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犬の肛門のケア

 犬の肛門には様々な病気の徴候が現れますので、飼い主が日常的にチェックをしていち早く異常に気づいてあげましょう。また肛門腺絞りの方法をマスターしておけば、分泌物が溜まって肛門嚢が破裂するのを防ぐこともできます。

肛門ケアの必要性と目的

 犬の肛門周辺には様々な病気の兆候が現れます。飼い主がお尻や肛門のケアをしてあげる最大の目的は、以下に示すような異常にいち早く気づき、重大な病気に発展するのを未然に防ぐことです。 犬の肛門の異常・病気
犬のお尻の異常と病気の関係

最も深刻な肛門嚢腺癌

 数ある病気の中でも最も深刻なのが肛門嚢腺癌です。これは肛門嚢(こうもんのう, anal sac)と呼ばれる袋状の器官の中に点在している「アポクリン腺」と呼ばれる汗腺の一種が悪性化して腫瘍に変化してしまったものです。 肛門嚢に含まれるアポクリン腺が悪性化して肛門嚢腺癌(anal sac adenocarcinoma)を形成する  皮膚に発生する全腫瘍のうち2%を占めるとされ、発症時の年齢中央値は10.2~11.0歳と報告されています。発症年齢はかなり高めですが他の器官への転移率が高く、最低でも50%の割合で隣接するリンパ節に転移するとされています。よく見られる症状を多い順に並べたものが以下です。「テネスムス」とはトイレに行くけれどもなかなかウンチが出ない状態のこと、「スクーティング」とはお尻を引きずって歩く状態のことです。
肛門嚢腺癌の症状
  • 肛門周辺の腫れ
  • テネスムス
  • しっぽの付け根を舐める・噛む
  • 出血
  • 多飲多尿
  • スクーティング
  • 後肢の弱化
  • 元気衰退
  • 排尿困難
 患犬の7割近くでは肛門周辺の腫れが見られると言いますので、飼い主が日常的にお尻のチェックをしていればいち早く病変に気付くこともできるでしょう。腫瘍の大きさが10cm²以上だった場合の生存期間中央値が292日だったのに対し、10cm²未満だった場合の中央値は584日だったというデータもあります(Williams, 2003)。早期発見が犬の生存率に直結しますので、犬の身体チェックのみならず、ウンチをしているときの姿勢や時間も含めて慎重に観察しておかなければなりません。

最も頻度が高い肛門嚢炎

 肛門嚢腺癌のように命にかかわるという事は無いものの、非常に頻度が高い病気として肛門嚢炎(こうもんのうえん)が挙げられます。これは肛門嚢の中に炎症が起こりコブ状に膨らんでしまった状態のことです。はっきりとした発症原因はわかっていませんが、肛門嚢の中にたまった分泌液(肛門嚢液)で微生物が増殖することが一因になっていると推測されています。 あまりにも長期間放置していると、以下の画像で示すように肛門嚢が破裂してしまう危険性もあります。犬の肛門嚢炎 肛門嚢にたまった分泌液を搾り取らずに長期間放置していると破裂が起こる 飼い主が日常的に犬のお尻をチェックし、定期的に肛門嚢を絞って中に溜まっている分泌液を排出してあげれば、炎症に発展する前に予防することができるでしょう。ではどのような頻度でどのように肛門腺絞りを行えばよいのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
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肛門腺絞りの準備

 犬の肛門に発生する病気をいち早く発見すると同時に肛門嚢炎を予防するため、飼い主は定期的に犬のお尻をチェックして場合によっては肛門腺絞りを行ってあげなければなりません。なお肛門腺は本来「肛門周囲腺」や「肛門嚢腺」などを含む広い言葉です。「肛門嚢を絞る」というのが正確な表現ですが、当ページ内では便宜上「肛門嚢を絞る=肛門腺を絞る」として扱っていきます。

