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犬の膀胱炎~症状・原因から予防・治療法まで

 犬の膀胱炎(ぼうこうえん)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の膀胱炎の病態・症状

 膀胱(ぼうこう)とは腎臓から送られてくる尿を一時的に溜める袋状の器官であり、左右の腎臓から尿管を通して尿を受け取り、尿道を通して体外に排出します。犬の膀胱炎とは膀胱内に侵入した病原体が接着・増殖・定着して炎症反応を引き起こした状態のことです。寄生虫、ウイルス、真菌が膀胱炎の原因になるケースが少なく、また猫で多発する原因不明の「特発性膀胱炎」が見られないため、ただ単に犬の膀胱炎と言った場合は通常「細菌性膀胱炎」を指します。 膀胱と尿管・尿道との位置関係模式図

細菌性膀胱炎の病態

 細菌性膀胱炎は多くの場合、消化管に生息している細菌がいったん体外に出た後、尿道を上行して膀胱に至ったり、医療器具(カテーテル)に付着していた細菌が尿管を下降して膀胱に至ることから、別名「尿路感染症」(UTI)と呼ばれることもあります。
 膀胱炎は膀胱穿刺によって尿を膀胱内から直接取り出して培養した際、何らかの細菌が尿1mL中1000CFU超という高密度になる状態で、感染した細菌の種類によって以下のような特徴的な病変が引き起こされます。
細菌性膀胱炎の種類
  • 気腫性膀胱炎気腫性膀胱炎とはグルコース発酵性の細菌が膀胱壁や膀胱内腔でガスを生成して貯留した状態です。ほとんどは大腸菌ですが、まれにプロテウス属、クロストリジウム属、アイロゲネス菌による症例もあります。
  • 結痂性膀胱炎結痂性膀胱炎とはCorynebacterium urealyticumを始めとした尿素分解菌によって膀胱粘膜にプラークが蓄積した状態のことです。
  • ポリープ様膀胱炎ポリープ様膀胱炎とはプロテウス属が膀胱壁の深層に感染することにより膀胱粘膜が広範囲にわたって肥厚し、腫瘤のような増殖が見られる状態のことです。

細菌性膀胱炎の症状

 犬の細菌性膀胱炎では主に以下のような症状が見られます出典資料:ISCAID, 2019)。「尿路感染症状」とは頻尿(おしっこの回数が増える)、排尿障害(おしっこがなかなか出ない)、有痛性尿症(排尿時に痛みが生じる)、血尿(尿日が交じる)などのことです。なお「潜在性細菌尿」の診断基準は炎症症状が見られないことですが、便宜上ここで解説します。

潜在性細菌尿

 潜在性細菌尿とは膀胱穿刺で採取した尿中に1000CFU以上の細菌が検出されるにもかかわらず、尿路感染症状が見られない状態のことです。「無症候性細菌尿」とも呼ばれます。

散発性細菌性膀胱炎

 散発性細菌性膀胱炎とは過去12ヶ月のうち細菌性膀胱炎の突発的な発症が多くとも2回にとどまる症例のことです。未去勢のオス犬ではめったに見られないことから、尿路感染症状が現れたときはまず細菌性の前立腺炎を疑う方が妥当とされています。

再発性細菌性膀胱炎

 再発性細菌性膀胱炎とは過去12ヶ月間における細菌性膀胱炎の突発的な発症が少なくとも3回に達する症例、もしくは過去6ヶ月間における発症が少なくとも2回に達する症例のことです。
 投薬治療や免疫システムで体内に駆逐されずに生き残っていた既存の病原菌が勢いを取り戻して再発するパターンや、今までとは全く別の病原菌に新たに感染してしまうというパターンがあります。
旧分類法
かつては尿路の解剖や機能に異常が見られないものの症状が見られる状態を「単純性」、尿路の解剖や機能に異常が見られたり共存症がある状態を「複雑性(複合性)」と分類していました。古い文献の場合こちらの分類法で記載されていることがあります。

