白目部分はほとんど見えず、いわゆる「黒目勝ち」の状態になっています。これが人間に「可愛い!」と思わせる大きな要因の一つだと言っても過言ではないでしょう。また、右と左の目で色が違う場合は「バイアイ」といい、シベリアンハスキーなどでよく見られます。ちなみに目が白く変色している場合は白内障の可能性がありますので、動物病院で診察してもらってください。 犬の白内障 犬の目は黒から淡い茶色まで、犬種によって様々な色合いを見せます。

犬の瞳孔(どうこう)

 瞳孔とは、眼球に光が差し込むときの入口であり、カメラで言うとちょうどに「絞り」に相当する部分です。犬は元来、家の中にいてドッグフードを食べる生き物ではなく、薄暗い中で狩猟を行う動物です。ですから、暗い環境でもなるべく多くの光を眼球内に取り入れることができるよう虹彩(こうさい)がよく発達し、光の入り口である瞳孔を大きく広げることができます。
 犬の瞳孔は猫やヤギと違い丸型です。この人間と同じ瞳孔の形状が、人に親近感や可愛さを感じさせる一因だと考える人もいます。
動物の瞳孔の形いろいろ
  • 丸い瞳孔人間・犬など
  • 縦長の瞳孔猫・ワニ・ヘビなど
  • 横長の瞳孔ヤギ・ヒツジなど
薄暗い環境で獲物を捕らえて進化してきた犬は、瞳孔を大きく広げ、わずかな光でも眼球内に入れることができます。

犬の視神経(ししんけい)

眼球の裏から脳内に向かって伸びている線維の束が第二脳神経=視神経。  視神経(ししんけい)とは、12対ある脳神経(のうしんけい=中枢神経の一部)の内、物を見る時に使う神経です。人間の視神経が約120万本であるのに対し、犬の視神経は約17万本しかありません。「嗅覚の動物」と呼ばれる犬は、解剖学的に見ても確かに視覚を重要視していないことが分かります。

犬の瞬膜(しゅんまく)

リラックスしたときなどに現れる瞬膜に炎症が起こると、チェリーアイという病気になる。  犬は瞬膜(しゅんまく)と呼ばれる特殊な膜を持っており、通常は眼球の下に隠れています。 正確には 「第三眼瞼(だいさんがんけん, third eyelid, nictitating membrane)」と呼びますが、人間にはなく、犬や猫に特有のまぶたと考えてください。眼球を異物から保護すると同時に涙を眼球表面に塗りつけるという役割があります。
 瞬膜が炎症などで腫(は)れてしまうと、瞬膜露出症(しゅんまくろしゅつしょう, チェリーアイ)といって、常に瞬膜が外に露出した状態になります。その場合は獣医さんにご相談下さい。 犬のチェリーアイ

犬の涙

 涙腺(るいせん, Lacrimal gland)とは涙を産出する器官であり、犬の眼球を常に湿った状態に保つ役割があります。眼の中にほこりやごみなどが入った場合、涙腺から涙が分泌され、ちょうどトイレの水を流すように異物を眼球外部へ押し流します。
 水分を多く分泌する涙腺の他、結膜には粘液腺が存在しており、そこから分泌された粘液が涙と混じりあって異物を付着しやすくします。また、涙がすぐに乾くことを防いだり、バクテリアの繁殖を防ぐという役割も担っています。分泌された涙は鼻涙管(びるいかん, nasolacrimal duct)という目頭部分にある管を通って排出されるというメカニズムです。
 ちなみに何らかの理由で涙の分泌が過剰になり、眼球周辺の体毛が茶色く変色した状態を涙やけといい、眼球の大きいパグシーズーなどでよく見られます。原因は鼻涙管の目詰まりや、無駄毛の手入れが不十分で眼球に常に毛が入っていることなどで、流涙症(りゅうるいしょう)とも呼ばれます。逆に涙の量が病的に少なく、眼球の表面が乾いてしまうのがドライアイです。 犬の目のケア 涙の排出口である鼻涙管が目詰まりを起こすと、涙が行き場を失って溢れ出し、涙やけという状態を作ります。

