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犬猫のせり・オークション~動物を複数バイヤーが競り落とすというシステム

 犬・猫のせり市とはいわゆるオークションのことで、1ヶ所にブリーダーとバイヤーなど数十~数百の業者が集合し、出品された商品(犬や猫のこと)を複数業者間で競り落とすというものです。

犬猫のせり市・オークションの現状

 犬・猫のせり市とはいわゆるオークションのことで、出品された商品(犬や猫のこと)を複数業者間で競り落とすというものです。2023(令和5)年の環境省データでは、日本全体で29の業者が確認されています。以下のマップで示すように、関東と関西を中心として全国にまんべんなく散らばっています。日本国内にある犬猫のオークション業者マップ  最大手ではプリペットなどが有名で、コンピューターによる最新の競りシステムを売りにしています。
犬・猫の流通経路
犬・猫の生産から仕入れ,販売までの流通経路の中におけるせり・オークションの位置づけ  せり市(オークション)のビジネスモデルは、会場を提供する代わりに、入札に参加するブリーダーやペットショップのバイヤーから入会金(2~10万)、年会費(2~5万)、落札金額の手数料(5~8%)をもらうというものです。入札に参加する業者数は平均で300~400、大きいところでは1,000を超えるともいわれます。 ペットのオークション会場の様子~バイヤーが画面越しに商品(犬猫)を落札していく  また、2008年度における犬の流通量に関しては、全国で約59万5,000頭が生産され、そのうちペットオークションへ55%(32万7,250頭)、通信販売・消費者へ25%(14万8,750頭)、小売業者へ17%(10万1,150頭)、卸売業者へ3%(1万7,850頭)が流れるという内訳になっており、日本国内で流通している犬の実に半数以上が、オークションを経由しているという計算になります。 犬を殺すのは誰か(朝日新聞出版)
ブリーダーの販路割合(2008年度版)
2008年度における犬の流通量チャート
  • オークション・せり=55%
  • 小売=17%
  • 卸売=3%
  • 通信販売 or 消費者=25%

病気蔓延の問題

 生産者(ブリーダー)から、半数以上の犬が流れ込んでいると推計されるせり市・オークション市場ですが、免疫力が十分でない生後7~8週齢の子犬たちを売買するという関係上、病気を持った個体が紛れ込んでしまうこともあります。

環境省による指摘

 環境省が公表している「移動販売・インターネット販売・オークション市場について」では、主に以下のような問題点が指摘されています。
犬猫オークションの問題点
  • トレーサビリティー落札者に対して繁殖者情報が与えられないため、トレーサビリティー(追跡確認)の確保が困難な点。
  • 感染症会場内で感染症にかかることがあり、感染症対策に特段の注意が必要な点。
  • 感染個体の流通病気をもった状態の動物が売買され、後の店頭販売等においてその旨を購入希望者に十分な説明がなされないまま販売されるおそれがある点。
オークション会場では、病気が蔓延する危険性が常にある  こうした指摘は、オークション会場という特殊な環境が要因となり、子犬間で病気が蔓延してしまう可能性を危惧するものといえます。
 たとえば、ペットショップ大手のコジマでは、年間約2万頭の子犬を販売しており、その仕入れの7割をオークションに頼っているといいます。そして店頭に出すまでに1週間程度の待機期間を設けて健康管理を徹底しているとのこと。これはすなわち、感染症の潜伏期が終了するまで、買い付けた子犬たちがどんな病気を発症するかわからないということであり、オークションで買っている限り、ブリーダーの「健康優良児」という主張が本当かどうか確かめるすべがないことを意味しています。
 また、国民生活センターが公開している「ペット購入時のトラブルの実態と問題点」の中では、フレンチブルドッグを購入したが、持ち帰ったその日の夜から下痢・嘔吐を繰り返し、翌日近所の獣医師に診せると、パルボウイルス感染症と診断されたという事例も見られます。これは病気を持った子犬がオークション経由でペットショップの店頭に並び、実際に消費者の手元に渡ってから病気が発症してしまった最悪のケースと言えるでしょう。
トレーサビリティ
 トレーサビリティ(traceability)とは、物品の流通経路を生産段階から最終消費段階、あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態をいい、日本語では追跡可能性(ついせきかのうせい)とも言われる概念です。
 「ペットのトレーサビリティ」と言った場合には、一体誰が繁殖したのか、親犬はどういった血筋か、どういった環境で生まれたのかなどの情報を、消費者である飼い主が全て入手できる状態を言います。

