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メス犬の避妊手術・完全ガイド~メリットとデメリットを最新データとともに徹底検証

 避妊とはメス犬の生殖能力を人の手によってなくしてしまうことです。メリットとデメリットを最新の科学的データとともにご紹介しますので、手術の目的や時期を決める際の参考にして下さい(🔃最終更新日:2020年3月)

メス犬の避妊手術とはなにか?

 避妊とはメス犬の生殖能力を人の手によってなくしてしまうことです。さまざまな方法がありますが、日本国内においてはほとんどが子宮と卵巣を切除する手術のことを指します。 メス犬の避妊手術では、卵巣と子宮の摘出が行われます

避妊手術の費用はいくら?

 避妊手術の料金は、卵巣だけを切除する場合は20,000~40,000円程度が一般的です。2015年のデータでは、だいたいの相場(中央値)が「26,780円」となっています。また子宮と卵巣の両方を切除する場合は15,000~40,000円程度が一般的です。2015年のデータでは、だいたいの相場(中央値)が「27,413円」となっています(📖:日獣医・診療料金実態調査
 動物病院によって「避妊手術」に含まれる内容が多少違うかもしれません。例えば病院Aでは「事前検査+施術+麻酔」で病院Bでは「施術+麻酔+術後ケア」などです。また8~9割の病院では犬の体重に応じた料金設定があります。どこからどこまで含まれているのかとか、体重によってどの程度費用が変わるのかは事前に確認した方がよいでしょう。
 また手術の期間は日帰りというパターンもありますが、1日~数日入院させて落ち着いてから退院というケースもあります。これは病院内で術後の合併症がないことを確認したり、安静を確保して縫合部の離開を予防したり、痛みの管理をしやすくするためです。入院を伴う場合は手術と別料金になることがありますので、こちらも事前の確認が必要です。
 なお地方自治体によってはメス犬の避妊手術に助成金を設けているところがあります。ほとんどのケースでは申し込み条件や人数制限がありますので、管轄の役所にお問い合わせ下さい。以下は助成金を給付している自治体の一覧リストです。 犬・犬の不妊・避妊手術助成金(平成30年3月31日版)
🚨保険は効かない!  避妊は病気の治療を目的とした手術ではなく、飼い主の都合で健康体に対して行う選択的な手術です。ですから「子宮や卵巣に腫瘍ができた」などの理由がない限り、ペット保険が補償して金額の一部を補助してくれるということはありません。 犬のペット保険を知ろう!

避妊手術の目的や割合は?

 メス犬に避妊手術を施す主な目的は、望まない妊娠を防ぐことや生殖器に関連した病気を予防することです。またいくつかの学術論文により寿命が伸びる可能性が示されているため、長生きを目的に行う人もいます。
 避妊手術を施している飼い主の割合は、2020年のペットフード協会のデータでは53.7%と報告されています。ただしオスとメスを合わせた数値ですので、メス犬の避妊率というわけではありません。一方、東京都が2017年に公開したデータでは、アンケートを行った206頭のうち74.8%が避妊を受けていたと報告されています。

