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犬向けおやつは2%の確率でサルモネラ菌に汚染されている

 日本国内で市販されている犬向けのおやつを調べたところ、およそ2%の確率でサルモネラ菌に汚染されていることが判明しました。

犬用おやつのサルモネラ汚染

 調査を行ったのは岡山にある倉敷芸術科学大学を中心とした共同チーム。2016年4月から12月の期間、岡山県と大阪府内で一般に市販されている犬向けのおやつ303サンプル(そのうち255が国産)を対象とし、サルモネラ菌の汚染率を調べました。その結果、全体の2.3%に相当する7つが陽性だったといいます。菌の具体的な血清型は以下です(※4,5,12:i:-はサルモネラ・ティフィムリウムの変種)。
サルモネラ菌の血清型
  • 血清型4,5,12:i:-→ 3サンプル
  • 血清型Rissen→ 2サンプル
  • 血清型Thompson→ 2サンプル
 7つすべては「セフォタキシム」「シプロフロキサシン」「ナリジクス酸」などの薬剤に反応しました。しかし「4,5,12:i:-」と「Thompson」は1~2種類の抗生物質に耐性を持っていたといいます。また「4,5,12:i:-」のうち2つは抗生物質への抵抗性を意味する「blaTEM」遺伝子を保有していたとも。
 こうした結果から調査チームは犬のおやつはおよそ2%の割合でサルモネラ菌に汚染されており、それらを口に入れる犬のみならず、それを触った人間にも感染症を引き起こす危険性があると指摘しています。
Characterisation of antibiotic resistance of Salmonella isolated from dog treats in Japan
S. Yukawa, et al. Epidemiology and Infection, Volume 147, 2019, doi.org/10.1017/S0950268819000153

飼い主の感染リスク

 サルモネラ菌はグラム陰性の通性嫌気性桿菌。臨床上問題となるのは「S.Enteritis」に属する病原性の腸チフス菌とパラチフス菌です。
 今回の調査では2.3%(7/303)の確率でサルモネラ菌が検出され、それらは全て「S.Enteritis」の亜種でした。「S.Enteritis」は犬や猫においては多くの場合無症状ですが、人間に感染した場合は腹痛、嘔吐、下痢、粘血便(食中毒性サルモネラ)、高熱、バラ疹、脾腫(チフス性サルモネラ)といった重篤な症状を引き起こします。
 犬のおやつはほぼ確実に飼い主が手で触りますので、手に病原性サルモネラ菌が付着した状態で洗わず、そのままポテトチップスを食べてしまうと消化管内に菌が侵入してしまうでしょう。

多剤耐性サルモネラ菌のリスク

 多剤耐性菌とは複数の抗生物質に対して抵抗性を示す病原菌のこと。
 今回の調査では血清型「4,5,12:i:-」のうち2つは「blaTEM」遺伝子を保有していました。このことはβラクタム系の抗生物質に抵抗性を持つ多剤耐性菌の一種であることを意味しています。また同時に、もし人間に感染してしまった場合、通常の抗生物質では症状が軽減してくれないということも意味しています。
 犬のおやつを手で触ると、 サルモネラ菌への感染リスクだけでなく、多剤耐性菌という特徴により症状が悪化したり長期化してしまうリスクもあるようです。

危険な犬用おやつは?

 調査対象となったおやつは主として動物の体の一部をそのまま乾燥させたガジガジかじるチュー(chew)タイプのおやつです。製造過程で十分な殺菌や加熱が行われないため、サルモネラ菌が製品に付着したまま残りやすいという特徴があります。今調査における具体的な汚染状況は以下です。なおブタ、シカ、ウマ、七面鳥、イノシシ、ヒツジからは菌が検出されませんでした。
おやつの原材料と汚染率
  • ニワトリ→1.5%(1/67)
  • ブタの耳→2%(1/50)
  • ウシ→6.4%(3/47)
 犬向けのおやつを感染源とした人間のサルモネラ症は何も珍しいものではありません。
 1999年、カナダにおいて人間のサルモネラ感染症が確認され、感染源を辿っていくと豚の耳を原材料とした犬のおやつであることが判明しています出典資料:Clifford Clark, 2001
 2000年代初頭、アメリカ食品医薬品局(FDA)の獣医療部門が国内で販売されているペット向けおやつ158サンプルを調べたところ、そのうち41%からサルモネラ菌が検出されたといいます。また検出されたサルモネラ菌を詳しく調べたところ、36%は少なくとも1種類の抗生物質に対して抵抗性を持っていたとも。さらに13%は4種類以上の抗生物質に抵抗性を示したそうです出典資料:White DG, 2003
 イギリスで行われた調査では、国内に輸入された犬向けのチュートリート(ガジガジとカブタイプのおやつ)2,369サンプルのうち7.8%(184サンプル)がサルモネラ菌陽性だったと報告されています。主な輸入元はタイ、中国、インド、スリランカ、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、アメリカなどでした出典資料:Willis C, 2001犬向けのおやつとしてよく用いられるブタの耳とウシのひづめ  海外のデータに比べると日本で確認された汚染率はそれほど高くありませんが、チュータイプのおやつは常にサルモネラ汚染の危険にさらされていると考えた方が無難です。

日本国内における法規制

 日本国内はペットフード安全法があり、有害物質の含有濃度に関する数値基準が設けられています。法律では「有害微生物」に関しても言及されていますが、その内容は「加熱し、又は乾燥する場合は、原材料等に由来し、かつ、発育し得る微生物を除去するのに十分な効力を有する方法で行うこと」というかなりざっくりしたものです。
 ペットフードの安全性に関してはFAMIC (農林水産消費安全技術センター)がランダムで抜き打ちテストを行っているものの、少なくとも2018年にサルモネラ菌の調査は行われていません。
 法律でも規定されておらず、定期的なモニタリングもされていないサルモネラ菌。ペットフードが汚染されていないかどうかは、どうやらメーカーの倫理観と安全体制にかかっているようです。

サルモネラ症の予防策

 ペットフード安全法は飼い主をサルモネラ症から守ってはくれません。おやつの原料が何であるにしても、以下に述べるような感染ルートを念頭に置き手洗いを徹底した方が良いでしょう。原因不明の腹痛や吐き気に襲われた場合、直前に触ったものを思い出してみましょう。犯人は意外なところに潜んでいるかもしれません。
サルモネラ菌の感染ルート
  • 汚染されたフードを直接触る
  • 汚染フードを食べたペットを触る
  • 汚染フードを食べたペットに手や顔を舐められる
  • 汚染フードと接触したまな板や包丁で人間用の食材を触る
  • 汚染フードと接触した食器を使う
  • 汚染フードと接触したスポンジで人間用の食器を触る
 犬がおやつをガジガジかじった後、飼い主の手や顔を舐めると、唾液を経由してサルモネラ菌に感染してしまう危険性もあります。 生肉主体の犬向け食(ローフード)には高確率で病原菌や寄生虫が含まれている
サルモネラ症の予防策に関しては、姉妹サイト「子猫のへや」内でも詳しく解説してありますのでご参照ください。 人獣共通感染症「サルモネラ菌」