トップ犬のしつけ方室内で必要となるしつけ犬の食事のしつけ

犬の食事(おあずけ)のしつけ

 犬の食事のしつけとは、犬がエサを目の前にしても、飼い主が許可するまで待ての状態を保つことです。基本的に犬は食いしん坊ですので、多少いたんだものでも食べてしまおうとします。また、無節操(むせっそう)な食生活は人間と同様、肥満などの生活習慣病を引き起こしたりもしますので、飼い主のしつけが重要です。

食事のしつけの必要性

 犬に食事(おあずけ)のしつけを施しておく事は、盗み食いや誤食事故を防ぐ上でとても重要です。家の中にはゴミ箱に捨てられたチキンの骨、テーブルの上に置き忘れた板チョコ、キッチンの床に落ちた玉ねぎの欠片など、犬が食べてはいけないものがたくさんあります。犬が何のしつけも受けていない場合、こうしたものを平らげて食道の裂傷(チキンの骨)、急性中毒(板チョコ)、急性貧血(玉ねぎ)などに陥ってしまうかもしれません。また犬が「食糞」という奇妙な癖を持っている場合、自分の後ろから出したものをペロッと食べてしまうことがあります。一方、ちゃんとした食事(おあずけ)のしつけを終えていれば、食べる前に飼い主の許可を求める習慣ができていますので、こうした事故を未然に防げる可能性が高まるでしょう。 食事(おあずけ)のしつけは犬の盗み食いや誤食事故を防ぐ  さらに食事(おあずけ)のしつけは犬の衝動性をコントロールして問題行動を予防する上でも重要です。日ごろから「飼い主の許可を得なければ食べ物にありつけない」という習慣を作っておくと、犬の中での飼い主の価値が高まり、指示に従うことを当たり前のことと考えてくれるようになります。この状態を作っておけば、「お座り」や「伏せ」といった指示をすばやく出すことで無駄吠えや飛びつきといった問題行動を予防しやすくなるでしょう。
 このように食事のしつけには、犬の誤食事故を予防すると同時に、飼い主に対する犬の従順性を高めるという役割があるのです。それでは具体的に食事(おあずけ)のしつけについて見ていきましょう。
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犬の食事のしつけ・基本方針

 犬の食事のしつけに際して、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
食べ物を目の前にしても待ての状態を保つこと
してほしくない行動
食べ物を目の前にしたら飼い主を無視して食いつくこと
 してほしい行動と快(ごほうび・強化刺激)、してほしくない行動と不快(おしおき・嫌悪刺激)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえて犬に食事をしつける場合を考えて見ましょう。
強化
「食べ物を目の前にしても待ての状態を保てた」瞬間に快を与える
弱化
「食べ物を目の前にしたら飼い主を無視して食いついた」瞬間に不快を与える
 犬の食事のしつけに際しては強化、弱化の両方が効果的です。
 例えば飼い主の許可が出る前にフードボールに突進した犬を蹴飛ばしたとしましょう。すると犬は「エサを食べようとすると蹴飛ばされる!」と学習し、以降、フードボールや飼い主の姿を見るたびに恐怖を感じるようになってしまいます。食事とは死ぬまでの間に毎日行う日常的な行動です。食事のたびごとに恐怖を感じるという事は、この先ずっとビクビクしながら生きていくということになります。これでは犬がかわいそうですよね。ですから犬にフードのしつけをするときは、正しい行動に対してごほうびを与えて伸ばしてあげる正の強化が基本方針となります。
 またフードのしつけにおいてはごほうびを取り去ることで望ましくない行動の頻度を下げる「負の弱化」も補助的に用いるようにします。ここで言うごほうびとはフードそのもの、望ましくない行動とは飼い主の許可を得ずに食べ物に突進することです。例えば飼い主が手に持ったフードボールに犬が突進してきた瞬間、「ア、ア!」といったNRM(※)とともにフードボールを取り上げると、犬の頭の中では「勝手に食べようとすると逆にごほうびが遠ざかる!」というリンクが形成され、だんだんとその行動を取らなくなるようになります。さらにNRMを「ごほうびが消える前の合図」として記憶してくれますので、以降、犬に不正解の行動を伝えるのがぐんと楽になるでしょう。ですからフードのしつけにおいては負の弱化も補助的に用いて進めていくことにします。
NRM
 NRMとは「No Reward Mark」の略であり、日本語に直訳すると「ごほうび無しの合図」となります。犬の取った行動が不正解であることを即座に伝えるために用いる二次的罰の一種であり、「いいこ」などの褒め言葉とは対極にあります。言葉は任意で「No!」「ダメ!」「ザンネン!」「ア、ア!」「ウープス!」などがありますが、犬の混乱を避けるため日常生活で頻繁に用いる言葉は避けて選んで下さい。
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犬の食事のしつけ・実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ実践に入りましょう。まずはしつけに入る前に「犬のしつけの基本理論」で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」「一つの刺激と快不快を混在させないこと」「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」を念頭においてください。まだマスターしていない方は以下のページを読んで「すべきこと」と「すべきでないこと」が何であるかを把握しておきます。 犬のしつけの基本

