イギリスにおける犬の耳血腫疫学
耳血腫(じけっしゅ, aural haematoma)とは耳のひらひら部分(耳介)に血液が貯留して腫れ上がった状態のことです。主に内側の凹面に発生し、痛みや自重よる引っ張りを解消しようと犬が後ろ足でガリガリと引っ掻くことで症状がさらに悪化します。
発生メカニズムはよく分かっていないものの、耳介の中にある軟骨の骨折や尾側耳介動脈の部分的な破損が原因ではないかと推測されています。長期化すると耳介組織の線維化、拘縮、肥厚によりカリフラワー(人間で言うところのギョウザ耳)のような外観を呈することもあります。
今回の調査を行ったのはイギリスにある王立獣医大学のチーム。大規模な疫学調査プログラム「VetCompass」に参加している動物病院の医療データを後ろ向きに参照し、2016年の1年間における耳血腫の新規罹患率を算定しました。「新規」の定義は過去4週間で同症を発症していないことです。
2016年に何らかの理由で887の動物病院を受診した合計905,554頭分のデータを解析したところ、耳血腫の新規罹患は2,249例(0.25%)だったといいます。内訳は純血種が1,746頭(77.70%) 、メス犬が1,118頭(49.78%)、不妊手術済みが1,082頭(48.17%)、体重の中央値が24.90kg、年齢の中央値が8.17歳というものでした。
またリスクファクター(危険因子)を多変量解析で精査した結果、最終的に「犬種」「犬種の標準的な体重を基準としたときの高低」「年齢」「性別と不妊手術」「保険加入」という5項目が残ったといいます。
今回の調査を行ったのはイギリスにある王立獣医大学のチーム。大規模な疫学調査プログラム「VetCompass」に参加している動物病院の医療データを後ろ向きに参照し、2016年の1年間における耳血腫の新規罹患率を算定しました。「新規」の定義は過去4週間で同症を発症していないことです。
2016年に何らかの理由で887の動物病院を受診した合計905,554頭分のデータを解析したところ、耳血腫の新規罹患は2,249例(0.25%)だったといいます。内訳は純血種が1,746頭(77.70%) 、メス犬が1,118頭(49.78%)、不妊手術済みが1,082頭(48.17%)、体重の中央値が24.90kg、年齢の中央値が8.17歳というものでした。
またリスクファクター(危険因子)を多変量解析で精査した結果、最終的に「犬種」「犬種の標準的な体重を基準としたときの高低」「年齢」「性別と不妊手術」「保険加入」という5項目が残ったといいます。
犬種
ミックス種を基準値(1)とした場合、ある特定の犬種において高いリスクが見られたと同時に、ある特定の犬種において低いリスクが認められました。以下の数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」とした時どの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
耳血腫リスクが高い犬種
- ゴールデンレトリバー=4.62
- イングリッシュブルテリア=5.44
- アイリッシュスタッフォードシャーブルテリア=5.52
- フレンチブルドッグ=6.95
- セントバーナード=7.28
- ブルテリア=7.42
耳血腫リスクが低い犬種
- グレーハウンド=0.05
- チワワ=0.07
- ミニチュアダックスフント=0.09
- ポメラニアン=0.09
- ラサアプソ=0.09
体重
犬種の標準的な体重をオスメスに分けて比較した場合、同一もしくはそれ以上の体重にある犬では、標準以下の犬に比べてオッズ比が1.42になると算出されました。
年齢
全体的に加齢と共にリスクが高まる傾向が確認されました。以下はオッズ比です。
年齢と耳血腫リスク
- 1歳未満=0.42
- 1~2歳=0.44
- 4~6歳=2.05
- 6~8歳=3.54
- 8~10歳=5.15
- 10~12歳=5.64
- 12歳超=3.84
不妊手術の有無
不妊手術を受けていない犬に比べて受けた犬の方がリスクが低くなることが確認されました。具体的には去勢済みのオスの場合が0.64、避妊済みのメスの場合が0.74というものです。
