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犬マッサージの仕方【肩と前足編】~骨格や筋肉の解剖からコツ・注意点まで

 犬の肩や前足をマッサージするときの方法を写真つきで解説します。骨格や筋肉の構造を理解し、犬が喜ぶポイントを知っておくと、疲れが回復すると同時に病気の早期発見につながります!

犬の肩と前足の解剖学と構造

 マッサージの仕方に入る前に、まずは基本となる肩と前足の解剖学と構造です。骨の位置や筋肉の方向を知っているかどうかで、触ったときに犬が嫌がるかうっとりするかが決まります。
犬の肩・骨格と筋肉解剖図
 以下でご紹介するのは犬の肩の解剖学的な構造を示した動画です。出てくる筋肉の名称まで覚える必要はありませんが、犬の体の表面を見て、その下にある骨格と筋肉をイメージできるように日々トレーニングしましょう。筋肉に関するより詳しい解説は犬の解剖図にもありますので参考にして下さい。 元動画は→こちら

犬は上腕三頭筋が疲れる

腕立て伏せの体勢は、二の腕の裏の筋肉を集中的に使います。  皆さんも四つんばいになればすぐに分かると思いますが、この状態は軽く腕立て伏せをしている状態に相当しますので、上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)が非常に疲れます。女性が”たぷたぷ”を気にする例の部分と言えばわかりやすいでしょう。
 上の解剖図において、犬の上腕三頭筋がひときわ大きいことが見て取れますが、これは犬が非常に頻繁にこの筋肉を使用していることを意味しています。
 上腕三頭筋はまた、歩いたり走ったりするときの推進力を生み出す重要な筋肉です。要するに常に腕立て伏せ状態で移動する犬は上腕三頭筋が疲れやすいという特性を持っているわけです。
NEXT:肩と前足を弛緩させる

肩と前足のリラックスポジション

 マッサージを施す前の準備として、犬の肩と前足をリラックスポジションに置く必要があります。リラックスポジションとは筋肉が弛緩(しかん)して心身ともにゆったりした姿勢のことです。あらかじめ脱力姿勢を作っておくと、マッサージをしたときの癒やし効果が最大限に発揮されます。
 では犬の肩や前足をどのようにリラックス(弛緩)させればよいのでしょうか?最も簡単な方法は、犬を横にしてマットレスやクッションを脇腹(わきばら)の下に入れることです。 犬の肩の力を抜くためには、前足への荷重を解放する必要がある 犬を横向きに寝かせると肩甲帯のり君が消える  この姿勢で前足にかかっている体重を全て重力から解放してあましょう。犬の好みに合わせた枕を用意してあげれば癒やし効果がさらにアップします。片方の肩が終わったら、ひっくり返して反対側の肩にもマッサージを施します。
NEXT:マッサージの実践

犬の肩と前足をマッサージしよう!

 犬の肩や前足をマッサージするときのベストエリアや代表的なマッサージテクニックを図や写真を用いて解説します。犬が喜ぶ場所を抑え、気持ちいい時間を過ごさせてあげましょう。もし犬が体へのタッチを嫌がるようなら全く癒やしになりません。まずは触られること自体に慣らせておく必要があります。詳しくは以下のページを参考にして下さい。 犬のボディコントロールのしつけ

犬の肩と前足のマッサージエリア

 肩に関して大好きな部分は、普段から使用頻度の多い肩甲骨(けんこうこつ)から上腕三頭筋にかけての部分です。
 逆に苦手なのは前足の先端(人間で言うと手に相当)です。ここは他の犬と争った時、攻撃されて怪我をしやすい部分なので、犬は本能的に嫌がる習性があります。触ってみて嫌がるようであれば、無理にマッサージを施す必要はありません。
 残りの部分(上腕筋や指屈筋群の辺り)はまあまあ好きな部分です。 犬の肩をマッサージしたとき、大好きな場所、まあまあの場所、苦手な場所に分けて図示しました。

犬の肩と前足にあるツボ

 犬の肩と前足を東洋医学の経絡システムから見ると以下のような経穴(ツボ)と主治(効果)があります。 犬の肩と前足にある経穴一覧図
  • 肩井穴肩井穴(けんせいけつ)の解剖学的な位置は上腕骨大結節の上縁にある陥没部です。このツボを指圧すると肩甲骨に付着している筋肉の炎症や前足の麻痺に効くとされています。
  • 肩外兪穴肩外兪穴(けんがいゆけつ)の解剖学的な位置は上腕骨大結節の上縁後ろ側にある陥没部です。このツボを指圧すると肩甲骨に付着している筋肉の炎症や前足の麻痺に効くとされています。
  • 搶風穴搶風穴(そうふうけつ)の解剖学的な位置は上腕三頭筋長頭と外側頭の間にある陥没部です(※肋骨の上ではありません)。このツボを指圧すると肩甲骨に付着している筋肉の炎症や前足の麻痺に効くとされています。
  • 前六縫穴前六縫穴(ぜんろくほうけつ)の解剖学的な位置は指と指の間です。犬の場合親指を省きますので各足に3つあることになります。このツボを指圧すると肩甲骨に付着している筋肉の炎症や前足の麻痺に効くとされています。
 上記したようなツボに指圧を施すと犬が喜ぶかもしれません。ただし体の小さな犬の場合はあまり力を入れないようにご注意下さい。

