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犬の飛びつく癖をしつけ直す

 犬の飛びつき癖は、犬自身が事故にあう危険性や飛びつかれた人が転んでしまう危険性を高めますので、できれば子犬のうちから直しておきたいものです。また犬が人に飛びつく際の最大の理由である「顔や口をなめる」という行動もあわせて予防する必要があります。

飛びつきの心理と危険性

 犬の「飛びつき」とは、前足を物や人、他の犬にかけてそのまま押し倒そうとする行動のことです。飛びつく相手が人間のときは多くの場合、「顔をなめる」「噛む」といった行動がそれに付随します。犬にこうした飛びつき癖がついていると、犬自身、飼い主、他の犬、第三者などが思わぬトラブルに巻き込まれてしまう危険性がありますので、早いうちに治しておかなければなりません。以下は、飛びつき癖をなおすことで得られるメリットです。 前足をかけて押し倒そうとする犬の「飛びつき」

犬の事故や怪我を予防する

 犬の飛びつく癖を直しておく事は、犬の事故や怪我を予防する上で重要です。
 好奇心が強い犬の場合、散歩中に出会う見知らぬ物に興味をひかれ「あれは何だ?!面白そうだから近づいてみよう!」といった心理で飛びついてしまうことがあります。あるいは狩猟本能が強い犬の場合、目の前を横切る猫、ゴミ捨て場から出てきたネズミ、道路を走るジョガー、自転車、オートバイといった動くものに興味をひかれ「あっ獲物だ!追いかけて捕まえなくちゃ!」と行った心理で飛びついてしまうこともあります。
 こうした突発的な行動は全て、通行中の自転車や自動車と接触する危険性を高めるものです。あらかじめ飛びつく癖を直しておけば、犬が飼い主の制止を振り切って危険なエリアに突進してしまうこともなくなるでしょう。

犬同士のトラブルを予防する

 犬の飛びつく癖を直しておく事は、犬同士のトラブルを予防する上で重要です。
 警戒心や序列意識が強い犬の場合、散歩中に初対面の犬とすれ違うと「ん?!見慣れない怪しい奴だなぁ・・自分とどっちが強いか確かめてみよう!」という心理で飛びかかってしまうことがあります。ただ単にお尻の匂いを嗅ぐだけだったら大した問題は起こりませんが、もし噛み付いてしまうと相手の犬を怪我させるばかりでなく、飼い主が裁判沙汰に巻き込まれることがあります。
🚨ラブラドールレトリバーを飼う夫婦が公園で犬を遊ばせていたところ、100m離れた公園入口付近から柴犬が猛スピードで駆け寄り、ラブラドールに突然襲いかかって一方的に噛み付き怪我を負わせた。裁判では、相手の犬に対する治療費および飼い主の精神的苦痛に対する慰謝料を支払うよう柴犬の飼い主に命令が下った(2005年・東京地判)
🚨女性がポメラニアンを連れて公園を散歩していたところ、中型犬3頭を連れた男性とすれ違った。3頭のうちの1頭が小型犬を見て突然走り出した拍子に男性がリードを離してしまい、ポメラニアンに噛み付いてしまった。ポメラニアンは怪我が原因で死亡。中型犬を連れていた男性には犬の治療費のほか飼い主に対する慰謝料の支払いが命じられた(1999年・春日井簡判)
 上記したような犬同士の咬傷事故は、飼い主がしっかりとリードで動きをコントロールし、飛びつきのしつけを終えていれば十分予防できたはずです。

