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犬の爪切りのやり方・完全ガイド~頻度やコツから嫌がる犬のしつけ方まで

 犬の爪の切り方について画像や動画とともに詳しく解説します。犬の爪が伸びすぎていると何かに引っかかって怪我をしたり、指への負担が増えて歩き方が変になってしまいます。週に1回くらいのペースでスムーズに爪切りを行えるよう、基本的なしつけと同時に安全な切り方をマスターしておきましょう。

嫌がる・暴れる犬のしつけ

 犬の爪切りは週に1回くらいの頻度で行うのが理想ですが、その度ごとに犬が暴れていたのでは犬にとっても飼い主にとっても大きなストレスになってしまいます。ですから前もって「爪切りは楽しいイベントだ!」と犬に覚えてもらう必要があります。これが爪切りのしつけです。重要度で表すと「爪切りのしつけ9 vs 実際の爪切り1」くらいであり、成功のカギは事前のしつけにかかっていると言っても過言ではありません。子犬でも成犬でもスキップせずに終わらせておきましょう。

まずは伏せをマスター

 犬の爪切りを行う際の理想的な姿勢は伏せ、横寝、仰向けです。これらの体勢だと体重のほとんどが胴体にかかっていますので、爪切りの最中に急に動いて怪我をするということがありません。また前足にしても後ろ足にしても力が抜けた状態ですので、飼い主が握りやすくなります。ですからまずは伏せのしつけをマスターさせておきましょう。 犬の伏せのしつけ

足へのタッチに慣らす

 犬は伏せの状態をスムーズに取れるようになったら、次は足へのタッチに慣らせていきます。
 足には神経が豊富に分布しており、また握られると身動きが取りづらくなるためタッチを嫌う犬がたくさんいます。爪を切ってる最中に犬が足を動かしてしまうと深爪をしてしまう危険性があるため、ゆっくりと時間をかけて足へのタッチに慣らせていかなければなりません。「前足に触る」→「前足を握る」→「前足を持ち上げる」という3段階に分けて少しずつ慣らせていきましょう。 犬の足を触ったり持ち上げた直後にごほうびを与えること 前足と同じように後ろ足もタッチに慣らせていきましょう。伏せの姿勢を取ったら自然と後ろ足が左右どちらか一方に投げ出されるはずです。
 もし足が投げ出されずしゃがんだ状態をキープしているようでしたら、おやつを犬の鼻先にちらつかせ、首が後ろを向くように誘導しましょう。最も楽な姿勢を自分で探し、自発的にパタンとどちらか一方に倒れるはずです。足が投げ出されたら前足と同じようにタッチトレーニングを行いましょう。 【画像の元動画】Upside Down Settle - dog training 犬の鼻先を後方に誘導すると自然と体が倒れる  足へのタッチに慣らせるためのしつけは1日や2日でできることではありません。決してあせらず、以下のページを参考にしながらたっぷり1週間くらいかけてゲーム感覚で行うようにしてください。 犬のボディコントロールのしつけ

指へのタッチに慣らす

 犬が足に触られることに慣れたら、今度は手よりも繊細な指へのタッチに慣らせていきましょう。基本的なやり方は前のセクションで解説した足へのタッチに慣らすと同じです。
 犬の指の下面についている肉球(指球)を上下から挟むようにつかみ、犬がじっとしていたらご褒美を与えます。爪切りをする際は指を1本ずつホールドしますので、タッチに慣らす作業は多少時間がかかっても1本づつ行うようにしてください。
 右の前足が終わったら左の前足、左の前足が終わったら右の後ろ足という具合にまんべんなく慣らせていきます。足の上の方についている「狼爪」(ろうそう)も忘れずにタッチしておきましょう。

