トップ犬の繁殖犬種標準について

犬種標準について

 犬種標準(けんしゅひょうじゅん)とは文字通り、犬種ごとに定められた標準的な容姿(ようし)に関する規定のことです。「スタンダード」とも呼ばれますが、その内容は人間の側が恣意的(しいてき=おもいつきのまま実行すること)に決めたものといっても過言ではありません。

犬種標準の役割

  犬は犬種(けんしゅ)という一定の決まりによって分類されます。この決まりがないと犬は「黒い犬」・「ブチの犬」・「胴長の犬」などいう漠然とした表現しかできず、「ドーベルマン」・「ダルメシアン」・「ダックスフンド」など具体的なイメージを伴うピンポイントな表現はできません。
 犬種は具体的には犬種標準(けんしゅひょうじゅん)と呼ばれる見た目に関する細かな決め事によって定義されます。こうすることでたくさんいる犬を分類しやすくなり、また呼称もしやすくなってあらゆる場面でのコミュニケーションを円滑に進める役割を持ちます。
 例えばダックスフンドの犬種標準は以下のように細かく規定されていますが、定義を細かく決めることにより、 結果として分類や呼称を容易にするという辞典としての役割があります
ダックスフンドの犬種標準
  • 鼻筋は長く、鼻が大きい。鼻孔がよく開いて嗅覚が優れている。鼻色は黒だが、チョコレートの毛色のものはレバー。
  • アーモンド形で斜めについている。表情は豊か。色は黒が望ましい。両目の上の前頭骨に隆起がある。
  • くさび型で、スカル(頭部)はわずかにアーチを描いている。ストップ(両目の間のくぼみ)ははっきりしていない。
  • 付け根の位置は後頭部に近い。幅広く程よい長さで、前縁が頬に接して垂れ、美しい丸みを持っている。
  • 美しいアーチを描き、長くすっきりとしていて、頭部を誇らしげに保つ。デューラップ(喉の下のたれるほどのたるみ)は好ましくない。
  • わずかなアーチを持ち、短くしっかりと強い。
  • 付け根は背線の延長線上にある。長すぎず、カーブしすぎず、先細。あまり高く掲げてはならない。
  • マズル(口吻=鼻口部)は細長く、下あごは厚く力強く、唇は引き締まっている。歯の噛み合わせはシザーズバイト(上の切り歯の内側に下の切り歯の外側がわずかに接する)である。
  • 十分に発達している。骨端が突き出ているので、前から見ると長円形をしている。あばらはよく張って、腹部につながっているが、自由な動きができるよう、胴体と地面の間にほどよい間隔がなければならない。
  • 後方へ傾斜した肩甲骨は幅広く、胸部に接する。上腕骨と直角をなしている。
  • 前肢短く、前から見るとやや内側に傾いているが、横から見るとまっすぐ。胸の一番深いところについている。
  • 長く、筋肉がたくましい。キ甲(肩の間の背の隆起)から腰までの背線はできるだけまっすぐで、地j面に対し水平。
  • 幅広く、堅く握っている。まっすぐでやや外を向いており、パッド(足裏のふくらみ)は強くてしっかりとしている。爪は堅く暗色。
  • 後肢程よい長さの太腿が寛骨に直角についている。後から見ると直立している。
 このように犬種標準は体の各部に至るまで細かく規定されます。しかし、こうした人間の都合による好き勝手な取り決めに対し、眉をひそめる人がいることも確かです。たとえば、科学者のスティーブン・ブディアンスキー氏は著書「犬の科学」の中で、犬種標準のことを以下のように述べています。
 犬種標準はひどく恣意的で無原則である。2~3年ごとに変更されること自体、一種のインチキであり、少なくとも非常に自由裁量的であることを正直に示している。ほかのほとんどの分野に比べても、それはひどい。 犬の科学(築地書館, P282)
 また犬種標準と繁殖業者の関係を「自己完結的循環商法」という表現を用いて痛烈に揶揄しています。
 犬種登録協会はまず適当な標準を作り、それに基づいてチャンピオン犬とそうでない犬との差をつける。そして犬種標準を作った同じ人々が、実は繁殖業者であり、その標準に合った犬を繁殖する。こうして、犬種標準に適合した犬を求める人々に、自分たちが繁殖した犬を売りつけることができる。 犬の科学(築地書館, P282)
犬種標準についてトップへ

犬種標準の弊害

 犬種標準を細かく定義することにより、犬の分類がしやすくなるのは事実です。また標準として採用されている外見の中には、解剖学(かいぼうがく)的に考えて理想的と思われるものも幾つかあり(歯のかみ合わせや筋肉のつき方など)、繁殖する際のポイントとして重要となるでしょう。これが犬種標準の実利(じつり)的な側面といえます。しかし犬を飼う側としては犬種標準の裏側にあるもう一つの側面に目を向けることも、決して損ではありません。

犬に対する整形手術

 犬種標準の中では断尾や断耳、および狼爪の切除を標準としている犬種があります。断尾(だんび)・断耳(だんじ)とは文字通り耳と尾を人為的に切り落とすことで、狼爪(ろうそう)切除とは前足や後足の親指を意図的に切除することです。
 尾や耳は犬が感情を表す時の重要なコミュニケーションツールです。その肉体の一部を人為的に切り落とすことにいったいどういう意味があるのでしょうか?詳細は別ページに記載しましたので、犬の飼い主一人ひとりがその必要性に対する個人的なスタンスをお決めいただければと思います。 犬の断尾 犬の断耳 犬の狼爪切除

