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犬の断尾

 犬の断尾とは犬のしっぽを根元、もしくは中間部から切り落として短くすることです。非常に古い歴史がありますが、現在でも数十の犬種が短い尾を持つことが理想的と規定され、断尾の対象となっています。一部にはややショッキングな映像が含まれますが、現実をオブラートで包むことはフェアではないという観点から、あえて掲載してありますのでご了承ください。

断尾の目的

プードルやシュナウザーなどはしっぽの短い腱主としておなじみであり、その姿に疑問を抱く人は少ないと思いますが、実は生まれつき短いしっぽを持って生まれるわけではありません。  その昔、ヨーロッパにおいては断尾が狂犬病を予防し、背中の筋力を強め、瞬発力を増加させ、ネズミ捕りや外敵と争う際の怪我を予防すると広く信じられており、犬のしっぽを切り落とすことが慣習化していました。またイギリスにおいては、ジョージ王朝時代(1714~1830)の始めころ、しっぽのついた犬に対して課税されたことから、節税目的で非常に多くの種類の犬が断尾の対象となったようです。1796年、この税は廃止されましたが、なぜか断尾の慣習だけは残りました。
 現在でもある特定犬種は断尾され続けています。では、ほとんどの犬がペットとして飼育されている現代における断尾の目的とは、いったい何でしょうか?

予防医学としての断尾

 犬は医学的な目的で断尾されることがあります。
 例えば、猟犬はしっぽを左右に振りながら深い茂みや藪の中を移動すると、途中でとげの付いた植物などと接触して擦り傷を作り、そこから何らかの感染症にかかる危険性があります。また牧羊犬は、家畜の群れを統率する際、牛やウマやヒツジにしっぽを踏みつけられて怪我を負うかもしれません。またしっぽは解剖学的に肛門の近くにあることからウンチがつきやすく、不衛生になるという側面もあります。
 こうした健康面に対する配慮から断尾を行う場合が、予防医学的観点からの断尾です。 犬が怪我をしないようにあらかじめしっぽを切ってしまうのが予防医学としての断尾です。  断尾に反対する人の多くは、以下のように予防医学目的の断尾を非難します。
 「実際に猟師に付き添って獲物を追いかける犬や、実際に牧場で羊や牛を統率する犬が、上記予防医学を目的とした断尾をするのならば、まだ筋が通る。しかし現状は、猟犬でもなければ牧羊犬でもない単なる家庭のペット犬が、なぜか慣習に従って断尾されている。これはいたずらに犬に対して苦痛を与えているだけではないのか?」

美容目的の断尾

 犬は美容目的で断尾されることがあります。
 犬種には、一般的に犬種標準(けんしゅひょうじゅん, スタンダード)と呼ばれる、その犬の理想的な姿を規定した基準があります。これは主として人間の側で恣意的(しいてき=好き勝手)に決めたもので、必ずしも犬の幸福につながるものではありませんが、この犬種標準に犬の姿を合致させるために断尾するケースがあります。これが美容目的の断尾です。
 ちなみに犬種標準に合わせて慣習的に断尾されている犬種のリスト(※別ウィンドウ・約50種)を載せます。 犬種標準に合わせてしっぽを切り落とすのが、美容目的の断尾です。  断尾に反対する人の多くは、以下のように美容目的の断尾を非難します。
 「犬のしっぽを切り落とすのは、犬種図鑑に載っている犬の姿に近づけるため。これはペットショップにおける売れ行きをよくするための"箔付け"行為であり、人間がお金儲けをするために犬の体の一部を切り落としているということ。自分の快楽のために犬に苦痛を強いるのは、動物虐待に相当するのではないか?」 犬種標準について
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断尾の方法