人の転倒事故を予防する

 犬の飛びつく癖を直しておく事は、人間の怪我や事故を予防する上で重要です。
 家で留守番させていた犬と再会した時「お帰り!寂しかったよ!」といった心理で、飼い主に飛びついてくることがあります。体の大きな中型犬や大型犬に飛びつかれると、体重が軽い人の場合、押し倒されて頭を打ってしまうかもしれません。またたとえ大柄な男性でも「飛びつかれる」という心の準備ができていないと驚いてバランスを崩し、やはり転倒してしまうかもしれません。体が小さな子供の場合、小型犬に飛びつかれただけで転んでしまうことも考えられます。 犬の飛びつきは時として人に怪我を負わせる  飛びつく相手が飼い主であれば大した問題にはなりませんが、人なつこい犬の場合、散歩中に出会った知らない人に対して「ねぇねぇ!あなた誰?遊んでよ!」といった心理で飛びついてしまうこともあります。相手が犬好きであれば「服が汚れる」くらいの問題しか起こりませんが、逆に犬嫌いの場合は大問題に発展してしまうことがあります。例えば以下は、1973年に島根県で報告された判例です。
🚨8歳の女児が引き綱をつけて犬を散歩中、73歳の女性とすれ違った。犬が小走りに接近して前足を上げた所、犬嫌いだった女性が驚いて転倒。尻餅をついて右大腿骨骨折の大怪我を負った。さらに入院中、持病だった糖尿病が悪化して9日後には糖尿病性の昏睡に陥り、その3日後に死亡した。裁判では犬を連れていた側の管理が不十分だったとして犬の飼い主や女児の親に賠償の支払いが命じられた。
 犬の飛びつく相手が上で示したような犬嫌いだった場合、たとえ小型犬でも接近を避けようとして体のバランスを失ってしまう可能性があります。ですから犬の体の大きさにかかわらず、人に飛びつかないようしつけておく事は、飼い主の責務といえます。

人獣共通感染症を予防する

 犬の飛びつく癖を直しておく事は、人の顔や口をなめる行為の予防になり、結果的に人獣共通感染症の予防にもなります。
 2017年、チェコ共和国・メンデル大学のチームは、1歳以上の犬の飼い主294人を対象とし、代表的なシチュエーションにおける犬の飛びつき行動に関する統計調査を行いました。その結果、「散歩中よりも帰宅時に飛びつきが出やすい」「知らない人よりも飼い主に対して飛びつきが出やすい」「飼い主がしゃがんでいるときよりも立っているときの方が10倍も顔なめが飛びつきに付随しやすい」などが明らかになったといいます。1行でまとめると「飼い主が帰宅したときに飛びついて顔をなめたがる」ということです。 犬の飛びつき行動と癖の出やすい状況  こうした事実から調査チームは、犬が飛びつく意味は、飛びつくという行為そのものにあるのではなく、親しい人間の顔や口をなめるという行為にあるではないかと推測するに至りました。飼い主としては、挨拶(あいさつ)としての飛びつきや顔なめをされても悪い気がしませんが、そこには重大な問題が潜んでいます。それは、犬の口の中はすこぶる汚いという問題です。 エントアメーバ・ジンジバリス(Entamoeba gingivalis)の顕微鏡写真  犬の口の中にはパスツレラ症を引き起こすパスツレラ・ムルトシダが高い確率で含まれており、免疫力が低下した人では付着した部分の炎症のほか気管支炎や肺炎を発症する可能性があります。
 また2010年に行われた調査では、犬の口内の74%からカプノサイトファーガカニモルサス症を引き起こすカプノサイトファーガ・カニモルサスが検出され、近縁種である「Capnocytophaga cynodegmi」まで含めると86%という高い保有率だったとのこと。
 さらに歯垢内にはトリコモナス属やエントアメーバ属が含まれており、犬とのキスなどを通じて人間の口の中に入ると、歯周病を引き起こすのではないかと疑われています。 歯周病を抱えた犬の口内では原虫がうようよしている  上記したように、人類最良の友の口の中はそれほど清潔ではないのです。ですから犬の飛びつきを予防することは、人間の顔や口をなめる行動を予防すること、そして人獣共通感染症を予防することにもつながるのです。
 では具体的に、犬の飛びつき癖をやめさせるための対処法を見ていきましょう。なお犬がキッチンに前足をかけてしまう「カウンターサーフィング」(counter surfing)に関しては、飛びつき癖とは少し違いますのでの犬の拾い食いをしつけ直すの方をご参照下さい。
NEXT:しつけの基本方針