犬の膀胱炎の原因

 細菌性膀胱炎を始めとする尿路感染症が発生する原因は、体に備わっている防御メカニズムが一時的もしくは恒常的に破綻して病原体の接着・増殖・定着を許してしまうことです。「防御メカニズム」には尿道内の高圧エリア、尿道や尿管の蠕動による体外排出ルート、膀胱粘膜のグリコサミノグリカン層、尿路の常在細菌叢、宿主の免疫機能などが含まれます。
 猫に比べて犬では細菌性尿路感染症の発症頻度が高いとされています。理由は犬の尿が薄くて比重が小さく、尿素、有機酸、抗菌性ペプチドの濃度も低くなって細菌が繁殖しやすい環境が整ってしまうからだと考えられています。

膀胱炎の危険因子

 以下は犬における細菌性膀胱炎の危険因子(リスクファクター)として有力な項目です出典資料:Thompson, 2011)。特にカテーテルを使用したときの尿路感染症の割合は30~52%にまで達し、透析治療や糖質コルチコイドの投与に際して留置型の尿路カテーテルを長期的に使用した場合が危険とされています。
細菌性尿路感染症の危険因子
  • 椎間板疾患の外科手術
  • 間欠的な膀胱カテーテル挿入
  • 留置型カテーテル
  • チューブ膀胱瘻造設術
  • 副腎皮質機能亢進症
  • 糖尿病
  • 慢性的な糖質コルチコイド使用
再発性尿路感染症の危険因子
  • 排尿異常四肢麻痺 | 排尿筋失調 | 前立腺嚢胞・膿瘍
  • 泌尿器の解剖学的異常尿道瘻形成術 | 尿道剥離・破裂 | 異所性尿管 | メスの外性器虚脱
  • 尿路上皮の変化尿石症 | 移行細胞腫
  • 尿成分の変化アジソン病 | 糖尿病
  • 免疫不全糖質コルチコイド治療 | がんに対する化学療法 | 全身性エリテマトーデス | 副腎皮質機能亢進症

膀胱炎の原因菌

 犬の膀胱炎で最も多い病原体は大腸菌(E.coli)です。副腎皮質機能亢進症もしくは糖尿病を発症した犬における単離率が55%(29/53)、再発・難治性の尿路感染症を発症した犬における単離率が41.2%(891/2165)~47.2%(208/441)、尿路感染症を発症した犬における単離率が37%(547/1478)~44.1%(3681/8354)と、どれも4割以上を占めています出典資料:Thompson, 2011)
 しかし大腸菌だけが尿路感染症に関わっているわけではありません。単一の細菌による感染症が75%、2つが20%、3つ以上が5%という統計があることから、同時に複数の病原体が症状を引き起こしている可能性も十分にあります。例えば以下は犬において多く報告されている大腸菌以外の病原体です。
尿路感染症の病原体
  • グラム陽性球菌25~33%/スタフィロコッカス、ストレプトコッカス、腸球菌 etc
  • グラム陰性菌25~33%/プロテウス、クレブシエラ、パスツレラ、シュードモナス、コリネバクテリウム etc
  • マイコプラズマ5%以下
 細菌以外では性器粘膜、上気道、消化管の片利共生菌であるカンジダ(C.albicans | C.glabrata | C.tropicalis)が真菌性尿路感染症を引き起こすことがあります。その他まれにアスペルギルス(真菌)、ブラストミセス(真菌)、クリプトコッカス(真菌)による感染症例も報告されています。

人からの感染ルート

 尿路感染症の原因菌を飼い主からもらってしまうという感染ルートが懸念されています。
 例えば獣医療機関で働くスタッフの肛門スワブ検査で犬が保有している大腸菌と近い菌株が検出されたとか出典資料:Sidjabat, 2006)、同じ家庭に暮らす人間と犬から同じ大腸菌株が単離されたという報告があります出典資料:Johnson, 2006)。また多剤耐性菌株「O25b:H4-ST131」が人間と犬の両方から検出されたという報告もあることから出典資料:Platell, 2010)、身体的なコンタクトが密な場合、人間から犬、そして犬から人間への異種間感染が起こりうる危険性は否定できないでしょう。

犬の膀胱炎の検査・診断

 細菌性膀胱炎の検査に際しては、膀胱と直接的に接触する尿を通じて間接的に細菌の有無を確認します。

尿の採取方法

 尿の採取方法は色々ありますが、特殊な理由がない限り人為的な汚染が最も少なくて済む膀胱穿刺が採用されます。これは腹部から注射を膀胱内に挿入し直接尿を吸い取る手法のことで、採取する際は超音波で膀胱の位置を確認し、尿石や腫瘤の有無を同時に確かめることもあります。 犬の採尿方法~自然排尿・カテーテル・膀胱穿刺