 断尾の方法には大きく分けて2つあり、一つは「結紮法」(けっさつほう)、そしてもうひとつは「切断法」(せつだんほう)です。
 一般的に、生後2~5日程度の子犬に対しては、ブリーダーや獣医師の手によって麻酔なしの断尾が行われます。麻酔を用いないのは生後間もない子犬は知覚が発達しておらず、痛みに対して鈍感である(このセクション後半で真偽を考証します)という考えを前提にしています。また生後8日を過ぎてからの断尾は、痛覚を始めとする知覚が発達し、手術によって多大なる苦痛を与えるという配慮から、子犬が8週齢になるまで待ち、全身麻酔下での手術が施されます。
犬の断尾手術の方法2種類
  • 結紮法 結紮法(けっさつほう)とは、しっぽをゴムバンドできつく締め付けて血流を遮断し、結び目以降の組織を壊死(えし)させて自然に脱落させる方法です。およそ3日でしっぽが脱落します。
  • 切断法 切断法(せつだんほう)とは、外科的にメスやはさみなどでしっぽを任意の場所で切り落とす方法です。
 さて先述しましたが、現状は「生後間もない子犬は知覚が発達しておらず、痛みに対して鈍感である」という説にのっとり、生後間もない子犬に対して麻酔なしで断尾を行うのが通例となっています。しかし果たしてこの説は、医学的に根拠のある真実なのでしょうか?それとも一部の医師やブリーダーが自分たちの行為を正当化するために作り出した、お手盛りの都市伝説なのでしょうか?次のセクションではこの風説について、最新の知見と共に考察していきます。
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子犬の感じる痛み