犬の肩と前足にあるリンパ

 犬の肩と前足におけるリンパ液の流れを模式的に表すと下図のようになります。首の前面や肩甲骨上部のリンパ液は首の付け根辺りにある浅頚リンパ中心(背側)と呼ばれるリンパ節で合流します。前足の前面のリンパ液も首に向かって流れ込み、浅頚リンパ中心(腹側)で合流します。一方、前足の後面のリンパ液は脇の下に向かって流れ込み、腋窩リンパ中心と呼ばれるリンパ節で合流します。 犬の肩と前足におけるリンパ流の模式図  前足からリンパ液を集めようとすると毛並みに逆らって撫でる必要があります。この部位のリンパマッサージをするときは犬が嫌がっていないかどうかをよく確かめながら行うようにしましょう。

犬の肩と前足の健康チェック

 犬の肩から前足にかけては、捻挫骨折といった外傷のほか、肘関節形成不全変形性関節症が起こりやすい部位です。マッサージのついでに簡単なチェックをしてあげると、上記したような疾患にいち早く気づいてあげることができます。

肩の可動域テスト

 前足の付け根が柔軟に動くかどうかを確かめてみます。ある一定の角度になると必ず力みが生じて抵抗するような場合は、上腕二頭筋の腱が断裂しているなど、何らかの痛みがあるのかもしれません。犬の肩関節可動域テスト

肘の可動域テスト

 肘関節が柔軟に動くかどうかを確かめてみます。ラブラドールレトリバーを用いた調査では、曲げきった時の角度が36°、伸ばしきった時の角度が166°程度とされていますので、一つの目安にはなるでしょう。関節の可動域が異常に狭い時は、関節炎や変形など何らかの病変を疑うようにします。犬の肘関節可動域テスト

手首の可動域テスト

 手首の関節(手根関節)が柔軟に動くかどうかを確かめてみます。ラブラドールレトリバーを用いた調査では、曲げきった時の角度が32°、伸ばしきった時の角度が196°程度とされていますので、一つの目安にはなるでしょう。関節の可動域が異常に狭い時は、捻挫や関節炎やなど何らかの病変を疑うようにします。犬の手根関節可動域テスト

リンパ節チェック

 脇の下には「腋窩リンパ節」がありますので触ってみます。犬の腋窩リンパ節の位置 コリコリ腫れていたり犬が痛がる素振りを見せるようなときは、同側の前足に感染症や悪性腫瘍があるかもしれません。念のため獣医さんに相談しましょう。特に10kg以上の中~大型犬では四肢の先端における骨肉腫の発症頻度が高いため、日常的にチェックするようにします。

犬の肩と前足のマッサージテクニック

 以下では犬の肩や前足に対して用いられる主なマッサージテクニックと施術上のコツを解説します。個々のテクニックの具体的な方法に関しては基本テクニックを参考にしてください。

肩と前足の軽撫法

【やり方】犬の毛並に沿ってゆっくりと手の平を這わせていきます。静電気が発生しないよう、腕まくりをして衣類と被毛が接触しないようにするのがコツです。犬の肩~前足に対する軽撫法(ストローク)

肩と前足の軽擦法

【やり方】手にやや力を入れ、肩から足先に向かって撫でていきます。犬が嫌がらないようであれば、手の甲や指の間も念入りに撫でてあげましょう。汚れていたり臭う場合は、濡れタオルなどで拭いてあげます。犬の肩や前足にあるツボで図示した経穴も指圧してみましょう。犬のリアクションを見ながらゆっくり力を入れるのがコツです。犬の肩に対する軽擦法(エフララージ)犬の前足に対する軽擦法(エフララージ)

肩と前足の圧迫法

【やり方】犬が嫌がらないようであれば、手で前足をギュッと握ってみましょう。ゆっくりと握っていき、同じだけの時間を用いてゆっくりと圧を解いていくのがコツです。犬の肩や前足にあるリンパで図示したリンパ液の流れをイメージしながら、脇の下や首元に向かって体液を押し流すように力を加えていきます。犬の前足に対する圧迫法(プレッシャー)

肩と前足の摩擦法

【やり方】とりわけ疲れがたまりやすい肩甲骨の上の筋肉や上腕三頭筋に対し、指や手の平で円刺激や往復刺激を加えてあげましょう。また広背筋の付け根に当たる脇の下も好まれます。犬の肩に対する摩擦法(フリクション)

肩と前足の振動法

【やり方】前足の先を握ってブラブラと揺らしてみましょう。犬の肩や前足にあるリンパで図示したように、リンパ液を脇の下や首元に向かって流し込むようなイメージです。
肩と前足が終わったら背中のマッサージにもチャレンジしてみましょう!