尿沈渣検査

 新鮮な尿を採取したら院内で尿沈渣検査を行い、赤血球、白血球、結晶の有無を確認したり染色を施した上で細菌や真菌の有無を観察したりします。その後、共存症の可能性や培養や経験的な治療が必要かどうかを判断します。

尿の培養

 尿培養が必要と判断された場合は採取した尿サンプルをすぐに冷蔵し、できれば数時間以内、遅くとも24時間以内にラボに送って検査しなければなりません。理由はpHの変化、白血球や上皮細胞の溶解、結晶の形成、微生物の増殖もしくは死滅につながり、正確な診断ができなくなるからです。
 尿培養は通常、有酸素環境に置いて18~24時間で十分ですが、コリネバクテリウムのように増殖が遅い細菌の場合は最大で5日を要することもあります。

補助的な検査

 細菌性膀胱炎の補助的な検査としては以下のようなものがあります。どれも病気に特異的な結果を返してくれるわけではありませんので、単一の検査だけで診断を下すことはできません。
診断の補助検査項目
  • 尿比重検査同じ細菌でもグラム陰性菌では尿比重が小さくなり、グラム陽性菌では尿比重が陰性菌や無菌尿より大きくなる傾向にあります。その他「E.coli」では小さくなると言った特徴がありますので、尿比重の診断的な価値はそれほど高くありません。
  • 潜血検査尿に含まれる潜血は尿路感染症だけでなく潜在性細菌尿、尿石症、膀胱がんのほとんどで見られる所見ですので、この検査だけから細菌性膀胱炎を診断することはできません。
  • 膿尿検査尿に含まれる膿は非特異的な所見ですので、この検査だけから細菌性膀胱炎を診断することはできません。

犬の膀胱炎の治療

 ISCAID(コンパニオンアニマル感染症国際協会)は2019年、犬の細菌性尿路感染症に関する診断と治療のガイドラインをアップデートしました。以下はその概要です出典資料:ISCAID, 2019)

潜在性細菌尿の治療

 そもそも潜在性細菌尿が膀胱炎のリスクになっているかどうかは分かっておらず、また人医学の分野では潜在性細菌尿に対する治療は必要ないとされています。
 犬ではよく見られ、症状を示していない犬では2.1~12%の割合で確認されている他、糖尿病、病的な肥満パルボウイルス性腸炎にかかった子犬、急性の椎間板ヘルニア、慢性的な麻痺、シクロスポリンや糖質コルチコイド治療を受けている犬においては15~74%という高い割合で確認されています。
 101頭の健康なメス犬を対象とした調査では潜在性細菌尿が8.9%の割合で見られたものの、3ヶ月のフォローアップ期間中に膀胱炎の発症リスクになっているという事実は見つからなかったとか、麻痺した犬を対象とした調査では細菌尿と発熱や生存期間との間に関連性は見られなかったという報告もあります。
 医学的な証拠(エビデンス)が揃っていない状況で抗菌薬を用いた予防的な治療を行うと、耐性菌の出現リスク、不要な治療に伴う無駄な出費や体への負担、副作用の危険性が生じるため、ISCAIDでは治療を推奨していません。また予防的な治療が推奨されていないことから、臨床症状を示していない動物からわざわざ尿を採取して培養し、「潜在性細菌尿」と診断を下すことには意味がないとも指摘しています。
 潜在性細菌尿が疑われる患犬に対して例外的な抗菌薬治療を行うのは主に以下のような場合です。
  • 脊髄損傷などで下部尿路症状を発現できない
  • 発熱など全身症状が現れている
  • プラーク形成性細菌が関わっている
  • ウリアーゼ産生性細菌が関わっている
  • 尿路の内視鏡検査や手術中
  • 尿路外の感染源として膀胱が疑われる

