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犬の老化を予防する

 マッサージ、ストレッチ、運動などを利用し、犬の老化をなるべく遅らせるための方法について解説します。

犬の老化と不動化

 年をとった犬は筋力が衰えて家の中に引きこもりがちになり、不動化(ふどうか)と呼ばれる病的な状態に陥って老化が加速してしまうことがよくあります。「不動化」とは、手足に怪我を負ったり手術をした後、副木やギブスをして安静にしている状態のことで、筋肉、骨、関節同士をつなぐ靭帯、筋肉と骨をつなぐ腱、関節の表面を覆う軟骨といった組織が弱化してしまう現象は、特に「廃用性萎縮」とも呼ばれます。不動化が招く一般的な悪影響は以下です。 犬と猫におけるリハビリテーション・支持療法・および緩和療法 怪我の後のギブス固定では関節の不動化を余儀なくされる
不動化の悪影響
  • 筋肉に対する影響 不動化によって最も萎縮しやすい筋肉は、1つの関節だけを横断する「I型線維」(遅筋/太ももにある内側・中間広筋など)、次に萎縮しやすいのは複数の関節を横断する「I型線維」(ふくらはぎにある腓腹筋など)、そして最も萎縮しにくいのは複数の関節を横断する「II型線維」(速筋/腿裏にある大腿二頭筋など)だといいます。人間の場合、不動期間が1週間続くと最大筋力が50%ほど失われ、元の状態まで回復させるためには、不動化期間の2倍の筋トレが必要とされていますので、犬でも同程度のリハビリ期間が必要と考えるのが妥当でしょう。不動化中の筋肉内で生じるミクロな変化は以下です。
    筋繊維の大きさや数の減少 | ミトコンドリアの大きさと数の減少 | 総筋重量の減少 | 筋収縮時間の増加 | 筋張力の生産の低下 | グリコーゲンとアデノシン3リン酸濃度の低下 | 運動中のATP濃度のより急速な低下 | 運動中の乳酸濃度の大幅な増加 | タンパク合成の低下
  • 関節軟骨への影響 不動化期間が6週間以内と比較的短い場合、軽度のリハビリを数週間行えば元に戻るとされています。一方、11週間以上の長期的な不動化の場合は、かなり長い期間に及ぶリハビリが必要とされ、仮に50週間行ったとしても、完全に元の状態に戻すことは難しいと言われています。特に若い犬における関節の不動化は、関節軟骨に不可逆的な変化を引き起こし、加齢とともに退行性変性を起こしやすくなってしまいます。不動化中の関節内で生じるミクロな変化は以下です。
    プロテオグリカンの合成低下と分解の増加 | 関節軟骨の軟化 | 関節軟骨の肥厚の低下 | 軟骨の栄養分の減少 | 軟骨の表面に繊維脂肪性の結合組織が癒着する | 軟骨と軟骨の接触部での圧迫壊死 | 軟骨細胞の死
  • 靭帯と腱への影響 骨と骨をつなぐ線維性組織を「靭帯」、骨と筋肉をつなぐ線維性組織を「腱」と呼びます。靭帯や腱が損傷した場合、治癒を促すためある程度の不動化期間が必要です。しかし、わずか4週間の不動化で靭帯と腱の負荷抵抗力が80%も低下してしまうことが確認されています。一般的に、靭帯や腱の回復には不動化期間の3倍の時間が必要で、機能を完全に回復させようとすると、時として12ヶ月以上の時間を要することもあります。ケージ内で安静にしていた時のほうが、関節をギブスで完全に固定した時よりも機能の減退は少なくて済みますが、「安静にしていなさい」という命令をしっかりと守れる犬でない限り、大なり小なりギブス固定は必要となるでしょう。不動化中の靭帯や腱内部で生じるミクロな変化は以下です。
    線状圧、最大圧力、剛性の著しい減少 | 膠原線維の大きさと密度の減少による線維断面積の減少 | コラーゲンの合成と分解の減少 | 平行線配列と新しいコラーゲン線維の偶然の配列の組織崩壊 | 骨-靭帯、骨-腱複合体の負荷吸収能力とエネルギー吸収能力の減少 | 水分量と伸展性の減少によるグリコサミノグリカン値の減少 | 骨-靭帯、骨-腱結合部での骨破壊活性の増加
  • 骨への影響 6週間程度と不動化期間が短いものはリハビリに2~3ヶ月かけるとかなり良い状態まで回復するとされています。一方、不動化期間が32週と長い場合、長期間のリハビリにもかかわらず30%~50%の骨の損失は免れないと言われています。このように限られた回復しか見られない理由は、骨の内部で生じた小柱構造や線維柱帯の劣化が、外部からの刺激によってもなかなか復元してくれないからだと推測されています。不動化中の骨内で生じるミクロな変化は以下です。
    骨吸収の増加と骨破壊の低下 | 皮質骨と海綿骨の骨量の低下 | 皮質骨密度と剛性の低下 | 末梢体重負荷による骨の損失 | 骨粗しょう症と骨減少症
 上記したように、一度衰えてしまった筋骨格系の組織を元の状態に回復させる事は容易ではありません。ですから「そもそも犬を不動化に陥らせない」という観点が とりわけ重要になってきます。以下では、犬の不動化を予防するための幾つかのヒントをご紹介します。
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犬のリハビリ・理学療法