犬のタペタム層

 タペタム層(tapetum)とは、網膜の裏にある人間にはない細胞層です。わずかな光を反射して視神経に伝えるという役割を持っています。犬のほか、キツネ、猫、シカなどにも備わっており、この層があるおかげで暗闇の中でも対象の輪郭を見分けることができます。
 暗い場所で犬の写真をとったとき目が光って写ることがありますが、これはタペタム層にフラッシュが反射したものです。同じ状況でもタペタム層を持たない人間の場合は、網膜上の血管が光で照らされて、いわゆる「赤目」になります。 人間にはないタペタム層のおかげで、犬や猫は暗闇の中でも獲物の位置を把握することができるわけです。
タペタム層を持たない犬 ブルー系統の犬の目~タペタム層を持たないため、光で照らしても反射しない  シベリアンハスキーなど、瞳の色がブルー系の犬の中には、タペタム層をもたないものがいます。この特性には彼らが暮らしてきた環境が大きく影響しているようです。つまり、こうした犬たちが長い年月暮らしてきた北方の山岳地帯は一年中雪に覆われており、雪面が月の光や星の光を反射してくれるため、タペタム層が無くても十分な光量を眼球内に取り入れることができるというわけです。また、虹彩が薄い青色であるため、褐色や黒の目よりも光を通しやすく、タペタム層がなくても充分な光を取り入れることができるという理由もあるでしょう。
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犬の色を識別する能力

 目の構造は似ていても網膜の構造が若干違うため、人間の目から見た世界と、犬の目から見た世界には違いがあります。庭で色つきボールを見失って右往左往している犬を見て「目の前にあるじゃないか」と馬鹿にしてしまうのは、ちょっと可哀相です。

犬に見える色

 人間の網膜には錐状体(すいじょうたい)という色を感じる細胞があるため、様々な色を識別できます。錐状体には青(短い光の波長)、緑(中くらいの波長)、オレンジ(長い波長)に反応する3種類があり、これらが協働することで、まるで絵の具を混ぜるように、脳の中で虹の7色を再現できるのです。
 一方、犬の網膜に錐状体がほとんどなく、また数少ない錐状体は青と黄色にしか反応しないため、色の識別能力はほぼ2色、およびその中間色に限られていると考えられます。結果として、人間のように赤や緑を上手に識別することができません。
 カリフォルニア大学が行った犬の色覚に関する実験によると、犬は緑、黄、オレンジを「黄色っぽい色」として、紫、青を「青っぽい色」として、そしてた赤に関しては「非常に暗いグレー」に見えているとか。
人と犬の色覚スペクトラム
人間と犬の見える色に影響を及ぼしているのは、網膜上に存在している錐状体、および杆状体の占有比率です。

犬と人間の色世界

 犬と人間とでは色の識別能力に大きな差があります。結果として犬は、私たち人間が見ているのとは全く違った色世界に生きていると考えられます。下に示すのは、「おそらく犬からはこう見えているだろう」という模擬世界です。
犬と人間の色世界比較
犬と人間の識別できる色には差があるため、犬は人間と全く違った色世界に生きていると考えられます。
  • 花畑 人間の目には赤と緑が鮮やかに写り、キレイなチューリップが見て取れます。
     しかし同じ景色を犬の目から見た場合、黄色で塗りつぶされたような味気ない景色になると考えられます。これは犬が赤と緑の識別を不得意としているためです。
  • ドッグフード 人間の目から見た場合、ドッグフードはおいしそうな「肉色」をしており、いかにも食欲を促す感じがします。
     しかし犬の目からドッグフードを見た場合、こうした肉色はあまりアピールしないようです。犬が食事するときの優先順位は嗅覚>味覚>視覚といわれますが、そもそもよく見えていないわけですから当然ですね。ちなみにドッグフードを赤くしているのは食用の着色料ですが、犬のためではなく、主として飼い主に「おいしそう!」と思わせるためです。
  • 暗闇の中 人間は光の少ない暗がりの中では、対象物をよく認識することができません。
     一方犬の目から同じ世界を見てみると、ほんのわずかな光だけでも対象物を見分けることができると考えられます。これは先述したように、網膜の裏にあるタペタム層と呼ばれる光の増幅装置があるためです。犬は本来夜行性(正確には薄明薄暮性)であり、薄暗い中で獲物をとらえて進化してきた動物ですから、人間よりも夜目が利くというのも当然のことですね。人間が必要とする光量の約1/4程度でも対象を判別できるといいます。
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犬の焦点を合わせる能力

