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歯周病を抱えた犬の口内では原虫がうようよしている

 様々な健康状態にある犬を調べた所、歯周病を発症している犬の歯垢にはある種の原生生物が高い確率で含まれていることが明らかになりました(2017.1.19/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、ペットの栄養と健康に関する調査を行う「WALTHAM® Centre for Pet Nutrition」のチーム。2008年から2009年の期間、イギリスのサリーにある獣医歯科専門病院を訪れた犬から合計92の歯垢サンプルを採取し、中に含まれる原生生物を調べました。調査対象となった犬の内訳は以下です。なお「軽度の歯周病」は病変部のアタッチメントロスが25%未満、「重度の歯周病」は最低4ヶ所の病変部のアタッチメントロスが25%~ 50%という基準で選別されています。詳しくは犬の歯周病をご参照ください。
歯垢採取の対象犬
  • 健康=20頭(4.64歳)
  • 歯肉炎=28頭(4.91歳)
  • 軽度の歯周病=26頭(7.94歳)
  • 重度の歯周病=18頭(10.00歳)
 採取したサンプルに含まれる原生生物の有無と種類を、「18S PCR」および「次世代シークエンシング」と呼ばれる最新手法を用いて遺伝子レベルで調べた所、トリコモナス属が56.52%(52/92)、エントアメーバ属が4.34%(4/92)の確率で検出されたと言います。また口内の健康状態によって検出率が大きく変動することが明らかになったとも。具体的な数値は以下です。
犬の口内の健康状態とトリコモナス属の歯垢内生息率
  • 健康=3.51%
  • 歯肉炎=2.84%
  • 軽度の歯周病=6.07%
  • 重度の歯周病=35.04%
犬の口内の健康状態とエントアメーバ属の歯垢内生息率
  • 健康=0.013%
  • 歯肉炎=0.014%
  • 軽度の歯周病=0.80%
  • 重度の歯周病=7.91%
犬の口内の健康状態が悪いほど原生生物の生息率が高まる  歯周病を抱えた犬の歯垢に原生生物が含まれている確率は、統計的に有意であることが確認されました。つまり歯周病が進行していればいるほど、歯垢に原生生物が含まれる確率が高まるということです。
 こうした結果から調査チームは、歯周病の発症因子としては歯垢に含まれる細菌にばかり注意が集まりがちだが、細菌よりもサイズが大きい原生生物が何らかの関わりを持っている可能性も否定できないとの結論に至りました。ただし原生生物が歯周病の原因なのか、それとも結果なのかを断言するためには、さらなる調査が必要だとも。
The Prevalence of Canine Oral Protozoa and Their Association with Periodontal Disease.
Patel, N., Colyer, A., Harris, S., Holcombe, L. and Andrew, P. (2016), J. Eukaryot. Microbiol.. doi:10.1111/jeu.12359

解説

 犬の口の中に原生生物がいるという事実はショッキングですが、人間も例外ではなく、トリコモナスは12.7~37%、エントアメーバは歯周病患者の37.6~81%が保有しているという推計もあります。特に「エントアメーバ・ジンジバリス」および「トリコモナス・テナックス」という2種類に関しては、半世紀以上も前から歯周病の発症に関わっているのではないかとの疑いが持たれています。
歯周病との関わりが疑われている口内原生生物
  • エントアメーバ・ジンジバリスエントアメーバ・ジンジバリス(Entamoeba gingivalis)の顕微鏡写真 エントアメーバ・ジンジバリス(Entamoeba gingivalis)は、人間の歯周ポケット生息している直径20~150ミクロンの原生生物。形態はトロフォゾイト(栄養型)だけでシスト(嚢子)を形成せず、キスや食器の共有によって伝染すると考えられています。偽足によって歯周ポケット内を動き回り、白血球(多核好中球)の核を貪食します。核を抜かれた白血球は本来の機能を失い、タンパク質分解酵素を周辺組織に撒き散らし、これが歯周病の原因になっているのではないかと推測されています(→出典)。
  • トリコモナス・テナックストリコモナス・テナックス(Trichomonas tenax)の顕微鏡写真 トリコモナス・テナックス(Trichomonas tenax)は人間、犬、猫の口内に生息している原生生物の一種で、口腔トリコモナスとも言われています。健康な歯茎には生息しておらず、歯肉炎や歯周病の病変部においてアルカリホスファターゼ、フィブロネクチン、カテプシンといった物質を放出し、歯周組織にダメージを与えるているのではないかと推測されています。長さは12~20μm、幅は5~6 μm程度で、シスト(嚢子)を形成せず、粘膜同士の接触によってうつると考えられています(→出典)。
 犬の歯垢を対象として行われた今回の調査でも上記2種が検出されていますので、歯肉炎や歯周病と何らかの関わりがあっても不思議ではありません。どちらの原生生物もシスト(嚢子)を形成せず、直接的な接触によって感染するとされていますので、犬との不用意なキスは控えた方が無難でしょう。これは、病原性の原生生物を犬からもらわないためでもありますし、逆に人間から犬へ移してしまう事態を避けるためでもあります。 犬の歯周病 犬が飼い主の口を舐める