 「リハビリテーション」とは、筋肉や関節の機能を改善して運動能力を回復させることです。よく用いられるのは加熱、冷却、超音波、電気、マッサージ、運動のような物理的刺激を用いた治療法で、これらは総称して「理学療法」と呼ばれます。年老いた犬は加齢や病気に伴って運動不足と不動化に陥り、筋骨格系が衰えがちになります。しかし、無理に運動させるのはかわいそうと言ってそのまま放置しておくと、筋肉や関節がさらに衰弱し、犬の老化を早めてしまうことに繋がりかねません。そこで重要となってくるのが、リハビリや理学療法の知識を応用した適度な刺激と運動です。具体的には以下のようなものがあります。
老化防止のための理学療法・目次

マッサージ

 「マッサージ」とは、皮膚や筋肉に対して何らかの圧力を加える手技全般のことです。マッサージは動物の血行を促進するのみならず、ペットと飼い主の間の絆を強めたり、病気を早期発見するといった重要な役割を併せ持っていますので、飼い主が日常的に行うことが望まれます。 マッサージは筋肉の披露を回復するのみならず、犬と飼い主の絆を深めるという効果が有る  犬の体の詳しい構造やマッサージの基礎知識に関しては、犬のマッサージにまとめてありますのでご参照ください。マッサージを行うのが望ましくない「禁忌事項」を確認した上で実践すれば、犬との絆が深まるばかりでなく、病気の早期発見や疲労回復、老化の防止等に役に立ってくれるでしょう。

他動運動

 「他動運動」(たどううんどう)とは、関節の動く範囲を改善することを目的として行う手技のことです。外傷や手術の後、関節を横断している筋肉、腱、靭帯が短縮することで、関節可動域(ROM)が悪化してしまうことはよくあります。悪化した状態が2週間以上継続してしまうと、関節の動きが半永久的に戻らなくなってしまう危険性があるため、人間が何らかの予防的介入を行わなければなりません。この時に用いられるのが「他動運動」です。
他動運動の効果
  • 靭帯、腱、筋肉といった軟部組織の構築や短縮による可動域の低下を防ぐ
  • 筋肉の長さや柔軟性を維持し、高める
  • 関節包や関節の癒着を防ぐことにより関節の可動域を維持する
  • 関節液の放出を高めることで関節包内の栄養を増進する
  • 異なる組織間の動きを維持する
  • 動きの正常な型を作る
  • 関節、筋肉、皮膚、またその他の軟部組織の機械的受容器を刺激することで、固有感覚器の認識が高まる
  • 組織が拘縮することで発生する痛みを軽減する
  • 血液循環およびリンパ液の循環を高める
禁忌注意事項
  • 靭帯、筋肉、腱の急性損傷
  • 動かすことによってさらなる障害や不安定さが予測される時
  • 不完全骨折が認められるとき
  • 骨折して間もない部位
  • 関節血症がある場合
  • 関節に感染が起きている場合
  • 治療しようとしている部位に血管内カテーテルが装着されている場合
  • 長期間固定していた四肢の場合
 軟部組織の短縮は、運動不足に陥った老犬でも十分に起こりうる現象ですので、飼い主が折を見て他動運動を行ってあげると、関節の柔軟性維持に貢献できるでしょう。テクニックには、大きく分けて「受動的運動」と「ストレッチ」とがあります。

受動的運動

 「受動的運動」とは、正常な可動域を維持するため、外的な力で関節を動かしてあげることです。適用は手術後、慢性変性疾患、神経疾患からの回復期などで、障害を受けた直後に実施するのが望ましいとされています。動きは必ず動物にとって快適な範囲で行い、限界を超えた動きによって外傷を悪化させたり組織の修復を邪魔してはいけません。また受動運動を受ける動物は脱力しているため、筋力を維持する効果まではありません。
 ラブラドールレトリバーを対象として行われた調査では、各関節の可動域は以下の範囲に収まるとされています。体の大きさや犬種によって多少の差異はあるものの、参考程度にはなるでしょう。
犬の関節可動域
  • 肘関節=36~166°肘関節の関節可動域(ROM)
  • 手根関節32~196°手根関節の関節可動域(ROM)
  • 膝関節42~162°膝関節の関節可動域(ROM)
  • 足根関節39~164°足根関節の関節可動域(ROM)

ストレッチ

 「ストレッチ」とは、筋緊張によって悪化した関節の運動領域を広げるため、受動的運動よりも強いストレスをかけることです。マッサージ、温熱パック、運動の後など、ある程度体が温まっている時に行うとより効果的であるとされています。
 関節可動域(ROM)を悪化させる要因には、筋肉が軽度に短縮した「筋緊張」のほか、関節周辺にある軟部組織(筋肉・腱・靭帯)が瘢痕化、癒着、上位運動神経病変からの筋肉緊張亢進などによって病的に固くなった「拘縮」とがあります。ストレッチが目標としているのは「筋緊張」の方で、「拘縮」の改善には通常外科的介入が必要です。
ストレッチのポイント
  • 対象は左右の前足+左右の後足の4ヶ所が基本
  • 動物が痛みを感じない範囲内で関節を限界域まで動かす
  • 手に抵抗を感じたまま30~90秒間関節を固定
  • 関節を反対の限界域まで曲げて同様の手技を行う
  • 両方の限界域ストレッチを1回とする
  • 一つの関節につき2~5回行う(=1セット)
  • 一つの関節につき1日3セット行う
犬の股関節と膝関節のストレッチ運動 犬の肩関節と肘関節のストレッチ運動

