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老犬の痛みを管理する

 老化や病気にともなって生じる老犬の痛みにいち早く気づき、効果的に管理する方法について解説します。

老犬の病気と痛み

 人間と同様、年をとった犬は体のいたるところにガタが出始め、様々な病気を抱えるようになります。例えば以下は、老犬に発症しやすい疾患と痛みの度合いとの関連性を示した一覧リストです。痛みの度合いは、世界中の獣医師から構成される国際組織「痛みの認識・評価・治療に関するガイドライン」に依拠しています(→出典)。
急性痛と老齢期疾病
  • 中等度~激しい痛み軟部組織の外傷・炎症・病気 | 椎間板ヘルニア | ブドウ膜炎 | 角膜潰瘍や切除
  • 耐え難い痛み病的(骨粗鬆・腫瘍)な骨折 | 脊柱の手術 | 重度の炎症(腹膜炎・筋膜炎・蜂窩織炎)
慢性痛と老齢期疾病
 上記したように、加齢に伴って何らかの病気を抱えるようになると、大なり小なり痛みを抱えた状態で生活することを余儀なくされてしまいます。そこで飼い主に求められるのが、老犬が見せる微妙な変化を敏感に捉え、いち早く痛みに気づいてあげることです。詳しい観察方法は犬の痛みを見つける方法で述べてありますのでご参照ください。犬と毎日接しているという状況は、「毎日見ているから微妙な変化に気づく」という強みにもなれば、「見慣れているから微妙な変化を見落としてしまう」という弱みにもなりうる諸刃(もろは)の剣です。チェックリストを固定化して日常的に観察していれば、強みとして作用してくれるはずです。
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病院で行う鎮痛治療

 日常的な観察から老犬の痛みの徴候が見て取れた場合、生活の質(QOL)の低下を防ぐため、何らかの形で鎮痛治療を施す必要があります。多くの場合、3ヶ月以上継続する慢性的な痛みですので、治療計画も痛みの性質に沿った形で組み立てていくのがセオリーです。病院で鎮痛治療を行う場合、慢性痛を鎮痛薬だけで抑え込むことはなかなか難しいため、様々な学問分野から知識を集約して多角的(集学的)に鎮痛効果を狙います。これが 「多面的疼痛管理」(Multimodal Pain Management)で、具体的には以下の様な内容が含まれます。
病院での多面的疼痛管理
  • 非ステロイド系抗炎症薬 「非ステロイド系抗炎症薬」(NSAIDs)とは、ステロイド構造を含まない薬剤の総称です。一般的な薬効は、鎮痛、解熱、抗炎症作用とされています。絶対的に安全なNSAIDsというものは存在せず、特に長期的に使用する際には適切なガイドラインを順守しなければなりません。
  • 鎮痛薬 「鎮痛薬」とは痛みの緩和を目的とした薬の総称です。末梢の受容器、求心性神経線維、脊髄・脳のどこかに作用することにより、痛みの伝達をブロックします。複数の薬を同時に投与する方法は特に「多剤併用療法」と呼ばれ、「薬剤同士が相乗効果を生む」、「急性痛から得られた豊富な臨床データがある」、「個々の薬剤使用量を少なく抑えることができ、その分副作用の危険性が減少する」といったメリットを有しています。
  • 非投薬的治療 非投薬的治療とは、投薬以外の方法で痛みの緩和を目指す治療法の総称で、具体的には痛みの原因部位を外科的に切除する「外科治療」、別の組織に置き換える「幹細胞治療」、がん細胞の殲滅を目指す「放射線療法」などが含まれます。
  • 理学療法 理学療法とは、加熱、冷却、超音波、電気、マッサージ、運動のような物理的刺激を用いた治療法の総称です。病院によっては、専用の機器を用いる低レベルレーザー療法(コールドレーザー療法)、低周波電気療法、超音波療法、電気鍼灸療法といった治療を取り入れているところもあります。
  • 代替医療 代替医療とは西洋医学以外の様々な治療法の総称です。非常に沢山の種類がありますが、有名なところでは「ホメオパシー」、「アロマテラピー」、「カイロプラクティック」、「鍼灸」、「漢方」などが挙げられます。効果や信ぴょう性に関して様々な議論がある中で、比較的コンセンサスを得つつあるのが「鍼灸治療」です。「アメリカ国立衛生研究所」(NIH)では、鍼治療の適応症として疼痛管理をリストに入れていますし、日本においてもペットの保険会社が、鍼治療だけは保険の対象とカウントしているところもあります。詳しくは以下のページにまとめてありますのでご参照ください。犬の代替医療
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自宅で行う鎮痛治療