病気を許してしまう管理体制

 病気持ちの子犬が流通したり、最悪のケースでは病気が蔓延してしまうという問題の背景には、以下に述べるようなオークション会場特有の管理体制と古くからの慣習があります。
オークションの管理体制
  • 出品者のチェックオークション業者がブリーダーの全数実態調査をし、悪質なパピーミルや繁殖屋を排除するということは、現時点では行われていません。すなわち、動物取扱業の登録をし、入会金さえ払ってしまえば、良心的なブリーダーと悪徳パピーミルの境目がなくなってしまうということです。結果、病気の有無よりも在庫(子犬)を売りさばくことに重きを置いた低質な繁殖業者が入り込む余地が生まれてしまいます。
  • 出品動物の健康チェックオークション会場に運ばれてきた子犬や子猫はまず、鑑定士と呼ばれる人が目視チェックをします。しかしこの「鑑定士」と呼ばれる人たちは獣医師ではない人が多く、また極めて短時間で行うため、病気をもった動物がオークション会場内に入り込む危険性が常にあります。
  • 隠蔽体質せり市場には、病気や死亡などの問題があっても、それは生産者の責任ではなく、目利きをして購入した小売業者の責任になるという慣習があります。小売店側も、在庫数や予約された犬種などを円滑に仕入れしたい都合上、生産者側にクレームを入れないのが通例となっています。またオークションの業者も、会員の不利になる情報はなるべく開示しないのがならわしです。
こうした三者三様の隠蔽体質が、悪徳業者排除の足かせになっています。

子犬の販売日齢問題

 平成20年に環境省が行ったアンケート調査「犬猫幼齢動物の販売日齢について」では、オークション会場で売買される犬のうち40~44日齢が59%になっています。

社会化期とのバッティング

 40~44日齢は生後6~7週に相当し、これは子犬の性格を形成する上で極めて重要といわれる社会化期に重なるため、こうした重要な時期に母犬や兄弟姉妹犬から引き離し、環境の悪い中に連れ出してしまうことは、トラウマを形成して性格をゆがめてしまう可能性があると指摘されています。
 社会化期における経験が性格形成にどのように影響するかについては、FoxとStelznerが1966年に行った嫌悪条件付け実験が示唆に富みます(📖ドメスティック・ドッグ/チクサン出版社)。彼らはビーグルの子犬を使って人間が接触すると同時に電気ショックを与えるという、現代からすると非人道的とも思える実験を行いました。5週齢、8週齢、12週齢のときにそれぞれ実験を行った結果、子犬たちが精神的刺激や肉体的刺激に対して苦痛を過剰に感じる時期は、おおむね8週齢頃の短い期間であること、そして、この時期に受けたたった1つの不快な経験が長期にわたり、嫌悪効果や異常効果をもたらしうるという事実を突き止めました。
 また「ペット業界の舞台裏(WEDGE Infinity)では、オークション会場の様子を以下のように描写しており、こうした経験が上記「たった1つの不快な経験」になる危険性を感じさせます。
 出陳業者は受付をし、場内へ商品を運び込み開場を待ちます。商品の子犬・子猫たちも産まれて初めて親兄弟から引き離され、空調もままならない場所でせまい箱に閉じ込められその時を待つのです。箱が開くと見知らぬ人間につかみ上げられ、口を開けられたり足を引っ張られたり、暫くの喧騒が終わるとまた箱に閉じ込められ再び待たされます。次に箱のふたが開くときは全く知らない場所、知らない人間の元へ着いた時です。