避妊手術の流れや時間

 避妊手術はいったいどのような流れで行われるのでしょう?以下では最も一般的に行われる開腹による子宮卵巣切除術の段取りを、術後のケアとともにご紹介します。

避妊手術の流れ

 以下は避妊(子宮卵巣切除)を行うまでの一般的な流れです。料金は地域や犬の体重によって変動しますので事前に確認しておく必要があります。
  • 予約かかりつけの動物病院に連絡し、避妊手術の予約を取ります。
  • 絶食手術前の最低8時間程度は食事を抜き、胃袋の中を空っぽにしておきます。これは麻酔で嘔吐してしまった時、嘔吐物が気管や肺に入って誤嚥性肺炎を起こさないようにするためです。水は飲んでも大丈夫です。
  • 来院予約時間に遅れないよう来院します。病院にも受診スケジュールがありますので、遅刻しそうな場合は少なくとも連絡しましょう。
  • 身体検査身体検査や血液検査を行い、特に腎臓や肝臓に問題がないかどうかを確認します。腎臓に障害がある場合は麻酔に伴う血圧の低下で死亡事故が起こってしまうかもしれません。肝臓に障害がある場合は、投与した麻酔薬を代謝できないかもしれません。特に老犬においては飼い主が知らないうちに腎臓や肝臓に障害が発生していることもありますので、事前検査は慎重に行います。また犬がすでに発情期に入っているかどうかや、妊娠(偽妊娠含む)しているかどうかもこのときに合わせて確認し、場合によっては延期します。
  • 麻酔腎臓や肝臓に問題がないことが確認されたら、麻酔薬を注射して全身麻酔をかけます。
  • 手術熟練した獣医師の場合、麻酔を除いた実際の避妊(子宮卵巣切除)にかかる時間は15分以内です。具体的なやり方は「図解・避妊手術のやり方」をご覧ください。
  • 帰宅犬が問題なく麻酔から覚めた場合、その日のうちに帰宅することも可能です。犬の回復が思わしくない場合は1日入院させて翌日に帰宅するというパターンもあります。経口麻酔薬や傷口の感染を防ぐための抗生剤が処方されるかどうかは病院によってまちまちです。

避妊後の安静期間

 避妊後の24時間程度はまだ通院ストレスや痛みが残っていますので、犬の元気がなくエサを拒絶することがあります。傷口の離開を防ぐためにも、動かず安静にしていた方が安全です。
 その後、少しずつ体調が回復してぐったり感がなくなっていきますが、72時間経過しても水をやたらに飲む、逆に全く飲まない、食事を拒絶、嘔吐、元気消失、無尿、タール便、下痢といった症状が見られる場合は念のため獣医さんに確認しましょう。なお自己判断で人間用の鎮痛薬や睡眠薬は絶対に投与しないでください。死亡を含めた重大な中毒事故が報告されています。 犬に睡眠薬を投与する危険性  犬が手術で縫合した部位を自分でなめてしまわないよう、痛みが続いている間はエリザベスカラーを装着して口が届かないようにガードします。避妊後の激しい運動やなめまわしにより出血してしまうと、傷跡が腫はれたり赤くなることがあります。あまりにも大きくなると血腫や漿液腫を形成して痛みの原因になりますので要注意です。 避妊手術の後しばらくはエリザベスカラーで患部を保護  手術から5日ほどは激しい運動によって傷口が開いてしまう危険性がありますので、運動は控えるようにします。散歩をする場合はリードを付けてゆっくり行い、万が一に備えて家の近くだけを歩くようにしなければなりません。傷口が治癒して完全にふさがるまでの2週間くらいはお風呂や水浴びも禁止です。皮膚縫合で抜糸を指示されている場合は、予約に合わせて来院し、縫合糸を抜いてもらいます。
避妊後、1日で元気になる犬もいれば4~5日間ぐったりしたままの犬もいます。痛みや感染が見られる場合は鎮痛薬や抗生薬を処方してもらいましょう。
NEXT:避妊手術の方法は?

