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犬の不妊手術

 オス犬の去勢(きょせい)手術、メス犬の避妊(ひにん)手術を合わせて不妊手術といいます。興味本位の繁殖でもらい手のいない子犬を増やしてしまう一部の飼い主が後を絶ちません。 不幸な子犬を減らすには、まず不妊手術を施すことが第一の選択肢となります。

犬や猫の殺処分について

ペットブームの影には、安易で無計画な繁殖による犬猫の殺処分という暗い問題が散見しています。  平成27年度、12,362頭の成犬と、3,449頭の子犬が殺処分されました。こうした殺処分の背景には面白半分で犬を繁殖させ、生まれてから子犬の貰い手がいないことに気づき、「まぁいいや」という感覚でタバコの吸殻のように犬猫を捨ててしまう一部の飼い主の存在があります。犬は多産で多いときは一度に5匹以上生むこともあります。生まれてくる子犬全てに飼い主を見つけることができないのであれば、予め不妊手術を受けさせるのが不幸な犬猫の数を減らすことへとつながるのです。
 ちなみに動物愛護センターや保健所に保護された捨て犬や捨て猫は、一定期間を置いた後(原則3日間)都道府県によってまちまちですが、5~20分かけて窒息死させます。一昔前はバットによる撲殺(ぼくさつ=脳天をバットで叩き割ること)、また劇薬(げきやく=硝酸ストリキニーネ)を用いた毒殺(どくさつ)が主流でしたが、コストや職員の安全性を考慮して現在は炭酸ガスによる窒息死(ちっそくし)が採用されています。こうした犬や猫を窒息死させる設備は通称「ドリームボックス」などと呼称されています。これは眠るように安らかに旅立てるという意味合いのようですが、酸素が薄れていく状態を「安楽」と表現するのは、かなり乱暴な気もします。 犬や猫の殺処分について
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オス犬の去勢手術

  新しい子犬を飼う時間や経済的な余裕がない場合は、犬の計画外妊娠を避けるために不妊手術をすることがあります。 オス犬の場合は去勢手術(きょせいしゅじゅつ)といって精巣(せいそう)の摘出を行います。犬の生殖能力を人間の勝手な判断で奪うことに対する道義的な問題もありますが、無計画で生まれた子犬が捨てられたり、毎年何万頭も殺処分されている事実と差引勘定してご決断下さい。 オス犬の去勢手術では精巣の摘出が行われます

去勢手術はいつ行うのがベストか?

 性的に成熟してマーキング(片足を上げて高い位置に自分のおしっこをかける行動)を始める前に行うことが多いようです。マーキングする割合が激的に減少します。マーキングを始める前の生後6ヶ月までに獣医師とご相談下さい。また手術の適齢期に関する理論的根拠は「不妊手術の適齢期はいつ?」にも記載してありますのでご参照ください。

去勢手術の手順は?

 オス犬の去勢手術は一般的に以下のような流れに沿って行われます。
  • 予約去勢手術を決断したら、手術希望日の約1週間前から予約を取ります。
  • 手術前日手術前日の夕方に餌を与えて以降は絶食します。ただし水は与えても結構です。獣医師から特別な指示がある場合はそれに従います。
  • 手術直前排便・排尿を済ませて手術に望みます。手術は短時間で終わり、日帰りや1日入院程度で退院することができます。
  • 手術後手術から7~10日後に動物病院に連れて行き抜糸してもらいます。抜糸後約1週間は入浴できません。なお最近は抜糸のないパターンもあります。

去勢手術の費用や期間は?