肛門嚢の位置を知る

 肛門嚢(肛門腺)のチェックをする際は位置をしっかりと把握しておく必要があります。肛門嚢は左右に1つずつあり、肛門を時計の中心として4時と8時の方向に位置しています。画像で示すと以下のような感じです。 肛門嚢の位置と構造  通常であれば、ウンチを出そうとしていきんだときに自然と肛門嚢が絞られますので分泌液が溜まるということはありません。しかし小型犬、肥満犬、老犬では肛門周辺を取り囲んでいる括約筋の力が弱く、肛門嚢に適切な圧力が加わらないため分泌液がたまりやすい傾向にあります。

肛門腺絞りの頻度

 犬のお尻のチェックは週に1回くらいの頻度で行ってあげます。しっぽを持ち上げて肛門周辺の皮膚を観察すると同時に、肛門嚢を左右から指先で軽くつまんでみましょう。指先に小粒のぶどうのような感触がある場合は、分泌液が溜まっている可能性が大です。 犬の肛門嚢に分泌液が溜まっているかどうかをチェックする際はまず指で挟んでみる  肛門嚢に分泌液が溜まっていると以下のような症状を示すことがありますので、触診検査の補助として覚えておきます。ただしこうした症状が見られるのは分泌液がかなりたまった状態ですので、症状が現れる前に予防策を講じておくのが理想です。
肛門嚢に違和感を抱えた犬
  • お尻を引きずって歩く肛門嚢に分泌液がたまった犬はお尻を地面につけたまま引きずったりぐるぐる回ったりする(スクーティング)お尻を地面に付けたまま前足だけで移動する状態を「スクーティング」(scooting)などと言います。お尻を中心として円を描くようにグルグル回ることもあります。奇妙な動作であることから動画共有サイトではおもしろビデオとして投稿されていますが、体に異常がある証拠ですので、録画して笑っている暇があったらお尻をチェックをしてあげましょう。
  • お尻を壁に擦りつけるお尻を地面ではなく壁や椅子に擦り付けるというパターンもあります。「スクーティング」と同様、お尻に違和感を抱えている証拠ですのでチェックしてあげます。
  • しっぽを追いかける違和感や痛みから自分のしっぽの付け根を噛んだり舐めたりすることがあります。しっぽを追いかけてぐるぐるその場で回ってしまうこともあります。
  • テネスムスウンチをする素振りは見せるけれどもなかなか出ないとか、ウンチを出すまでに時間がかかるといったときは、分泌液が溜まって痛みが発生しているかもしれません。
  • 体をくねくねする肛門嚢に分泌液がたまった犬は仰向けになってヘビのようにクネクネと体をよじる仰向けになって腰をクネクネ動かしている場合、背中がかゆいのではなくしっぽの付け根に違和感を抱えている可能性もあります。あまりにも頻繁に行うようでしたら肛門嚢の異常を疑うようにしましょう。
  • おかしな座り方をするお座りの姿勢を取った時、左右どちらかのお尻が地面につかないようおかしな座り方をすることがあります。左右どちらか一方の肛門嚢に分泌液が溜まっているのかもしれません。
  • 攻撃的になる犬が急に噛みつくようになったとか攻撃的になったという場合、身体のどこかに不調を抱えている可能性を考慮します。特にしっぽの付け根に手が近づいただけで唸ったり噛み付こうとするような場合は、肛門嚢に異常が発生している可能性が大です。
 肛門腺絞りは肛門嚢炎を予防するための重要な作業ですが、あまりにも頻繁に行うと逆にバクテリアの繁殖を促し、肛門嚢炎にかかりやすくなってしまうという報告もあります(Burrows and Sherding, 1992)。分泌液が溜まっていないのに強引に肛門腺絞り行うと、犬が不快感を感じると同時に炎症の危険性が高まりますので、溜まっている可能性が高いときだけ行うようにしましょう。

