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犬の鼻腔狭窄~症状・原因から治療・予防法まで

 犬の鼻腔狭窄(びくうきょうさく)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の鼻腔狭窄の病態と症状

 犬の鼻腔狭窄とは、鼻の穴とそれに続く「鼻腔」と呼ばれる空間が狭まった状態のことです。 犬の正常な外鼻孔と狭窄を起こした外鼻孔の比較  この「鼻腔狭窄」と「長すぎる軟口蓋」、「声門の狭窄」といった他の症状が複合した場合は、特に短頭種気道症候群と呼ばれることもあります。先頭に「短頭種」とついているのは、この病変が主に鼻先が短い短頭犬種に発症するためです。
 犬の鼻腔狭窄の症状としては以下のようなものが挙げられます。
鼻腔狭窄の主症状
  • 鼻の穴が狭まっている
  • 普段から鼻をグーグーならす
  • 鼻水をよく飛ばす
  • 呼吸が荒くなる
  • 呼吸困難に伴うチアノーゼ(酸素不足)
  • 熱中症にかかりやすい
 以下でご紹介するのは、鼻の置くからグーグーといびきのような音を出しているパグの動画です。寝ているときのみならず、平常時から常に苦しそうな呼吸音を出すのが鼻腔狭窄の特徴と言えます。 元動画は→こちら
 イギリス・ケンブリッジ大学は2017年、鼻孔の形を見るだけでその犬がいったいどの程度短頭種気道症候群を発症しやすいかを予測できるという可能性を示しました(→詳細)。
 調査対象となったのは鼻ぺちゃで知られるパグ(189頭)、フレンチブルドッグ(214頭)、ブルドッグ(201頭)の3犬種。以下に示す評価基準を用いて犬たちの鼻腔狭窄の度合いを「正常~重度」までの4段階で評価した後、短頭種気道症候群の発症率とどのように関わり合っているかを統計的に計算しました。 鼻孔の形状と鼻腔狭窄の重症度一覧  その結果、鼻腔狭窄が中等度から重度の場合、パグでは4.58倍、フレンチブルでは5.65倍、ブルドッグでは1.6倍も発症しやすいことが判明したといいます。調査チームは、鼻孔の形状から判定した鼻腔狭窄の度合いと、「BOAS Functional Grading」といった臨床検査を併用すれば、より効率的に短頭種気道症候群を診断できるかもしれないと期待を寄せています。
 上記した鼻孔の評価は家庭でも簡単にできるため、短頭種の飼い主は一度じっくりとペットの鼻の形を観察してみてはいかがでしょうか。中等度や重度の場合、かなりの確率で呼吸に難を抱えているものと推測されます。

犬の鼻腔狭窄の原因

 犬の鼻腔狭窄の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。
鼻腔狭窄の主な原因
短頭種気道症候群の常連であるパグとフレンチブル  上記したようなマズルが短い短頭犬種は、極めて短期間で選択繁殖されてきたため、骨が短くなったにもかかわらず、その上を覆っている軟部組織が短くなっていません。その結果、体の小さな子供が大人の洋服を着たときと同じ状況が発生します。すなわち、外を覆っている服がブカブカで所々の生地が余ってしまうのです。こうした内側と外側におけるサイズのミスマッチが犬の体で起こると、「皮膚のたるみ」、「軟口蓋の垂れ下がり」、「鼻腔の狭窄」といった文字通り「皺寄せ」として現れてしまいます。その複合が「短頭種気道症候群」です。

犬の鼻腔狭窄の治療

 犬の鼻腔狭窄の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
鼻腔狭窄の主な治療法
  • 保存療法 症状が軽い場合は、現状維持を基本とした保存療法が行われます。
     飼い主としてまず念頭に置くべきは、呼吸をするのに通常の犬より努力が必要なため、パンティング(あえぎ呼吸)による体温調整が苦手という点でしょう。つまり熱中症にかかりやすいという意味です。暑い日に無理やり外に連れ出したり、散歩中に立ち止って苦しそうにしているのに無理に歩かせるといった強要はNGとなります。
     鼻腔狭窄と軟口蓋の下垂が併存している場合は、睡眠時無呼吸への注意も必要となります。特に犬が仰向けで寝ているときは、自分自身の軟口蓋が気道をふさいでしまい、息ができなくなってしまいますので要注意です。
     鼻腔狭窄や短頭種気道症候群は、可愛い外見を重視して行ってきた選択繁殖の末に生み出された遺伝病です。つまり人間が人為的に作り出した病気と言っても過言ではありません。こうした事実を認識することは、そもそも犬種とは何かを考えるよいきっかけになってくれるでしょう。犬種標準について
  • 外科手術 症状が重く、呼吸困難が明らかな場合は永続的な治療効果を狙って外科手術が行われることがあります。犬の鼻腔狭窄に対する鼻翼切除術  外鼻孔を広げる場合は、鼻の軟骨と周辺皮膚を切除して強引に鼻の孔を広げます。軟口蓋が長すぎて呼吸を邪魔している場合は、炭酸ガスレーザーを用いて扁桃の後ろから切除してしまいます。その他、喉頭や気管がつぶれているような場合は、気管を切開したりします。
 これまでの外科手術では、上記したように塞がった鼻の穴を大きくする鼻翼形成術や、喉の奥を塞いでいる軟口蓋の切除術が行われてきました。しかし犬が重度の気道閉塞を起こしている場合、それほど大きな治療成果を得られていませんでした。そこで近年開発されたのが、気道の妨げになるあらゆる障害物を取り去ってしまう「マルチレベル上気道手術」です。具体的には「鼻翼口腔前庭形成術」、「レーザー鼻甲介切除術」(LATE)、「口蓋形成術」、「扁桃切除術」、「反転した喉頭室のレーザー切除」といった内容が含まれます。 ドイツの小動物耳鼻咽喉科チームが行った調査では、犬の生命を危険にさらすような致命的な状況を減少させる効果があるとの結果が出ていますので、今後の進展が注目されます。詳しくはこちらの記事をご参照ください。