 去勢手術の料金は、10,000~25,000円程度が一般的です。2015年のデータでは、中央値が「17,675円」となっています(→出典)。ただし地域や病院によって料金は変動しますので、詳細はかかりつけの獣医師にご相談下さい。また手術の期間は、日帰りでもできますが、1日入院させて落ち着いてから退院というケースもあります。

去勢手術のメリットとデメリット

 去勢手術がその犬にとってプラスになるのかマイナスになるのかを最終的に判断するのは飼い主です。そのためには、去勢手術がもたらす両側面についてある程度の知識を持っていなければなりません。以下は、現段階で分かっている様々な影響のリストです(→出典1出典2出典3出典4)。犬種によっては当てはまらなかったり、最新の調査報告によって変更が加えられる可能性もありますが、参考までに記載しておきます。
去勢手術の影響・目次

去勢手術のメリット

 以下は、オス犬に去勢手術を施すことによって予防や改善が見込める項目のリストです。
  • 望まない妊娠 殺処分される犬のうち、およそ11%が離乳前の子犬だとされています。去勢手術によって生殖能力をなくしてしまえば、こうした不運な子犬の数を確実に減らすことができます。
  • 飼育放棄 過去に行われた複数の調査では、不妊手術を受けていない犬や猫の方が、飼育放棄される割合が高いとされています。去勢手術によって性腺ホルモンを減少させれば、マーキングやオス犬同士の喧嘩といった問題行動が減り、結果として飼い主による飼育放棄も減ると考えられます。
  • 生殖器の悪性腫瘍 オス犬における精巣腫瘍の発症率は16~27%程度で、その多くは多発性とされています。去勢手術を受けなかった場合、精巣はガンの発生部位として2番目に多いとか、精巣が正常な位置に降りてこず、腹部にとどまったままになる停留精巣では腫瘍がガン化するリスクが10倍近くに高まるといった報告もあります。去勢によって精巣を取り除いてしまえば、こうした病変自体がなくなります。
  • 前立腺の疾患 良性前立腺肥大の発症率は、7歳未満で15~40%、7歳以上で60~100%と推計されています。また去勢手術を受けていないオス犬の28.5%では前立腺炎を発症するとされています。前立腺の障害を抱えている犬では会陰ヘルニアが再発しやすいと言われていますが、いずれの疾患も去勢手術によって劇的に発症率を下げることができます。ただし前立腺ガンと去勢手術の関係性に関してはよくわかっていません。
  • 肛門周囲瘻 肛門嚢炎に続発する形で発症する肛門周囲瘻は、オスの方がメスより2倍多く、そのうち86%が去勢していない犬だとされています。一般的に去勢手術によって発症率が下がると考えられています。
  • ストレスの軽減 オスの性欲の中枢は、脳内にある視床下部前方と下垂体という部位だと考えられています。下垂体から分泌されたホルモンがオスの精巣に働きかけてテストステロンという性ホルモンの分泌を促し、最終的に性衝動を生み出すというのが、現在想定されている生理学的なメカニズムです。極端な空腹、のどの渇き、性的な欲求不満は動物の怒りシステムを発動させ、多大なストレスを生み出すことが確認されていますので、去勢手術によって精巣を取り除いてしまえば、欲求不満の源となる性欲自体がなくなり、結果的にストレスの軽減につながると考えられます(→出典)。
  • 問題行動 精巣から分泌されるテストステロンはオスの攻撃性や社会的優位性に対する欲求の生成にも関わっていますので、去勢手術をすればオス同士の喧嘩と言った問題行動が減ってくれるものと期待されます。去勢手術を施したオス犬では、徘徊行動が90%、オス犬同士の攻撃行動が62%、マーキングが50%、マウンティングが80%減少したというデータもあります。

