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犬の血液型~種類・検査方法から輸血の基礎知識まで

 人間よりもはるかに種類が多く複雑な犬の血液型について詳しく解説します。大けが、貧血、ガンなどで輸血が必要となった時、拒絶反応や検査方法に関する知識が役に立ってくれるでしょう。

犬の血液型の特徴

血液型を決定する赤血球上の抗原  血液型は血液に含まれる赤血球表面の抗原(こうげん)の種類によって決まります。赤血球とは、酸素の運搬に関わっている円盤状の赤い細胞のことです。人間と同様、犬にも血液がありその中に赤血球が含まれていますので、必然的に血液型も持っています。しかしその性質に関しては、人間のものと大きく異なるようです。

血液型の種類

 人間の血液型には「A, B, O, AB」の4種類があるのに対し、犬の血液型にはそれよりもはるかに多く10種類以上あります。「10種類以上」という漠然とした表現しかできないのは、今もなお研究の途中で、少しずつ種類が増えつつあるからです。例えば2007年には、ダルメシアンを対象とした研究から「Dal」という新しい抗原が発見されています(→詳細)。また2017年には、「Kai1」および「Kai2」という赤血球タンパクが従来とは全く別系統の血液型である可能性が示されています(→詳細)。
 たくさんある血液型の中から個体数が極めて少ないものを除くと、国際的に認知されてるのは8種類です。表中にある「DEA」とは「Dog Erythrocyte Antigen」の頭文字をとったものであり、直訳すると「イヌ赤血球抗原」という意味になります。なお保有率の合計が100%を軽く超えているのは、犬が複数の血液型を同時に保有できるからです。 How to blood type and cross-match
犬の血液型一覧表
DEA保有率自然抗体
1.162%2%未満
1.22%2%未満
35%8~15%
498%極めて稀
515%8~12%
696%不明
740~55%10~40%
820~44%不明

血液型の並存

 人間の血液型をABO式の分類法だけで考えた場合、血液型は1人の人間に対して1種類しかありません。例えば「佐藤さんはA型」、「山田さんはB型」といった感じです。赤血球上の抗原が複数ある=血液型が並存するしかしここに「Rh抗原」という全く別の分類法を加えて考えると、1人の人間の赤血球上に2種類の血液型が併存するという現象が起こります。例えば「佐藤さんはA型/Rhプラス」、「山田さんはB型/Rhマイナス」といった感じです。ここでいう「Rhプラス」とは赤血球上にD抗原と呼ばれるタンパク質をもっていること、「Rhマイナス」とは逆にもっていないことを意味しています。
 上記したような血液型の併存は犬の赤血球上でも起こります。例えば「タロはDEA1.1+DEA4」、「ジロはDEA1.1+DEA6+DEA7」といった感じです。ただし犬の場合は抗原の数が人間のものよりもはるかに多いため、併存のパターンはより複雑になります。
犬の血液型と性格  犬の血液型と性格とは無関係です。犬の性格は、生後3~12週に相当する社会化期の過ごし方によって大きく影響を受けます。もし血液型が性格形成に何らかの影響を及ぼしているとすると、犬は複数の血液型を同時に持つことができますので、人間のものに比べてずいぶんややこしいことになるでしょう。

特定犬種に多い血液型

 犬種ごとに多い血液型というのはあるのでしょうか?結論から述べると国によって保有率が変わる可能性が高いとなります。
 1986年に日本国内で報告された犬種別データによると、血液型の一種「DEA1」(1.1と1.2の統合)に関し以下のような保有率となっています(Ejima, 1986)。
犬種別のDEA1保有率・日本
 この中から、遠く離れたブラジルにおけるデータが存在する「ジャーマンシェパード」と「ボクサー」だけを取り出して国際比較してみましょう。日本のデータはジャーマンシェパード5頭とボクサー5頭、ブラジルのデータはサンパウロ州立大学附属病院を受診したジャーマンシェパード19頭とボクサー5頭です(Novais, 1999)。 シェパードのDEA1保有率~日本とブラジル・サンパウロにおける比較 ボクサーのDEA1保有率~日本とブラジル・サンパウロにおける比較  上記したように、同じ犬種であるにもかかわらず全く違う保有率であることがわかります。元となった犬の数が少ないので断言することはできませんが、おそらく他の犬種でも同じことが言えると推測されます。ですから犬種ごとに多い血液型は国や地域によって変わると考えるのが妥当でしょう。

犬の血液型と輸血

 犬に輸血処置が必要となるのは、「貧血」、「造血組織の機能不全」、「怪我や手術に伴う大量出血」といった症状に陥った時です。しかしどんな犬の血液でも輸血に使えるわけではありません。

