詳細
調査を行ったのはイギリス・リンカーン大学が中心となったチーム。2013年、「VetCompass」と呼ばれる疫学調査プログラムに参加している一次診療クリニックを受診した犬を対象とし、四肢(肩関節から先+股関節から先)に発症する骨関節炎の有病率と危険因子が精査されました。
Katharine L. Anderson, Scientific Reports volume 8, Article number: 5641 (2018), doi:10.1038/s41598-018-23940-z
- 骨関節炎
- 骨関節炎(変形性関節症)の症例としてカウントする時の条件は「保険請求項目に明記されている」「典型的な症状がカルテに記載されている」「典型的な関節炎治療が行われている」「典型的な骨関節の画像所見が確認できる」。逆に除外条件は「感染性関節炎」「免疫介在性関節炎」「脊柱の関節炎」。
年齢と骨関節炎リスク
- 3歳未満=1
- 3~5.9歳=3.55
- 6~8.9歳=12.58
- 9~11.9歳=28.83
- 12歳以上=53.89
犬種と骨関節炎リスク
- ロットワイラー =3.11
- オールドイングリッシュシープドッグ=2.81
- ドーグドボルドー=2.81
- ラブラドールレトリバー=2.56
- ゴールデンレトリバー=2.42
- ジャーマンシェパード=2.28
- ボーダーコリー=1.51
- ミックス=1
- ウェストハイランドホワイトテリア=0.66
- シーズー=0.47
- ジャックラッセルテリア=0.41
- ヨークシャーテリア=0.4
その他の骨関節炎リスク
- 保険に加入している=2.02
- 不妊手術済み=1.8
- オス犬=1.19
- 体重が犬種平均超=2.29
Katharine L. Anderson, Scientific Reports volume 8, Article number: 5641 (2018), doi:10.1038/s41598-018-23940-z
解説
以下は明らかになった危険因子とその背景にある発症メカニズムです。確実に証明されているわけではありませんが考える際のヒントにはなるでしょう。
作業犬や牧羊犬に分類されているからといって必ずしも実務についているわけではありませんが、人間における職業性の骨関節炎と同じように、激しい運動とそれに伴う関節への負荷が病気の発症を促した可能性は否定できません。
中~大型犬とは逆に、小型犬(ヨーキーやシーズーなど)においてリスクの低下が確認されました。この理由としては、体重が軽いため関節の劣化が少なく、炎症を発症しにくくなるからだと推測されます。しかし体が小さすぎて画像診断や歩様観察が難しく、有病率が低く見積もられてしまったという可能性もあります。
有病率
英国内で行われた今調査では有病率が2.5%、また過去に北米で行われた調査では、二次診療施設の医療データとエックス線写真をもとに診断を下したところ「1歳以上で20%」から「8歳以上で80%」まで幅広い数値が報告されています。しかしこれらは中~大型犬が多い欧米で行われた調査ですので、小型犬が主流の日本においてはもう少し低いものと推測されます。
年齢
犬が12歳を超えると、3歳未満の犬に比べて発症リスクが50倍近くに跳ね上がることが明らかになりました。加齢に伴う関節軟骨の経年劣化と修復能力の低下があいまって骨関節炎を発症しやすくなるものと推測されます。最初に診断が下された時の年齢中央値10.5歳でしたので、10歳前後の犬の飼い主は散歩中の歩き方に微妙な変化がないかどうかを注意深くモニタリングしておく必要があるでしょう。
不妊手術
オスでもメスでも不妊手術を施すことによってリスクが1.8倍に上昇しました。不妊手術を施すことによって体重が増加し関節への負担が増えた可能性のほか、性腺ホルモンのバランスが変わって関節内の代謝が影響を受けた可能性が考えられます。
犬種
発症リスクが高い犬種はすべて中型犬以上で、ケネルクラブの分類上「ワーキング」もしくは「パストラル」に属する犬たちでした。特に高い有病率が確認されたのはロットワイラー(5.4%)、ラブラドールレトリバー(6.1%)、ゴールデンレトリバー(7.7%)、ジャーマンシェパード(4.9%)などです。作業犬や牧羊犬に分類されているからといって必ずしも実務についているわけではありませんが、人間における職業性の骨関節炎と同じように、激しい運動とそれに伴う関節への負荷が病気の発症を促した可能性は否定できません。
中~大型犬とは逆に、小型犬(ヨーキーやシーズーなど)においてリスクの低下が確認されました。この理由としては、体重が軽いため関節の劣化が少なく、炎症を発症しにくくなるからだと推測されます。しかし体が小さすぎて画像診断や歩様観察が難しく、有病率が低く見積もられてしまったという可能性もあります。
体重
体重が犬種平均超の場合、平均以下に比べて発症リスクが2.3倍に上がりました。体重そのものによる関節への物理的なストレスのほか、関節軟骨に対して影響を及ぼすホルモン「レプチン」の体内レベルが関係している可能性があります。
まとめ
発症時と死亡時のデータが揃っていた384症例から計算すると、骨関節炎を患っていることが寿命を11.4%縮める可能性が示されました。犬の生活の質(QOL)を低下させるのみならず寿命までも縮めてしまうかもしれませんので、初期徴候には気をつけておきたいものです。足が痛くて歩くのが遅くなっている犬を無理やり散歩に連れ出し、リードで引きずるように歩かせるのはかわいそうですね。