トップ犬の整形手術犬の断耳

犬の断耳

 断耳(だんじ, ear cropping)とは、主として外観を犬種標準(スタンダード)に合わせることを目的として行われる外科手術で、犬の耳を大部分にわたって切除することです。一部にはややショッキングな映像が含まれますが、現実をオブラートで包むことはフェアではないという観点から、あえて掲載してありますのでご了承ください。

断耳の目的

 歴史的に見て、犬の耳がカットされるようになった背景には、実用的な側面があるようです。時を経るにしたがってその目的は薄れて(もしくは完全になくなって)いるにもかかわらず、なぜか「断耳」という慣習だけは残り、惰性的に存続している、というのが現状です。

断耳のかつての目的

 断耳が行われるようになったのは、狩猟犬や牧畜犬が、熊や狼などの外敵と争ったとき、噛み付かれて致命傷を負わないようにというのがそもそもの理由だったといわれています。犬同士が争う「闘犬」や、犬と熊とを戦わせる見世物である「ベア・ベイティング」(牛と戦うときは”ブル・ベイティング”)用の犬なども、同じ理由で断耳の対象となっていました。ちなみに体が大きくて獰猛そうな犬が、とげの付いた首輪をつけている姿をステレオタイプとしてたまにみかけますが、これは外敵が首に噛み付かないようにするという断耳と似たような目的を持っています。 犬投資とを戦わせるブルベイティングなどにおいては、犬の怪我を予防するために断耳が行われました。  当時の断耳は、子犬が6週齢くらいのときに行われ、よく研いだ刃物でキツネのように先がとがった形状にしたり、クマのように丸みを帯びた形状に整形したようです。あるいは生まれたてのころに手でねじり切るという荒っぽい方法もありました。この場合は頭部に耳がまったく残らず、耳の穴がじかに観察できるような状態になります。
 ちなみに断耳について文献に登場したのは1678年、フランスのジャン・ド・ラ・フォンテーンが著した「Fables」の中においてだといいますから、歴史の古さがうかがえます(→出典)。

現代における断耳の目的

 1800年代に入り、イギリスを中心として犬のあるべき姿を定めた犬種標準(スタンダード)が登場すると、断耳は本来持っていた実用的な目的を失い、この犬種標準と呼ばれる規定に合わせるためだけに行われるようになりました。
耳の立っている犬は、必ずしも生まれつきそのような形状を持っているわけではありません。  現在でも犬種によっては惰性的(だせいてき)に断耳が行われていますが、一部の人は「断耳することで感染症(耳の中がむれて虫や雑菌が繁殖する)を予防」したり、「犬の聴覚を高める」と主張しているようです。しかしこの主張には明確な統計や医学的な根拠があるわけではありません。ちなみに断耳が規定されている代表的な犬種は以下です。
断耳が規定されている犬種
 一部のブリーダーは「断尾や断耳はその犬種の完全性と美しさを実現するために必要である」という考え方を信奉しています。しかし2016年に行われた調査では、断耳した犬が「攻撃性と支配性が高く、遊び好きでなく、魅力に乏しい」と評価される可能性が高いことが指摘されました(→詳細)。また、断尾や断耳を施された犬の飼い主は「攻撃的で温かみがなくナルシストである」と評価される傾向にあったとも。つまり「完全性」や「美しさ」のために行っているはずの断耳手術が、逆に犬の魅力を引き下げているというのです。ブリーダーが言う「完全性」の中には、果たして犬や飼い主の評価を下げるということも含まれているのでしょうか?
犬の断耳トップへ

断耳の方法

 断耳は美容耳形成術(cosmetic otoplasty)とも呼ばれ、7~12週齢のころに行われるのが一般的です。14週齢(人によっては16週齢)を過ぎてから行うと犬の知覚が発達しすぎて過剰な痛みを与えてしまうこと、および軟骨が成長して耳の整形が難しいことなどから、施術が避けられます。
断耳後の犬は耳を包帯などで固定され、軟骨が固まるまで安静を余儀なくされます。  方法は、全身麻酔をかけられた上で耳介の2/3以上が切り取られ、切断縁は縫いこまれたり医療用粘着液で糊付けされます。耳がぴんと立つまで金属製の副木などとともに包帯で固定されますが、包帯が取れるまでには最低で3週間、長いときは8週間は必要です。また手術後の出血や痛みのコントロールをするため、最低一日以上の入院が必要となり、感染症を防ぐため、手術後の数週間は1日数回、消毒のためにケアをする必要があります。
 耳の「立ち」に関しては、ピットブルやシュナウザー種など最初から小さな耳をもった犬種のほうが、ドーベルマンボクサーグレートデンなどよりも早く完了します。しかし全ての犬において立ち耳が成功するわけではなく、失敗した場合は再手術が施されることもあります。また、一般的な断耳に伴うリスクや副作用は以下です。
断耳に伴うリスク
  • 麻酔の副作用
  • 麻酔が切れてからの痛み(数週間)
  • 傷口からの感染
  • 傷口の瘢痕化(ひっかいてごわごわになる)
  • トラウマの形成
 なお、ブリティッシュコロンビア大学の心理学教授でドッグトレーナーでもあるスタンレー・コレン氏は、生まれつき垂れ耳の犬や断耳された犬は、生まれつき立ち耳の犬に比べて耳を動かす能力が劣るため、適切なコミュニケーションをとることができないとする意見を述べています。犬の耳によるコミュニケーションに関しては犬の顔から心を読む訓練で詳述しましたが、もしコレン氏が述べるように、断耳を受けた犬が、他の犬と健全な関係を築けないとすれば、そのこと自体がリスクの一つともいえます。
【閲覧注意】犬の断耳手術
 以下でご紹介するのは犬の断耳手術の模様です。出血シーンがあり、一部の方には刺激が強すぎるため「閲覧注意」とさせていただきます。 頭の中で想像するのと、実際に自分の目で見るのとでは、時として大きなギャップがあります。断耳の必要性を考慮する際の一助にしてください。 元動画は⇒こちら
犬の断耳トップへ