肛門腺絞りを行う場所

 犬の肛門嚢が膨らんでいたり特有の症状が見られた場合は、基本的に動物病院に行って「肛門嚢圧出」という形で肛門腺絞りをやってもらいます。料金は1回500~1,000円程度です。しかし動物病院が遠くてなかなか行けないという場合や、犬が寝たきりで外に出られないという場合は飼い主が自宅で肛門腺絞り行ってあげる必要があります。
 犬の肛門腺絞りを行うときは、お尻をすぐに水で洗い流せるようお風呂場で行います。シャンプーのついでに行うと一石二鳥です。通常の部屋で行うときは床やカーペットが汚れないよう下に何かを敷きましょう。ただし匂いまでは防げませんので換気には気をつけてください。外で行う事は家庭動物等の飼養及び保管に関する基準が定める「所有者等は、自らが飼養及び保管する家庭動物等が公園、道路等公共の場所及び他人の土地、建物等を損壊し、又はふん尿その他の汚物、毛、羽毛等で汚すことのないように努めること」という規定に違反する可能性がありますのでやめておいたほうが無難です。

必要なもの

 肛門腺からの分泌液にはタンパク質と炭水化物の代謝産物である酪酸、インドール、スカトールといった物質が含まれておりかなりの悪臭を放ちます。事前の準備を怠ると部屋中が臭くなってしまいますので、必要なアイテムをしっかり揃えておきましょう。
肛門腺絞り・必要アイテム
  • トリミング肛門嚢から出てきた分泌液が被毛についてしまう可能性がありますので、あらかじめ肛門周辺のサニタリーエリアはカットしておいたほうが清潔です。具体的なやり方は犬のトリミングの仕方で解説してありますのでご参照ください。 尻・しっぽのセルフトリミング
  • 手袋手が汚れてもよいよう使い捨てのゴム手袋やビニール手袋を用意しましょう。ゴムの場合、粉がついたものは体に害を及ぼす危険性があるため「粉なし」(パウダーフリー)の方を使用して下さい。ビニール場合、指先が滑って犬に不要な痛みを与えてしまう可能性があるので十分注意します。なお分泌液には大腸菌なども含まれていますので素手で行うのは避けるようにします。
  • ワセリン肛門の内部から肛門腺絞りを行うときは指先の潤滑剤としてワセリンを用意しておきます。
  • 拭くもの出てきた分泌液を受け止めるため、ウエットティッシュを重ねたりキッチンタオルなど通常のティッシュペーパーよりも丈夫な紙を用意しましょう。
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肛門腺絞りの方法・手順

 必要なアイテムが揃ったら犬をお風呂場などへ連れて行き、しっぽを持ち上げて肛門を露出させます。犬が嫌がる場合はボディーコントロールのしつけを参考にしながらしっぽを触られることに十分慣らせておいてください。 犬のボディコントロールのしつけ  犬の肛門嚢は肛門を中心として4時と8時の方向に位置しています。排出口はやや上に向いていますので、基本的には下から上に向かって圧を加えるようにします。

外側から肛門腺を絞る

 最も簡単な方法は肛門腺の外側を圧迫することによってたまった分泌液を絞り出す外部圧迫法です。指先にティッシュなどをもち、左右の肛門嚢を指先でつまんだままやや上に持ち上げるように圧迫しましょう。 【写真元】Express Anal Glands 肛門腺を外側から指で圧迫する方法は簡便で最も広く用いられている  肛門嚢の開口部に押し出された分泌液は肛門から滴ってきますので、用意しておいたティッシュペーパーなどできれいに拭き取ってあげます。滴ってこない場合はそれほど溜まっていなかったということですので、それ以上無理にグリグリ押し付ける必要はありません。終わったら犬が肛門腺絞りを嫌なイベントとして記憶しないようとっておきのご褒美を与えましょう。 肛門から垂れてきた分泌液は臭いのですぐに拭き取る  外部圧迫法はグルーミングサロンなどでも行われる簡単な方法ですが、以下に示すようなデメリットもあります。うまくいかない場合は次に述べる「内部圧迫法」を試してみて下さい。
外部圧迫法のデメリット
  • 力を要する
  • つい何回も圧迫してしまう
  • 圧迫であざを作る可能性がある
  • 肛門嚢が空っぽになったのかどうかがわかりにくい
  • 老犬や肥満犬では肛門嚢の位置が奥にずれることがある