生後間もない子犬は痛みに対して鈍感であるという風説には、一体どの程度の信憑性があるのでしょうか?  近年は犬の痛覚に関する研究が進み、「生後間もない子犬は痛みを感じない」とする説に対する有力な反証が登場しています。以下では、「断尾推進派」と「断尾反対派」の対立図式を明記していきたいと思いますので、もし「ブリーダーに勧められたからなぁ・・」とか、「なんとなくしっぽが短い方がぴょこぴょこ動いてかわいいなぁ・・」とか、「図鑑に載っているプードルとしっぽの長さがちがうと、ちょっと違和感があるなぁ・・」といった安易な動機で断尾を考えている方がいるなら、ぜひ以下をご一読してから断尾の必要性をご判断ください。
未熟な状態で生まれると痛みを感じない?
  • 断尾推進派 犬や猫、人間は「晩成性」(ばんせいせい, altricial)といって、母親がいなければ生きていけないような非常に未熟な状態で生まれる動物。こうした晩成性の動物の神経系統は未熟な状態である。だから生後数日間は痛みを感じることができない。
  • 断尾反対派 確かに晩成性動物の神経系統は未熟ではあるが、それは神経線維を包み、刺激の伝達を早める「ミエリン」(髄鞘, ずいしょう)と呼ばれる構造が不完全であるというだけで、刺激の伝達は遅いが、痛み自体は脳に伝わっている。逆に、成犬には備わっている痛み抑制系の神経作用がないため、子犬は成犬よりも強い痛みを感じている可能性すらある(Robert K. Wansbrough-Australian Veterinary Journal Vol 74, No. 1, July 1996)。
     もし晩成性動物が痛みを感じないのであれば、子犬と同じように未熟な状態で生まれる人間の赤ん坊も痛みを感じないはず。しかし実際に赤ん坊が痛みを感じないなどという事実はなく、新生児はわずかな刺激に対しても痛みのリアクションを示す(Department of Pediatrics at the Washington University School of Medicine)。
断尾しても無反応な子犬は無感覚?
  • 断尾推進派 断尾してもまったく無反応な子犬がいる。キャーキャー泣かない子もいるし、寝ている間に断尾したら目を覚まさない子もいるくらいだ。これは子犬は痛みを感じていない証拠。
  • 断尾反対派 動物はえてしてストイックな側面を持っており、痛みを極限まで我慢することがある。これは泣き叫んだり怪我をしている姿を外敵に見られると、捕食されてしまうかもしれないという危険性を、本能的に察知しているから。断尾に対してリアクションを見せないことは、必ずしも子犬が痛みを感じていないことを意味していない(Robert Wansbrough)。
     断尾されたドーベルマン、ロットワイラー、ブービエデフランダースの子犬50匹を観察したところ、断尾後の反復的金切り声、そわそわした動き、長時間の「くんくん」という泣き声が観察された。これらは生後間もない子犬といえども痛みを感じているという証拠(Department of Companion Animals in Queensland)。
断尾後すぐにお乳を吸うのは無痛の証拠?
  • 断尾推進派 子犬を断尾したあとに母犬に戻すと、何事もなかったかのようにすぐお乳を吸い始める。自分のしっぽが切られたことなどすっかり忘れ去っているみたいだ。これは子犬が痛みを感じていない証拠。
  • 断尾反対派 子犬が母犬のお乳を吸うのは、痛みを緩和するため。お乳を吸うと脳内からエンドルフィンという痛みを緩和する脳内物質が放出される。子犬が母犬のお乳を吸うのは、「痛みを忘れた」からではなく、あくまでも「痛みをやわらげたい」から(Jean Hofve)。
 さて、上記したように断尾推進派と断尾反対派の意見はまっこうから対立しています。一体どちらの意見が正しいのでしょうか?文字だけではどちらが正しいのか判断がつきかねますので、以下では実際に断尾が行われる光景を映像としてご紹介しようと思います。ご自分の目で見た印象を、断尾に対するスタンスを決める際の一助にしてください。
【閲覧注意】犬の断尾(切断法)
 以下でご紹介するのは、犬の断尾をする瞬間の動画であり、一部の獣医師やブリーダーが日常的に行っている行為です。 一部の方にとっては刺激が強く、おそらく具合が悪くなると思いますので「閲覧注意」と予告しておきたいと思います。
  コーギーなど特殊な犬種を除き、ペットショップでしっぽの短い犬が売られている場合、こうした手術を経て店頭に並べられていると考えられます。麻酔を用いずにしっぽを切り落とす行為は「子犬は痛みを感じない」という説を免罪符にしているようですが、果たして本当に痛みを感じていないのでしょうか? 元動画は⇒こちら
 世界中の獣医師から構成される国際組織「世界小動物獣医協会」(WSAVA)が2014年に公開した「痛みの認識・評価・治療に関するガイドライン」の中では「生まれたばかりの動物が痛みを感じないというのはよくある誤解の一つである」と断言されています(→出典)。それでもなお「そんなの嘘っぱちだ!」というブリーダーや獣医師がいるのなら、よほど強力な証拠を示さない限り、もはや世間が納得してくれないでしょう。
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断尾のデメリットや悪影響

 近年は犬のしっぽに関する学術的な研究も蓄積され、安易に断尾することのデメリットが指摘されるようになってきました。以下では代表的な断尾のデメリットをご紹介します。

身体能力のデメリット

 1996年に発表されたロバート・ワンズボロー氏の研究の中では、断尾に関する身体能力面でのデメリットが指摘されました(→出典)。それには、ボディバランスをとる際の「舵(かじ)」としてのしっぽの働きがかかわっています。
 犬は水中を泳ぐ際、手足をばたつかせる(いわゆる犬掻き)と同時に、しっぽをゆらゆらと上手に動かすことによって推進力を作り出します。また犬は走っている最中、しっぽを細かく左右に動かすことによって微妙にボディバランスを保っています。
 しっぽにはこうした働きがあるため、断尾された犬はしっぽを保持している犬に比べ、平衡感覚や身体能力が劣ってしまうというのです。 しっぽは単なる飾りとしてついているのではなく、ボディバランスを保つためのバランサーや泳ぐときの舵としての役割があります。