断耳に対する各国の対応

 以下では断耳に対する各国の対応について述べていきます。断耳に対する反対の姿勢でいうと「ヨーロッパ > アメリカ > 日本」という感じです。

ヨーロッパにおける断耳

 ヨーロッパにおいては、「ペット動物の保護に関する欧州協定」(The European Convention for the Protection of Pet Animals)によって断耳の廃絶が推奨されており、同協定を批准した多くの国においてすでに禁止されています(→出典)。以下はヨーロッパにおける断耳禁止国のリストで、カッコ内は禁止年を表します(→出典)。
ヨーロッパにおける断耳禁止国
  • イギリス(1899)
  • スコットランド(1899)
  • ノルウェー(1987)
  • スウェーデン(1989)
  • ルクセンブルグ(1991)
  • ドイツ(1992)
  • デンマーク(1996)
  • フィンランド(1996)
  • スイス(1997)
  • ポーランド(1997)
  • オランダ(2001)
  • フランス(2003)
  • オーストリア(2005)
 また以下は、「ペット動物の保護に関する欧州協定・第10項」に記された、断尾を始めとする美容目的の外科手術に対する署名国のスタンスです。
ペット動物の保護に関する欧州協定・第10項
 単にペットの外見を変えるだけで治療的な目的をもたないような外科手術は禁止されるべきである。特に
  • 断尾
  • 断耳
  • 声帯切除
  • 猫爪の切除・牙の抜歯
 これらの禁止事項に例外があるとすれば、医学的な理由や、当該ペット動物の利益を考慮し、獣医が手術を必要と認めたとき、および繁殖制限するときのみに限る。動物が多大なる苦痛を味わうような手術を行う際は、獣医本人、もしくは獣医立会いの下、麻酔をかけて行うこと。麻酔が必要とされない手術は、国家資格を有する者のみが行うこと。

アメリカにおける断耳

 アメリカにおいては、手術中や手術後の痛みに対する憂慮から、手術に反対する人が増えてきています。アメリカのほとんどの獣医学部では、そもそも断尾と断耳をカリキュラムとして取り入れておらず、マスターしようとする場合は実地で学ぶしかありません。また「全米獣医師協会」(American Veterinary Medical Association)は、単なる美容目的での断尾や断耳には反対の姿勢をはっきりと示しており、犬種標準から断尾や断耳自体を削除するようアメリカンケンネルクラブや各種犬種協会に呼びかけています。しかし、当のアメリカンケンネルクラブ、およびカナディアンケンネルクラブが犬の健康と伝統を盾にして断耳を許容していることから、アメリカ国内、およびカナダにおいては今なお断耳は広く行われているのが現状です。犬種標準を統制している「アメリカン・ケンネルクラブ」(AKC)は以下のような正式な声明文を発表しています(→出典)。
断耳、断尾、狼爪の除去に関して
 アメリカンケンネルクラブとしては、ある種のスタンダードで記述されているような断耳、断尾、狼爪の除去に関して、犬種の特徴を定義づけたり保存したりする上で、あるいは犬の健康を促進する上で容認しうる慣習だと考えます。適切な獣医学的なケアはなされるべきでしょう。
それに対し、以下はAVMA(全米獣医師協会)の正式な声明文です(→出典)。
AVMAの公式声明文
 全米獣医師協会は、美容だけを目的とした断耳、断尾に異を唱え、犬種標準から断耳、断尾の記述を削除することを求めます。
 ちなみにアメリカ全土で750以上の病院をもつ大手の動物病院チェーン「Banfield Pet Hospital」では、独自の見解から全ての診療所における断耳手術を禁止しています(→出典)。
 国家レベルでは、ニューヨーク州やバーモント州が断耳の禁止を法制化する動きを見せていますが、国全体としては規制が行き届いていない状況です。