図解・避妊手術の方法

 以下は全身麻酔下にあるメス犬に対して行われる子宮卵巣切除術を図解したものです。図には示されていませんが、汚染を防ぐため切開する部分以外には医療ドレープが掛けられています。なお開腹術ではなく腹腔鏡を用いた術式については「腹腔鏡を用いたメス犬の避妊手術」で詳しく解説してあります。
子宮卵巣切除術・図解
メス犬の避妊(子宮卵巣切除)手術における切開部の図解
  • 剃毛・切開犬を仰向けに寝かせ、おなかから足の付け根にかけての部分に生えている被毛をきれいに剃り落とします。手術部位を見やすくすると同時に、被毛から切開部に病原体が入らないようにするためです。正中アプローチの場合、へそから3cmほど下に3~6cmくらいの切れ込みを入れ、皮下脂肪を取り除きつつ腹筋の中央にある腹白線を露出します。腹白線に切り込みを入れたら、そこからスペイフックと呼ばれる器具をお腹の中に挿し込み、子宮角をぐいっと腹壁の外に引き上げます。
メス犬の避妊(子宮卵巣切除)手術における結紮部と切断部の図解
  • 卵巣と子宮の露出上のイラスト中、「図解1」は卵巣と子宮の解剖図です。子宮体からまるで牛の角のように子宮角が左右に広がり、それぞれの先端に卵巣が付着しています。
  • 結紮・切除「図解2」は血液を遮断するためきつく縛り付ける結紮(けっさつ)部と、メスを使って体から切り離す切断部です。卵巣を腹腔に縛り付けている卵巣支持靭帯を切断し、卵巣動静脈を結紮した上で結合組織ごとばっさりと切り離してしまいます。次に子宮体を手術用の糸できつく結紮し、そこから1cm以上離れた部位を切断します。結紮が不十分だとおなかの中で大出血を起こすことがありますのでとても重要です。また発情期(ヒート)のメスやすでに妊娠している犬では、卵巣やそれに連なる結合組織に通常よりたくさんの血液が流れ込んでいますので、手術に伴う出血リスクが増加します。
  • 縫合上記した手順で左右両方の卵巣と子宮体の切除が終わったら、結紮した末端部分を腹腔内に戻し、皮膚につけた切開部を縫合します。埋没(皮内)縫合の場合は体内で溶ける糸を使い、皮膚縫合の場合は2週間後にもう一度来院して抜糸するというのが一般的な流れです。
 以下でご紹介するのはメス犬に対して避妊手術を施す際の動画です。出血シーンはありませんが切除した卵巣と子宮の映像がありますので苦手な方はご注意下さい。 動画は→こちら 犬の避妊手術(正中開腹アプローチ方)の解説動画
腎臓や肝臓が悪いまま麻酔をかけたり、発情(ヒート)中なのに強引に手術に踏み切ると死亡リスクが高まりますので、術前の検査はしっかり行います。
NEXT:避妊の適齢期とは?

避妊手術の時期はいつ?

 アメリカ国内では長らく、不妊手術を行う適齢期として6~9ヶ月齢が推奨されてきました。しかし近年は、もっと早い時期に手術を行ってもよいのではないかという意見がちらほらと出てきています。

メス犬の避妊はいつ行う?

 メス犬に関しては6ヶ月齢以前に行うことを推奨する専門家が増えてきています。具体的には以下です。
犬の早期避妊手術・支持団体
  • The Association of Shelter Veterinarians(ASV)→6~18週齢
  • American Veterinary Medical Association(AVMA)→時期は明記せず
  • American Society for the Prevention of Cruelty to Animals(ASPCA)→2ヶ月齢(0.9kg)になったら
  • Canadian Veterinary Medical Association(CVMA)→性的に成熟する前に(※大型犬と超大型犬は最新データを精査すること)
 そもそも「6~9ヶ月齢」という推奨項目には明確な科学的根拠がなく、恐らく麻酔学のレベルが今よりも低くて幼齢時の死亡率が高かった、数十年前の慣習が残っているだけだろうと推測されています。現代の技術を用いれば生後7~12週齢の子犬にも比較的安全に麻酔を施すことができることから、1990年代に入り不妊手術の適齢期を見直すための様々な研究調査が行われてきました。調査によって結果はまちまちですが、早期手術によるメリットの方が手術しなかった場合のメリットよりも大きいと判断されることがあり、上で示したような時期が、従来の「6~9ヶ月」という漠然とした適齢期の代替案として挙がってきています。
 とは言え全ての犬に当てはまるゴールドスタンダードは残念ながら存在せず、個々の犬に合わせて手術のタイミングを見計らうというのが最善策となります。子犬の場合、まずは生後6ヶ月齢になる前の段階でかかりつけの獣医さんと相談しましょう。