社会性のデメリット

 2007年、ビクトリア大学院のステファン・リーバーさんの研究では、「犬のしっぽの長さが意思疎通のサインとして重要である」と結論付けています(→出典)。
 研究によると、断尾された犬に他の犬が近づこうとする際、警戒される傾向があるとのこと。理由は、断尾された犬にはしっぽによる意思疎通がないため、他の犬から「何を考えているかわからないやつ!」と判断され、敬遠されるからだと考えられます。またヴィクトリア大学の生物学者で、上記リーバーさんの研究の監督を務めたトム・リームチェン氏は、しっぽによる意思疎通が十分でない犬は、他の犬と交流する機会が減り、必然的に犬は非社会的、かつ攻撃的になる可能性がある、と指摘しています。
 犬のしっぽによるコミュニケーションに関しては犬のしっぽから心を読む訓練で詳述しました。予備知識を持ってみると、しっぽの無い犬が相手にうまく感情や気持ちを伝えることができない、という意見には確かにうなづける部分が多々あります。 しっぽが短い犬は、「得体の知れないやつ!」とみなされ、他の犬から蚊帳の外に置かれる可能性があります  ちなみに2016年に行われた調査では、断尾した犬の飼い主が「攻撃的で温かみがなく魅力に欠ける」と評価されることが多く、結果として社会的な交流が妨げられてしまう可能性が高いことが指摘されました。つまり断尾は、犬のみならず犬を連れた飼い主の社会性をも損なってしまうというのです(→詳細)。

医学的なデメリット

 しっぽは解剖学的に骨のほか筋肉や靭帯、腱や神経、血管が細かく配置されています。 それを切り落とすわけですから、それ相応の副作用やデメリットが生じるのは当然です。 ちなみに幻肢痛(げんしつう)とは、本来あるべき体の一部を失うと、その失った部位になぜか痛みを感じてしまう、という現象です(→出典)。人間でこの症状が確認されていることから、同じ神経系統を有する犬にも存在するのではないか、と近年危惧(きぐ)されるようになってきました。
断尾後の様々な後遺症
  • 傷口からの感染症
  • 過剰な出血
  • 切断部の幻肢痛(げんしつう)
  • 傷口の瘢痕化(繊維が過剰に再生してごわごわになる)
 さらに2016年、アフリカ・ナイジェリアにあるイバダン大学獣医学科のチームは、断尾の失敗によって子犬に多大な苦痛を与えた症例を報告しました(→詳細)。報告で取り上げられたのは、しっぽを壊死させる「結紮法」が失敗してしっぽの先が大きく膨らんでしまった子犬の症例です。 結束法の失敗により、しっぽの先端が大きく膨らんでしまった子犬  2015年度、日本のJKCで人気犬種TOP30に入っている犬のうち、一般的に断尾される「プードル」、「ミニチュアシュナウザー」、「ヨークシャーテリア」、「ウェルシュコーギーペンブローク」、「ジャックラッセルテリア」、「ミニチュアピンシャー」の登録頭数を合計すると約11万2千に達します(→出典)。全頭が断尾の対象となるわけではないものの、30位以下の犬種も含めると、単純計算で年間10万本近くのしっぽが何らかの方法で切り落とされていると推計されます。断尾費用を節約するため、ブリーダーが自らの手で行った断尾の失敗によって、苦痛を感じている子犬たちを全て表沙汰にしたとき、その総数は一体どのくらいに達するのでしょうか?不安で仕方ありません。
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断尾に対する各国の対応