去勢手術のデメリット

 以下は、オス犬に去勢手術を施すことによって悪化する危険性がある項目のリストです。
  • 骨肉腫 骨肉腫の発症率は犬全体で0.2%、リスクの高い大型犬種では4.4~6.2%に達するとされています。1歳になる前に不妊手術を受けると発症率が高まり、手術を受けていない期間が長ければ長いほど発症リスクが低下するとされています。しかし手術を受けた犬のガン発症率が高まったのは、ただ単に長生きしたためだという見方もあり、議論の分かれるところです。
  • 移行上皮癌 膀胱、尿管、尿道で発生する移行上皮癌に関し、不妊手術を受けると発症率が2~4倍高まるとされるとされています。手術と発症との間にある詳細なメカニズムはよく分かっていません。
  • 膝の十字靭帯損傷 膝関節を繋いでいる十字靭帯の損傷に関し、犬全体における発症率は1.8~4.5%程度とされていますが、大型犬の中には8.9%という高いものもいます。生後6ヶ月以前の段階で手術を受けた犬では脛骨プラトーの角度が異常になり、靭帯断裂のリスクが高まる可能性が指摘されています。またゴールデンレトリバーを対象とした調査では、未手術のオス犬における発症率が0%だったのに対し、生後12ヶ月齢未満で手術を受けた犬では5%だったと報告されています。
  • 股関節形成不全 股関節形成不全(股異形成)の発症率は、小型犬で1%未満、大型犬で40~75%程度と推定されています。生後5ヶ月以前の段階で手術を受けた犬では発症率が高まるとする報告があるものの、不妊手術が直接的な原因なのか、それとも不妊手術が引き起こした体重増加が間接的な原因になっているのかはよくわかっていません。またゴールデンレトリバーを対象とした調査では、生後12ヶ月齢未満で手術を受けた場合、発症率が未去勢犬の倍(10%)になると報告されています。
  • 急性膵炎 不妊手術を受けた犬の方が急性膵炎にかかる確率が高くなるとされています。理由はよくわかっていません。
  • 免疫系疾患 カリフォルニア大学が9万頭を超える犬の医療データを元に統計調査した所、オス犬に対する去勢手術がある種の免疫系疾患の発症リスクを高めていることが明らかになりました。具体的には炎症性腸疾患(1.43倍)、免疫介在性血小板減少症(2.05倍)、自己免疫性溶血性貧血(1.76倍)、アトピー性皮膚炎(1.51倍)などです(→詳細)。
  • 肥満 過去に行われた膨大な数の調査が、不妊手術を受けた犬や猫は肥満に陥りやすくなるという共通の結論に至っています。しかし不妊手術と体重増加の詳細なメカニズムはよくわかっておらず、代謝率の変化が関係しているとか、運動量の減少が関係しているといった様々な説があります。

因果関係が不明なもの

 以下は、去勢手術が何らかの関わり持っているものの、因果関係の確証が得られていない項目のリストです。
  • 攻撃性 攻撃行動に関し、去勢を受けていない犬は人間に噛み付きやすいとの報告がある一方、去勢手術を受けた方が飼い主に対する攻撃性が高まるとか、活動性が増して興奮しやすくなるといった相反するデータも存在しています。
  • 認知症 認知症の発症率は、10~12歳の犬で28%、15~16歳の犬では68%程度と言われています。去勢手術を受けたオス犬の方が、中等度から重度の認知障害に発展するパーセンテージが高かったとするデータがある一方、不妊手術を受けた犬よりも受けていない犬(9~10.5歳)の方が、脳内のDNAダメージが大きかったという相反するデータもあります。
  • 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症の発症率は0.2~0.3%と推計されています。3,206頭と66頭の犬を対象とした2つの調査では、共に不妊手術がリスクを高めるという結果になっています。しかし136頭を対象とした別の調査では、不妊手術の有無と発症との間に関連性は見出されませんでした。
  • 糖尿病 糖尿病の犬全体における有病率は0.19~0.64%で、去勢手術を受けたオス犬の方が発症率が高かったとする報告があります。しかしこのデータは体重による補正がされていなかったため、信憑性に関してはやや疑問が持たれています。
  • 悪性リンパ腫 ゴールデンレトリバーを対象とした調査では、未去勢オス犬における悪性リンパ腫の発症率が3%前後だったのに対し、生後12ヶ月齢未満で手術を受けたオス犬では10%だったと報告されています。ゴールデンレトリバーは遺伝的に「B細胞性リンパ腫」と「血管肉腫」の発症率が高いことが知られていますので、この数字を全ての犬に一般化するのは早計だと考えられます。
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メス犬の避妊手術

 新しい子犬を飼う時間や経済的な余裕がない場合は、犬の計画外妊娠を避けるために不妊手術をすることがあります。メス犬の場合は避妊手術(ひにんしゅじゅつ)といって卵巣(らんそう)と子宮(しきゅう)の摘出を行います。犬の生殖能力を人間の勝手な判断で奪うことに対する道義的な問題もありますが、 無計画で生まれた子犬が捨てられたり、毎年何万頭も殺処分されている事実と差引勘定してご決断下さい。 メス犬の避妊手術では、卵巣と子宮の摘出が行われます

避妊手術はいつ行うのがベストか?

