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犬の抱っこのしつけ

 抱っことは、犬が人間の両腕に抱かれても嫌がったり暴れたりしない状態のことです。エレベーターに乗るときだけでなく、事件、事故、災害が発生していちはやく犬の身の安全を確保したいときにも必要になります。

抱っこのしつけの必要性

 「抱っこ」とは犬が飼い主の両腕で抱きしめられてもじっとして動かない状態のことです。このしつけは犬を身の安全を守る上でとても重要になってきます。
 1998年、東京都北区に暮らす女性がヨークシャーテリアをノーリードで散歩させていたところ、散歩中のドーベルマンと遭遇した。ドーベルマンの飼い主はテリアの飼い主に対し、犬をリードにつなぐか抱きかかえるよう求めたが間に合わず、結局テリアはドーベルマンにかまれて死亡した。
 上記した事件では大型犬の飼い主が「抱きかかえてくれ」と警告していたにもかかわらず発生してしまいました。犬をノーリードで散歩させているのは論外ですが、小型犬の飼い主があらかじめ抱っこのしつけを終え、せめて抱っこした状態だったら犬の身の安全は確保されていたかもしれません。
 2006年、東京都品川区のビル8Fで、住人の女性(95)に連れられていた犬が同乗者とともに突然エレベーターから飛び出した。女性は犬のロープを握ったまま箱の中に取り残され、犬とリードが8F廊下側の扉に挟まったまま上昇。リードを握っていた左手の指4本を切断した。階下に残された犬は首輪が抜けて奇跡的に無事だった(※下の動画は似たような状況を捉えたもの)。 元動画は⇒こちら
 上記した事故は、犬の飼い主が集合住宅の管理規約にのっとり、しっかりと犬を抱きかかえた状態でエレベーターに乗っていれば予防できたかもしれません。
 このように抱っこのしつけは、体が小さな小型犬を危険から遠ざけ、飼い主がシェルターになってあげるという意味があるのです。さらに災害時、飼い主が犬を抱っこすることに慣れていなかったり、逆に犬が抱っこされることに慣れていなかったりすると、スムーズな避難が遅れて生命に危険が及ぶ可能性すらあります。
 ですから抱っこのしつけは犬の身を守る上でも飼い主の身を守る上でも重要であるといえます。では具体的に犬に抱っこをしつける時の手順や方法を見ていきましょう。
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犬の抱っこのしつけ・基本方針

 犬の抱っこのしつけに際して、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
犬が両腕で持ち上げられてもじっとしていること
してほしくない行動
犬が両腕で持ち上げらるともがいて逃げ出してしまうこと
 してほしい行動と快(ごほうび・強化刺激)、してほしくない行動と不快(おしおき・嫌悪刺激)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえて犬に抱っこをしつける場合を考えて見ましょう。
強化
両腕で持ち上げられてもじっとしていた瞬間に快を与える
弱化
両腕で持ち上げられて逃げ出そうとした瞬間に不快を与える
 犬の抱っこのしつけに際しては弱化よりも強化の方が効果的です。
 例えば抱っこした状態から逃げ出そうとする犬を強引に腕で抑えつけたとします。すると犬は飼い主の手や腕に恐怖を覚えるようになり、自分に近づいてくる手に反射的に噛みつくようになってしまうかもしれません。こうした現象が実際に起こりうることを示した調査報告もあります。2009年にアメリカで行われた調査によると、犬の体を力ずくで抑えつけると高い確率で反撃を食うことが明らかになりました。具体的には、犬の体を上から力ずくで抑え込むドミナンスダウンを用いた場合が29%(7/24人)、そして犬を仰向けに寝かせて動けなくするアルファロールを用いた場合が31%(11/36人)だったとのこと。 犬の体を強制的に拘束すると高い確率で攻撃性を引き出してしまう  さらに2016年、ブリティッシュコロンビア大学の心理学者スタンレー・コレン氏が行った調査によると、人間に抱かれている犬のうち、なんと8割以上が不安のサインを見せていたといいます(→詳細)。下の写真はその一例です。「耳を垂らす」、「目の端に白目が見える」、「舌なめずりする」、「顔を背ける」といった不安の徴候を随所に見て取ることができるでしょう。抱っこされることに慣れておらず、不安を感じている犬を無理に抱っこしようとすると、反射的に攻撃的になり、思わぬ咬傷事故につながってしまうということは想像に難くありません。人間に抱きしめられた時に犬が見せるカーミングシグナル  ですから犬に抱っこをしつける時は、わざわざ攻撃性を引き出すような体を無理やり抑え込むやり方ではなく、腕の中でじっとしていたらごほうびを与えるという正の強化が基本方針となります。
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犬の抱っこのしつけ・実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ実践に入りましょう。まずはしつけに入る前に「犬のしつけの基本理論」で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」「一つの刺激と快不快を混在させないこと」「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」を念頭においてください。まだマスターしていない方は以下のページを読んで「すべきこと」と「すべきでないこと」が何であるかを把握しておきます。 犬のしつけの基本