犬種標準と犬の内面性

 犬種標準は犬の外見的な特徴を規定しますが、その犬の内面性を証明してくれる保証書ではありません
 ペットショップで犬を購入する人の多くは「血統書付である」という点を重視しています。しかし血統書付であるということは、その犬が犬種標準で定める容姿に近いということを意味しているに過ぎません。犬の性格形成に大きな影響を及ぼしているのは、生後12週までの社会化期と呼ばれる時期における子犬の生育環境であり、血統書つきや犬種標準に近いという字面(じづら)のステータスではないのです。
 衝動的に犬を購入したものの、無駄吠えや噛み癖などの問題行動に愛想をつかし、最終的には保健所や動物愛護センターに「飼育放棄」という形で持ち込む人が依然として後を絶ちません。そういう人たちは心のどこかで、犬種標準や血統書の中に、犬の性格や行儀のよさに関する保証も含まれていると思い込んでいたのではないでしょうか? 子犬の社会化期 犬や猫の殺処分について  参考までに、ノーベル賞を受賞した動物学者コンラート・ローレンツ氏の言葉を引用しましょう。
「人イヌにあう」より抜粋
 犬の将来に純粋な関心をもっている飼い主の方々に質問を呈したい。体のつくりの点で流行のヘア・ドレッシングの成果とも言うべき均整の取れた犬よりも、よしんばずっと格好が悪くても、あの忠実で勇気のある犬の子をたった一回だけでも育ててみることは、試みるだけの価値があるとお考えになりませんか?

近親交配と遺伝病の問題点

 犬種標準の存在が、犬の遺伝病の温床となっているという側面は、残念ながら否定できません。
 一般の人は犬種標準に近い血統書付の犬を好む傾向があります。犬の繁殖を手がけるブリーダーたちの多くは、趣味で繁殖をやっているわけではないため、生活費を稼ぐためにある程度大衆に迎合する必要が生じます。しかし一部の心無い悪質なブリーダーの中には、犬種標準に近い外見を求めるあまり、親と子、兄弟姉妹同士の近親交配をして手っ取り早く犬種標準に近づけてしまう者がいるのです。
 人間界での近親交配が多くの国で禁止されているのは、同義的な問題以前に「病気や身体的な欠陥など、生活に支障をきたす遺伝子が発現する危険性が高まる」ということを長い歴史の中の経験則(けいけんそく)として知っているためです。しかし商品として扱われることの多い犬の場合、そうした暗黙の前提がいつの間にか無視され、結果的に犬種固有の遺伝病へとつながってしまったという歴史があります。
 金儲けを優先して犬の健康を後回しにしているブリーダーがいること、 「血統書付」で「犬種標準に近い」ということは外見を重視して近親交配されている可能性があること、血統書とその犬が同一のものであるかどうかを確認するすべが消費者の側にはないこと等、犬を飼う側で気をつけるべき点は多々あります。 犬の血統書について
雑種強勢
 雑種強勢(ざっしゅきょうせい)とは、同一種内のある特定の両親間から生まれた雑種の第一代目(F1雑種) が、両親よりも優れた特性を持って生まれてくる現象のことで、これには病気や環境に対する抵抗性なども含まれます。親子兄弟姉妹のような近似した遺伝子同士よりも、「赤の他犬」同士の方が発現しやすくなり、「雑種犬の方が健康だ」という風説の根拠になっています。

ブリーディングが引き起こす遺伝病

 2008年8月、イギリスの放送局BBC1は 「Pedigree Dogs Exposed」(邦題/イギリス 犬たちの悲鳴 ~ブリーディングが引き起こす遺伝病)という、ショーのために飼育された一部の犬を追ったドキュメンタリーをテレビで放送しました。この番組がきっかけとなって、犬種標準を決定しているイギリスケンネルクラブへの批判が高まり、結果として「長期目標としてすべての血統基準の見直しを行う」という動きにまで発展しました。以下は番組の要約と実際の映像(英語)です。
 番組内では、無理な繁殖によって生じた遺伝病として、ざっと以下のようなものが取り上げられています。ブルドッグなどは噛み合わせの悪い顎がよしとされているなど、犬の健康や福祉に配慮しているとは到底思えないような奇妙な規定がたくさんあります。
無理な繁殖による遺伝病
 また、犬種維持に関わるケンネルクラブやブリーダーの問題として、以下のような点が指摘されています。
繁殖する側の問題点
  • 犬種標準に合っていない子犬の「間引き」を奨励する
  • 犬種を維持するために親子の近親交配を奨励する
  • 近親交配の結果、遺伝病が高確率で発現するとわかっていても放置する
  • 見た目の審査のみで健康テストを行わない犬種登録テスト
  • 遺伝病をもつ親で交配を繰り返し、子孫に遺伝病を広めても悪びれないブリーダー
犬たちの悲鳴
 以下でご紹介するのは2008年8月、イギリスの放送局BBC1で放送された 「Pedigree Dogs Exposed」(邦題/イギリス 犬たちの悲鳴 ~ブリーディングが引き起こす遺伝病)の一部です。6分割されていますので、Part2以降は動画下に貼ったリンクをご参照ください。 Part1の元動画は⇒こちら
Part2⇒こちら Part3⇒こちら Part4⇒こちら Part5⇒こちら Part6⇒こちら
犬種標準についてトップへ