 複数の鎮痛アプローチを用いる「多面的疼痛管理」は、犬が長期的に入院でもしていないかぎり、動物病院だけが行うものではありません。犬と生活を共にする飼い主も、時として積極的に関わっていくことが求められます。以下では、自宅でもできる疼痛管理の一部をご紹介します。
自宅で行う犬の鎮痛・目次

機能性食品

 「機能性食品」とは、ある特定の作用を持つと考えられているペット用食品のことです。人間用の「特定保健用食品」や「機能性表示食品」とは違い、動物用機能性食品に関しては科学的根拠を示す必要がありません。ですから、商品のパッケージに記載されている効能を信じるかどうかは、飼い主の知識レベルかかっているということになります。こうした緩い規制のせいで、いいものと悪いものとがごちゃまぜになりやすいというのが難点と言えるでしょう。
 以下は、ペット用の機能性食品の主な種類とその効果です。そのほとんどは、骨関節炎や変形性関節症による筋骨格系の痛みを軽減することを目的としています。 小動物臨床における疼痛管理(P304)
犬用の機能性食品
  • 関節用製剤 コンドロイチン硫酸とグルコサミン塩酸塩を主成分とする製剤を科学的にしっかりとデザインされた2つの実験において評価したところ、一方では「効果あり」、他方では「効果なし」との結論に至った。総じて、中等度の疼痛緩和作用があると考えられる。
  • P54FP インドやジャワ原産のウコンやタムラワからの抽出成分「P54FP」に関し、主観的な評価では効果があるとされた。総じて、中等度の疼痛緩和効果があると考えられる。
  • ミドリイガイ属製剤 ミドリイガイ属に属する「モエギガイ」(Perna canaliculus)を主成分とする製剤に関し、3つの試験で疼痛の緩和に軽度から中等度の効果を示した。しかし残りの1つでは偽薬群と試験群との間に統計的に有意な差を認めることができなかった。総じて、疼痛緩和効果は低いと考えられる。
  • ボスウェリア・セラータ インドの高地に自生する樹木「ボスウェリア・セラータ」の天然樹脂抽出物を主成分とする栄養補助食品に関し、主観的な評価では効果があるとされたものの、科学的な根拠が適切に取り扱われていなかった。総じて、疼痛緩和効果は低いと考えられる。
 上記したように、さまざまな種類があるものの、その効果に関してはまちまちなようです。そんな中で近年注目されているのが「オメガ3脂肪酸」です。オメガ3脂肪酸は多価不飽和脂肪酸の一種で、分子のオメガ終末から第3番目の炭素に最初の二重結合部分があることからこう呼ばれています。鎮痛メカニズムは、細胞膜の中に含まれるオメガ6脂肪酸をオメガ3脂肪酸に置換することで、放出される代謝産物を炎症促進作用が強い「2・4系エイコサノイド」から炎症促進作用が弱い「3・5系エイコサノイド」に強制的に変えてしまうというものです。
 2012年に報告された研究では、骨関節炎を抱えた犬の疼痛管理において、オメガ3脂肪酸による栄養学的なアプローチは考慮するに値するとの結論に至っています(→出典)。この研究では、骨関節炎を自然発症した犬30頭のうち、15頭には魚由来のオメガ3脂肪酸を含んだ療法食、残りの15頭には通常のドッグフードを与えて運動能力の変化が観察されました。給餌試験開始から13週目に圧力センサーを用いて地面反力(足に掛かる力)を計測したところ、対照グループでは「体重の0.5 ± 6.1%増加」にとどまったのに対し、療法食グループでは「体重の3.5 ± 6.8%増加」という具合に、大きな開きが見られたと言います。また給餌実験終了時、行動レベルの値は療法食を食べていたグループでのみ顕著な改善が見られたとも。