犬の飛びつく癖をしつけ直す・基本方針

 犬の飛びつく癖をしつけ直すに際して、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
興奮して自分勝手に何かに飛びつかない
してほしくない行動
興奮して自分勝手に何かに飛びつく
 してほしい行動と快(ごほうび・強化刺激)、してほしくない行動と不快(おしおき・嫌悪刺激)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえて犬の飛びつく癖をしつけ直す場合を考えて見ましょう。
強化
「興奮して自分勝手に何かに飛びつかなかった」瞬間に快を与える
弱化
「興奮して自分勝手に何かに飛びついた」瞬間に不快を与える
 犬の飛びつく癖をしつけ直す際は強化の方が効果的です。
 例えば自分の足元に飛びついてきた小型犬をサッカーボールのように蹴飛ばしたり、自分の胸元に飛びついてきた大型犬をサンドバッグのように殴ったとしましょう。痛い目に遭った犬はその経験によって飛びつき行動を控えるようになるかもしれません。しかし同時に人間のことを怖がるようになり、自分に近づいてくる手や足に噛みついてしまうでしょう。またそれ以前に、飼い主のことが嫌いになり、共同生活を営む上で必要不可欠な絆が崩壊してしまう事は言うまでもありません。
 ですから犬の飛びつきをやめさせる際は、正しい行動にごほうびを与えて伸ばしてあげる正の強化が基本方針となります。また罰を加えるのではなく、ごほうびを取り去ることで行動頻度を下げる「負の弱化」を補助的に用いることとします。
NEXT:しつけの実践

犬の飛びつく癖をしつけ直す・実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ対処法の実践に入りましょう。まずはしつけに入る前に「犬のしつけの基本理論」で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」「一つの刺激と快不快を混在させないこと」「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」を念頭においてください。まだマスターしていない方は以下のページを読んで「すべきこと」と「すべきでないこと」が何であるかを把握しておきます。 犬のしつけの基本

しつけの準備

 実際に飛びつく癖のしつけ直しに入る前に、以下のような準備を終わらせておきましょう。

ごほうびを用意する

 犬をある特定の行動に対して積極的にさせるためには、何らかの快(強化刺激)を与える必要があります。以下は代表的な犬に対するごほうびです。
犬に対するごほうびいろいろ
  • おやつおやつをごほうびとして使う場合は犬がおいしいと感じるもの+カロリーの低いものを選ぶようにしましょう。与えるときは犬が満腹にならないよう、なるべく少量だけにします。
  • ほめる高い声で「よーし」や「いいこ」や「グッド」などの声をかけてあげます。言葉と同時に軽く一回なでてあげてもかまいません。ただしあまり激しく撫で回してしまうと犬が興奮しすぎて集中力がなくなってしまうため、軽くにとどめておきます。
  • おもちゃおもちゃを選ぶときは、あらかじめ犬に何種類かのおもちゃを与えておいて一番のお気に入りを確かめておきます。ただし一度与えると回収するのが困難になるため、しつけセッションの最後に与えるようにします。

服従訓練を終えておく

 アイコンタクトオスワリマテという3つのトレーニングを終えておきます。じっとしている状態が当たり前だと考えている飼い主は、しばしば落ち着いて座っている犬に対してごほうびを与えることを忘れてしまいがちです。ですからは日頃から、じっとしているとおいしいものがもらえたり、ほめられたりするぞ!という思考パターンを犬の中にしっかりと形成しておきましょう。具体的には問題行動予防トレーニングをご参照ください。

