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犬のチューイング(くちゃ噛み)と健康の関係~ベストなおやつやおもちゃの選び方

 口の中に入れたものを繰り返しくちゃくちゃと噛み続ける犬のチューイング行動。歯磨きガムやおもちゃをかじっているうちは問題ありませんが、人間の体や家財道具ターゲットにし出すと大問題です。何か対策はあるのでしょうか?

犬のチューイング行動統計

 犬のチューイング(chewing)とは口の中に入れたものを繰り返しくちゃくちゃと噛み続けること。人間がチューイングガムを噛む時に見せる動作のことです。年齢にかかわらず見られますが、歯の生え変わりを経験する子犬において特に多く見られます。 くちゃくちゃと同じものをかみ続ける犬のチューイング(chewing)行動  飼い主が与えたおもちゃや歯磨きガムをガジガジ噛んでいるうちは何の問題もありませんが、対象が人間の体の一部になると咬傷事故につながりますし、家財道具の一部になると最悪のケースでは飼育放棄につながってしまいます。予防するための対策はないのでしょうか?
 犬のチューイング行動に関する統計調査を行ったのはオーストリアのウィーンにある獣医大学のチーム。2018年4月から11月の期間、ドイツ語圏に暮らす不特定多数の犬の飼い主に対して88項目からなるオンラインのアンケート調査を行い、最終的に2,105人から1,990頭分の回答を得ました。
回答者(飼い主)の基本属性
  • 平均年齢=39.5歳
  • 女性=92%
  • ドイツ=73%
  • オーストリア=23%
  • その他の国=4%
  • 郊外居住=53%
  • 小都市居住=27%
  • 都心部居住=20%
  • 飼育初心者=33%
  • 単頭飼い=57%
  • 多頭飼い=43%
犬の基本属性
  • 平均年齢=4.7歳
  • 避妊メス=23%
  • 未手術メス=24%
  • 去勢オス=21%
  • 未手術オス=32%
  • ミックス=26%
  • 純血種=70%
  • 種不明=4%
  • ペット=85%
  • ※体重情報なし

家財道具へのチューイング

 週に4~6回もしくは毎日少なくとも1回のペースで家財道具をガジガジ噛んでしまう犬たちのデータから、ターゲットになりやすい物品を調べたところ以下のようになったといいます。「子犬」は1歳未満、「成犬」は1歳以上8歳未満、「老犬」は8歳以上です。
犬のチューイング対象物
1歳未満の子犬がターゲットとしやすい家財道具 1歳以上8歳未満の成犬がターゲットとしやすい家財道具 8歳以上の老犬がターゲットとしやすい家財道具
  • 1=柔らかいもの(枕 etc)
  • 2=布・靴
  • 3=休息場所
  • 4=本・新聞
  • 5=家具
  • 6=カーペット
  • 7=フードボール・食器
  • 8=硬いもの(リモコン・携帯etc)
  • 9=カーテン
  • 10=ケーブル
  • 11=車の内部
  • 12=壁
  • 13=ドア

チューイングとの相関項目

 犬たちが見せるチューイング行動との相関関係を調べた結果、以下のような項目が浮かび上がってきたといいます。数値は「rs(スピアマンの順位相関係数)」で、-1は完全な負の相関関係、+1は完全な正の相関関係、0は全くの無関係という意味です。 子犬のチューイング行動との相関項目 成犬のチューイング行動との相関項目 老犬のチューイング行動との相関項目 Chewing behaviour in dogs ? A survey-based exploratory study
Applied Animal Behaviour Science Volume 241, August 2021, C.Arhant, R.Winkelmann, J.Troxler et al., DOI:10.1016/j.applanim.2021.105372

チューイングに際する注意

 犬が見せるチューイング行動は祖先である狼から受け継いだ本能的なものだと考えられます。狼たちは集団で獲物を捕らえた後、骨をガジガジ噛み砕いて骨髄ごと食べてしまいます。こうした捕食行動は人間に飼われていない野犬でも見られることから、歯ごたえのあるものをガムのようにくちゃくちゃと噛み続けることにある種の快感を覚えるのかもしれません。この行動がハードワイヤーなのだとすると、チューイングを止めさせるのではなく、いかに安全にチューイングさせるかという観点が重要になってきます。 犬はなぜ骨をしゃぶるのが好き? 獲物の骨にしゃぶりつくオオカミ

チューイングのデメリット

 今回の調査では1,491名のうち33%が「チューイング行動で少なくとも1回は犬に問題が生じた」と回答しました。具体的には「咳き込み・えづき=29%」、「嘔吐=19%」、「下痢=18%」、「便秘=12%」などです(複数回答)。さらに7.2%では素材による外傷(歯肉裂傷・ささくれが歯に挟まる・歯の破折 etc)を経験しており、3.5%は複数回だったとも。3.6%では何らかの治療を必要とし、1%では外科的な手術を必要としました。
 同様の結果は過去に行われた別の調査でも報告されていますので、犬たちにチューイングさせる時は以下のような事例を念頭に置いておく必要があります。