環境整備

 老犬の痛みには様々な種類がありますが、運動に伴って発生する筋骨格系の痛みに関しては、飼い主が環境整備をしてあげることである程度軽減させることができます。以下はその一例です。
老犬のための環境整備
  • 食事 頭を床まで下げなくてよいように、食器を台に乗せて高くします。
  •  足が滑らないようカーペットを敷いたり、フリーリングを滑り止めしようにします。また爪の先に装着する「ToeGrips」といったグッズを利用するのも一案です。
  • トイレ 老犬の場合、ちょっとした移動がしんどく、途中でおもらししまうこともあります。トイレまでのルートには、床が汚れることを想定して掃除しやすい素材を敷いておくとよいでしょう。また、おもらしが頻繁に起こる場合は、トイレの場所自体を近づけてあげるといった工夫も必要です。
  • 散歩 関節が痛いと、それまで大好きだった散歩をあまりしたがらなくなります。しかし、全く運動しなくなってしまうと筋肉が萎縮を起こして老化が加速してしまいます。犬に痛みを感じさせないまま適度な運動をさせるため、飼い主が補助具などを用いて運動に付き添ってあげましょう。詳しくは犬の老化を予防するをご参照ください。
  • 寝具 身体機能が衰えて頻繁に寝返りが打てなくなった犬は床ずれを起こしやすくなります。ペットの素材を今までよりも柔らかいものにし、飼い主も定期的に犬の寝返りを手伝ってあげるようにしましょう。
老犬の環境管理~滑り止め・フードスタンド・柔らかい寝具

体重管理

 犬の体重を管理することは、変形性関節症や骨関節炎といった筋骨格系の疾患を抱えている老犬の痛みをコントロールしていく上で、極めて重要な位置を占めています。以下は、体重減少が犬の運動能力にどのような影響を及ぼすかを検証した調査報告の一部です。
体重管理と運動能力
  • Impellizeriらの調査(2000年) 腰椎の骨関節炎を有する9頭の肥満犬の症例検討試験において、11~18%の体重減少により、後ろ足の跛行(足を引きずること)の程度が有意に改善した(→出典)。
  • Mlacnikらの調査(2006年) 29頭の肥満犬をカロリー制限と理学療法の組み合わせによって治療したところ、犬の運動性の改善と体重減少の促進が認められた(→出典)。
  • Kealyらの調査(2000年) 食事の摂取を長期間減らした犬において、骨関節炎の有病率と重症度が低下した(→出典)。また長期に渡る食事摂取量の25%制限は、骨関節炎を含む慢性疾患の症状の発症を遅らせ、なおかつ平均寿命を延ばす可能性がある(→出典)。
  • Smithらの調査(2006年) 制限食にはラブラドールレトリバーの腰椎骨関節炎のX線学的所見の発現を遅らせたり予防する効果がある(→出典)。
 犬の肥満は筋骨格系の負担を増やすばかりでなく、関連疾患を誘発してしまう非常に危険な状態です。肥満を放置することは一種のネグレクト(怠慢飼育)であり、動物虐待と言っても過言では無いため、飼い主は責任を持って犬の体重を管理していかなければなりません。体力の衰えた老犬に無理矢理運動をさせて体重を減らすのは酷ですので、適切な食事管理によりそもそも太らせないようにすることが何よりも重要となります。 犬のダイエット 肥満の放置は一種のネグレクト(怠慢飼育)なので絶対にやってはいけない

リハビリ・理学療法

 「リハビリ」(リハビリテーション)とは、筋肉や関節の機能を改善して運動能力を回復させることです。よく用いられるのは加熱、冷却、超音波、電気、マッサージ、運動のような物理的刺激を用いた治療法で、これらは総称して「理学療法」と呼ばれます。
理学療法の主な種類
  • 徒手療法マッサージ | 他動運動 | 関節モビライゼーション | ストレッチ | 脊髄反射刺激
  • 運動療法陸上運動(補助的/自発的) | 水中運動
  • 物理療法冷却療法 | 温熱療法 | 低レベルレーザー療法(コールドレーザー療法) | 低周波電気療法 | 超音波療法 | 電気鍼灸療法
 人間が手を用いて行う「徒手療法」や、犬の自発的な運動を促す「運動療法」は、痛みの軽減というよりも、筋肉や骨格の衰えを防止する目的で行われます。詳しくは犬の老化を予防するで解説してありますのでご参照ください。一方、物理的なエネルギーを用いた「物理療法」は、主として鎮痛を目的として行われます。中には飼い主が自宅で実践できるものもありますので、以下でご紹介します。