飛びつく状況を再現

 まずは事前に犬の行動パターンを観察し、どいういったタイミングで飛びつき行動が出るのかを把握しておきます。多いのは以下のような状況です
飛びつき癖が出やすい状況
  • 飼い主が帰宅したとき
  • 散歩やえさをねだるとき
  • 散歩中に知っている人を見たとき
  • 散歩中に知っている犬を見たとき
  • 散歩中に初対面の犬を見たとき
  • 散歩中に初対面の人を見たとき
  • 自転車や車が通り過ぎたとき
  • 家に来客があったとき
【動画】Dog Training- Teaching a Puppy Not to Jump Up犬の飛びつきが出る時のパターンを把握する  行動パターンを把握できたら、犬に与えるおやつを用意した上でその状況を再現してみましょう。テンションの上がった犬は飼い主の足元や胸元に飛びついて顔をなめようとするはずです。この時、むやみに大声を出さないよう注意してください。犬が「喜んでいる!」と勘違いして逆に行動が強化されてしまいます。

お座りで飛びつきを中断

 犬が飛びついたその瞬間、無言のまま用意していたおやつを鼻先に掲げ、意識を指先に集中させます。犬は嗅覚の動物で、なおかつ小腹が空いた状態ですので、すぐにおやつをゲットしようと行動を中断します。 【動画】How to Train Your Dog to Stop Jumping Up on People 鼻先にいい匂いがするおやつを掲げることで犬の飛びつき行動を中断する  その瞬間、事前に練習しておいたお座りの指示を出しましょう。犬が腰を下ろしたら待ての指示を出し、3~5秒じっとしていられたら「いいこ」とほめておやつを与えます。「フリー!」などの解除語で呼び寄せても構いません。ここまでがワンセットです。 物理的に飛びつけないよう犬にお座りを命じる  こうした練習を繰り返すことにより犬は2つのことを学習します。
  • 人に飛びつくと何も得られない
  • 飛びつかずにお座りするとごほうびをもらえる
 前者はごほうびを取り去ることで行動の頻度を下げる「負の弱化」、後者はごほうびを与えることで行動の頻度を上げる「正の強化」です。両方を表裏一体で行うことにより、犬は「飛びつかずにお座りするといいことが起こる!」と学習していきます。このトレーニングを犬が飛びつくたびに何度も繰り返して下さい。
カウンターコマンディング
 カウンターコマンディング(代替反応トレーニング)とは、望ましくない行動をとれないような他の行動を強化する手法のことです。たとえば飛びつく前にオスワリを命じて座った状態にさせておけば、飛びつくこと自体が不可能になる、などです。人間で言うとタバコをやめるため(望ましくない行動)、ガムを噛む(同時に成立しない行動)ようなものです。

