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犬の出せ(離せ)のしつけ

 出せ(離せ)とは、飼い主が命令すると同時に犬がくわえているものを離す行動のことです。 他人の服やズボンに噛(か)みついたまま離れなかったり、食べてはいけないような毒性の食品や植物に出くわしたときなど、このしつけをトレーニングしておくと大変役に立つでしょう。

出せのしつけの必要性

 「出せ」(離せ)のしつけとは、飼い主の命令に応じて犬が口にくわえているものを素早く離すことです。このしつけは誤食事故を予防する上でとても重要になってきます。
 「拾い食いのしつけ」では犬が何かに興味を惹かれた瞬間に意識をこちらに向けるという練習をしました。しかし実際に犬と生活していると、飼い主が気づいて指示を出す前に、犬が何かを口に入れてしまうということが度々起こります。それが単なるおもちゃだったらどうという事はありませんが、道端に落ちている有毒な物の場合、犬が中毒に陥ったり時として死亡してしまうこともあります。 犬の散歩中は常に誤飲誤食の危険性がある  例えば以下は、事故の啓発につなげるため犬が誤飲誤食した奇妙なものを表彰する「レントゲン大賞」の結果です。アメリカ・ワシントンにあるペット保険会社が主催しています。犬がこうした奇妙なものを飲み込んでしまう前に、飼い主が「出せ!」と指示を出していれば、誤食事故を防げたかもしれません。
犬が飲み込んだ変なもの
  • 2014年オレゴン州ポートランドのグレートデンが靴下43個を丸呑み(→出典 レントゲン大賞2014年
  • 2015年オハイオ州リスボンに暮らすドーベルマンの「ゼウス」がゴルフボール26個を丸呑み(→出典 レントゲン大賞2015年
  • 2016年ワシントン州レントンに暮らすヨークシャーテリアがクレートに付いていたカラビナ金具を丸呑み(→出典 レントゲン大賞2016年
  • 2017年マサチューセッツ州ペパウェルに暮らすブルドッグの「レイア」がリブボーンを丸呑み(→出典 レントゲン大賞2017年
 上で挙げたのは極端な例ですが、日常生活の中にはリード、道端に落ちてるネズミの死骸、有毒植物、ガム、煙草の吸殻、雨の後の干からびたミミズ、自分や他の犬のウンチなど、口に入れて欲しくないものがたくさんあります。万が一こうしたものを口に入れてしまった場合、「出せ」のしつけができていればすぐに取り出すことができ、誤食事故の被害を最小限に抑えることもできるはずです。それでは具体的に「出せ」をマスターさせるまでの教え方を見ていきましょう。
NEXT:しつけの基本方針

犬の出せのしつけ・基本方針

 出せ(離せ)の訓練をするに際し、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
ダセの言葉で犬がくわえている物を離すこと
してほしくない行動
ダセの言葉をかけても犬がくわえている物を離さないこと
 してほしい行動と快(ごほうび・強化刺激)、してほしくない行動と不快(おしおき・嫌悪刺激)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえて犬に出せをしつける場合を考えて見ましょう。
強化
「ダセの言葉で犬がくわえている物を離した」瞬間に快を与える
弱化
「ダセの言葉をかけても犬がくわえている物を離さなかった」瞬間に不快を与える
 犬の出せのしつけに際しては弱化よりも強化の方が効果的です。
 例えば何かをくわえ込んでなかなか離そうとしない犬の耳を引っ張り、離した瞬間に解放してあげたとしましょう。犬は痛みに驚いて噛んでいたものを離すかもしれません。しかしその反動として飼い主の手を怖がるようになり、頭を撫でようと目の前に伸びてきた手に反射的に噛み付いてしまうようになります。また飼い主がいるときはおとなしくしているけれども、飼い主がいなくなったとたん、同じものを口に入れるという行動が再発してしまうでしょう。更に問題なのは、飼い主の存在を嫌いになってしまう可能性があるという点です。これでは犬も飼い主も幸せになりませんね。
 犬に体罰を加えてしまうとあっという間に信頼関係が崩れますので、「出せ」の練習をする際は正しい行動にごほうびを与えて伸ばしてあげる正の強化が基本方針となります。
NEXT:しつけの実践