温熱療法

 「温熱療法」とは、体に熱を加える治療法の総称です。表面を温める方法には温パック、温ラップ、温水ボトル、風呂・温泉、温水をかける、暖かいマット、温風を吹きかけるなどがあります。温水を利用した方法は組織により効率よく浸透するという特徴を持っており、急性~慢性疼痛の緩和や、受動運動、ストレッチ運動、訓練の前のウォーミングアップとして適しています。深部を温める際は、医療用の超音波機器等を用いなければなりません。操作を誤ると、火傷、組織障害、血液細胞や血管内皮の障害といった副作用を招いてしまいますので、訓練を受けた資格者が行う必要があります。 犬に対する機械を用いた温熱療法の一例  家庭でもできる簡便な温熱療法は、電子レンジで加熱することで繰り返し使用できる「温パック」(ホットパック)です。熱々のパックを直接体に当ててしまうとやけどをしてしまう危険性があるため、使用する際は必ずタオルに包むようにします。使用前に、飼い主が手の甲などで温度を確認する習慣を持てば無難でしょう。組織の温度が3℃上昇しないとほとんど効果はありませんが、組織温が45℃を超えると逆に有害な作用が生じてしまうため、注意深い観察が必要です。温パックの温度は75℃を超えないようにし、使用時間は15~30分程度に抑えます。なお、温パック内に含まれるゲルは動物に対して毒性を発揮することがありますので、犬が噛んで中身を誤食してしまわないよう十分な注意が必要です。 犬に対するホットパック(温パック)を用いた温熱療法の一例
温熱療法の効果
  • 痛みの軽減
  • 血圧を下げる
  • 筋肉の痙攣を軽減し弛緩を助ける
  • 局所の血液循環や代謝を高める
  • 毛細血管圧や血管の透過性を高める
  • 温めた部位において、白血球の分裂が高まり、組織の修復を促進する
  • 組織の伸展性が高まる
  • 神経伝達速度が増す
禁忌と注意点
  • 急性炎症部位
  • 出血している部位や最近出血した部位
  • 開放性の傷
  • 心不全
  • 熱がある
  • 妊娠中
  • 体温調節機能の障害
  • 放射線療法後の失活組織
温熱器具について  赤外線温熱ランプや電気ストーブは、広範囲に熱を加える事ができるので便利な半面、老犬にとっては危険な側面も含んでいます。例えば、皮膚感覚が衰えて「熱い」と感じるまでに時間がかかるとか、仮に熱いと思っていても体が思うように動かず、じっと耐え忍ばなければならないなどです。こうした状況は低温やけどや熱中症につながってしまいますので、温熱器具は飼い主がいるときだけ使用するよう注意します。

冷却療法

 「冷却療法」とは、体の熱を奪う治療法の総称です。外傷直後の急性炎症に施したときが最も効果的で、鎮痛効果や抗炎症効果のほか、出血や筋肉の痙攣を抑制するといった効果を併せ持っています。骨関節炎といった持病を持っている犬が運動した後、火照った関節を冷やす目的で行うと効果を発揮してくれるでしょう。
体の一部を冷却する際はビニール袋に入れた氷が簡便  最も簡単な冷却法は、砕いた氷を袋に入れたものを薄い布で包み、患部に10分~15分間当てるというものです。体の表面組織は、冷えるのが早い反面、元の温度に戻るのも早いという特徴を持っています。それに対して深部組織は、冷えるまでに時間がかかる反面、なかなか元の温度に戻らないという特徴を持っています。例えば10分間氷で冷やした場合、元の温度に戻るまでには60分程度が必要です。
 冷却と圧迫を組み合わせると相乗効果があることから、圧迫効果のある冷却パックがたくさん市販されています。しかし、内部に含まれるゲルが動物に対して毒性を発揮することもありますので要注意です。また、過度な冷却による凍傷を防ぐため、冷却パックがマイナス20℃以下にならないよう注意します。 冷パックと圧迫ベルトを用いた犬に対する冷却療法の一例
冷却療法の効果
  • 疼痛を軽減する
  • 血流の低下と出血の抑制
  • 炎症とむくみの軽減
  • 筋緊張の軽減
  • 代謝を低下させてヒスタミンの放出を抑制する
  • 一時的に筋肉の粘着性を高めて急速な動きを制限する
禁忌と注意点
  • 進行した心疾患
  • 急性の発熱性疾患
  • 寒冷刺激に過敏な体質
  • 湿疹や皮膚炎など急性の皮膚症状
  • 抹消血液循環が障害されている部位
  • 全身性あるいは限局性の血管障害による虚血部位
  • 凍傷や体温調節機能の障害部位
  • 6ヶ月以内に放射線療法や電離放射線に暴露されている場合
  • 開放性の傷や感染性の傷がある
  • 転移組織
  • 過剰な瘢痕組織
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