タッチ時間を伸ばす

 犬が指へのタッチに慣れたら、今度は触ってる時間を少しずつ伸ばしていきましょう。1本の指にかかる爪切りの時間はだいたい5秒ですので、まずは5秒を目標に設定します。
 前のセクションで行ったように犬の指を握りそのままホールドします。最初は犬がクリアしやすい2秒くらいから始めてください。2秒ホールドを我慢できたらおやつを与えましょう。この作業をすべての指に対して行います。2秒が終わったら今度は3秒ホールドを試してみましょう。指を1本ずつ握り3秒間我慢できたら、そのたびごとにおやつを与えます。同様にして4秒→5秒とホールドに伸ばしていけば、犬はゲーム感覚でタッチされることに慣れていくはずです。

爪切りの音に慣らす

 犬の爪を切るとたまに「パチン!」という突発的な音が鳴ることがあります。この音に驚いて犬が動き出してしまうかもしれませんので、あらかじめ爪切りの出す音に慣らせておきましょう。
 クリッカーと呼ばれるしつけ道具の音が爪をカットする時の音とかなり似ていますので、爪切りを買うついでに揃えておけば役に立ちます。「クリッカーを鳴らす→1秒以内におやつを与える」というトレーニングセッションを10~20回繰り返せば、犬が音に慣れてくれると同時に「クリック音=爪切りの音=ご褒美の合図」と記憶してくれるはずです。
 犬の爪を爪切りではなく電動ヤスリで削る際は「パチン!」というクリック音ではなく持続的なモーター音がネックになります。かなり大きな音を出す商品もありますので、こちらも事前に慣らせておかなければなりません。
 基本は、聞こえるかどうかわからないくらいの小さな音量からスタートし、時間をかけてすこしずつ音量を上げていくというものです。「系統的脱感作」とよばれるこの手法に関しては「犬をいろいろな音に慣らす」というページ内で詳しく解説してありますのでご参照下さい。また音声サンプルとして「電動爪ヤスリ」を用意してありますのであわせてご利用下さい。 犬をいろいろな音に慣らす

爪切りのタッチに慣らす

 足や指を触らせてくれるけれども、爪切りで触られることを嫌がることがあります。まずは爪切りを犬に見せ、クンクンと匂いを嗅がせてみましょう。おやつでもなければおもちゃでもないことがわかった犬はそのうち興味を失います。
 犬が警戒心をといたら、爪切りで犬の爪を軽くタッチしましょう。じっとしていたらをご褒美を与えます。今度は先程とは違う指の爪を触り同じようにご褒美を与えます。
これをすべての爪に対してまんべんなく行い、「爪切りでタッチされる」という触覚的な情報とご褒美を犬の頭の中でリンクしていきましょう。

犬の爪の構造を知ろう!

 犬の爪切りを行う前に、まず基本的な構造を知っておかなければなりません。

人の爪と犬の爪

 犬の爪は、爪母基(そうぼき, nail matrix)と呼ばれる部分で増殖した表皮角化細胞が圧縮されてできたケラチンと呼ばれるタンパク質で作られます。 人間の爪と犬の爪の比較  人間の場合、指の先端にある骨(末節骨)上面に爪母基が直線上に並んでおり、爪が平面上に伸びていきます。それに対して、犬の場合、爪母基が指の末節骨先端を取り囲むように並んでおり、爪が円錐状に伸びていきます。形に大きな違いがありますので、人間の爪は「爪」(nail)、犬の爪は「鉤爪」(claw)と呼んだ方が正確でしょう。

爪の神経と血管

 指の骨と爪の間に挟まれた皮膚のことを爪床(そうしょう, nail bed)と呼びます。英語では死んだ爪の下にある生きた(quick)部分という意味で「クイック」と呼ばれたりもします。 犬の爪の断面模式図  狭い意味でのクイックは表皮に近い上皮層(下爪皮)だけを指しますが、広い意味では上皮とその下にある真皮の両方を指します。下の断面写真で言うと「表皮層」と「真皮層」と記されている部分です。当ページ内では以降「クイック=表皮+真皮」として扱っていきます。 犬の爪の断面と組織学  クイックが表皮層だけを指すにせよ表皮と真皮の両方を指すにせよ、神経や血管が豊富に分布していますので絶対に傷つけてはいけません。ひどい痛みが生じるとともに出血してしまいます。
 爪の成長に伴って骨が伸びることはありませんが、爪に栄養を与えているクイックは長く伸びます。長くなった爪を軽い気持ちで切ってしまうと、クイックもろとも切り落としてしまうことがありますので要注意です。