散発性細菌性膀胱炎の治療

 共存症がない細菌性膀胱炎の場合、人医学の領域では鎮痛薬の投与だけでも抗菌薬と同じくらい効果を発揮できると報告されています。この事実からISCAIDではまずNSAIDsなどの鎮痛薬を投与し、3~4日しても症状が消えない場合は細菌感受性テストの結果を元にした抗菌薬投与へと切り替えるという治療法を推奨しています。
 ただし犬においては過去に抗菌薬との接点がなく、なおかつ病原体の正体を高い確率で予測できる場合に限り、経験的治療を行っても良いとされています。
経験的治療
培養結果は出ていないものの、過去の発症頻度や地域性から原因菌に当たりをつけ、それに応じた抗菌薬治療を行うこと。細菌性膀胱炎ではグラム陽性菌に対するアモキシシリン、グラム陰性菌に対するアモキシシリン/クラブラン酸など。ただしクラブラン酸の有効性に関するエビデンスは獣医学の分野では欠落している。
 獣医療におけるエビデンスは限定的ですが、抗菌薬治療の理想的な期間は3~5日間とされています。またバンコマイシン、カルバペネム系薬、ニトロフラントイン、フルオロキノロン、第3世代セファロスポリンは耐性菌が発生するリスクが高いことから、極力使用を控えることが推奨されています。
 抗菌薬治療を開始してから48時間以内に症状の改善がみられない場合は、当てずっぽうで薬剤を変更するのではなくしっかりと再評価を行い、本当に膀胱炎なのか、共存症はないかを確認します。
 カテーテルを通して薬剤を膀胱内に直接的に流し込むことは推奨されません。効果に関するエビデンスが欠落しているだけでなく、犬においては逆に医原性の感染症を引き起こしたり膀胱壁に傷をつけてしまう危険性があるためです。
 治療後に症状の改善が見られた場合、不要な尿検査や尿の培養は行いません。

再発性細菌性膀胱炎の治療

 再発性細菌性膀胱炎では多くの場合共存症が一次疾患になっているため、繰り返し抗菌薬治療を行うよりも根本的な原因となっている一次疾患へのアプローチを優先します。
 超音波検査、X線検査、膀胱鏡検査を行い、隠れている疾患を見つけ出します。また膀胱鏡検査を行う際に膀胱粘膜の組織サンプルを採取し、深い層に生息している病原体を培養します。
 その他、診断は正しいけれども治療法が間違っている可能性も考慮し、抗菌薬濃度や投与量が正しいかどうか、患者のコンプライアンスは保たれているかどうかを再確認します。
 再感染症例に対しては3~5日間の短期治療、難治性症例に対しては7~14日間の長期治療を行いますが、必ずしも確固たるエビデンスに支えられているわけではありません。

代替治療

 人医学の領域では再発性の尿路感染症を予防する目的で抗生剤投与以外の方法が模索されています出典資料:Tewary, 2015)。具体的には以下ですが、獣医療の分野で科学的に有効性が実証された物はまだありません。

クランベリー抽出物

 クランベリー抽出物に含まれるポリフェノールの一種「プロアントシアニジン(proanthocyanidin, PACs)」が犬の尿路感染症の発症リスクを低下させる可能性が示されています。
 メカニズムは完全に解明されていませんが、大腸菌が上皮細胞に接着するときに利用する尿路上皮細胞の粘膜上皮と、ポリフェノールに含まれる二重結合(A-type)が 構造的に似ているため、菌と競合して粘膜に接着する数を相対的に減らしてくれるというものが想定されています出典資料:Howell, 2010)
 一方、プロアントシアニジンとともに含まれているシュウ酸塩が尿路結石の発症リスクを高める危険性が示されていますので、確定的な効果がない状態でむやみやたらに与えてよいというものではありません。 クランベリー~安全性と危険性から適正量まで

プロバイオティクス

 再発性尿路感染症を発症した閉経前の女性100人をランダムで2つのグループに分け、抗菌薬と共に一方にはラクトバシラスの一種「Lactobacillus crispatus」を含んだ性器内に直接留置するタイプのプロバイオティクス、他方には偽薬を5日間にわたって与え、その後は週1のペースに切り替えて10週間にわたって症状の変化をモニタリングしました。
 その結果、プロバイオティクスグループにおける再発率が15%(7/48)だったのに対し、プラセボグループにおけるそれが27%(13/48)で、前者における相対リスクがおよそ半減することが明らかになったと言います。濃度に関しては16S RNA遺伝子コピー数がスワブ検査で100万以上になった場合、相対リスクが0.07にまで減少したとも。
 この菌株は犬に対して用いられておらず、また投与方法も限られています出典資料:Stapleton, 2011)