 太古の昔、犬の祖先は動き回る獲物を走って追いかけて生きていました。結果として動くものに対する視力は発達しましたが、じっとして動かないものに対する視力は人間ほど発達していません。14頭の警察犬を用いた実験では、対象が動いている場合は800~900メートル先にいる飼い主を見分けることができたのに対し、対象が止まっている場合は585メートルまで近づかないと見分けることができなかったそうです。
動きの識別能力であるフリッカー融合頻度に関し、犬は人間を凌駕している。だから連続した映像として見えるテレビも、犬の目にはパラパラマンガのように見えている可能性がある。  動きの識別能力を表す「フリッカー融合頻度」に関し、人が60/秒であるのに対し、犬では70~80/秒程度と言われています。フリッカー融合頻度とは、目が1秒間に取り込むことのできるスナップショットの数のことです。たとえば60/秒である人間の目に対し、毎秒50回の遅い頻度で点滅させると、光と光の間に一瞬暗闇が混じり、普通の点滅として認識されます。しかし毎秒70回以上の速い頻度で光を点滅させると、光と光の間に挟まっている暗闇を認識することができず、ずっと光っているように見えます。
 一方、犬のフリッカー融合頻度は70~80/秒ですので、私たちが連続した映像として捕らえている映画でも、犬の目から見ると映像と映像の間にあるフィルムの余白までが見えてしまい、ちょうどパラパラマンガのように断続的に見えると考えられます(「犬から見た世界」・白揚社より)。

人間と犬の視野の違い

 人間と比較して犬の水晶体(すいしょうたい=光を屈折させるレンズ部分)は大きく、薄暗い中でもなるべく多くの光を眼球内に取り入れることが出来るように進化しています。しかしそのかわり、レンズの厚みを調整してピントを合わせるという芸当は苦手なようです。一般的に70cmよりも近くにあるものに対してピントを合わせることができないといわれています。
 健康診断などで視力検査を受けると、最高を2.0とした数値で成績が出されますが、犬に縞模様を取ってくるように訓練し、縞模様の幅を徐々に細かくしていくと、ある所を境にして縞模様と単なるグレー一色の見分けがつかなくなるそうです。この限界点を人間の視力に換算すると0.26程度だとか。たとえば視力1.0の人が「A」という文字を10メートル離れたところから判別できるとき、犬は2.6メートル地点まで近づいてようやく見えるといった感じです。 光を多く取り込むため、大きく進化した犬の水晶体。しかしそれはピンと調整能力を犠牲にして獲得した特性だったのです。
犬の近視と遠視  目に入ってきた光が網膜より手前で焦点を結び、遠くがぼやけて見える状態を近視(きんし)、その逆の状態を遠視(えんし)と呼びます。アメリカ・ウィスコンシン大学の獣医学部が、240頭の犬を対象にして視力に関する研究を行ったところ、ほとんどの犬が正視(近視でも遠視でもない)だったそうです。しかし犬種によっては明らかな特徴が見られ、たとえばロットワイラーミニチュアシュナウザージャーマンシェパードにおいては半数近くが近視傾向にあり、逆にグレーハウンドは遠視傾向にあったそうです。犬種によって特定の傾向が見られることから、遺伝や選択繁殖が影響したものと考えられます。 犬も平気でうそをつく?(文春文庫)

人間と犬の立体視野

 両目で同時に見て対象を立体的に認識する両眼視野(りょうがんしや)に関しては、人間の120度に対して犬は80度程度しかありません。これは、目の前を走って逃げようとする獲物だけは見逃さないように視覚が特化した結果でしょう。そのかわり右目と左目の視野を合計して構成される全体視野は人間よりも広く、広範囲を一度に視認することができます。
 ただし全体視野は犬種によって多少ばらつきがあり、パグペキニーズなど鼻ぺちゃつぶれ顔の犬種は220度程度、グレーハウンドアフガンハウンドなどマズルが長く面長の犬種は270度程度です。これは犬種によって頭蓋骨の形状が異なり、それに合わせて眼球の位置も移動した結果です。 犬の全体視野は人間よりも広い反面、立体視野は人間よりも狭い。
犬の視覚線条  人間を始めとする霊長類の場合、鮮明な視野は黄斑中央にある中心窩(ちゅうしんか)と呼ばれる部位で作り出されます。しかしこの中心窩は霊長類にしかない組織であり、犬の場合は視覚線条(しかくせんじょう)と呼ばれる組織がそれにとってかわります。 人の眼球断面図と中心窩の位置  犬の視覚線条はやや大きくて横長な構造になっており、横方向に対する優れた視野を可能にしています。この横長構造は犬のほか馬やレイヨウなどの草食動物にも見られるとか。肉食動物である犬は獲物を水平方向に追跡するときに役立ち、逆に草食動物である馬の場合は、開けた平原において捕食者をすばやく見つけるときに役立っているのでしょう。ただし視覚線条の長さには犬種によって開きがあり、鼻の長い犬種では長く、逆に鼻の短い犬種では短くなるといわれています。
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