避妊の適齢期・エビデンス集

 以下は、6~9ヶ月齢という慣習的な年齢(月齢)で手術を受けたグループと、それよりも早い段階で手術を受けたグループを比較した調査結果(エビデンス)です。手術のタイミングを決める際のヒントが含まれていますので参考にしてください。
早期不妊手術の影響
  • 1997年の調査1,213頭の犬と775頭の猫を対象として調査した所、24週齢以降に手術を行ったグループ(10.8%)は、12週齢未満のグループ(6.5%)よりも合併症が多かった。しかし12~23週齢のグループ(8.8%)とは統計的な差はなかった。早期の不妊手術が犬や猫の疾患率や死亡率を高めることはないと思われる 出典資料:Howe LM, 1997)
  • 2001年の調査動物保護施設に収容された269頭を対象に調査を行った所、24週齢(生後6ヶ月)未満で手術を施したグループでは感染症の発症率が高く、中でもパルボウイルスが多かった。逆に24週齢以降に手術を行った犬では消化管の障害が多かった。しかしこれらの違いは、調査が行われたシェルターの衛生レベルに差があっただけかもしれない。その後4年間の追跡調査を行ったが、早期グループにおいて問題行動や身体に関連したトラブルが多いという傾向は見出されなかった 出典資料:Howe LM, 2001)
  • 2004年の調査1,800頭を超える犬を対象とし、5.5ヶ月齢を境に不妊手術を施し、4~4.5年の追跡調査を行った。早期手術グループでは、股関節形成不全、騒音恐怖症、性的行動が増え、肥満、分離不安、逸走、恐怖時の粗相、飼い主による飼育放棄が減った。またメス犬では膀胱炎と尿失禁が多かった。最初の発情期を迎える前の避妊手術はメス犬の生殖器系の病気を劇的に減らしてくれるが、尿失禁を予防するためには、少なくとも3ヶ月齢になるまで待った方が無難と思われる出典資料:Spain, 2004)
2020年に行われた最新調査により、犬種や性別ごとに避妊手術を行うべき最適なタイミングが少しずつ異なることが明らかになっていますので、子犬の場合はまずは生後6ヶ月齢になる前の段階でかかりつけの獣医さんと相談しましょう。 犬種別の病気統計から導き出したベストな年齢
NEXT:メリットとデメリット

避妊手術のメリット・デメリット

 避妊手術は女性ホルモンの低下によってメス犬の体にさまざまな影響を及ぼし、メリットとデメリットの両方を生み出します。以下では、手術の効果やリスクに関してよく聞かれる質問をQ&A方式でご紹介します。根拠となる論文も合わせて紹介しますので参考にして下さい。

避妊の最大のメリットは?

飼い主のいない犬の数と殺処分数を減らすことです。

 2019年度(2019年4月~2020年3月)、4,584頭の成犬と、1,051頭の子犬が殺処分されました。こうした殺処分の背景には面白半分で犬を繁殖させ、生まれてから子犬の貰い手がいないことに気づき、「まぁいいや」という感覚でタバコの吸殻のように犬猫を捨ててしまう一部の飼い主の存在があります。
 犬は多産で多いときは一度に5頭以上生むこともあります。生まれてくる子犬全てに飼い主を見つけることができないのであれば、予め不妊手術を受けさせるのが不幸な犬猫の数を減らすことへとつながるのです。 犬の殺処分について

麻酔で死亡するリスクはある?