黒い爪と白い爪

 犬の爪には黒い爪と白い爪があります。1本の足の中に白い爪と黒い爪が混じり合っている変わった個体もいます。 黒い爪をもつ犬の足と白い爪をもつ犬の足を並べてみる  爪の色素には被毛の色を作り出している遺伝子とは別の遺伝子が関わっているため、白い被毛の犬に黒い爪、黒い被毛の犬に白い爪が生えるということもありえます。しかし多くの場合、白っぽい被毛の犬には白い爪、黒っぽい被毛の犬には黒っぽい爪が生える傾向があるようです。
 犬の祖先であるオオカミの爪は基本的に黒いため、犬で見られる白い爪はおそらくイエイヌとして家畜化されていく過程で偶然固定化されたものだと考えられます。オオカミで白い爪が見られた場合、犬との間で遺伝子の交雑(バッククロス)が起こっている可能性が大です(Paolo Ciucci, 2003)

狼爪の役割

 狼爪(ろうそう, dewclaw)とは犬の後ろ足で見られる第一指(いわゆる親指)のことです。「狼の爪」と言われているにも関わらず野生の狼では決して見られず、ブリアードボースロングレートピレニーズセントバーナードといった大型犬種でだけ見られる痕跡的な器官です。
 第一指(親指)は前足にもあり、便宜上後ろ足と同じように狼爪と呼ばれますが、この前足の狼爪は決して無用の長物ではなく、実は重要な役割を担っている可能性が示されました。 犬の前足の狼爪を切除すると他の指への負担が増えてしまうかも  調査を行ったのはワシントン州立大学などを中心とした共同チーム。アジリティ競技に参加するなどして指先に怪我を負った犬(46犬種/207頭)を対象として指先の受傷リスクを高める要因が何であるかを検証したところ、前足の狼爪がない場合のリスクが1.9倍になることが明らかになったといいます。
 過去にビデオ録画を用いて行われた調査では、走っている時に狼爪が地面と接触し、クッションとして機能している可能性が示唆されていますので、おそらく狼爪がないことで前足への負荷が増え怪我につながってしまったものと推測されます。 犬の前足にある狼爪を切除すると運動中の指先の怪我が増える?  狼爪は子犬の頃に切除されてしまうことがあり、中には切除することをスタンダード(犬種標準)に盛り込んでいる犬種すらいます。切ってしまう理由は「そもそも痕跡的な器官だからあってもしょうがない」もしくは「引っかかって怪我を負ってしまう」というものです。
取ることによって逆に怪我を負うリスクが上昇する可能性を否定できませんので、むやみに取ってしまわないことをおすすめします!

犬の爪切りの手順

 犬が手や足に触られることに慣れ、犬の爪の構造を理解したら実際に爪切りを行いましょう。

爪切りの頻度

 犬の爪切りは週に1回程度の頻度で行うのが理想です。フローリングなど硬い床を歩いた時、カチャカチャと爪の当たる音が聞こえるようでしたら足先をチェックし、伸びている部分をカットしてあげましょう。
 爪切りを動物病院に依頼することも可能ですが、1回の値段が500~1,000円程度ですので1ヶ月単位で見るとかなりの出費になってしまいます。また通常は1人が体を押さえ1人が爪を切るという形で行いますので、爪切りや保定が嫌いな犬にとっては大きなストレスになってしまうでしょう。
 飼い主の財布と犬の福祉の両方を守るため、適切なトレーニングを行って爪切りを楽しいイベントとして感じてくれるようあらかじめしつけておくことを強くおすすめします。