 年を取ると手術が犬の負担になりますので、行うならなるべく早い時期が良いでしょう。メス犬なら最初の発情を迎える生後6ヶ月以前に獣医師とご相談下さい。ただし3ヶ月齢未満のタイミングで手術を行うと尿失禁の発症率が高まるというデータもありますので、「不妊手術の適齢期はいつ?」を参考にしながら慎重に検討します。

避妊手術の手順は?

 メス犬の避妊手術は一般的に以下のような流れに沿って行われます。
  • 予約避妊手術を決断したら、手術希望日の約1週間前から予約を取ります。
  • 手術前日手術前日の夕方に餌を与えて以降は絶食します。ただし水は与えても結構です。獣医師から特別な指示がある場合はそれに従います。
  • 手術直前排便・排尿を済ませて手術に望みます。開腹手術のため最低でも1~2日の入院が必要です。
  • 手術後多くの場合、手術から7~10日後に動物病院に連れて行き抜糸してもらいます。抜糸後約1週間は入浴できません。
 近年は腹腔鏡を用いて傷口を最小限にとどめつつ避妊手術を行う病院が増えてきました。この手術法には、術後の痛みや周術期ストレスを減らすという大きなメリットがあります(→出典)。しかし術野が狭い手術法は「卵巣遺残症候群」を引き起こしてしまう危険性をはらんでいるため、事前によく検討しなければなりません。
 卵巣遺残症候群(らんそういざんしょうこうぐん)とは、手術によって卵巣を取り除いたにもかかわらず、卵巣ホルモンによる身体の変化が見られる状態のことです(→出典)。
卵巣遺残症候群
  • 症状手術後、数ヶ月~数年かけて体内に残った卵巣組織に血管新生が起こり、外陰部の腫大や出血、しっぽを横にずらしてオス犬を誘うといった発情徴候を示すようになる。
  • 原因最も多い原因は、恐らく医師のミスによる卵巣の取り残し。統計的には左の卵巣よりも右の卵巣で、卵巣摘出術よりも卵巣子宮摘出術で、そして猫よりも犬で多く発症する。
  • 治療法手術を行ったにもかかわらず、メス犬がおかしな行動を見せるような場合は、病院でスメア検査、超音波検査、性ホルモンの測定を行い、卵巣が確認された場合は再手術を行う。
 メス犬に避妊手術を施す目的は、望まない妊娠を避けると同時に、性ホルモンに起因する病気を予防して健康を保つことです。卵巣遺残症候群が起こってしまうと、性ホルモンが引き続き体内に残るのみならず、再手術によって犬の体に負担をかけるという本末転倒な事態に陥ってしまいます。なるべく小さな傷口で不妊手術を行う方法には大きなメリットがありますが、しっかりと卵巣を目視確認できていない状態で行う手術には、卵巣遺残症候群の危険性が伴うことは知っておいて損はないでしょう。

避妊手術の費用や期間は?

 避妊手術の費用は20,000~40,000円程度が一般的です。2015年のデータでは、卵巣子宮切除の中央値が「27,413円」となっています(→出典)。ただし地域や病院によって変動しますので、詳細はかかりつけの獣医師にご相談下さい。また手術期間は、開腹手術が必要なため、最低でも1~2日の入院が必要です。