犬の性別や年齢に関わらずあります。

 北海道大学大学院・獣医学研究科を中心としたチームは2010年4月から2011年3月の期間、日本国内にある18ヶ所の二次診療施設で麻酔を受けた犬合計4,323頭を対象とし、麻酔に関連した死亡率を明らかにすると同時に、死亡率を高める危険因子を検証しました。「麻酔関連死=麻酔チューブを抜いてから48時間以内の死亡」と定義してカウントしたところ、全体における死亡率は0.65%(28/4,310頭)であることが判明したといいます。
 ただしこの死亡率は二次診療施設におけるものですので、大部分の避妊手術が行われる一次診療施設を対象とした場合は少し変わるかもしれません。なぜなら二次診療施設とは医療技術の専門性が高かったり特殊な医療設備を備えている病院のことですので、ここを訪れる犬はそもそも重症である可能性が高いからです。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 日本の二次診療施設における麻酔に関連した犬の死亡率と危険因子

マーキングは減る?

メス犬で顕著な変化は見られません。

 マーキングとは縄張りや自分の存在をアピールするため、なるべく高い場所におしっこを残そうとする本能的な行動。粗相とはトイレ以外の場所でおしっこをしてしまうことです。
 過去に行われた調査により、去勢手術を施したオス犬においては6割程度の確率でマーキングや粗相に改善が見られるものの、メス犬で同様の変化はなかったと報告されています。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の問題行動を増やすか?減らすか?

食欲や体重は増える?

手術後は太る可能性があります。

 国に関わらず避妊手術が体重減少につながるという報告はほぼなく、逆に手術後に太りやすくなるという報告が大多数を占めています。また犬種や体の大きさが肥満リスクに関係している可能性もあります。避妊後の摂取カロリーを15~20%ほど落とすよう指示されるのもそのためです。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の肥満の原因になるか?

寿命は伸びる?短くなる?

複数の調査が避妊手術を受けたメスの寿命が伸びると報告しています。

 過去に行われた複数の調査により、メス犬においては避妊手術によって寿命が伸びて長生きする可能性が示されています。卵巣や子宮に発生する致死的な病気が減ることにより、結果として長命になるのかもしれません。ただし平均寿命と健康寿命は同じ意味ではなく、長生きしたからと言って必ずしも犬が健康(=苦痛がない)とは限りません。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の寿命を伸ばすか?

ストレスは減る?

性衝動に関連したストレスは減ると考えられます。

 避妊手術によって卵巣を取り除くと、女性ホルモンに起因する性衝動(リビドー)が減少し、結果としてオス犬の誘惑、遠吠え、想像妊娠(偽妊娠)といった行動が減ったり、欲求不満などのストレスが軽減すると考えられます。ただしオス犬に比べると行動の変化はそれほど顕著ではなく、またペット犬で確認されているストレス軽減効果が、なぜか野犬では確認されないという報告もありますので、すべての犬に等しく当てはまるわけではないようです。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の問題行動を増やすか?減らすか?

尿もれは増える?

避妊によって尿もれのリスクが高まる可能性があります。

 メス犬においては不妊手術後に尿もれ(尿失禁=歩いているだけでチョロチョロおしっこが漏れてしまう状態)を発症しやすくなるという報告が多数あります。また膀胱炎やストラバイト結石の発症リスクも指摘されています。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の泌尿器の病気を減らすか?

噛み癖は治る?

よくわかっていません。

 避妊手術と攻撃行動の関係性を検証した調査では、手術によって増えるとか逆に減るといった報告が混在しています。それほどはっきりとした答えは出ていませんので、「噛み癖をしつけ直す方法」を読んだ方が早いでしょう。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の問題行動を増やすか?減らすか?

性格はおとなしくなる?

飼い主の感想レベルでそうした報告があります。

 「おとなしい性格」を数値化するのは難しいため、どうしても飼い主へのアンケート調査という形になりますが、手術後の性格が献身的、友好的、やさしいと評されるようになったという報告が一部にあります。ただしオス犬に比べると変化の度合いは小さいようです。また発情周期がなくなりますので、発情後期に見られる想像妊娠(偽妊娠)の頻度もかなり減り、結果として「落ち着きがなくなる」「自分の腹部をなめる」「営巣行動」「おもちゃをかわいがる」「近づくものに攻撃的になる」といった行動は減ると考えられます。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の問題行動を増やすか?減らすか?