 以下では、断尾に対する各国の対応について述べていきます。断尾に対する反対姿勢は、「ヨーロッパ > アメリカ > 日本」といったところです。

ヨーロッパにおける断尾

 ヨーロッパにおいては、「ペット動物の保護に関する欧州協定」(The European Convention for the Protection of Pet Animals)によって断尾の廃絶が推奨されていますが、これは「断尾とは犬に苦痛を与えるだけのまったく無意味な手技であり、残酷な改造である」という認識に根ざしています(→出典)。しかし協定に絶対的な強制力はなく、断尾を禁ずるかどうかは、最終的には署名国の判断に任せる、という裁量権が与えられた状態です。ヨーロッパで断尾を禁じている代表国のリストは以下(→出典)。
ヨーロッパにおける断尾禁止国
  • イギリス(北アイルランド除く)
  • エストニア
  • オーストリア
  • オランダ
  • キプロス
  • スイス
  • スウェーデン
  • チェコ
  • デンマーク
  • ドイツ
  • ノルウェイ
  • フィンランド
  • ベルギー
  • ポルトガル
  • ルクセンブルグ
 ヨーロッパの中でも特にイギリスでは「動物福祉法2006」(Animal Welfare Act 2006)を制定することにより、従来の動物関連法案を統廃合すると同時に、美容目的での断尾を厳しく制限しました(→出典)。 また、獣医師を養成する王立大学である「Royal College of Veterinary Surgeons」でも、1992年11月に倫理ガイダンスを発表し、「医療目的以外で行われる断尾はきわめて不当な解剖であり、到底容認できるものではない」と明言した上で、会員となっている獣医師たちにも断尾を引き受けないよう促しています(→出典)。

アメリカにおける断尾

 犬種標準を統制している「アメリカン・ケンネルクラブ」(AKC)は以下のような正式な声明文を発表しています(→出典)。
断耳、断尾、狼爪の除去に関して
 アメリカンケンネルクラブとしては、ある種のスタンダードで記述されているような断耳、断尾、狼爪の除去に関して、犬種の特徴を定義づけたり保存したりする上で、あるいは犬の健康を促進する上で容認しうる慣習だと考えます。適切な獣医学的なケアはなされるべきでしょう。
 上記したとおり、AKCは断尾に対して容認の姿勢を示しています。それに対し、以下はAVMA(全米獣医師協会)の正式な声明文です(→出典)。
AVMAの公式声明文
 全米獣医師協会は、美容だけを目的とした断耳、断尾に異を唱え、犬種標準から断耳、断尾の記述を削除することを求めます。
 このようにアメリカ国内では利害の対立するアメリカン・ケンネルクラブと全米獣医師協会同士が、互いの主張をぶつけあっている状況です。ちなみにアメリカ全土で750以上の病院をもつ大手の動物病院チェーン「Banfield Pet Hospital」では、独自の見解から全ての診療所における断尾手術を禁止しています(→出典)。
 国家レベルでは、ニューヨーク州やバーモント州など、一部の州では断尾を違法化しようという動きを見せていますが、全米のほとんどの州ではいまだに断尾が無規制の状態です。イギリスを始めとするヨーロッパ諸国に比べると、やや対応が立ち遅れているという感を否めません。