避妊手術のメリットとデメリット

 避妊手術がその犬にとってプラスになるのかマイナスになるのかを最終的に判断するのは飼い主です。そのためには、避妊手術がもたらす両側面についてある程度の知識を持っていなければなりません。以下は、現段階で分かっている様々な影響のリストです(→出典1出典2出典3出典4)。犬種によっては当てはまらなかったり、最新の調査報告によって変更が加えられる可能性もありますが、参考までに記載しておきます。なお一般的に、乳ガンや卵巣ガンといった死亡率の高い病気を予防してくれることから、手術を受けていないメス犬よりも受けたメス犬の方が、トータルでは長生きすると考えられています。
避妊手術の影響・目次

避妊手術のメリット

 以下は、メス犬に避妊手術を施すことによって予防や改善が見込める項目のリストです。
  • 望まない妊娠 殺処分される犬のうち、およそ11%が離乳前の子犬だとされています。避妊手術によって生殖能力をなくしてしまえば、こうした不運な子犬の数を確実に減らすことができます。
  • 出産に伴うリスク 妊娠や出産には難産、帝王切開、ブルセラ症糖尿病、妊娠中毒症、子宮捻転、子宮破裂、妊娠性腎盂腎炎といったリスクが伴います。基本的に発症頻度は低いとされていますが、ブルドッグなど難産のリスクが高いとされている犬種においては、避妊手術によって受ける恩恵が大きくなります。
  • 乳ガン 良性と悪性を含めた乳腺腫瘍の発症率に関し、最初の発情期を迎える前に不妊手術を受けた場合が0.5%、2度目の発情期を迎える前では8%、そして発情期を2回経験したあとでは26%になるとされています。また乳腺腫瘍のうち50.9%が悪性(乳がん)とのデータもあります。避妊手術を施したメス犬では腫瘍の発生率が劇的に低下することが確認されています。例えばジャーマンシェパードを対象とした調査では、未手術のメス犬における乳がん発症率が4%だったのに対し、1歳未満で手術を受けた犬では1%未満だったと報告されています。
  • 子宮蓄膿症 スウェーデンで行われ調査によると、不妊手術を受けていないメス犬の場合、10歳になるまでに25%が子宮蓄膿症を発症し、なおかつ発症率は10歳以降も上昇するとされています。また死亡率は0~17%と推計されています。発症リスクは犬種によって10~50%と大きな開きがあるものの、手術によって子宮を取り除いてしまえば発症自体がなくなります。
  • 生殖器の悪性腫瘍 卵巣腫瘍は6.25%、子宮腫瘍はメス犬の腫瘍中2%未満とされています。避妊手術によって卵巣や子宮を取り除いてしまえば、これらの部位に発生する悪性腫瘍を確実に予防することができます。
  • ストレスの軽減 メスの性欲の中枢は、脳内にある視床下部腹内側(VMH)と下垂体という部位だと考えられています。下垂体から分泌されたホルモンがメスの卵巣に働きかけてエストロゲンやプロゲステロンといった性ホルモンの分泌を促し、最終的に性衝動を生み出すというのが、現在想定されている生理学的なメカニズムです。極端な空腹、のどの渇き、性的な欲求不満は動物の怒りシステムを発動させ、多大なストレスを生み出すことが確認されていますので、避妊手術によって卵巣を取り除いてしまえば、欲求不満の源となる性欲自体がなくなり、結果的にストレスの軽減につながると考えられます(→出典)。