爪切りに必要な道具

 犬の爪を切る際は、犬用に開発された道具を使うようにします。人間用の爪切りやキッチンにあるハサミ、ウサギ用や猫用の爪切りで代用しないでください。

ギロチン型爪切り

 人間の爪が平べったいのに対し、犬の爪は円錐状になっています。ですから基本的に人間用の爪切りは使わないでください。犬用の爪切りはギロチン状になっており、四方から均等に力が加わるようにデザインされていますのでこちらを使いましょう。小型犬には小型犬用、大型犬には大型犬用を用いるようにします。

ハサミ型爪切り

 キッチンバサミや工作用のハサミを爪切りに用いると、力が一方にだけ加わって途中で割れてしまうことがありますので使わないで下さい。ハサミ(ニッパー)型の犬用爪切りも売られていますのでこちらを使いましょう。小型犬には小型犬用、大型犬には大型犬用を用いるようにします。

電動爪ヤスリ

 犬用に開発された電動爪ヤスリ(グラインダー)も市販されています。丈夫なヤスリを高速で回転させて爪を削り取るというものですが、モーターの音がかなりうるさいため事前にしっかりと慣らせておく必要があるでしょう。

止血剤

 犬の爪を短く切りすぎた時、爪のすぐ下にあるクイックを傷つけて出血してしまうことがあります。そうしたアクシデントに備え止血剤を用意しておきましょう。

適切な爪の長さ

 犬の爪はどのくらいの長さに切るのがよいのでしょうか?1つの目安はフローリングなど硬い床を歩いた時、カチャカチャと爪が当たらない長さです。この程度まで短くカットしておけば、歩いている時に爪が邪魔にならないけれども、走ったりジャンプしたりするときに足を踏ん張るとちゃんとスパイクになってくれます。【画像の元動画】The best way to cut your dog's nails - dog training grooming 犬の理想的な爪の長さは立った時に爪の先が床につかない程度

爪を切るときの体勢

 爪切りをするときの犬の体勢にはいくつかのバリエーションがあります。どの体勢で行うにしても、利き手ではない方の手で犬の足をつかんだら、これから切ろうとしている指の肉球を上下から挟むように持って固定します。

仰向け体勢での爪切り

 最も安全で確実なのは犬を仰向けにした状態で行うものです。急に動き出すことがないため、うっかり爪を切りすぎて血が出てしまうという事故があまり起こりません。犬もリラックスしているのでストレスはかなり低く抑えられます。「伏せ」のしつけを発展させ、芸(トリック)の1つである「死んだふり」をマスターさせておけばスムーズにこの体勢に入ってくれるでしょう。 【画像の元動画】The best way to cut your dog's nails - dog training grooming 犬の爪切り体勢~仰向け

横寝体勢での爪切り

 犬を横に寝かせた状態で行う方法もあります。犬の急激な動きを予防でき、またどのくらい爪を切ったかを横から確認できるのが大きなメリットです。仰向け姿勢と同様、芸(トリック)の1つである「死んだふり」をマスターさせておけばスムーズにこの体勢に入ってくれるでしょう。あるいはマッサージのついでに爪切りを行うというやり方もあります。 【画像の元動画】How to trim fearful aggressive dog's nails 犬の爪切り体勢~横寝

伏せ体勢での爪切り

 犬を伏せの状態にして爪を切る方法です。大抵の犬はこの姿勢になると、後ろ足を右か左どちらか一方に投げ出しますので切りやすいでしょう。事前に必要なのは「伏せ」のしつけです。 【画像の元動画】How to teach a dog to like nail trim 犬の爪切り体勢~伏せ