日本における断尾

 日本において犬種標準を統制している「ジャパン・ケンネルクラブ」(JKC)はAKC同様、断尾に対して反対の姿勢は見せていませんが、犬種標準書内では断尾に関する記述に若干の改正が加えられているようです(→出典)。
 一方、国家レベルでは、動物に関連する法令として「動物の愛護及び管理に関する法律 」(通称:動物愛護法)があります。例えば以下は動物愛護法の基本原則(第2条)からの引用です。
動物愛護法の基本原則(第2条)
 動物が命あるものであることにかんがみ、何人(なんぴと)も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、 人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
 このように、漠然と「動物を傷つけてはいけない」としているものの、明示的に断尾を禁止する条文はどこにも見当たりません。よって、断尾手術を行うかどうかは、「小動物医療の指針・第11項」にのっとり、最終的に担当獣医師と飼い主の判断に任されます(→出典)。
小動物医療の指針・第11項
 飼育者の都合等で行われる断尾・断耳等の美容整形、あるいは声帯除去術、爪除去術は動物愛護・福祉の観点から好ましいことではない。したがって、獣医師が飼育者から断尾・断耳等の実施を求められた場合には、動物愛護・福祉上の問題を含め、その適否について飼育者と十分に協議し、安易に行わないことが望ましい。しかし、最終的にそれを実施するか否かは、飼育者と動物の置かれた立場を十分に勘案して判断しなければならない。
 2012年11月、一般社団法人日本小動物獣医師会に在籍する獣医師3,878人に対し、美容を目的とした断尾断耳の実施状況についてアンケート調査が行われました。その結果、回答率は9.2%(357人)と低く、断尾を実施している人が237人(66.6%)、実施していない人が119人(33.4%)という結果になったといいます。また実施している獣医師にその理由を尋ねたところ、以下のような回答が得られました。 獣医畜産新報Vol68(文永堂出版)
断尾を行う理由(回答者157名)
日本の獣医師で、断尾を実施している人の割合と実施する理由
  • 繁殖者や飼い主の依頼(42.7%)
  • 犬種標準としての必要性(14.0%)
  • 疼痛が少ない(13.4%)
  • 販売や流通に有利(11.5%)
  • 獣医師側の理由(5.1%)
  • 健康管理のための必要性(3.2%)
  • 断ると飼い主が行う(3.2%)
  • その他(7.0%)
 「疼痛が少ない」という考えがいったい何に基づいているのかは不明ですが、痛みのリアクションをあまり見せなかった少数の実例から、世界中に存在している約5億頭すべての犬は尻尾を切っても痛みを感じないと拡大解釈している可能性があります。「販売や流通に有利」という回答は、テレビや雑誌、犬種図鑑などでよく見かける犬の姿と同じでなければ子犬の売れ行きが悪くなるという現象のことを言っているのでしょう。「獣医師側の理由」には「麻酔なしで行える」とか「手技が簡便である」などが含まれます。子犬の痛覚は鈍感だから尻尾を切り落としても構わない、という極めて安易な思い込みを抱いていることが伺えます。
 深い思慮がないまま、単なる惰性で断尾を行っている獣医師がもしいるのだとしたら、日本獣医師会が掲げる「獣医師の誓い-95年宣言」(→出典)を今一度思い出し、「良識ある社会人としての人格と教養を一層高めて、専門職としてふさわしい言動を心がける」とか「獣医学の最新の知識の吸収と技術の研鑽、普及に励み、関連科学との交流を推進する」といった項目を順守してもらいたいものです。
 さて、個人レベルでは、断尾をどのようにとらえているのでしょうか?ペットショップで売られている子犬のしっぽが短いのを見て、「生まれつき短いのではなく、実はブリーダーや獣医師が犬種標準に合わせるためにカットしているのかもしれない」という知識をもっている人がどの程度いるのでしょうか?詳しい統計がないので何ともいえませんが、ひょっとすると「断尾ってなに?!」というレベルなのかもしれません。せめて愛犬家の基本として以下のポイントくらいはおさえておきたいところです。
愛犬家として考えておきたい断尾の側面
  • ペットショップやブリーダーの販売している犬にはたいてい血統書と呼ばれる、「たしかにこの犬は犬種標準を満たしていますよ」という証明書がついている。
  • 犬にこの血統書をつけるためには、基本的に犬種の持つスタンダードに容姿を合わせる必要がある。
  • 短いしっぽがスタンダードとして規定されている犬種(※別ウィンドウ・約50種)は、子犬のころにブリーダーが断尾してしまうことが多い。
  • ブリーダー断尾を行うのは、子犬を犬種図鑑に載っている犬の姿に近づけることで売値を上げるためかもしれない。また、一部の獣医師やブリーダーが主張する「子犬は痛みを感じない」という説には、鵜呑みにできない部分がある。
  • 血統書がつくと売値が上がるのは、血統書というものになんとなく付加価値を感じ、高い料金を払ってくれる消費者がいるため。
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