避妊手術のデメリット

 以下は、メス犬に避妊手術を施すことによって悪化する危険性がある項目のリストです。
  • 術後の合併症 1,016頭の犬を対象としてアメリカで行われた調査では、手術後の合併症(切開部の炎症や胃腸の不具合など軽度のもの)は6.1%程度と推計されています。この数値は、犬が2歳を超えている場合や、施術者が未熟な場合に高まります。また生後12週齢以前の段階で手術を受けた犬では、術後の感染症にかかる割合が高かったという報告もあります。
  • 血管肉腫 血管肉腫の発症率は犬全体で0.2%程度で、避妊手術を受けたメス犬では脾臓の血管肉腫の発生率が2.2倍に、そして心臓の血管肉腫の発生率が5倍に高まるという報告があります。またゴールデンレトリバーを対象とした調査では、未手術のメス犬における発症率が2%だったのに対し、生後12ヶ月齢以降に手術を施したメス犬では8%だったと報告されています。
  • 移行上皮癌 膀胱、尿管、尿道で発生する移行上皮癌に関し、不妊手術を受けると発症率が2~4倍高まるとされるとされています。
  • 膝の十字靭帯損傷 犬全体における発症率は1.8~4.5%程度とされていますが、大型犬の中には8.9%という高いものもいます。生後6ヶ月以前の段階で手術を受けた犬では脛骨プラトーの角度が異常になり、靭帯断裂のリスクが高まる可能性が指摘されています。またゴールデンレトリバーを対象とした調査では、未手術のメス犬における発症率が0%だったのに対し、生後12ヶ月齢未満で手術を受けた犬では8%だったと報告されています。
  • 股関節形成不全 股関節形成不全(股異形成)の発症率は小型犬で1%未満、大型犬で40~75%程度と推定されています。生後5ヶ月以前の段階で手術を受けた犬では発症率が高まるとする報告があるものの、不妊手術が直接的な原因なのか、それとも不妊手術が引き起こした体重増加が間接的な原因になっているのかはよくわかっていません。
  • 尿失禁 中年から老年の避妊手術を受けたメス犬では5~30%の確率で見られ、小型犬よりも大型犬の方がリスクが高いとされています。最初の発情を迎えた後に不妊手術を受けたメス犬では尿失禁の確率が2倍に高まるという報告もあります。1万1,000頭を対象とした大規模調査では、避妊手術を受けたメス犬の方が尿路感染症にかかりやすくなると報告されていますので、何らかの関わりがあるのかもしれません。またジャーマンシェパードを対象とした調査では、未手術のメス犬における失禁率が0%だったのに対し、1歳未満で手術を受けた犬では7%だったと報告されています。2017年にアメリカで報告された最新調査によると、成長した時の体重が25kg超になることが予想される中~大型のメス犬に関しては、避妊手術を施すタイミングが早ければ早いほど尿失禁を発症しやすくなるという可能性が示されました。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
  • 糖尿病 卵巣ホルモンが持つインスリン拮抗効果がなくなることから、避妊手術を受けたメス犬で糖尿病の発症リスクが高まるという報告があります。
  • 急性膵炎 不妊手術を受けた犬の方が急性膵炎にかかる確率が高くなるとされています。理由はよくわかっていません。
  • 免疫系疾患 カリフォルニア大学が9万頭を超える犬の医療データを元に統計調査した所、メス犬に対する避妊手術がある種の免疫系疾患の発症リスクを高めていることが明らかになりました。具体的にはエリテマトーデス(2.64倍)、炎症性腸疾患(2.2倍)、免疫介在性血小板減少症(3.14倍)、自己免疫性溶血性貧血(1.67倍)、アトピー性皮膚炎(2.24倍)などです(→詳細)。
  • 肥満 過去に行われた膨大な数の調査が、不妊手術を受けた犬や猫は肥満に陥りやすくなるという共通の結論に至っています。しかし不妊手術と体重増加の詳細なメカニズムはよくわかっておらず、代謝率の変化が関係しているとか、運動量の減少が関係しているといった様々な説があります。

因果関係が不明なもの

 以下は、避妊手術が何らかの関わり持っているものの、因果関係の確証が得られていない項目のリストです。
  • 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症の発症率は0.2~0.3%と推計されています。3,206頭と66頭の犬を対象とした2つの調査では、共に不妊手術がリスクを高めるという結果になっていますが、136頭を対象とした別の調査では、不妊手術の有無と発症との間に関連性は見出されませんでした。
  • 攻撃性 攻撃行動に関し、問題行動でクリニックを受診したメス犬を対象とした調査では、避妊手術を受けたメス犬の方が攻撃的になると報告されています。別の調査では、生後6ヶ月以前の段階で人間に対する攻撃性を示したメス犬に避妊手術を施すと攻撃行動が悪化するものの、もともと攻撃性を示していなかったメス犬では手術による影響はなかったとされています。
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不妊手術の適齢期はいつ?