立ったままでの爪切り

 犬が立った状態のまま爪を切る方法です。動物病院やトリミングサロンなどでは、だいたいこの姿勢で爪切りが行われます。足が地面についているため、急に動き出さないよう気をつけてください。また足を持ち上げる時、よく見ようとして外側に捻ると捻挫を起こしてしまいます。犬の関節の動きをよく理解した上で足を持ち上げ、手早く終わらせるよう注意します。 【画像の元動画】Trimming the Nails of a German Shepherd Dog 犬の爪切り体勢~立位

安全な爪の切り方

 安全に犬の爪を切る際は、まず部屋を明るくして爪切りに必要な道具を手元に用意しましょう。爪切りは刃の部分がよく切れることを確認して下さい。足周辺の被毛が長く伸びているときは事前にトリミングしておいた方がはかどります。落下の危険性があるのでテーブルなどの高い場所では行わないで下さい。また犬の体の大きさやタイプにかかわらず、足の上の方についている親指(狼爪)も忘れないよう注意します。

爪が白い場合

 犬の爪が白い場合、クイックと爪の境界線がはっきり見えますので、ピンク色のクイックに触れない範囲を切っていきます。まずは肉球の延長線上にあるラインをカットし、その後で残った鋭利な部分をカットします。鋭利な部分を残してしまうと体を引っ掻いた時に傷つけてしまう危険性がありますので2段階に分けて切りましょう。 【画像の元動画】Dog Nail Trim - Close Up View 爪が白い犬の場合があり、透けて見えるクイックを傷つけないように爪をカットしていく  慣れてきたらカットラインだけをイメージし、順番を逆にしても構いません。犬が嫌がらない場合は爪ヤスリをかけてさらに丸くします。電動爪ヤスリを用いる場合も同じカットラインを目安にして下さい。

爪が黒い場合

 犬の爪が黒い場合、クイックと爪の境界線が見えません。そんな時は肉球から補助線が伸びていると想像し、その延長線上をカットするようにしましょう。その後で残った鋭利な部分をカットしてあげます。慣れてきたらカットラインだけをイメージし、順番を逆にしても構いません。 犬の爪が黒い場合は、肉球の延長線上を目安にしてカットする  犬が嫌がらない場合は爪ヤスリをかけてさらに丸くします。カットする目安は白い爪と同じですので、基本的にクイックを傷つける心配はありません。電動爪ヤスリを用いる場合も同じカットラインを目安にして下さい。

爪が変形している場合

 犬が年を取っている場合、爪が大きく変形していたり太く成長したりしてハサミ(ニッパー)やギロチンが入らないことがあります。そんなときは電動爪ヤスリを用いて形を整えてあげましょう。電動ヤスリでネックとなるのは騒音です。いきなり切り替える前にしっかりとモーター音に慣らせておいて下さい。 爪切りの音に慣らす
電動爪ヤスリ
 以下でご紹介するのは電動爪ヤスリを用いて犬の爪を削り取る様子を収めた動画です。モーター音や振動がありますので、前もって犬を慣らせておかないと怖がって逃げ出してしまいます。 元動画は→こちら

爪切りの注意

 1日ですべての爪をカットする必要はありません。犬の集中力が途切れたと感じたら、いったん作業を中断し残りを次の日に回しましょう。特に爪切りデビューした犬の場合は1日1本を18日かけて切るというスケジュールでも構いません。爪切りが終わった時点でとっておきのごほうびを与え、「爪切りは楽しい!」という記憶が崩れないようにします。
 海外では床やボードに取り付けたヤスリに爪をこすりつけるようしつけている人もいます。面白い趣向ですが、音がうるさいとかヤスリで肉球をこすってしまう危険性があるためあまりお勧めはしません。

爪の止血方法

 犬の爪を切りすぎたり、切り忘れた爪が折れた場合、クイックが露出して出血してしまうことがあります。傷口からバイ菌が入って炎症がひどくならないよう適切な消毒や治療を行う必要があります。