カナダにおける断耳

 カナダ国内における犬種標準を監督する「カナディアンケンネルクラブ」(Canadian Kennel Club)は断耳に対して容認の姿勢を示しています(→出典)。しかし動物愛護の観点から断耳を禁止しようとする州もあるようです。たとえば「アトランティック・カナダ」と呼ばれるカナダ東部4州がすでに断耳を条例で禁じており、さらに2012年2月10日、西部の州としては初めてマニトバ州(Manitoba)の獣医師協会も、断耳を禁止すると発表しました。同協会は声明で、こうした整形手術は「イヌ科の動物には不必要で、医学的なメリットはなく、痛みやストレスを与えるものだ」と非難しています。なおカナダでは他に、ブリティッシュコロンビア州(British Columbia)とアルバータ州(Alberta)も同様の条例制定を検討中とのこと。

日本における断耳

 日本における犬種標準を管理する「ジャパン・ケンネルクラブ」(JKC)はAKCと同様、断尾や断耳に対して容認する姿勢をとっています(→出典)。JKC主催のドッグショーなどでは、犬種標準どおりの姿をした犬を多く見かけます。また日本における動物関連法令である「動物の愛護及び管理に関する法律 」(通称:動物愛護法)の中にも、明示的に断耳を禁止する条項は見当たりません。
 現状は、断耳手術が適用される週齢が7~12週と比較的遅いことから、断耳するかどうかは飼い主の判断にゆだねられることが多いようです。しかし最近では動物愛護の観点やクレーム回避のために、こうした美容目的の手術を断る病院も増えているとか。ちなみに日本獣医師会の「小動物医療の指針・第11項」においては以下のように規定されており、最終判断は獣医師と飼い主両者の裁量に任されています(→出典)。
小動物医療の指針・第11項
 飼育者の都合等で行われる断尾・断耳等の美容整形、あるいは声帯除去術、爪除去術は動物愛護・福祉の観点から好ましいことではない。したがって、獣医師が飼育者から断尾・断耳等の実施を求められた場合には、動物愛護・福祉上の問題を含め、その適否について飼育者と十分に協議し、安易に行わないことが望ましい。しかし、最終的にそれを実施するか否かは、飼育者と動物の置かれた立場を十分に勘案して判断しなければならない。
 2012年11月、一般社団法人日本小動物獣医師会に在籍する獣医師3,878人に対し、美容を目的とした断尾断耳の実施状況についてアンケート調査が行われました。その結果、回答率は9.2%(357人)と低く、断耳を実施している人が42人(11.8%)、実施していない人が315人(88.2%)という結果になったといいます。また実施している獣医師にその理由を尋ねたところ、以下のような回答が得られました。 獣医畜産新報Vol68(文永堂出版)
断耳を行う理由(回答者16名)
日本の獣医師で、断耳を実施している人の割合と実施する理由
  • 繁殖者や飼い主の依頼(43.8%)
  • 犬種標準としての必要性(37.5%)
  • 健康管理のための必要性(6.3%)
  • その他(12.5%)
 「犬種標準としての必要性」の中には、犬種図鑑に載っているのと同じスタイルにしなければ売れ行きが悪くなるといった意味合いも含まれていると考えられます。「健康管理のための必要性」が一体何を意味しているのかは不明ですが、おそらく耳の中で蒸れて外耳炎を起こしやすいとか耳ダニが繁殖しやすいといった状況を想定しているのでしょう。「その他」の中には、「単純に儲かるから」とか「新規顧客を獲得するきっかけになる」といった項目が含まれてるかもしれません。
 深い思慮がないまま、単なる惰性で断耳を行っている獣医師がもしいるのだとしたら、日本獣医師会が掲げる「獣医師の誓い-95年宣言」(→出典)を今一度思い出し、「良識ある社会人としての人格と教養を一層高めて、専門職としてふさわしい言動を心がける」とか「獣医学の最新の知識の吸収と技術の研鑽、普及に励み、関連科学との交流を推進する」といった項目を順守してもらいたいものです。
 断耳犬種をパートナーとして迎える飼い主としては、漠然とではなく、少なくとも「断耳手術とはどのようなことをするのか?」を具体的に知った上で、果たして我が家の犬に必要なのかどうかを勘案したいものです。「ブリーダーに強く勧められた」、「図鑑に載っている姿と違い、なんとなく違和感がある」、「耳掃除が楽になりそう」、「犬種標準に沿っていないと、ニセモノみたいで恥ずかしい・・」といった人間主体の手術目的には、果たして犬に対して数週間に及ぶ苦痛と不愉快を強いるだけの価値があるのかどうか、という熟考が必要でしょう。
 すでに手術が施された状態の子犬を迎えた飼い主の中には、「ドーベルマンやシュナウザーの耳は生まれつき立っているものだ」、と思い込んでいる人もおり、実際の手術内容を聞かされて驚きや後悔の念を示す人もいます。こうした不毛な後悔を避けるためにも、断耳の存在意義を多角的に考えたいものです。 犬の耳・聴覚 犬の耳のケア 犬種標準について
犬の断耳トップへ