犬の出せのしつけ・実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ実践に入りましょう。まずはしつけに入る前に「犬のしつけの基本理論」で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」「一つの刺激と快不快を混在させないこと」「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」を念頭においてください。まだマスターしていない方は以下のページを読んで「すべきこと」と「すべきでないこと」が何であるかを把握しておきます。 犬のしつけの基本

しつけの準備

 実際に「出せ」をしつけに入る前に、以下のような準備を終わらせておきましょう。

集中できる環境を作る

 一つのことを覚えるには集中力が大切です。しつけの前には窓を閉じて外からの音を遮断し、テレビやラジオは消しましょう。気が散るようなおもちゃなどは全て片付け、犬の意識が否応なく飼い主の後に向くように無味乾燥な環境を作ってしまいます。
 また犬の集中力は10分~15分ほどです。集中力がなくなってきたらいさぎよく練習を中断してその日の夜や翌日に改めて再開しましょう。飼い主がしつけを焦って犬の感情を無視して強引に行ってしまうと、しつけ自体が犬にとっての苦痛になってしまいます。

おもちゃを用意する

 犬が口にくわえたくなるようなおもちゃを何種類か用意しておきます。一端を飼い主が手に持って犬の動きを固定できるよう、ロープ状のものを用いて下さい。散歩に使うリードを噛む癖がある場合はリードでも構いません。

ごほうびを用意する

 ごほうびとしては基本的におやつを用います。犬が口にくわえているものよりも強い魅力を持っていることが絶対条件ですので、なるべく犬が大好きなものを選ぶようにしましょう。口にくわえたおもちゃの代わりに、より魅力的なおもちゃを与えるという方法では、新しく与えたおもちゃを回収することが難しくなり、しつけがスムーズに進行しません。

指示語を統一する

 犬をある動作に導く指示語を統一しないと犬は混乱してしまいます。一家の中でお父さんは「ダセ!」、お母さんは「ダシナサイ!」、息子は「オトセ!」、娘は「ハナセ!」だったら犬は大混乱で何をしてよいか分からなくなり、いじけてしまいます。このように指示する際に掛ける言葉は一つに絞ること、つまり「指示語を統一すること」は非常に重要なのです。
 指示語の候補としては、日本語では「ダセ」「ハナセ」、英語では「Drop it」(ドロッピット)「Release」(リリース)などがあります。実際のしつけに入る前に必ず家族会議を開き、どれを用いるの決めておいてください。

口から出す動作にごほうび

 まずは犬におもちゃ与えて口にくわえさせます。リードを装着する必要はありません。その代わり、犬がおもちゃをくわえたままどこかに行ってしまわないよう、ロープ状のものを用い、片方の端を飼い主が手で持って固定しておきます。大型犬の場合は力が強いため、もう一人協力者がいたほうがやりやすいでしょう。飼い主は綱引き遊びと勘違いされないよう、おもちゃを持った手を押したり引いたりせず、まるで電柱のようにじっと動かないようにします。 【画像の元動画】How To Teach your dog to Drop it 犬の出せのしつけでは、まず魅力の少ないものを口にくわえさせる  犬の動きが止まったら、空いている方の手でおやつをもち、おもちゃをくわえている犬の鼻先に近づけてみます。犬は嗅覚の動物ですのですぐにそちらに意識が向き、おやつをゲットしようと自発的に口を開けるはずです。口を開けた瞬間「いいこ」とほめておやつを与えましょう。 犬の鼻先におやつを持っていき自発的に口を開けるよう誘導してあげる  おやつ与えたら再びおもちゃを犬にくわえさせます。同様の手順で犬の鼻先におやつをちらつかせ、犬がおもちゃを自発的に離した瞬間、ほめておやつを与えます。こうした練習を繰り返すことにより犬は「たとえおもちゃを放しても、その先にはもっと良いものが待っている!」と学習し、口にくわえているものを解放することへの抵抗がなくなっていきます。これは「くわえているものを離すこと」とごほうびとを結びつけるオペラント条件付けです。