犬の抗原抗体反応

 輸血や臓器移植などで異なるタイプの血液を混ぜると、時として拒絶反応が起こります。この拒絶反応を起こしているものは「抗原抗体反応」と呼ばれる現象です。
血管内における血球と血漿  「抗原」が赤血球上にある分子の形状を指しているのに対し、「抗体」(こうたい)は血漿中に含まれている特殊なタンパク質のことを指します。「血漿」(けっしょう)とは血液中を流れているサラサラした液体成分のことです。この抗体は、体内に自分のものとは異なる血液が侵入してきたとき、その赤血球上にある抗原を見つけて取りつき、機能不全に陥れる役割を担っています。抗体が赤血球に取り付くことを「抗原抗体反応」、赤血球が機能不全に陥ることを「凝集」(ぎょうしゅう)と呼びます。型が異なる血液同士を混ぜてはいけない理由は、この凝集反応によってせっかくの血液が使い物にならなくなるためです。 抗体と抗原による抗原抗体反応の模式図  抗原抗体反応を、人間の「A型」と「B型」の血液を例にとってシンプルに示すと上図のようになります。混乱しやすいのは、A型血液の血漿中には、異物であるB型赤血球に取りつく「B抗体」があり、逆にB型血液の血漿中には、異物であるA型赤血球に取りつく「A抗体」があるという点です。犬の場合は「A」や「B」と表記されている部分に、「DEA1.1」、「DEA3」、「DEA4」など8種類の数字が入りこみ、なおかつ複数同時に並存するということもありえますので、なおさら複雑です。
 人間や猫の場合、生まれた時から血漿中に抗体を保有していますが、犬の場合、一昔前まで「生まれつき抗体を持っている犬はいない」と広く信じられていました。その結果、血液型を検査しないまま輸血するという荒療治が行われることもあったようです。しかし犬の血液から抗原抗体反応が発見されてからは、こうした無茶はされなくなっています。ただし、抗原の種類によって抗体の保有率がバラバラなことは確かなようです。
犬の抗原と自然抗体保有率
  • DEA1.1→2%未満
  • DEA1.2→2%未満
  • DEA3→8~15%
  • DEA4→まれ
  • DEA5→8~12%
  • DEA6→不明
  • DEA7→10~40%
  • DEA8→不明
Canine and Feline Transfusion How to blood type and cross-match

血液型の検査法

 抗原抗体反応を予防するため、犬に輸血をする際は血液型特定検査のほか、交差試験と呼ばれる予備試験が行われます。

血液型特定検査

犬の血液型を簡易判定するテストキット  犬の血液型を詳細に検査するには、特殊な機関に血液サンプルを送る必要があります。しかし急を要する状況においては、当然そのような時間はありませんので、取り急ぎ「DEA1.1」を保有しているかどうかだけがチェックされます。理由は、「DEA1.1」が最も激しい抗原抗体反応を引き起こす血液型だからです。近年は「ラピッドベット-H」といった簡易テストキットも売られていますので、犬の血液型を知りたい場合はかかりつけの獣医さんにお問い合わせください。料金は動物病院によってまちまちですが、5,000~7,000円のところが多いようです。 ラピッドベット-H(共立製薬)
DEA1.1の保有率
  • トルコ=61.1%
  • クロアチア=66.7%
  • ポルトガル=56.9%
  • 日本=55.0%
 なお、数ある犬の血液型の中で、最も薄い反応しか引き起こさないのが「DEA4」です。この血液型は、他のどんな血液に対しても極めて弱い抗原抗体反応しか引き起こさないため、時に「万能血液」と呼ばれることがあります。しかしごくまれではありますが、この「DEA4」に対する抗体を生まれつき保有している犬もいますので、100%安全というわけではありません。また赤血球上に「DEA4」以外の抗原が一つでも並存している場合は、万能血液としての機能を失い、その他の血液と同格になってしまいます。 Canine and Feline Transfusion Principles of Blood Transfusion

血液の交差試験

犬の血液に対する交差試験  DEA1.1チェックに合わせ、予期せぬ抗原抗体反応を予防するため、血液の交差試験も行われます。交差試験(こうさしけん)とは、血液中に含まれる赤血球と血漿を分離して、「血液を受け取る側の血漿×血液を与える側の赤血球」(主試験)、および「血液を与える側の血漿×血液を受け取る側の赤血球」(副試験)という組み合わせで反応を見る検査のことです。双方の血液が適合しない場合は、赤血球が寄り集まって赤いブツブツになり(凝集反応)、使い物にならなくなります。赤血球と血漿成分を用いた交差試験の概略図

