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犬の平均寿命2022年版・英国編

 0歳時における平均余命は一般的に「平均寿命」と呼ばれます。イギリス国内において大規模な調査が行われ、人気犬種における平均寿命の最新2022年版が公開されました。

犬の平均寿命・英国編

 犬の平均寿命に関する調査を行ったのは王立獣医大学を中心としたチーム。一次診療施設に蓄積された電子医療記録を疫学調査に利用する「VetCompass」と呼ばれるプログラムを参照し、英国内で飼育されているペット犬の生命表を作成しました。
生命表
ある期間における死亡状況(年齢別死亡率)が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したもの。0歳時における平均余命は一般的に「平均寿命」と呼ばれる。 統計で見る日本e-stat
 解析対象となったのは疫学プログラムに参加している英国内886の一次診療施設において、2016年の1年間で蓄積された合計876,039頭分の医療データ。地域の内訳はイングランド90.4%、スコットランド3.9%、ウェールズ3.7%、ノーザンアイルランド1.7%、チャネル諸島0.3%です。そのうち死亡が確認された30,563頭のデータが生命表の作成に用いられました。
 計算の結果、0歳時における犬全体の寿命期待値(平均寿命)は11.23歳だったといいます。その他、犬たちの属性ごとに解析した結果は以下です。

性別・不妊手術

 犬を性別で分けた場合、0歳時の寿命期待値はメス犬が11.41歳(14,574頭/47.7%)、オス犬が11.07歳(15,989頭/52.3%)となりました。また寿命期待値におけるメス>オスという大小関係は、犬の年齢が12歳に達するまで継続しました。
 メス犬14,574頭を避妊手術済み(8,951頭)と未手術(残り)に分けた場合、死亡率に関して未手術メス>避妊メスという大小関係が10歳まで継続しました。同様に、オス犬15,989頭を去勢手術済み(8,595)と未手術(残り)に分けた場合、死亡率に関して未手術オス>去勢オスという大小関係が4歳まで継続しました。

純血・犬種グループ

 アメリカ、イギリス、オーストラリアの犬種協会に登録されている純血種としては合計263種・23,963頭 (78.4%)が該当しました。非純血種は6,511頭(21.3%)、犬種不明は89頭(0.3%)です。
 これら純血種をイギリスのケネルクラブ(KC)が定義する犬種グループに沿って分類した場合、0歳時における寿命期待値は以下のようになりました。
犬種グループの寿命期待値
  • テリア=12.03歳(6,055頭)
  • ガンドッグ=11.67歳(5,354頭)
  • パストラル=11.20歳(2,451頭)
  • ハウンド=10.71歳(1,329頭)
  • トイ=10.67歳(3,334頭)
  • ユーティリティ=10.06歳(2,707頭)
  • ワーキング=9.14歳(2,184頭)

人気18犬種

 データ全体の過半数(50.6%)を占める18犬種に絞り込んで0歳時における寿命期待値を計算したところ、以下のようになりました。フレンチブルドッグが4.53歳と目を疑うような値になっていますが誤記ではありません。
人気18犬種の寿命期待値
イギリス国内で人気の18犬種における0歳時点での寿命期待値(平均寿命)一覧グラフ
Life tables of annual life expectancy and mortality for companion dogs in the United Kingdom. Sci Rep 12, 6415 (2022).
Teng, K.Ty., Brodbelt, D.C., Pegram, C. et al. DOI:10.1038/s41598-022-10341-6

日本の犬との寿命の違い

 犬の生命表に関しては日本でも試験的に作成されています。しかし犬種別で見ると寿命期待値にはかなり大きな開きがあるようです。なぜなのでしょうか。

日本における犬の寿命期待値

 調査を行ったのは東京大学大学院農学生命科学研究科のチーム。元データとしては2012年1月から2015年3月までの期間、東京都内にある8つの動物霊園で供養を受けた合計12,039頭の犬たちが用いられました。
 生命表を作成した結果、犬全体における寿命期待値は13.7歳で、死亡の可能性が最も高いのが1歳、逆に最も低いのが4歳で、それ以降は指数関数的に増加することが判明したといいます。ミックス犬の寿命期待値(15.1歳)は純血種のそれ(13.6歳)より統計的に有意なレベルで長かった一方、オスの寿命期待値(13.6歳)とメスのそれ(13.5歳)との間に格差は認められませんでした。総じて、30年前(8.6歳)に比べると寿命期待値は1.67倍に伸びたそうです。
Estimating the life expectancy of companion dogs in Japan using pet cemetery data
Mai Inoue, Nigel C. L. Kwan, Katsuaki Sugiura, J. Vet. Med. Sci.80(7): 1153-1158, 2018, DOI:10.1292/jvms.17-0384

イギリスの犬は短命?

 今回イギリス国内で行われた調査と比較すると、犬種ごとの寿命期待値に大きな開きがあることに気付きます。
犬種英国日本
M.ダックス-13.9
チワワ7.9111.8
シーズー11.0515.0
ヨーキー12.5414.3
柴犬-15.5
トイプードル-12.7
マルチーズ-14.3
コーギー-13.5
ポメラニアン-14.0
パピヨン-14.4
ミックス-15.3
L.レトリバー11.7714.1
G.レトリバー-13.1
M.シュナウザー-13.4
キャバリア10.4513.1
シェルティ-14.3
ビーグル9.8514.8
パグ7.6512.8
10kg未満-13.3
フレンチブル4.5310.2
アメリカンコッカー-12.8
 共通して言えるのは、英国内に暮らす犬の方が寿命期待値が日本の犬より短いということです。この傾向には安楽死に対する心理的な障壁の高さが関係しているのかもしれません。
 日本では最後の最後までできる限りの治療なり介護なりをするのが美徳とされますが、英国では獣医師が安楽死を勧めるケースが多々認められます。例えば日本とイギリスにおける一般的な死と安楽死に対する獣医師の態度に関する調査では「飼主の希望で健康な動物でも安楽死させますか?」という設問に対し英国では74%、日本では32%がYesと回答しています。また「飼主が望めば助かる見込みがあっても重症の動物を安楽死させますか?」という設問に対し英国では91%、日本では40%がYesと回答しています出典資料:環境省・動物愛護管理室)。こうした安楽死に対する態度の違いが犬たちの平均寿命に影響しているのかもしれません。

フレンチブルドッグの受難

 フレンチブルドッグに関しては英国4.53歳、日本10.2歳というにわかには信じがたい開きが見られます。この現象には近年における急激な飼育頭数増加が関わっているのでしょうか。
 例えば2011年には2,771頭だった英国ケネルクラブへの登録頭数が、2020年には39,266頭とおよそ14倍に急増しています。金儲けを企む悪徳繁殖業者(パピーミル)はこうした特需に合わせ、劣悪な環境下で乱繁殖を繰り返すこともあるでしょう。その結果、健康状態が悪い子犬が次々と市場に放り出され、感染症による死、先天疾患による死、かさばる医療費に音を上げた飼い主による安楽死が累積してしまいます。
日本のフレンチブルの平均寿命は10.2歳と英国より倍以上も長命ですが、人気犬種の中ではやはり最短です。虐待繁殖のしわ寄せが、国を問わず平均余命という形で如実に現れていますね。フレンチブルドッグに多い神経系の病気リストフレンチブルドッグの脊柱変形(脊柱後弯症)はヘルニアの発症リスクを高める