無駄吠えはなくなる?

見知らぬものや人に吠えかかる頻度は増えるかもしれません。

 チューリッヒ大学のチームがメスのラブラドールレトリバー58頭を対象として行った調査では、避妊手術を受けたメス犬では騒音や見知らぬものに対する反応が大きい、見知らぬ犬(吠える・うなる・ジャンプする)に接近された時の反応が大きいという傾向が見られたと報告されています。また韓国・慶尚大学校の調査チームが14頭のジャーマンシェパードを対象として行った調査でも、手術済みのメス犬において防御性の鳴き声が高い頻度で見られたと報告されています。
 念のため「無駄吠えをしつけ直す方法」を読んでおいた方がよいかもしれません。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の問題行動を増やすか?減らすか?

トイレで足上げするようになる?

メス犬ではそれほど変わらないと考えられます。

 ニューヨーク・コーネル大学のチームはアメリカ国内の2ヶ所にある動物保護施設に収容された犬たちを対象とし、排尿行動の際に見られる足上げ行動を促す要因は何なのかを検証しました。その結果、中型犬や大型犬よりも小型犬において高い頻度が確認されましたが、避妊手術の有無によって頻度に変化は見られなかったといいます。
 避妊手術後、女性ホルモン濃度の低下によって行動が男性(オス)化し、足上げ放尿(RLU)を見せるようになることはないようです。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 おしっこをするときに後ろ足を上げやすい犬の特徴は?

がんのリスクは減る?

避妊によって非生殖器系の悪性腫瘍(がん)の発症リスクが低下するという報告は見当たりません。

 生殖器以外に発症するがん(悪性腫瘍)に関し、避妊手術によって発症リスクが低下するという報告は見当たらず、逆にほとんどはリスクが増加してしまう可能性を示しています。ただし避妊手術を受けたタイミングや犬の品種によって結果は変動し、また調査のほとんどはアメリカとイギリスの犬を対象としていますので、日本に暮らす犬にどれほど当てはまるのかはわかっていません。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の悪性腫瘍(がん)発症リスクを減らすか?

骨や筋肉の病気は減る?

避妊手術で筋骨格系疾患のリスクが低下するという報告は見当たりません。

 筋骨格系の疾患としては股異形成肘関節形成不全膝蓋骨脱臼変形性関節症(骨関節炎)、前十字靭帯断裂などがあります。過去にかなりの数の調査が行われていますが、残念ながら避妊手術によってこれらの怪我や病気のリスクが低下するという報告はないようです。
 避妊によって太りやすくなることのほか、骨端線の閉鎖が遅れ体が大型化することが一因ではないかと考えられていますが、はっきりしたことはわかっていません。避妊手術の時期に関し「大型犬と超大型犬に関しては最新のデータを参照すること」という保留的な態度をとっている獣医療組織があるのもそのためです。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の筋骨格系疾患を減らすか?

生殖器の病気は減る?

おおむね減ります。

 避妊手術によって卵巣を取り除くと、当然のことながら卵巣腫瘍(良性+悪性)を発症しなくなります。また子宮を取り除くと、同じ理屈で子宮蓄膿症子宮内膜炎、子宮がんを発症しなくなります。メス犬の寿命が手術によって長命化する理由は、生殖器に発生する致死性疾患の罹患率が減るからではないかと推測されています。一方、乳がんに対する予防効果をメタ分析した調査によると、エビデンスレベルはそれほど強くないようです。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の生殖器の病気を減らすか?

内分泌疾患は増える?減る?