犬のテンションが高い場合

 犬が小型犬の場合、よほど体の小さな子供でない限り飛びつかれて押し倒されてしまうという事はまずありません。しかし中型~大型犬の場合、勢いよく飛びつかれた拍子に人間がバランスを崩し、転んで頭を打ってしまう危険性があります。特にテンションの上がりやすいハイパーアクティブな犬の場合は注意が必要です。 【動画】Does your Dog Jump on Everyone_ Here's what to Do! 大型犬の飛びつきで危険なのは、飛びつかれた方の人間が倒れてしまう転倒事故  犬の飛びつきが激しくて危なくてしょうがないという場合は、最初のうちだけリードを用いて身体を拘束するようにします。この時、犬が強く引っ張っても首が締まらない装具を選ぶようにしてください。選び方に関しては「散歩グッズの選び方」で解説してあります。またリードの端は外れてしまわないよう丈夫なところにしっかりと固定しておいて下さい。 散歩グッズの選び方  犬は相変わらず飼い主などに飛びつこうとしますが、リードに邪魔されてなかなか思うように動けません。飼い主は犬が跳びつこうとしている間は一切犬の存在を無視します。おやつをあげない事はもちろんのこと、犬の方を向いて「関心」というごほうびも与えないよう注意します。これが「タイムアウト」です。
 タイムアウト(一時中断)とは犬に対する注目、ふれあい、関心を一切遮断し、一定期間「空気」のように扱う対処法のことです。「遊びたい」「触れ合いたい」「散歩したい」といった欲求を抱えている犬にこのタイムアウトを適用すると、欲求不満という苦痛がそのまま嫌悪刺激(罰)の代わりになってくれます。 【動画】How to Train Your Dog to Stop Jumping! ハイパーアクティブな犬や力が強い犬はリードで拘束してタイムアウトを用いる  騒いでも何一ついいことがないことをうすうす感じた犬は、そのうち疲れておとなしくなってきます。そのタイミングで近寄りお座りの指示を出しましょう。犬が事前の練習通りに腰を下ろしてくれたら待ての指示を出し、3~5秒じっとしていられたら「いいこ」とほめて飼い主の関心というごほうびを与え、さらにおやつという味覚的なごほうびも与えます。こうすることで犬は「騒いでも何もないけれど、おとなしくしていたらいいことがある!」と学習していきます。 犬が騒いでいるうちは一切のごほうびを遮断する  お座りの指示を出そうと飼い主が近寄ったタイミングで再び犬が騒ぎ出すことがあります。そんなときはすぐに回れ右して再びタイムアウトをしてください。そうしないと「騒いだら飼い主が来てくれた!」と誤解して間違った行動が強化されてしまいます。

顔なめをやめさせる

 先述したように、犬が人間に飛びつこうとする最大の理由は飛びつくことそのものではなく、顔や口をなめることである可能性が大です。ですからあらかじめ「顔や口をなめてはいけない」ということを犬に教えておかなければ、なかなか飛びつき癖は直りません。
 基本的な対処法は飛びつきをやめさせる時と同じ「カウンターコマンディング」です。顔をなめるという行動と同時にはできないお座りの指示を出しましょう。犬が腰を下ろしたら待てを指示し、犬の顔が口元に接近することを予防します。
 「キスによるあいさつができないなら、犬を飼っている意味がないじゃないか!」という愛犬家もいますが、人獣共通感染症の予防、および無節操な飛びつきによる犬や人間の事故を予防するという上ではやはり必要と考えられます。 犬が人間に飛びつくのは顔をなめて挨拶したいから?  顔なめや口なめの対処法で重要なのは、なめられているときに「うわー!」といった高い声を出さないことです。こうした声は犬の耳には「相手が喜んでいる!」と聞こえてしまいますので、逆に行動が助長されてしまいます。
 万が一顔や口をなめられても一切声は出さない状態でお座りの指示を出すようにしてください。これは家族全員が一貫して守らなければならないルールです。また家に遊びに来た友人や知人など、犬と接する家族以外の人間にも守ってもらう必要があります。

人を変えて練習

 しつけを行ったのが家族の中でお母さんだった場合、犬はお母さんに飛びつくことはなくなったものの、相変わらずお父さんや息子には飛びつくかもしれません。ですからできれば家族内の全員が同じしつけを行い、相手が誰であっても犬が飛びつかないよう教えておく必要があります。
 また犬が家族以外の人にも飛びついてしまう癖がある場合、友人や知人に頼んで「飛びつかれ役」をやってもらいましょう。できればおすわりの指示までやってほしいところですが、できない場合は犬のテンションが高い場合で解説したようにリードで犬の体を固定し、物理的に飛びつけないようにしてしまいます。騒いでいる間は徹底的に無視(タイムアウト)し、疲れておとなしくなったら近づいてかまってあげるというのが基本方針です。
 近づく途中で飛びつく素振りを見せたら、素早く回れ右して再び無視しましょう。多少時間はかかりますが、犬は「飛びつこうとすると構ってもらえない」という負の弱化を通し、だんだんとおとなしくしていたほうが得であることに気づいていきます。