内側から肛門腺を絞る

 外側から絞り出す外部圧迫法がうまくいかない場合は直腸の内側から絞り出す「内部圧迫法」を試してみます。指先に薄くワセリンをつけてお尻の穴に入れ、4時(もしくは8時)の位置にある肛門嚢を人差し指で確認しましょう。分泌液が溜まっている場合、ちょうど小さなブドウ(もしくは錠剤)のような感触があるはずです。位置の確認ができたら人差し指と親指でニキビを潰すようにゆっくりと圧迫します。 【写真元】Asspressions How To EXTERNAL/INTERNAL Pet Anal Gland Expression Method 肛門内に指を入れて直接肛門腺を絞る内部圧迫法  分泌液が肛門の外に出てきますので、用意しておいたティッシュペーパーなどできれいに拭き取ってあげましょう。指先に触れるコブがなくなったら手をひっくり返し、もう片方も同様に絞ります。終わったら犬が肛門腺絞りを嫌なイベントとして記憶しないようとっておきのご褒美を与えましょう。 【写真元】How to Express Your Dog's Anal Glands at Home 指で肛門腺を直接圧迫することにより、より確実に空っぽにできる  施術の途中で犬が暴れると直腸を傷つけてしまう危険性があります。一人が体を抑え、もうひとりが肛門腺絞りを行うという体制で行って下さい。また小型犬の肛門は小さいため指で傷つけてしまう可能性があります。体重が3kgに満たないような以下のような犬種に関しては犬の様子をよく観察しながら行って下さい。
肛門腺絞り・要注意犬種

分泌液の処理の仕方

 肛門腺絞りを行った後のお尻周辺が臭いという場合は、濡れティッシュなどで拭いてあげましょう。部分シャンプーするという方法もあります。シャンプーのついでに行っているという場合は、そのまま水で洗い流してあげましょう。 犬のシャンプーのやり方
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肛門嚢液の色と病気

 犬の肛門腺から出てきた分泌液には様々なカラーバリエーションがあります。代表的なものは以下です。 犬の肛門腺から分泌される液体の色はバリエーション豊か  色のほか臭い、固さ、固形物の有無といったバリエーションもあり、同じ犬でも右の肛門腺と左の肛門腺とでは分泌液の組成が違うということもあります。こうした分泌液の色を見ることによって病気の有無を確認できれば楽ですが、果たして可能なのでしょうか?結論から言うと、不可能とまでは言わないまでも難しいです。
 2004年、アメリカ・コーネル大学の調査チームは大学付属動物病院(CUHA)を受診した犬50頭を対象とし、肛門腺分泌物に含まれている物質と疾患との間に何らかの関連性があるかどうかを検証しました(Lake, 2004)。その結果、何らかの異常を示す指標になりうる項目と、指標としては使えない項目が明らかになったといいます。具体的には以下です。
異常を示唆する項目
  • 赤血球
  • 単核系白血球(リンパ球・単球・マクロファージ)
  • 未分化上皮細胞
  • 好中球間のバクテリア
指標にならない項目
  • 食細胞の存在や好中球の縮退
  • イースト
  • 菌の構成比
  • 粘着度
  • 固形物の有無
 異常を示す指標としては、分泌液に含まれる「赤血球」「単核系白血球」「未分化上皮細胞」「好中球間のバクテリア」などが挙げられましたが、こうしたものは顕微鏡で確認しなければなりません。ですから分泌液を肉眼で見て異常の徴候を確認することはできないということになります。
 その一方「色」「粘着度」「固形物の有無」は指標にならないことが明らかになりました。要するに分泌液の見た目だけからその犬が疾患を抱えているかどうかは分からないということです。
 犬の肛門を絞ってあげるついでに分泌液の状態から疾患の有無を予言できれば効率的ですが、上記したような理由によりそれはなかなか難しいようです。臨床上の価値はそれほどありませんので、拭き取った肛門嚢液は速やかに処分してしまいましょう。ただし、明らかに血液が混じっているような場合は肛門嚢腺癌などの可能性がありますので、動物病院に相談してください。
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