トップ2017年・犬ニュース一覧2月の犬ニュース2月6日

遺伝的に狼に近い犬種はアイコンタクトが苦手

 26犬種のコミュニケーション能力を調査したところ、遺伝的に狼に近い犬種では、人間との自発的なアイコンタクトが苦手であることが明らかになりました(2017.2.6/日本)。

犬の系統分岐群とアイコンタクト

 調査を行ったのは、東京大学・認知行動科学研究室のチーム。人間が発する合図を理解したり、人間にアイコンタクトを送って協力を求めるといった異種間コミュニケーション能力が、犬の家畜化のどの段階で獲得されたものなのかを検証するため、遺伝的に異なる背景を持った26犬種を対象とした行動実験を行いました。調査の対象となった犬たちのグループ分けは以下です。なお「古代犬」とは、遺伝的にハイイロオオカミに近く、中東アジア、東アジア、シベリアなど中央ヨーロッパ以外に起源を持つ犬種のことを指しています。
遺伝的に分けた犬種グループ
 上記した犬種に属する120頭(メス57頭 | 平均年齢5.67歳)に対し、人間との視覚的コミュニケーションを促すような2つのテストを実施し、それぞれのグループにおけるリアクション特性を明らかにしました。具体的なテスト手順は以下です。
視覚的コミュニケーションテスト
  • アイコンタクトタスク犬に対するアイコンタクトタスク(Visual Contact Task)【手順】
    アイコンタクトは取らない状態で犬の名前を呼び、15秒に1回程度の割合で合計4回おやつを与える。その後、実験者は動きを止めて犬とアイコンタクトを取る。
    【観察項目】
    ■最初のアイコンタクトの持続時間
    ■90秒間のうち実験者の方を凝視していたトータルの時間
  • 解決不能タスク犬に対する解決不能タスク(Unsolvable Task)【手順】
    容器に入れたおやつを自主的に6回取らせた後、自分では取ることができない容器の中におやつを入れる。その後、犬から1.5メートル離れた場所に移動し、犬の行動を60秒間記録する。
    【観察項目】
    ■最初にアイコンタクトするまでの待機時間
    ■アイコンタクトのトータル時間
    ■容器との接触時間
 調査の結果、ほとんどすべての犬で自発的に人間の方を見つめる行為が確認されたといいます。特に「アイコンタクトタスク」では、犬が高齢であればあるほどアイコンタクトの持続時間が長くなる傾向が見られたとも。また「解決不能タスク」では、古代犬種においてアイコンタクトを取るまでに時間がかかり、アイコンタクトのトータル時間も短かったそうです。
 こうした結果から調査チームは、アイコンタクトを持続する能力に関しては犬種差がそれほどないものの、自発的にアイコンタクトを取る能力に関しては、遺伝的に狼に近い犬種の方がやや不得手という傾向を見出しました。犬という動物種が有している優れた異種間コミュニケーション能力は、犬と狼が種として分岐したタイミングで基礎が築かれ、過去500年間に繰り返されてきた人為的な選択繁殖で増強されたのではないかと推測されています。
Dog Breed Differences in Visual Communication with Humans
Konno A, Romero T, Inoue-Murayama M, Saito A, Hasegawa T (2016) PLoS ONE 11(10): e0164760. doi:10.1371/journal.pone.0164760

犬が視線嫌悪を克服できた理由

 犬が家畜化の過程でどのようにしてコミュニケーション能力を獲得してきたかに関しては、「種分岐仮説」と「選択繁殖仮説」という2つの仮説が提唱されています。
犬のコミュニケーション能力
  • 種分岐仮説 異種間コミュニケーション能力は、狼と犬が動物種として遺伝的に分岐したタイミングで獲得されたとする仮説。この仮説が正しいとすると、遺伝的に狼に近ければ近いほどコミュニケーション能力が低く、イエイヌに近ければ近いほどコミュニケーション能力が高いということになります。
     過去に行われた調査では、犬と狼のコミュニケーション能力が比較検討されました。その結果、人間に育てられた狼は人間とアイコンタクトを取るまでの待機時間が長く、また見つめてる時間も短いという結論に至っています(→出典)。
  • 選択繁殖仮説 異種間コミュニケーション能力はある特定の作業に適する犬を人為的に選択繁殖したことで獲得されたとする仮説。この仮説が正しいとすると、繁殖を繰り返された犬種ほどコミュニケーション能力が高く、人間の手があまり加わっていない犬種ほどコミュニケーション能力が低いということになります。
     過去に行われた調査では、イエイヌと原始犬のコミニケーション能力が比較検討されました。その結果、原始犬種(ディンゴやニューギニアシンギングドック)は猟犬や牧羊犬よりも人間の方を見つめる時間が短かったという結論に至っています(→出典)。
犬のコミニケーション能力は2段階を経て強化された  どちらの仮説にもそれを支持するような調査結果があることから、犬が持つコミュニケーション能力は調査チームが推測している通り、「狼との遺伝的分岐」および「主にヨーロッパで行われた人為的な選択繁殖」という2つの大きな出来事を通じて増強されてきたものと考えられます。
 動物学の分野ではかねてから、自然界では敵意を表すはずの「相手の目をじっと覗き込む」という行為を、なぜ犬は人間に対して平気でできるのだろうかという疑問がありました。この疑問に対する答えは、「犬と人間が数万年に渡って一緒に暮らしているから」というシンプルなものなのかもしれません。 犬は人間と共に進化してきた? 犬種には固有の性格がある?