避妊と副腎皮質機能亢進症との関係性が指摘されています。

 アメリカ・カリフォルニア大学の動物科学部チームは1995年から2010年の期間、同大学デイヴィス校に蓄積されたトータル90,090頭の犬の医療データを基にして、メス犬の避妊と遺伝性疾患との関連性を精査しました。
 内分泌系の疾患に限定した場合、避妊手術を受けたメス犬では副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の発症リスクが4.56倍であることが判明したといいます。ただしこれは単なる関係性であり、必ずしも「避妊→発症」という因果関係を示しているわけではありません。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 犬の不妊手術(去勢・避妊)と遺伝性疾患の発症リスク

免疫系疾患は増える?減る?

避妊といくつかの免疫系疾患の関係性が指摘されています。

 アメリカ・カリフォルニア大学の動物科学部チームは1995年から2010年の期間、同大学デイヴィス校に蓄積されたトータル90,090頭の犬の医療データを基にして、不妊手術と免疫系疾患の発症リスクに関する統計調査を行いました。
 免疫系疾患のオッズ比(OR=1より大きいほど標準より発症リスクが高い)に限定した場合、避妊手術を受けたメス犬においてはエリテマトーデス(OR2.64)、炎症性腸疾患(OR2.2)、免疫介在性血小板減少症(OR3.14)、甲状腺機能低下症(OR3.03)、クッシング症候群(OR1.49)、自己免疫性溶血性貧血(OR1.67)、アトピー性皮膚炎(OR2.24)だったといいます。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 犬の不妊手術(去勢・避妊)は免疫系疾患の発症リスクを高めるかも

認知症になりやすくなる?

よくわかっていません。

 オス犬とメス犬を比較した場合、メス犬の方が空間認識能力に優れているという報告がある一方、メス犬の方が2.4倍認知症を発症しやすいとか、避妊手術を受けた方が2.5倍認知症を発症しやすくなるといった報告があります。ただし不妊手術による影響はなかったという反証も併存しているため、現時点ではっきりしたことはわかっていません。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の認知症リスクに影響するか?

出血(おりもの)はなくなるか?

基本的にはなくなります。

 卵巣を切除すると発情周期自体がなくなりますので、特に発情前期~発情期に見られる性器からの血液混じりの排出物(おりもの)はなくなります。もし手術後に発情(ヒート)の徴候が見られ、なおかつ血液性の排出物が見られる場合は、手術の不手際による卵巣遺残症候群や子宮の感染症を疑わなくてはいけません。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 メス犬の卵巣遺残症候群~症状・原因から治療・予防法まで

卵巣切除術ではだめ?

子宮まで切除する必要はないとする報告もあります。

 避妊手術には卵巣だけを取り除く場合(卵巣切除術)と、卵巣と子宮の両方を取り除く場合(子宮卵巣切除術)とがあります。一般的には後者が行われますが、獣医師の中には子宮まで切除する必要はないと主張する人もいます。
 卵巣切除術を受けた犬69頭と子宮卵巣切除術を受けた犬66頭を対象とした追跡比較調査では、手術から8~11年の期間、どちらのグループも子宮内膜の肥厚や子宮蓄膿症を発症した犬はいなかったといいます。また卵巣切除術を受けた犬72頭を対象とした別の調査でも、術後10年間で子宮蓄膿症を発症した犬はいなかったとも。さらに子宮に発生する原発性の腫瘍を検証したところ、悪性腫瘍の発症率は0.003%という極めて低い数字だったそうです出典資料:DeTora, 2011)
 上記したようなデータから、卵巣さえ切除してしまえばそれに連動して子宮の病気もなくなるので、子宮はそのままでもよいという考えを持つ人が増えつつあります出典資料:Goethem, 2006)
いまだに避妊賛成派と反対派が混在している理由は、上記したようにメリットとデメリットが複雑に絡み合っているからです。そう簡単に答えは出ませんね。
NEXT:卵巣遺残とは?