誤飲による閉塞

 フランスにあるヴェテリネール・フレジ総合病院の外科医療チームは「食道内異物」と診断された全ての患犬データを調べた所、全部で95ケースが見つかり、異物として最も多かったのは「骨」(63ケース | 66%)だったといいます。恐らく、おやつとして与えられていた動物の骨を犬がガジガジと噛んでるうちに砕けてしまい、それが食道に引っかかったのだと推測されます。砕けた骨の切片は大抵尖っていますので、食道壁に食い込んだまま胃袋に落ちて行こうとしないのでしょう。 犬の食道下部異物に対する胃切開アプローチ法  また1998年3月から2017年3月の期間、オーストラリアのクイーンズランドにある「Queensland Veterinary Specialists and Pet Emergency」を受診した犬の中から「食道異物」と診断されたケースだけを取り出したところ、異物の内容として以下のようなものが発見されました。
異物の内容(222頭)
  • 骨・軟骨=81.0%
  • 釣り針=6.8%
  • 肉=3.6%
  • 生皮=3.2%
  • 木の串=1.8%
  • 豚の耳=1.8%
  • 犬用ビスケット=0.9%
  • 豚の鼻=0.5%
  • 生のニンジン=0.5%
 「骨・軟骨」「生皮」「豚の耳」など、チューイングを促す目的で与えられるおやつが多く見られますね。 犬の食道から異物を除去する際の死亡率を高める要因

歯の破折

 埼玉県上尾市にあるフジタ動物病院は2007年2月~2012年6月の間に来院した犬379頭から得られた合計609の破折歯を回顧的に調査しました。
 その結果、破折の原因は9割以上が硬いものを咬んだことによるものだったと言います。具体的にはひづめ、ガム(デンタルガムを含む)、おもちゃ、骨、ケージ、石などです。「デンタルケア」を謳って犬に与えられるチューイング商品が、逆に破折を招いていると言う逆説的な現実が浮き彫りとなりました。 デンタルケアを謳ったひづめや犬用ガムは、硬すぎて歯の破折を招くことがあるので注意が必要

胃腸障害

 岡山にある倉敷芸術科学大学を中心とした共同チームは2016年4月から12月の期間、岡山県と大阪府内で一般に市販されている犬向けのおやつ303サンプル(そのうち255が国産)を対象とし、サルモネラ菌の汚染率を調べました。その結果、全体の2.3%に相当する7つが陽性だったといいます。
 調査対象となったおやつは主として動物の体の一部をそのまま乾燥させたガジガジかじるチューイングタイプでした。 犬向けおやつは2%の確率でサルモネラ菌に汚染されている

チューイングのメリット

  先述したように犬にとってチューイング行動は本能に根ざした自然な行動だと考えられます。行動を促すことによって動物福祉の分野で言われる「5つの自由」のうち「自然な行動の発現」を達成できるでしょう。その他以下のようなメリットも報告されています。
チューイングの良い面
  • 歯の健康維持ガジガジかじることによって顔面~頭部の血流が増加し、豊富な血液が歯肉組織に流れ込むことによって免疫細胞が病原体を捕捉しやすくなります。またチューイング素材と歯との物理的な接触が歯垢や歯石の蓄積を予防してくれます。
  • 顎と歯の成長特に歯が生え変わる子犬期においては、適度な圧力が歯槽骨の成長を促してくれます。また歯の土台となる骨が堅牢になることで永久歯が正しい方向に生えやすくなります。
  • ストレス解消年齢層に関わらず散歩の中止、ルーチンの変更、来客、留守番といったシチュエーションとチューイング行動との間に正の相関関係が見られました。こうした事実から、ガジガジ口を動かすこと自体が何らかのメカニズムを通じて犬のストレス解消に役立っている可能性が伺えます。なお咀嚼とストレス軽減の関係性は作業犬、げっ歯類、そして人間を対象とした調査でも示唆されています。

健全にチューイングさせるには?

 メリットとデメリットを把握すると、犬にチューイング行動を促す時の注意点が見えてきます。最低限以下のようなポイントに気をつければ犬の安全を確保できるでしょう。
良いチューイング素材とは?
  • 誤飲できない大きさ
  • 噛み砕けない丈夫さ
  • 歯を折らない程度の柔らかさ
  • 清潔さ
 犬の好物として広く認知されている「骨」は時として歯の破折につながり、また噛み砕いた破片を飲み込んで食道や腸内に引っかかってしまうリスクがあります。また動物素材のひづめや耳はサルモネラ菌に汚染されている可能性を否定できません。
 適切な素材を選んだら、犬に留守番させる時、家にお客さんが来ている時、ルーチンや散歩をキャンセルした時など、犬のストレスレベルが高まったタイミングでおやつやおもちゃを与え、チューイングのターゲットが人の体や家財道具に移らないよう気をつけましょう。 犬の留守番のしつけ
食べるタイプのチューイング素材は砕けやすいため、飼い主が監督した状態で与えるようにしましょう。子犬だからといって人間の指をくちゃくちゃさせると噛み癖がついてしまいますので絶対NGです! 犬の歯に良いフードとは? 犬の噛み癖をしつけ直す