爪を切りすぎて出血した場合

 犬の爪を短く切りすぎてクイックを傷つけてしまった場合、痛みと共に出血してしまうことがあります。人間で言う「深爪」のような状態です。
 犬が深爪をしたときは市販の止血剤で素早く血を止めるそんなときは市販の止血剤を清潔なガーゼで出血部に当てて血が止まるまで(5~10秒間)ホールドしてあげましょう。成分に「硫酸第二鉄」や「硫酸銅」が含まれているせいか「組織を焼く事で止血をする薬剤」といった都市伝説が流布していますが、これらは凝集剤や脱水剤です。多少の痛みを伴うものの、素早く止血することで傷口の感染を防いでくれますので犬には少しの間だけ我慢してもらいましょう。
 止血剤が手元にない場合の代用品としては、小麦粉、片栗粉、コーンスターチなどがあります。出血している部分に粉をまぶし、血が固まるまでの5~10分間、犬を安静にし、犬が患部をなめてしまわないよう注意してください。
 コーテライザー(止血用の焼きごて)はまったく必要ありません。傷口からバイ菌が入ると炎症が広がってしまいますので、念のため動物病院を受診して消毒してもらいましょう。治療後2~3日は散歩を控えるようにします。
 なお痛みを感じたことにより、犬にとって爪切りが嫌なイベントとして書き換えられた可能性があります。念のためもう一度「嫌がる・暴れる犬のしつけ」を繰り返し、足や指を触られることとごほうびとを結びつけて「爪切り=楽しいイベント」という記憶を強化し直しましょう。

犬の爪が折れて出血した場合

 犬の爪が伸びたまま激しい運動をすると、テコの原理が働いて爪の途中や根元から折れてしまうことがあります。ちょうどボールペンのキャップ(=爪)がペン先(=クイック)から抜けたような感じです。血管と神経が露出したこの状態は深爪よりもかなり重症ですので、なるべく早く動物病院を受診しましょう。 犬の爪が折れるとクイックからキャップ(爪甲)が抜けたような状態になる  爪が折れて痛みを感じている犬は、普段よりも攻撃的になっています。不用意に足を触ろうとしたり顔を近づけると噛むことがありますので注意が必要です。口輪(マズルガード)やエリザベスカラーを装着し、まずは犬が傷口を舐めたり噛み付いたりできないようにしましょう。
 折れた爪がブラブラとぶら下がっている時や出血がひどい時は、無理に触ろうとせず獣医さんに任せた方が安全です。
 動物病院では折れた爪を剥ぎ取り傷口を消毒して止血します。傷口でバイ菌が繁殖しないよう抗生物質などを投与し、爪周囲炎に発展するのを予防します。犬がガジガジ噛んだり舐めてしまわないよう、患部を圧迫包帯で巻き、エリザベスカラーを装着するまでがワンセットです。 折れた犬の爪を除去し、患部を消毒して包帯を巻く  応急処置が終わった後、爪が再生するまでの数週間は散歩を控えなければなりません。同じ失敗を繰り返さないよう、飼い主は定期的に犬の爪をチェックし、適切な長さに切ってあげる習慣をつけておきます。