卵巣遺残症候群の危険性

 卵巣遺残症候群(Ovarian remnant syndrome, ORS)とは、避妊手術で卵巣を除去したにもかかわらず、おなかの中に卵巣が残ってしまった状態のことです。ほとんどは手術を行った獣医師のミスや手違いですので、医原性疾患の一つに数えられます。
 避妊手術を施したにもかかわらず女性ホルモンの影響で発情周期が現れます。症状の具体的な内容は以下で、特に発情前期と発情期の症状が顕著に現れます。
卵巣遺残症候群の症状
メス犬で見られる卵巣遺残症候群の主な症状
  • 発情前期✓3~20日間(平均9日間)
    女性器の腫大・血液性の排出物(おりもの)・オス犬の拒絶
  • 発情期✓3~20日間(平均9日間)
    オス犬の誘引・遠吠え・交尾
  • 発情後期✓62~64日間(妊娠していない場合は60~80日間)
    乳腺の腫大・自分の腹部をなめたりかじる・泌乳(母乳が出る)・営巣行動(巣作り)・攻撃性の増加(近づくものに唸るなど凶暴になる)・活動性の低下・おもちゃやぬいぐるみを子犬のようにいたわる・体重増加
 手術からの経過時間には3ヶ月~5年後と幅があり、46頭のメス犬を対象とした調査では平均8.8ヶ月だったと報告されています出典資料:Miller, 1995)
 女性ホルモンの影響により長期的には乳腺炎乳がん子宮蓄膿症を発症するリスクが高まるかもしれませんので、少なくとも手術後1年程度はメス犬が見せる発情周期のサインにご注意下さい。詳しくは以下のページでも解説してあります。 メス犬の卵巣遺残症候群~症状・原因から治療・予防法まで

避妊の代わりになる方法

 避妊手術のメリット・デメリットでも解説したとおり、避妊によって改善が期待できる項目もあれば、逆に悪化の危険性を否定できない項目もあります。外科手術で卵巣や子宮を切り取ってしまうと、もう元に戻すことはできません。手術を行うべきかどうかわからない飼い主の中には、後悔しないよう薬剤による化学的避妊という選択肢に頼る人もいます。
 以下は代表的な避妊手術の代替法です。効果が100%でないとか薬による副作用があるなど、外科手術とは違ったデメリットがありますのでご注意下さい。またかかりつけの動物病院が対応しているかどうかは事前にご確認下さい。 Contraception and Fertility Control in Dogs and Cats

視床下部を狙った方法

 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は視床下部から分泌されるホルモンの一種で、生殖サイクルの維持に関わっています。男性では一定の頻度で分泌されますが、女性では月経周期によって頻度が異なり、排卵前に分泌量が急激に高まります。GnRHを狙った化学的避妊の目的は、体内における分泌リズムを崩すことです。
 現在「GnRH作動薬」「GnRH拮抗剤」「GnRH毒素抱合体」「GnRHワクチン」などの開発が進んでいます。なお薬の効果が切れると生殖能力は元に戻ります。

下垂体を狙った方法

 プロゲスチンをメスに投与すると、下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌が抑制され、結果として生殖能力が失われると考えられています。しかし糖尿病、乳がん、乳腺過形成、副腎皮質機能低下症などの副作用が出てしまうリスクが高まります。薬の効果が切れると生殖能力は元に戻ります。

免疫学的な方法

 免疫学的な方法は、メス犬の生殖器にだけ含まれるタンパク質を見つけ出し、それを選択的に異物として排除するような免疫機構をワクチンによって人為的に作り出すというものです。ターゲットタンパクには透明帯、卵子、黄体ホルモン受容器などがあります。まだ実験的な段階で、効果の個体差、ワクチンブレーク(十分な量の抗体が形成されない)、副作用(体の他の部位まで攻撃してしまうなど)があるため実用化には至っていません。
メリット・デメリットをよく読み、避妊手術を行うかどうか、もし行うとしたらいつ行うのがよいかをじっくり検討して下さい。オスに関しては「オス犬の去勢手術」で解説してあります。