しつけの準備

 実際に抱っこのしつけに入る前に、以下のような準備を終わらせておきましょう。

集中できる環境を作る

 一つのことを覚えるには集中力が大切です。しつけの前には窓を閉じて外からの音を遮断し、テレビやラジオは消しましょう。気が散るようなおもちゃなどは全て片付け、犬の意識が否応なく飼い主の後に向くように無味乾燥な環境を作ってしまいます。
 また犬の集中力は10分~15分ほどです。集中力がなくなってきたらいさぎよくしつけを中断してその日の夜や翌日に改めて再開しましょう。飼い主がしつけを焦って犬の感情を無視して強引に行ってしまうと、しつけ自体が犬にとっての苦痛になってしまいます。

ごほうびを用意する

 犬をある特定の行動に対して積極的にさせるためには、何らかの快(強化刺激)を与える必要があります。以下は代表的な犬に対するごほうびです。
犬に対するごほうびいろいろ
  • おやつおやつをごほうびとして使う場合は犬がおいしいと感じるもの+カロリーの低いものを選ぶようにしましょう。与えるときは犬が満腹にならないよう、なるべく少量だけにします。
  • ほめる高い声で「よーし」や「いいこ」や「グッド」などの声をかけてあげます。言葉と同時に軽く一回なでてあげてもかまいません。ただしあまり激しく撫で回してしまうと犬が興奮しすぎて集中力がなくなってしまうため、軽くにとどめておきます。
  • おもちゃおもちゃを選ぶときは、あらかじめ犬に何種類かのおもちゃを与えておいて一番のお気に入りを確かめておきます。ただし一度与えると回収するのが困難になるため、しつけセッションの最後に与えるようにします。

ボディコントロールを終える

 犬が人間の手を怖がる「ハンドシャイ」だったり、体に触れられることにまだ慣れていないようなときは、まず事前にボディコントロールのしつけを終わらせておきましょう。体に触られることに慣れていないのに体を持ち上げようとすると、高い確率で犬の反撃を食らいます。また仮に反撃を食らわなかったとしても、ほぼ確実に犬が飼い主の事を嫌いになってしまいますので、何一ついい事はありません。 ボディコントロールのしつけ

正しい抱っこの仕方

 以下で示すのはよくない抱っこの仕方です。 犬の間違った抱っこの仕方  1番左は「スクラッフィング」と呼ばれるもので、池や川で溺れている犬を片手で引き上げるといった緊急事態以外では許されません。
 真ん中は人間の赤ちゃんを抱っこする時に近い形ですが、犬の場合耳や首筋を噛んでしまいます。
 1番右のように持ってしまうと犬の肋骨に負担がかかってしまいます。断面で見たとき、人間の肋骨が卵形であるのに対し、犬の肋骨は胸元を頂点としたドングリ形になっています。人間が後ろから抱きかかえて肋骨を圧迫してしまうと、ちょうどドングリの頂点(胸骨)に力が集中し、犬は苦しくなってしまいます。
 女性でも片手で抱きかかえられるような超小型犬小型犬の場合、以下のような形で抱っこするようにします。 How To Hold A Puppy 超小型犬の正しい抱っこの仕方 How to Pick Up a Dog 小型犬の正しい抱っこの仕方  肋骨に強い力が加わらないよう、手のひら全体で胸の全面にある胸骨(きょうこつ)を支えるように持ちます。腕の内側で腰のくびれを支え、犬の下半身を支えます。さらに逆の手で犬の骨盤や後ろ足を支え、1ヶ所に圧力が集中するのを防ぎます。足をだらんと垂らした状態にしておけば、もがいて逃げ出すこともなくなるでしょう。

脇の下に手を入れる

 まずは脇の下に手を入れることに慣らしていきます。飼い主は床に座ったまま片手でおやつ持って犬の鼻先を誘導し、自分の正面で横向きになるようにしましょう。犬が正面に来たら、「ダッコ」と言いながらもう片方の手で犬の脇の下を触ります。どちらの手を用いるかは自由です。犬がじっとしていたら「いいこ」と褒めておやつを与えましょう。これは「脇の下を触られる」という触覚的な情報とごほうびとを結び付ける古典的条件付けです。10回ほど繰り返してください。 How To Hold A Puppy いきなり犬を抱っこするのではなく、まず脇の下を触られることに慣れさせる  犬をテーブルの上に乗せて練習すると落下事故の危険性があります。必ず床の上で行って下さい。「ダッコ」と言いながら練習を繰り返すと、犬は「ダッコという言葉の後に触られる」という関係性を覚えていいます。触る前に「ダッコ」と声をかける習慣をつけておけば、急な接触に犬が驚いてストレスを感じることも少なくなるでしょう。