口から出す動作と指示語をリンク

 犬がスムーズにくわえているものを離してくれるようになったら今度は「口を開けて離す」という動作に指示語をリンクしていきます。
 前のステップで行ったように犬におもちゃをくわえさせ、おやつで鼻先を誘導し、おもちゃを離す瞬間を待ちましょう。
 犬が口を開けようとする寸前、あらかじめ決めていた指示語を一度だけはっきりと発音してください。ここでは「ダセ」を例に取ります。犬がおもちゃ離したら、すかさずほめてごほうびを与えましょう。くわえていたものを離した後に指示語が来ないように注意してください。 【画像の元動画】Teach a Dog to Drop It - Get polite mouth control with Tug犬にダセという指示語を覚えさせるタイミングは口を開ける寸前がベスト

指示語だけで出せ

 口から物を離す寸前に指示語を聞かせるという練習を10回ほど繰り返したら、指示語だけで自発的に口を開けてくれるかどうかをテストします。
 犬におもちゃをくわえさせ、おやつを見せない状態で「ダセ!」と1度だけはっきりと指示語を出してください。犬が自発的に口を開けてくれたら大成功です。行動と指示語とが頭の中で結びついていることを意味しています。 【画像の元動画】How to Train Drop - clicker dog training 指示語を繰り返し聴いた犬はダセという指示語の意味を理解して口を自発的に開ける  もし犬がキョトンとしているようならまだ練習が足りません。もう一度前のステップに戻り、口を開ける寸前に1度だけ指示語を聞かせるという練習を繰り返しましょう。行動の後に指示語を出してもなかなか覚えてくれませんので、口を開ける寸前に指示語を発するよう注意してください。

くわえるものの魅力を高める

 犬が指示語に従って口を開けてくれるようになったら、徐々に口にくわえさせもののクオリティを高めていきましょう。例えば「スクイーキートイ(キューキュー音がなるおもちゃ)」「デンタルガム」「ローハイド(生皮)」「おやつ入りコング」「綱引き遊び中のおもちゃ」などです。散歩中のリードを噛んでしまう「リーシュバイター」(leash biter)の場合はリードを用いて練習するのも良いでしょう。 犬にとって魅力のあるものが口の中にあっても「ダセ」の指示で口を開けるようしっかり練習  こうしたものは犬にとって魅力が強いものですので、今までよりも口を開けることに抵抗を示すかもしれません。スムーズに口を開けさせるときのポイントは、ごほうびにしっかりとした勾配(=格差)を作るという点です。
行動対比
 行動対比(こうどうたいひ)とは、過去の経験と比較し、今目の前にあるごほうびが上か下かを判断することです。もらったごほうびが過去のものより上等なものだとやる気が増し、下等だとやる気が低下します。犬にダセをしつけるには、出したときにもらえるごほうびが、くわえているものよりも常に上である必要があります。報酬の勾配(差)が大きいほど、快感が強い方の行動が増します。
 犬は上記「行動対比」によって口を開けるかどうかを決めますので、飼い主が手に持つおやつは、犬にとって最も魅力のあるものにしたほうがよいでしょう。犬は「今口にくわえているものを離したらとっておきのごほうびが待っている!」と学習し、口を開けることがだんだんと楽しくなってきます。

おやつの回数を減らす

 「ダセ」と命じるたびに上質なおやつを与えていたら、犬が肥満に陥って不健康になってしまうかもしれません。ですから飼い主は「おやつ」というごほうびから「ほめる」というごほうびに緩やかにシフトしていく必要があります。
 練習している最中は、犬がうまく出来るごとにおやつ与えて構いません。犬が「出せ」を覚え、確実に口にくわえているものを離してくれるようになったら、おやつを与える回数を「2回に1回→ 3回に1回→ 4回に1回・・・」といった具合に徐々に減らしていきます。最終的には「いいこ」などの褒め言葉だけで済ませるようにしましょう。ただし間欠強化の原理で犬の行動を強化するため、犬の大好きなとっておきのおやつをたまにランダムで与えるようにします。そうすることで犬は、まるで万馬券を当てた人のようにその行為に病み付きになり、いい意味でやめられなくなります。
出せ(離せ)のしつけは拾い食いのしつけとワンセットにして行ってください。どちらの訓練も誤飲誤食による犬の死亡事故を予防する上でとても重要です。