しつけの準備

 実際に食事(おあずけ)のしつけに入る前に、以下のような準備を終わらせておきましょう。

まずは待てをマスター

 食事(おあずけ)のしつけとは、犬にとって非常に気が散る「食事」という強い刺激がある状況での「待て」です。まずは「待て」をマスターさせておきましょう。

ごほうびを用意する

 食事(おあずけ)のしつけにおけるごほうびはフードそのものです。他のしつけで用いるようなおもちゃといったごほうびは基本的に必要ありません。ただししつけはご飯の時間の前に行うようにします。

首輪とリードに慣らす

 今までフードのしつけを全く受けてこなかった犬は、ボールに入ったエサを見たとたん突進します。飼い主は何とかして体を抑え込む必要がありますが、体当たりをしたりレスリングのように抑えこむのでは犬がかわいそうです。犬の動きを効率的にコントロールするため、特に最初のうちは首輪(胴輪)とリードをした状態で行ったほうがよいでしょう。詳しくは「犬を首輪・胴輪・リードに慣らす」をご参照下さい。 犬を首輪・胴輪・リードに慣らす

犬の突進を防ぐ

 まずしつけエリアの床に犬がいつも使っているフードボールを置き、その中におやつを1粒入れておきます。次に首輪(胴輪)とリードをした犬をフードボールの近くに連れていきましょう。何のしつけも受けていない犬はボールに向かって一目散に駆け寄って食べようとするはずです。犬が気づかないようならもう少しおやつの量を増やして匂いを強めても構いません。 How to teach your puppy to wait and leave it しつけを受けていない犬は食事を目の前にすると猪突猛進する  犬がリードを引っ張り始めたら、飼い主はぎゅっと握り犬の口がフードボールに届かないようコントロールします。このとき大きな声を出したりガツンと強くリードを引かないで下さい。自分が電柱が何かになったつもりで、犬の動きをじっと抑制します。なお犬の体の大きさに合わせて最もストレスの少ない装具の種類は変わります。「体の大きさに合わせた装具選び」を参考にしながらベストなものを選んで下さい。 体の大きさに合わせた装具選び

犬のおうかがいを待つ

 オオカミとは違い、犬には「おうかがい」という習性があります。これは自分ではどうにも解決できない問題に直面したとき、近くにいる人間のほうを向いて「どうにかしてください!」と懇願してくる行為のことです。 Dog Training - WAIT for your food 自分では解決できない問題に直面すると、犬は近くにいる人間にヘルプを求める  リードに邪魔されてどうしてもフードボールに口が届かない犬は、そのうちこの「おうかがい」を飼い主に対してたててきます。そのタイミングを見計らい「オスワリ」と指示を出してみましょう。犬が指示に従って腰をおろしたら「いいこ」と言ってほめ、その流れで「マテ」の指示を出します。犬が事前の練習通りしっかりと待てができたらひとまずは成功です。よだれを垂らしても大目に見てあげて下さい。
 ちなみに全ての犬がすんなりおうかがいを立てるわけではなく、遺伝的にオオカミに近い犬種では飼い主とアイコンタクトを取るまでにやや時間がかかる可能性が示されています。
 2017年、東京大学・認知行動科学研究室のチームが遺伝的に異なる背景を持った26犬種を対象とした行動実験を行いました。その結果、遺伝的にハイイロオオカミに近い「古代犬」と呼ばれる犬種では、自分では解決できない問題(開かない箱の中におやつがある)に直面した時、近くにいる人間とアイコンタクトを取るまでに時間がかかり、またアイコンタクトのトータル時間も短かったといいます。 犬に対する解決不能タスク(Unsolvable Task)  具体的にはアフガンハウンド秋田犬サルーキ柴犬シベリアンハスキーです。こうした犬種においては、飼い主におうかがいを立てるまでにやや時間がかかるものと思われますが、それは古代犬種の特性であり決して異常というわけではありません。どうか「バカ犬が!」となじらないで下さい。 遺伝的にオオカミに近い犬種はアイコンタクトが苦手

待てを解除する

 犬の待機状態を解除するときは「解除語」を用います。待てのしつけでは「フリー!」を用いて自分の元に呼び寄せましたが、食事(おあずけ)のしつけにおいては自分のほうではなくフードボールに犬を向かわせるため、別の解除語を用意しましょう。日本では「よし」や「いいよ」などを用いている人もいますが、こうした言葉は日常的によく使う言葉であり、犬が何かの折に聞き違えてしまうかもしれません。ですからここでは他の言葉と紛れることが少ない「ディギン」(Dig in!=召し上がれ)を例に取ります。
 「マテ」の指示を出してから解除するまでの時間は、犬がクリアしやすい3秒くらいから始めます。「1日で1秒伸ばす」くらいのスローペースでも一向に構いません。犬にとっても飼い主にとっても一種のゲームになるよう楽しみながらしつけを進めて下さい。 Puppy Training wait for food 通常の待てと食事時の待てとでは解除語を変える  犬が事前に決めていた秒数を我慢できたら、「ディギン!」と解除語をかけ、フードボールの方に促してあげましょう。ボールに入ったおやつやエサ自体がごほうびになり、犬の頭の中では「強引に突進したら何も食べられないけれど、しばらく我慢したらごほうびをもらえる!」という結びつきができていきます。