運動療法

 「運動療法」とは、自発的に筋肉を伸縮させることで筋骨格系の衰えを遅らせたり回復する治療法の総称です。運動を制御するには脳を働かせなければならないため、間接的に神経系への刺激にもなっているという側面があります。つまり、寝たきり予防と同時に認知症予防にもなっているということです。運動療法には、主として以下のような効果があります。
運動療法の効果
  • 身体機能の減退を予防する
  • 身体機能を増強する
  • 外傷の危険を軽減する
  • 健康全般を最適化する
  • 身体的・精神的健康の両方を促進する
  • 神経筋の能力と動作様式の形成
  • 体位の安定化
  • 関節可動域の維持
 上記した「身体機能」には様々な意味が含まれていますが、以下では「持久力」、「筋力」、「平衡感覚」の3つと運動療法との関係について解説します。

持久力を鍛える

 「持久力」とは、緩やかな有酸素運動を長時間継続して行う能力のことで、具体的には筋肉内の毛細血管増加、安静時の心拍数減少、1回心拍出量の増加、安静時における血圧低下、呼吸酵素の増加といった生理学的な変化のことを意味します。有酸素耐性を改善する際は、特定の筋群に焦点を当て、15分以上毎週数回繰り返し行わなければなりません。持久力を強化する運動には、長時間小走りを継続するトロッティング、水泳、トレッドミル、軽めの荷重引きなどがあります。 室内で老犬に運動させるときは低速のトレッドミルなどを利用する  足腰の弱った老犬に無理やり負荷をかけた運動や長時間の運動を強要するのは酷ですので、犬のペースに合わせてのんびりと散歩をしてあげるだけで十分です。足を引きずっていないかとか、リズムがおかしくないかといった点に注意しながら犬の歩様を観察します。オーバートレーニングの悪影響は犬が高齢であればあるほど大きく、1日1時間のトレッドミル運動(時速10km)を週6×8ヶ月続けたところ、骨と関節軟骨に回復不能の機能障害が生じたという例もあります(Millis, 2004)。犬がスムーズに歩けないような場合は、飼い主が補助用スリングやハーネスを用いて足にかかる負荷を軽減してあげるなどの工夫が必要です。 老犬の足に掛かる負荷を軽減するためのハーネスとスリング

筋力を鍛える

 「筋力」とは、筋肉が生み出すことができる力の最大量のことで、具体的には筋肉を構成している筋原線維の数や筋肉の断面積などを指します。筋力を強化する運動には、走る、坂の上り下り、荷重を引っ張る、ダンス(二足歩行)、水泳といったものがあります。
 老犬の筋力が著しく弱っている場合、時として補助用のハーネスを使うといった工夫が必要です。例えば後足が衰えている犬の場合、お腹の下に補助具(スリング)を入れ、飼い主が上から持ち上げてあげます。犬が自力で立っていられるギリギリのポイントを見つけたら手によるアシストを最小限にし、犬の後足の筋肉に刺激を与えて筋力を鍛えましょう。これを1セット10回×1日3セットほど行い、犬が補助具なしで立っていられる時間を徐々に伸ばしていきます。 後肢の筋力が衰えた犬の場合、腹の下に補助スリングを入れると良い  犬の筋力がそれほど衰えていない場合は、筋肉に対する負荷を少し増やすような運動を取り入れます。例えば傾斜板の上に前足だけを乗せ、残された後足への荷重を強引に増やすなどです。 傾斜板の上に前足をのせることで、後足への負荷を増やす

平衡感覚を鍛える

 「平衡感覚」とは、直立姿勢や移動中にバランスを崩さず体を安定させる能力のことで、具体的には筋肉や関節に含まれる感覚器、感覚器からの情報を脳に伝える求心性経路、脳からの情報を筋肉に伝える遠心性経路などを指します。平衡感覚を鍛える運動には、ぐらぐらする板の上に立つ、バランスパッド、トランポリン、走行中の方向転換、ボール遊び、ダンス、ジムボールの上に立つなどがあります。その他、サークル状に歩く、ポールを縫うように歩く、障害物や異なる形の表面上を歩くといった運動も有効です。
 老犬を対象として平衡感覚を鍛える運動を行う際は、誤って転倒してしまわないよう注意します。ボールの上に立つといった曲芸的なことをさせるよりも、「サークル状に歩く」とか、ハーネスを付けて「バランスボールの上に前足だけ乗せる」といったメニューを選んだほうが安全です。 不安定な足場に犬を乗せることで、平衡感覚が鍛えられる
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