爪の病気チェック

 犬の爪には神経や血管が豊富に分布しており健康のバロメーターになっています。以下に示すような症状が見られた場合は何らかの病気にかかっている可能性がありますので、場合によっては動物病院を受診しましょう。なお海外では犬の爪にマニキュア(ドッグネイル)を施している人がいますが、指先の健康状態が全くわからなくなりますのでお勧めできません。
犬の爪に現れる病変
  • 細菌性爪周囲炎細菌性爪周囲炎とは爪の根元にできた傷口からバイ菌が入り炎症を起こしてしまった状態のことです。人間では「ひょう疽」などとも呼ばれます。爪が折れて出血したり指に棘やガラスの破片が刺さることで発症します。原因菌として多いのはイーストの一種であるマラセチア(Malassezia)です。爪の根元に耳垢のような黒い塊が伴うこともあります。
  • 扁平上皮癌扁平上皮癌とはの皮膚の中に含まれる扁平上皮細胞が悪性化して腫瘍となったものです。基本的には左右どちらかの足の指1本だけに病変が発生します。好発品種はスタンダードプードルジャイアントシュナウザーラブラドールレトリバーブービエデフランダースなどの大型犬です。
  • メラノーマメラノーマとは皮膚に含まれるメラニン細胞(メラノサイト)が悪性化して腫瘍になったものです。基本的には左右どちらかの足の指1本だけに病変が発生します。好発品種は中~大型犬ではアイリッシュセッターボクサーウェルシュスプリンガースパニエルエアデールテリアドーベルマンチャウチャウなど。小型犬ではスコティッシュテリアボストンテリアチワワなどが報告されています。
  • アトピー性皮膚炎アトピー性皮膚炎とは、アレルギー反応を引き起こす抗原によって引き起こされる炎症の一種です。たいていを指だけではなく、目、口の周り、おなかといった他の部位にも炎症が生じます。指に症状が現れた場合は、指と指の間が両足そろって赤く変色します。
  • 毛包虫症毛包虫症とは、ニキビダニ属の毛包虫(Demodex canis, 毛嚢虫とも)によって引き起こされる皮膚病変です。指で発症したときは爪の根元が脱毛したり紅斑が出たりします。
  • 亜鉛反応性皮膚疾患亜鉛反応性皮膚疾患とはミネラルの一種である亜鉛の不足によって引き起こされる皮膚病変のことです。シベリアンハスキーアラスカンマラミュートサモエドといった北方犬種で多く発症しますがその他の犬種でも報告があります。皮膚炎は通常、目や口の周りに生じますが、二次的な症状として爪の周りでマラセチア菌が繁殖し、黒い垢のようなものを形成することがあります。
  • せつ腫症せつ腫症とは皮膚の炎症が悪化して大きな瘤になってしまった膿皮症の一種です。原因が細菌の場合は特に細菌性せつ腫症と呼ばれます。炎症が爪母基にまで達してしまうと爪の生成にも影響を与えることがあります。またかゆみなどで犬が絶えず指先を気にしていると、ペロペロなめることで舐性皮膚炎を引き起こすこともあります。
 上記したように犬の指や爪に現れる病変はたくさんあります。飼い主は爪切りを行うと同時に日常的に犬の足をチェックし、いち早く病気の兆候に気づいてあげましょう。
特に扁平上皮癌とメラノーマ(悪性黒色腫)に関しては命にかかわる重大な疾患ですので、絶対に見落とさないようにします!

犬の爪切りの必要性

 犬の爪は人間の爪と同様、放置しておくとどこまでも伸びていきます。これは猫の場合とは違いは、古くなった爪が自然に剥がれ落ちるということがないためです。
 日常的に散歩を行っている犬では、アスファルトや地面がヤスリがわりになったり体重をかけたときにポロッと先端が取れたりしますので、地面と接することがない親指(狼爪)以外の爪を切る必要はありません。しかし運動量が少ない子犬、病気や老化でなかなか散歩に出られない老犬、梅雨時で室内にこもりがちの犬、雪国に暮らしている犬などでは、足と地面が接触する機会が少なくなり爪が伸びがちになってしまいます。
 爪を伸び放題にするとさまざまなデメリットや弊害が生じますので、犬の飼い主は定期的に犬の爪を切って適切な長さに調整してあげなければなりません。以下は爪切りによって得られる代表的な予防効果です。