待ての練習を繰り返す

 第1セットが終わったらいったん犬を退場させ、再びフードボールにおやつを入れて最初からやり直していきます。犬の集中力はそれほど続きませんし、また徐々に空腹が満たされて食に対するモチベーションも下がってきますので、1日のしつけは10分くらいで切り上げるようにして下さい。最後のセットではフードボールにその日のエサを入れた状態でやってみます。

ノーリードで行う

 犬がフードにあり付くための効率的な方法を覚えてきたら、今度はノーリードで行ってみましょう。
 あらかじめフードボールにおやつを入れておき、そこにリードをつけていない状態の犬を連れて行ってみます。犬が基本ルールを覚えていてくれたら、フードボールにがっつく前に飼い主の顔を見ておうかがいを立ててくるはずです。犬と目が合ったら「オスワリ」と指示を出し、次いで「マテ」を命じましょう。10秒ほど我慢できたら「ディギン!」と言って待機状態を解除し、フードボールに促してあげます。 How to train your dog to stop stealing! リードで拘束しなくても、犬がフードボールに突進しなかったら合格  ノーリードになった途端、基本ルールを忘れてフードボールに突進してしまう犬もいます。そんな時は「ア、ア!」(※NRMの一種, しつけの基本方針参照)などと言ってフードボールを素早く取り上げ、犬を別室につれていってしまいましょう。これはごほうびを取り去ることによって行動頻度を下げる「負の弱化」と呼ばれるオペラント条件付けの一種です。犬は「フードボールに突進したらエサが無くなった!」と解釈し、飼い主を無視して突進するという行動が徐々に減っていきます。
 5分間くらいタイムアウトしたら、再び同じ状況を設定して犬を連れて行ってみましょう。もし犬が同じ失敗を繰り返してもかんしゃくを起こさず、上記したような手順に従って負の弱化を繰り返してください。10回繰り返してもまだ失敗するような場合は、もう一度リードを付けた状態から練習し直してみましょう。

フードボールゲーム

 フードボールゲームとは食べ物に対する犬の我慢強さを養うためのゲームです。
 まず犬が普段使っているフードボールにおやつを1粒入れておきます。次に犬にお座りを命じ、飼い主がフードボールを持った状態で犬と面と向かいます。そしてフードボールを犬の頭の高さから目の高さにゆっくりと降ろしていきましょう。 Teach Your Dog to Wait for the Food Bowl 我慢することとごほうびを結びつける犬のフードボールゲーム  最初のうち、犬はおやつの匂いにつられて鼻を突き出してくるはずです。そうしたら「ア、ア!」などのNRM(しつけの基本方針参照)を発してフードボールを再び頭の上に戻してしまいます。これはクイズ番組で言う「ブブー!」というブザー音です。食べ物のにおいに負けて犬が動いたら不正解(ごほうびなし)  もう一度頭の高さから目の高さに降ろしていきます。犬が3秒間じっとしていられたら「ディギン!」(召し上がれ)といっておやつを食べさせてあげます。これはクイズ番組で言う「ピンポン!」というチャイム音です。我慢できずに鼻を近づけてきたら「ア、ア!」といって持ち上げ、またやり直しますTeach Your Dog to Wait for the Food Bowl 食べ物のにおいを我慢してじっとしていたら正解(ごほうびゲット)  このゲームにより、犬は2つの事を学習します。
フードボールゲームの学習効果
  • フードボールに鼻先を突っ込むとおやつが遠ざかる
  • 匂いがしてもじっと我慢していたらおやつをもらえる
 前者はごほうびを取り去ることで行動頻度を下げる「負の弱化」、後者はごほうびを与えることで行動頻度を上げる「正の強化」です。このゲームを繰り返すことにより、犬はフードボールに勝手に鼻先を突っ込むことに消極的になり、いい匂いがしてもじっと我慢することに積極的になっていきます。日ごろからこのゲームを行なっておくと、食事(おあずけ)のしつけがぐんと楽になるでしょう。 Teach Your Dog to Wait for the Food Bowl フードボールゲームは誘惑の度合いを様々に変えて行うと効果的  ゲームの難易度は自由に設定することができます。例えばフードボールを下ろす位置に関して「目の高さ→鼻の高さ→口の高さ」といったバリエーションがあります。我慢する時間に関し「3秒→5秒→10秒」といったバリエーションがあります。おやつの量に関し「1粒→3粒→5粒」といったバリエーションもあるでしょう。犬がゲームの基本ルールを理解したら徐々に難易度を高め、食べ物に対する我慢強さをゲーム感覚で養っておきましょう。
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