 どのタイミングで犬に不妊手術を施すかは非常に難しい問題です。強いて一文にまとめると、「犬種による疾病の発症率や飼育環境を十分に考慮し、個々の犬に合わせてタイミングを見計らう」となるでしょう。

不妊手術の新たな適齢期

 アメリカ国内では長らく、不妊手術を行う最適な時期として6~9ヶ月齢が推奨されてきました。しかし近年は、もっと早い時期に手術を行ってもよいのではないかという意見がちらほらと出てきています。具体的には以下です。
不妊手術の新適齢期(?)
  • オス犬→6ヶ月齢以前
  • メス犬→3ヶ月齢以降~最初の発情を迎える前
 そもそも「6~9ヶ月齢」という推奨項目には明確な科学的根拠がなく、恐らく麻酔学のレベルが今よりも低くて幼齢時の死亡率が高かった、数十年前の慣習が残っているだけだろうと推測されています。現代の技術を用いれば生後7~12週齢の子犬や子猫にも比較的安全に麻酔を施すことができることから、1990年代に入り、不妊手術の適齢期を見直すための様々な研究調査が行われてきました。調査によって結果はまちまちですが、早期手術によるメリットの方が手術しなかった場合のメリットよりも大きいと判断されることが多く、上で示したような時期が、従来の「6~9ヶ月」という漠然とした適齢期の代替案として挙がってきています。しかし冒頭で述べたように、全ての犬に当てはまるゴールドスタンダードは残念ながら存在せず、個々の犬に合わせて手術のタイミングを見計らうというのが最善策となります。

早期不妊手術の根拠

 以下は、6~9ヶ月齢という慣習的な適齢期に手術を受けたグループと、それよりも早い段階で手術を受けたグループを比較した調査結果です。手術のタイミングを決める際のヒントが含まれていますのでご参照ください。
早期不妊手術の影響
  • 1997年の調査 1,213頭の犬と775頭の猫を対象として調査した所、24週齢以降に手術を行ったグループ(10.8%)は、12週齢未満のグループ(6.5%)よりも合併症が多かった。しかし12~23週齢のグループ(8.8%)とは統計的な差はなかった。早期の不妊手術が犬や猫の疾患率や死亡率を高めることはないと思われる(→出典)。
  • 2001年の調査 動物保護施設に収容された269頭を対象に調査を行った所、24週齢(生後6ヶ月)未満で手術を施したグループでは感染症の発症率が高く、中でもパルボウイルスが多かった。逆に24週齢以降に手術を行った犬では消化管の障害が多かった。しかしこれらの違いは、調査が行われたシェルターの衛生レベルに差があっただけかもしれない。その後4年間の追跡調査を行ったが、早期グループにおいて問題行動や身体に関連したトラブルが多いという傾向は見出されなかった(→出典)。
  • 2001年の調査 最初の発情を迎える前に不妊手術を受けたメス犬では尿失禁の確率が2倍に高まった。この傾向は、体重が20kg未満の犬(5.1%)よりも20kg以上の犬(12.5%)において顕著に見られる(→出典)。しかし別の調査では同様の差は見られなかった(→出典)。
  • 2004年の調査 1,800頭を超える犬を対象とし、5.5ヶ月齢を境に不妊手術を施し、4~4.5年の追跡調査を行った。早期手術グループでは、股関節形成不全、騒音恐怖症、性的行動が増え、肥満、分離不安、逸走、恐怖時の粗相、飼い主による飼育放棄が減った。早期手術を受けたオス犬では、同居人に対する攻撃性と無駄吠えが多かった。またメス犬では膀胱炎と尿失禁が多かった。オス犬に対しては6~8ヶ月齢前の段階で去勢を行うことが推奨される。一方、最初の発情期を迎える前の避妊手術はメス犬の生殖器系の病気を劇的に減らしてくれるが、尿失禁を予防するためには、少なくとも3ヶ月齢になるまで待った方が無難と思われる(→出典)。
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