保険加入
保険に加入している犬は加入していない犬に比べてオッズ比が1.21になりました。保険加入が発症に関与しているというより、保険に加入している飼い主の方が積極的に医療機関を利用することが数値の押し上げに関係していると考えられます。
Reporting the epidemiology of aural haematoma in dogs and proposing a novel aetiopathogenetic pathway
O'Neill DG, Lee YH, Brodbelt DC, Church DB, Pegram C, Halfacree Z. Sci Rep. 2021;11(1):21670. Published 2021 Nov 9. doi:10.1038/s41598-021-00352-0
O'Neill DG, Lee YH, Brodbelt DC, Church DB, Pegram C, Halfacree Z. Sci Rep. 2021;11(1):21670. Published 2021 Nov 9. doi:10.1038/s41598-021-00352-0
見えてきた耳血腫の発症原因
犬種そのもののかわりに犬種から派生する変数を多変量解析したところ、以下の項目がリスクを変動させることが明らかになりました。
犬種派生変数と耳血腫リスク
- 耳の形耳の形によって発症リスクに明白な格差が見られました。具体的なオッズ比は、立ち耳を基準とした場合V字垂れ耳が1.95、半折れ耳が1.60、垂れ耳が0.59というものです。
- 頭部の形状中頭種を基準とした場合、短頭種のオッズ比は0.77、長頭種のオッズ比は0.84と算定されました。
- 軟骨形成不全軟骨形成不全を抱えていない犬種を基準とした場合、抱えた犬種のオッズ比は0.22と算定されました。
- 成犬時の体重成長したときの体重に関し、重いほど発症リスクが高まることが確認されました。具体的なオッズ比は10~15kgが2.54、15~20kgが5.30、20~25kgが7.07、25~30kgが7.32、30~40kgが8.28、40超kgが8.53というものです。
耳血腫の原因1~頭の大きさ
犬種の標準的な体重よりも重い場合、オッズ比が1.42になること、および成犬時の体重が重ければ重いほどオッズ比が大きくなることから、調査チームは頭の大きさが耳血腫の発症リスクに深く関わっているのではないかと推測しています。
具体的に想定されているのは「体重が重い→体が大きい→頭の直径が大きい→頭を振ったときの遠心力が大きい→耳介に大きな力が加わりやすい→軟骨が損傷して耳血腫ができやすい」といったメカニズムです。
大型犬(セントバーナードやゴールデンレトリバー)や頭が大きい犬種(ブルドッグやブルテリア)の発症リスクが高い理由もそこにあるのではないかと指摘しています。また単純に体が大きな犬ほど耳を引っ掻くときの力が強いため、耳に損傷が生じやすいという面もあるでしょう。
具体的に想定されているのは「体重が重い→体が大きい→頭の直径が大きい→頭を振ったときの遠心力が大きい→耳介に大きな力が加わりやすい→軟骨が損傷して耳血腫ができやすい」といったメカニズムです。
大型犬(セントバーナードやゴールデンレトリバー)や頭が大きい犬種(ブルドッグやブルテリア)の発症リスクが高い理由もそこにあるのではないかと指摘しています。また単純に体が大きな犬ほど耳を引っ掻くときの力が強いため、耳に損傷が生じやすいという面もあるでしょう。
耳血腫の原因2~耳の形
耳の形も発症リスクに深く関わっているようです。調査チームはV字垂れ耳や半立ち耳でリスクが高まる理由を「折れ曲がっている部分に力が加わりやすく破損しやすいから」と推測しています。逆に垂れ耳でリスクが低下する理由は、根本から折れ曲がっているため柔軟性が生まれ、運動に伴う反復的な開閉を免れるからではないかとも。
耳血腫の原因3~年齢
加齢と共に発症リスクが高まる理由としては、人間の耳介軟骨で見られるのと同じ弾性繊維の変性ではないかと推測されています。平たく言うと軟骨の経年劣化です。