上半身を持ち上げる

 犬が脇の下を触られることに慣れてきたら今度は上半身を持ち上げてみます。前のステップで行ったように自分の正面に導き、「ダッコ」と言いながら脇の下に手を入れます。手を入れたら上半身だけ軽く持ち上げ前足を浮かせてみましょう。犬がじっとしていたら「いいこ」と褒めておやつを与えます。タイミングを間違えてもがいた瞬間にごほうびを与えないよう注意してください。 犬の前足が軽く浮き上がることに慣れさせる

下半身を持ち上げる

 犬が上半身のリフトに慣れてきたら今度は下半身まで持ち上げます。犬を自分の正面に導き、「ダッコ」と言いながら脇の下に手を入れて上半身を持ち上げます。そのまま腕の内側を犬の腰のくびれに当て、もう片方の手で体を補助しつつ下半身も持ち上げて後ろ足を浮かせてみましょう。犬がじっとしていたら「いいこ」とほめていったん降ろし、おやつを与えます。 犬の後ろ足が軽く浮き上がることに慣れさせる

抱っこしている時間を延ばす

 犬が抱っこされている状態に慣れてきたら持続時間を少しずつ伸ばしていきましょう。前のステップで行ったように犬を抱っこします。そのまま腕を斜め45度に傾け、逆側の手で骨盤を支えるように持ちます。まずはその状態で5秒間ホールドしてみましょう。 How To Hold A Puppy 手足が宙に浮いた状態でホールドされることに慣れさせる  犬が我慢できたら「いいこ」とほめ、いったん降ろしておやつを与えます。犬がもがくようだったらホールドする時間を2秒くらいに縮めてください。犬が我慢できるようだったらホールドする時間を6秒→7秒→8秒・・・という具合に秒刻みで伸ばしていきます。面倒くさくなっていきなり1分とか5分に飛んでしまうのは失敗の原因です。犬が抱っこ嫌いにならないよう持続時間は緩やかに伸ばすようにしてください。

抱っこした状態で移動

 犬が抱っこされることに慣れてきたら、今度はその状態のまま移動する練習をしましょう。犬が落ちないよう片手で肋骨、もう片方の手で骨盤を支えてください。その状態でまずは立ち上がってみます。犬が我慢できたら「いいこ」とほめていったん降ろしおやつを与えましょう。
 犬が高い場所に慣れてきたら、犬を抱っこしたまま3歩歩いてみます。犬が我慢できたら「いいこ」とほめていったん降ろしおやつを与えましょう。同じ要領で歩く距離を4歩→5歩→6歩・・・という具合に少しずつ伸ばしていきます。いきなり部屋中を歩き回ると犬が怖がって抱っこ嫌いになってしまいますので、移動距離はゆっくりと伸ばすようにしてください。犬が我慢できたら「いいこ」とほめていったん降ろしおやつを与えます。 How to Hold a Chihuahua _ Raising Your Dog 犬の後ろ足が飼い主の腕に引っかかっていると、そこを足場にして逃げ出してしまう危険性がある  チワワヨークシャーテリアトイプードルといった超小型犬の場合、体重が3kgほどしかないため女性でも片手で抱っこすることができます。しかし犬の後ろ足が腕にかかった状態で片手抱っこをしていると、急な物音に驚いたときに飼い主の腕が足場となり、そこからジャンプしてしまうかもしれません。人間の胸の高さから落ちて無事でいられる超小型犬はいませんので、犬の足を腕から外しもう片方の手で骨盤あたりを補助しながら両手で抱っこするようにして下さい。

逆の手でも抱っこ

 今まで犬を抱っこする手が右手だった場合、今度は左手でも行ってみましょう。これは犬のための練習というよりも、いざとなったとき飼い主が右手でも左手でもスムーズに犬を抱っこできるようにするための練習です。

中~大型犬の抱っこ

 犬の体が片手では持ち上げられないような中型犬以上の場合、以下のような抱っこの仕方をします。緊急時以外使う事はないと思いますが、事前に練習を重ねておくと、いざとなったとき飼い主が慌てることもなくなりますし、拘束された犬がもがく可能性も少なくなります。 How to Pick Up a Dog 中型犬の抱っこは胸元と骨盤を包み込むように両手で持ち上げる  しつけの手順は小型犬の場合と同じです。犬の体が横向きになるようにおやつなどで誘導し、まずは上半身に腕を回すところから始めます。犬がじっとしていたら「いいこ」とほめておやつを与えましょう。上半身が終わったら下半身にも腕を回してみます。
 犬が触られることに慣れてきたら今度は持ち上げてみましょう。いきなり抱きしめるのではなく、上半身だけ→下半身だけという具合にステップを細かく分けて慣らしていってください。犬が両方のリフトになれたら最後に両手で抱きかかえてみます。中型犬はそこそこ体重がありますで、持ち上げる時に人間のほうが腰を痛めてしまわないよう、犬の体を自分の骨盤に引き寄せるようにしてください。
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