子犬の「旬」の時期

 かつてオークション会場では40~44日齢の子犬が多く売買されていました。例えば以下は平成20年(2008年)に公開されたアンケート調査の結果です。
せり市での子犬販売日齢
オークション会場における子犬の販売日齢比率
  • 39日齢以下=2%
  • 40~44日齢=59%
  • 45~49日齢=16%
  • 50~55日齢=16%
  • 56~60日齢=6%
  • 61~65日齢=1%
  • 66~70日齢=0.3%
  • 71日齢以上=0.2%
 この事実は「生後45日までが旬」という合言葉が存在する小売業界と連動する形で慣習化したものと思われます。すなわち、小売業者が店頭に45日齢の子犬を並べ、消費者に「かわいい~!」と叫ばせるためには、当然それよりも早い段階でどこからか子犬を仕入れておく必要があり、それが40~44日齢だということです。 オークション会場で野菜のようにコンベヤーを流される子犬  2019年に公布された「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律案」が2021年6月1日から施行され、販売を目的とした犬猫の展示や引き渡しは生後56日を過ぎてからという新ルールができました。ですから上記調査で示された40~44日齢というタイミングでの販売は法律上ありえません
 しかしもし法的な規制がなかったら、購入者の母性本能をくすぐると同時に、繁殖者や小売業者の管理費を低く抑えてくれる「旬の時期」にある子犬たちがオークション会場を埋め尽くし、ペットショップの店頭にずらりと並ぶことでしょう。

せり市・オークションへの法規制

 病気蔓延の問題、および日齢問題といった不安要素を受け、日本においても様々な法規制が敷かれるようになりました。

競りあっせん業者への規制

 2012年「動物取扱業者が遵守すべき細目の一部改正」が発表され、競りあっせん業者に対し以下のようなルールが新たに定められました。
競りあっせん業者への規制
  • 競りの実施に当たって、当該競りに付される動物を一時的に保管する場合には、顧客の動物を個々に保管するよう努めること。
  • 競りの実施に当たって、当該競りに付される動物を一時的に保管する場合には、当該動物が健康であることを目視又は相手方からの聴取により確認し、それまでの間、必要に応じて他の動物に接触させないようにすること。
  • 競りあっせん業者は、実施する競りに参加する事業者が動物の取引に関する法令に違反していないこと等を聴取し、違反が確認された場合には、競りに参加させないこと。
  • 競りにおける動物の取引状況について記録した台帳を調整し、これを5年間保管すること。
 このような改正が行われましたが、動物の健康状態は「目視又は相手方からの聴取により」という極めていい加減なやり方のままであり、またオークション参加者のよりわけは「法令に違反していないこと等を聴取」するという、形式的なものにとどまっています。こうした規制が競り市やオークション会場における悪徳業者の排斥につながるとは到底思えません。

引渡し時期への規制

 従来、全国14のオークション業者が加盟して構成する全国ペットパーク流通協議会では「40日未満の生体はオークションへの出荷禁止」という通達を出しており、またオークション大手プリペットでは「出品生体は原則40日以上、ただしオークション当日が36日以上~40日未満については審査官の判断により出品できる」という自主規制を敷いてきました。従来のこうした自主規制には十分な規制力がなく、ほぼ有名無実の状態だった感は否めません。
 2021年6月1日から「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律案」が施行されたことにより、販売を目的とした犬猫の展示や引き渡しは生後56日を過ぎてからという新ルールができました。しかし業界団体の圧力か、文化財保護法によって天然記念物として指定された6犬種(柴犬紀州犬四国犬甲斐犬北海道犬秋田犬)に関しては、例外的に49日齢での展示・販売が許可されたままです。
天然記念物の6犬種だけ他の犬種と社会化期が異なるという証拠はありませんので実に不可解です。
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