ペット輸血治療の現状

 現在、日本国内には犬や猫のための大規模な血液バンクがないため、仮にペットの血液型がわかっていたとしても、輸血に十分なだけの血液が手に入らないことがあります。2015年には中央大学の研究チームがイヌ用人工血液の開発に成功しましたが、実用化されるのは2021年頃とまだまだ先の話です(→詳細)。現在日本国内で行われているのは、以下に述べるような急場しのぎの対応です。
ペット輸血処置の現状
  • 動物病院で飼育されている供血猫・供血犬から血を確保する
  • 動物病院同士で助け合う
  • 医療用の代替血液を用いる
  • ボランティアのドナー動物を募る
輸血を受ける犬の様子  最後に挙げた「ボランティアのドナー」になると、「他のペットを助けることができる」、「病院から特典がもらえる」といったメリットがあります。しかし逆に「一時的な貧血に陥る」、「潜在的な心臓疾患が発現することがある」といったデメリットも併せ持っていますので、いつでも気軽に行えるというわけではありません。もし「うちの犬をドナーとして協力させたい!」という場合は、一般的に以下に述べるような条件を満たしている必要があります。
供血犬になる条件
  • 持病がないこと
  • 10日以上前にワクチン接種を受けていること
  • 8歳未満であること
  • 25キロ以上で肥満体でないこと
  • 感染症や寄生虫症にかかっていないこと
  • 特殊な薬物療法を受けていないこと
  • DEA1.1, 1.2, 3, 5, 7以外であること
  • 輸血歴・妊娠歴がないこと
  • 血小板が正常であること
  • ヘマトクリットが40%以上であること
 最後に挙げた「ヘマトクリット」とは、全血液成分のうち、赤血球が占めている容積のことです。体重が25キロ以上であれば、1度の採血で400~450ml程度(13~17ml/kg)取ることができます。ただし採血と採血の間隔は、最低でも4~5週間空けなければなりません。 Canine and Feline Transfusion Medicine Principles of Blood Transfusion
異種間輸血  異種間輸血(Xenotransfusion)とは、異なる動物種間で輸血を行うことです。通常は避けられますが、輸血以外に命を救うすべがないにもかかわらず、すぐに同種の血液が手に入らないときなどは、窮余の策として行われます。過去に行われた「犬→猫」の異種間輸血62ケースを調査したところ、初回の輸血に関してはとりわけ大きな問題が発生しないものの、輸血後4日くらいから徐々に抗体ができ始め、赤血球が破壊されていくといいます。ですから相当な緊急事態でない限り、異種間輸血という荒業は行わないのがセオリーです。 Xenotransfusion with canine blood in the feline species

気を付けたい新生子溶血

 「新生子溶血」(しんせいしようけつ, 新生子同種溶血現象, neonatal isoerythrolysisとも)とは、生まれたばかりの子犬の赤血球を、母親の母乳に含まれる抗体が攻撃してしまう現象のことです。
 母犬が子犬を生んでから数日間だけ出す期間限定の母乳は「初乳」と呼ばれ、母犬の血漿成分を豊富に含んでいます。ですからもし母犬の血漿中に他の血液型に対する抗体が含まれている場合は、この「初乳」の中にも抗体が含まれることになります。一方、子犬の体は生まれてから数日間は腸管からの吸収力が高まっており、母犬の初乳をどんどん体内に取り入れようとします。しかし、子犬の血液型が、初乳から受け取った抗体の攻撃対象である場合は大変です。体内に取り込んだ母犬の抗体が子犬の赤血球が異物とみなし、どんどん破壊してしまうのです。その結果、赤血球が破壊されて「溶血」と呼ばれる深刻な状態に陥り、最悪のケースでは死んでしまいます。これが「新生子溶血」のメカニズムです。
新生子溶血の模式図
子犬の血液と母犬の初乳が生み出す新生子同種溶血現象の模式図  こうした新生子溶血が発生するのは、出産前の段階で母犬に輸血治療をした際、不適合の血液を用いて血漿中に抗体が作られてしまった場合や、母犬がたまたま自然発生した抗体を体内に保有していた場合、あるいは偶発的な事故によって異なる血液が体内に侵入してしまった場合などです。ですから猫に比べるとはるかに可能性は低いといえますが、決してゼロというわけではありません。この新生子溶血を確実に避けるためには、子犬が初乳を飲む前に、母犬と子犬の血液を少量取り、交差試験を行うことが必要となります。もし赤血球が寄り集まって凝集反応を示した場合、母犬の母乳を子犬に与えることはご法度です。乳母犬の母乳や人工乳で育てるしかありません。またもし子犬が母乳を飲んだ直後にぐったりしているようでしたら、早急に授乳を中断し、動物病院へ連れて行く必要があります。