爪の折れや割れを予防

 犬の爪を切らずにおくと折れて怪我をしてしまう危険性があります。犬の爪が伸びすぎた状態だと指先に力を入れたときテコの原理が働き爪の生え際に大きな力がかかってしまいます。ちょうど人間が伸びた爪で壁を引っ掻く状態と同じです。加わった力が強すぎると爪が途中で折れたり根本から取れていわゆる「生爪が剥がれた」状態になってしまいます。
 犬の足先にはバランスを保つための神経がたくさん分布しており、それだけ痛みにも敏感ですので、爪が折れて出血してしまうと大変な不快感を生じてしまうでしょう。あらかじめ爪を切っておけばこうした折れや割れを予防することができます。

指の怪我を予防

 犬の爪が伸びすぎた状態だと指に怪我を負ってしまう危険性が高まります。 伸びすぎた犬の爪はテコのアームになって根本に大きな負担をかける  2017年、ワシントン州立大学などを中心とした共同チームは、アジリティ競技に参加するなどして指先に怪我を負った犬(46犬種/207頭)を対象として指先の受傷リスクを高める要因が何であるかを検証しました。その結果、爪が長い犬においては怪我を負うリスクが2.4倍も高いことが明らかになったといいます。おそらく指先に力を入れたとき伸びた爪がテコのアームになり、爪の根元にある指に大きな力が加わってしまったものと推測されます。犬の前足にある狼爪を切除すると運動中の指先の怪我が増える?  途中で爪が折れたり壊れたりしたら爪の怪我になりますが、たとえ折れなかったとしても床や地面からの反力が根本に伝わって指の怪我につながってしまうようです。

外耳炎を予防

 犬の爪が伸びすぎた状態だと、後足で耳を引っ掻いた時に傷ができ、そこからバイ菌が入って外耳炎を引き起こしてしまうかもしれません。 犬の外耳炎の一因は足で引っ掻いたときにできる傷  犬は人間や猫に比べて非常に外耳炎を発症しやすい動物ですが、その理由の1つとして「耳に加わる外傷」が挙げられます。耳をどこかにぶつけるとか頭を激しく振りすぎて毛細血管が破れてしまうというパターンがある一方、自分の足で引っかき傷を作ってしまうというパターンがあることも事実です。
 足の爪が伸びすぎた状態だとどうしても耳の皮膚に傷が付きやすくなり、それだけ外耳炎に発展しやすくなってしまいます。あらかじめ爪を切っておけばこうした外傷性の外耳炎を予防することができます。

猫ひっかき病の予防

 犬の爪で引っかかれた人間の皮膚に傷ができてしまった場合、原因が犬であるにも関わらず「猫ひっかき病」を発症してしまう可能性を否定できません。
 猫ひっかき病とはバルトネラヘンセラ(Bartonella henselae)という細菌が傷口から侵入することによって発症する感染症の一種です。人獣共通ですので人間にも感染し、患部の発赤、発熱、全身倦怠感、関節痛といったインフルエンザのような症状を引き起こします。細菌が猫の爪で多く検出されることから便宜上「猫ひっかき病」と呼ばれていますが、実は犬の爪にも高確率で含まれていることが分かってきました。 猫ひっかき病を引き起こすバルトネラヘンセラは実は犬の爪にも高確率で生息している  2004年ノースカロライナ州立大学の調査チームは健康な犬99頭と何らかの疾患を抱えた犬301頭を対象とし、バルトネラヘンセラの血清陽性率調査を行いました。その結果、健康な犬の10.1%、不健康な犬の27.2%からIgG抗体が検出されたと言います(Solano-Gallego, 2004)
 また2009年、ソウル国立大学医学部の調査チームは家庭で飼われている犬と猫と対象とし、バルトネラヘンセラの保有率調査を行いました。その結果、ペット犬54頭の血液からは16.6%、唾液からは18.5%、爪からは29.6%という高確率で菌が検出されたと言います。一方、猫の爪における保有率は29.5%でした(You-seok Kim, 2009)
「猫ひっかき病」と呼ばれているにもかかわらず、バルトネラヘンセラが犬の爪にも高確率で含まれている可能性を否定できません。あらかじめ爪を切っておけばこうした「犬ひっかき病」を予防することができます!