おやつを徐々に減らす

 犬が飛びつかずにおとなしくお座りすることに慣れてきたら、おやつを与える回数を「2回に1回→ 3回に1回→ 4回に1回・・・」といった具合に徐々に減らしていきます。最終的には「いいこ」などのほめ言葉だけで済ませるようにしましょう。
 そもそも犬が人に飛びついて顔をなめようとする理由は、人に挨拶して構ってもらうことですので、なでてあげるとかほめてあげると言った社会的な(=物質的でない)ごほうびでも十分に満足してくれます。ただし間欠強化の原理で犬の行動を強化するため、犬の大好きなとっておきのおやつをたまにランダムで与えるようにします。そうすることで犬は、まるで万馬券を当てた人のようにその行為に病み付きになり、いい意味でやめられなくなります。

再発を予防する

 犬の体の大きさにかかわらず重要なのは、偶発的な強化によって問題行動を再発させないということです。これは知らないうちに「飛びつく」という行動に対してごほうびを与えてしまうことを意味しています。例えば以下のような状況です。
✅飼い主がディナーテーブルで食事をしているときに犬がやってきて、太ももに前足をかけてきた。その時の顔や仕草が可愛かったので食べていた魚のかけらを少し与えた。
✅飼い主がソファーに寝転びながらテレビを見ていると犬がやってきて体に乗っかり、顔や口をべろべろなめ始めた。くすぐったかったので「ひゃー!」と声を出した。
✅5時間の外出から帰宅すると、留守番をしていた犬が飛びついて顔をなめ熱烈な歓迎をしてくれた。こちらも会いたくてしょうがなかったので、思わず抱きしめて頭を撫でてあげた。
 上記したようなシチュエーションは一見すると何の変哲も無いように思えますが、実は知らないうちに「飛びつく」とか「顔や口をなめる」といった行動にごほうびを与え強化してしまっています。ごほうびの具体的な内容は「魚の欠片」「大声」「関心とリアクション」です。人間にとってはどうでもよい些細(ささい)なものが、犬にとってはそこそこのごほうびとなり知らないうちに行動が強化されることがありますので十分に注意しなければなりません。 偶発的な強化だ犬の飛びつき行動を助長してしまう  これは1人が注意すればよいという問題ではなく、家庭内で犬と接する機会があるすべての人間が守らなければならないルールです。しつけに入る前に必ず家族会議を開き、やってよいことと悪いことの方針を統一させ、いちど決めたら家族全員が守るよう徹底しなければなりません。さもないと、せっかく直したはずの飛びつき癖が、ルールを守らなかったおばあちゃんのせいでいつの間にか再発し、なおかつ原因がさっぱりわからないという事態に陥ってしまいます。犬は悪くないのに「うちの犬は馬鹿だ!」という不当な評価が下されてはかわいそうですよね。

犬の欲求不満を解消する

犬の飛びつき癖の原因としては、まず第一に欲求不満を考慮する  犬が飛びつくのは、何らかの欲求不満が原因かもしれません。たとえば、ふれあいに飢えている犬が、帰宅した飼い主に飛びついたり、探索に飢えている犬が、散歩中他の犬に飛びついたりするなどです。欲求が満たされたことで急激に上がったテンションが、飛びつきという行動を生み出している場合は、日頃から欲求不満のガス抜きをこまめにしておくことで、爆発的な一過性ハイテンションを抑制することができます。
 具体的には「犬の欲求」を参考にしながら、食べ物や飲み物、快適な室温調整など基本的なことのほか、探索、追いかけ、ふれあい、遊びなど、犬にとって極めて重要な欲求を充足させるような生活習慣を考えてみましょう。 犬の本能的な欲求を知り不満を解消する方法
飛びつきを生み出しているのは「顔や口を舐めて挨拶したい!」という甘えた気持ち。飼い主としては嬉しいですが、デメリットがあまりにも多いためやはり対処が必要です。