生きた生物学的製剤

 健康な犬6頭と再発性細菌性膀胱炎を患う9頭に対し、大腸菌を利用した生物学的な製剤「ASB E.coli 2-12」をカテーテル経由で膀胱内に直接注入し、2週間にわたって症状の変化をモニタリングしました。
 その結果、健康な犬では副作用や臨床症状が見られなかったのに対し、患犬では14日目までに4頭が完璧もしくは完璧に近い治癒に至ったといいます。注入を行った日に軽い発熱が見られた以外重大な副作用はなかったとも出典資料:Segev, 2018)
 脊髄損傷に伴う神経因性膀胱を発症した21人の男女に対し、大腸菌製剤「E.coli 83972」を膀胱内に注入したところ、13人では平均12.3ヶ月という長期に渡るコロニー化が認められ、主観評価で症状の改善を報告したといいます。1年の尿路感染症は3.1回にとどまり、コロニー化が持続している間の発症はなかったとも。一方、コロニー化が成功しなかった4名およびコローニ化した後で自然に滅菌した7名では尿路感染症を発症しました出典資料:Hull, 2000)
 再発性の膀胱炎を予防するため、無症候性細菌尿を人為的に作り出すという実験は犬に対しても行われています。E.coli 83972 をカテーテル経由で膀胱内に直接移植した予備的な報告では、恒常的な定着は得られずせいぜい10日ぐらいしか膀胱内に留まらなかったと言います出典資料:Thompson, 2011)。さらに複数回にわたって同様の移植を行った別の調査でも長期的な定着は得られなかったとのこと出典資料:Thompson, 2012)。 人間で見られる長期的な細菌の定着がなぜ犬では生じないのかに関してはよく分かっていません。

ワクチン

 マウスを対象とし、大腸菌(E.coli)の単離株「NU14 DeltawaaL」 を膀胱内に注入したところ、8週間ほど持続する免疫が獲得され、複数種の病原性大腸菌への防御能を示したといいます。弱毒化生ワクチンとして有効であると期待されています出典資料:Billips, 2009)

D-マンノース

 大腸菌はマンノースと結合するFimHアドヘシンを先端に有したタイプ1線毛を使って尿路上皮に接着し、細胞内に侵入した細菌は増殖・成長して濃密なバイオフィルムを形成します。この感染プロセスを遮断する目的で α-d-マンノースをベースとしたFimH阻害剤を使用すると、実験室レベルでは細菌の尿路上皮接着および細胞内への侵入とバイオフィルム形成を阻害できることが確認されています出典資料:Wellens, 2008)。生体内(in vivo)における効果は証明されていません。

グリコサミノグリカン

 尿路上皮を覆うグリコサミノグリカンのバリアが崩壊すると、尿に含まれる成分が膀胱壁内に侵入し、神経のC線維や肥満細胞の活性化を促してヒスタミンが放出され、さまざまな臨床症状が引き起こされます。
 ヒトの間質性膀胱炎患者を対象とし、ヒアルロン酸塩(1.6%)とコンドロイチン硫酸(2%)を成分として含んだ「Ialuril®」 と呼ばれる製剤を静脈経由で投与したところ、排尿回数の減少、1回排尿量の増加、臨床症状の改善、生活の質の向上が見られたと言います。また尿路感染症患者を対象として同様の実験を行ったところ、年間発作回数が比較対照群に比べておよそ90%減少し、発作間の寛解期間が3.5倍に延長したとも出典資料:Bassi, 2011)
 健康な犬8頭に対しコンドロイチン硫酸を含んだサプリメントを体重1kg当たり1日20~30mgの割合で8日間にわたって経口投与した実験では、24時間以内に尿中のコンドロイチン硫酸濃度が中等度上昇したものの、多く与えたからといって濃度が高まるわけではなかったといいます。そもそもサプリメントが再発性の尿路感染症予防につながっているかどうかはまだ検証されていません出典資料:Wood, 2019)
犬のおしっこを日常的に観察し、下部尿路症状(頻尿・排尿困難・血尿 etc)が見られたら速やかに動物病院を受診しましょう。尿道から出した排出物に見る健康と病気