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犬マッサージの仕方【背中編】~骨格や筋肉の解剖からコツ・注意点まで

 犬の背のマッサージ方法を写真つきで解説します。骨格や筋肉の構造を理解し、犬が喜ぶポイントを知っておくと、疲れが回復すると同時に病気の早期発見につながります!

犬の背中の解剖学と構造

 マッサージの仕方に入る前に、まずは基本となる背中の解剖学と構造です。骨の位置や筋肉の方向を知っているかどうかで、触ったときに犬が嫌がるかうっとりするかが決まります。
犬の背・骨格と筋肉解剖学
 以下でご紹介するのは犬の背の解剖学的な構造を示した動画です。出てくる筋肉の名称まで覚える必要はありませんが、犬の体の表面を見て、その下にある骨格と筋肉をイメージできるように日々トレーニングしましょう。筋肉に関するより詳しい解説は犬の解剖図にもありますので参考にして下さい。 元動画は→こちら

犬には腰痛がない?

人間は体を垂直に立てて直立二足歩行をするため、抗重力筋と呼ばれる背部の筋肉に疲労がたまりやすいという特性を持ちます。  人間が直立二足歩行であるのに対し、犬は四足歩行(しそくほこう)です。このロコモーション(移動様式)の違いは背中や腰に存在している筋肉の使用方法に変化をもたらします。
 人間は上半身を重力に対して垂直に立てておく必要があるため、常に背中や腰の筋肉を微妙に緊張させてバランスを取る必要があり、これが慢性的な背部痛や腰痛の原因になります。しかし犬を始めとする四足動物は上半身を垂直に立てておく必要性がありませんので、人間と同じように背中や腰の筋肉を常に使うということはありません。
 結果として犬には、直立二足歩行の筋疲労に起因する慢性の背部痛や腰痛は生じにくいと考えられます。

犬は広背筋が疲れる

犬が前進するときの力を生み出しているのは、前肢では広背筋です。  四足動物は四つんばいで移動するため、背中や腰の筋疲労は比較的軽度です。その代わり人間と違って、前足の推進力(すいしんりょく)を生み出す広背筋には疲労がたまりやすいという特性があります。
 ここで示した広背筋とは、人間で言うと鉄棒にぶら下がって懸垂(けんすい)運動をするときに主として動員される筋肉です。日常生活の中で使用する機会はほとんどありませんが、犬の場合は非常に頻繁に使用しています。具体的には、犬が歩いたり走ったりしているときの前足の推進力の大部分は、実はこの広背筋が生み出しているのです。
 ですから、腰近辺というよりは、前足の付け根~背中にかけての部分に疲労がたまりやすいという特性があります。
NEXT:背中を弛緩させる

背中のリラックスポジション

 マッサージを施す前の準備として、犬の背中をリラックスポジションに置く必要があります。リラックスポジションとは筋肉が弛緩(しかん)して心身ともにゆったりした姿勢のことです。あらかじめ脱力姿勢を作っておくと、マッサージをしたときの癒やし効果が最大限に発揮されます。
 では犬の背中をどのようにリラックス(弛緩)させればよいのでしょうか?最も簡単な方法は柔らかいクッションを犬の腹の下に入れ、体全体が軽くアーチを描くように寝かせるというものです。 おなかの下にクッションを挟んで軽くアーチを描いた犬 犬の背の弛緩ポジションいろいろ この姿勢で背中から腰に掛けての全ての筋肉が重力から解放され、リラックスできます。
NEXT:マッサージの実践

犬の背中をマッサージしよう!

 犬の背中をマッサージするときのベストエリアや代表的なマッサージテクニックを図や写真を用いて解説します。犬が喜ぶ場所を抑え、気持ちいい時間を過ごさせてあげましょう。もし犬が体へのタッチを嫌がるようなら全く癒やしになりません。まずは触られること自体に慣らせておく必要があります。詳しくは以下のページを参考にして下さい。 犬のボディコントロールのしつけ

犬の背中のマッサージエリア

 背部に関してはとりわけ苦手な部分はありません。大好きな部分は疲労のたまった前足の付け根や背骨に沿った部分です。 犬の背をマッサージしたとき、大好きな場所、まあまあの場所、苦手な場所に分けて図示しました。

犬の背中にあるツボ

 犬の背中は東洋医学で言う「督脈」(とくみゃく)が通る部位です。経絡システムから見ると以下のような経穴(ツボ)と主治(効果)があります。 犬の背中にある経穴一覧図
  • 中枢穴中枢穴(ちゅうすうけつ)の解剖学的な位置は第10~11胸椎棘突起の間です。このツボを指圧すると胸椎や腰椎の椎間板ヘルニアに効くとされています。
  • 脊柱穴脊柱穴(せきちゅうけつ)の解剖学的な位置は第11~12胸椎棘突起の間です。このツボを指圧すると胸椎や腰椎の椎間板ヘルニアに効くとされています。
  • 懸枢穴懸枢穴(けんすうけつ)の解剖学的な位置は第13胸椎~第1腰椎棘突起の間です。このツボを指圧すると胸椎や腰椎の椎間板ヘルニアに効くとされています。
  • 夾脊穴夾脊穴(きょうせきけつ)の解剖学的な位置は第10胸椎~第7腰椎棘突起の下1.5~3cmです。このツボを指圧すると臓腑の異常に効くとされています。
 上記したようなツボに指圧を施すと犬が喜ぶかもしれません。ただし体の小さな犬の場合はあまり力を入れないようにご注意下さい。また椎間板ヘルニアを抱えている犬に対して行うのもNGです。指圧ではなく鍼やレーザーの適応となります。

犬の背中にあるリンパ

 犬の背中におけるリンパ液の流れを模式的に表すと下図のようになります。背中の肩甲骨に近いエリアにあるリンパ液は首の根元にある浅頚リンパ中心に合流します。背中の腰に近いエリアにあるリンパ液は脇の下にある腋窩リンパ中心と呼ばれるリンパ節に合流します。 犬の背中におけるリンパ流の模式図  背中の上部にしても下部にしても、リンパをスムーズに流すためには毛並みにやや逆らうように撫でる必要があります。この部位のリンパマッサージをするときは犬が嫌がっていないかどうかをよく確かめながら行うようにしましょう。

犬の背中の健康チェック

 犬の背中は筋骨格系の障害、すなわち筋肉の挫傷や骨折椎間板ヘルニアなどが起こりやすい部位です。マッサージのついでに簡単なチェックをしてあげると、上記したような疾患にいち早く気づいてあげることができます。

キブラーテスト

 「キブラーテスト」(Kibler Test)とは、背骨に沿った筋肉に張りや痛みがあるかどうかをチェックする時の手技です。背骨沿いの疼痛を発見するときに用いられる「キブラーテスト」(Kibler Test) 両手の親指と人差し指で腰のあたりの皮膚を丸めるようにして持ち上げます。もし筋肉に張りや痛みがある場合、筋肉が反射的に抵抗することで、なかなか持ち上がりません。このテストを腰から首の付け根にかけて少しずつ上に移動しながら行い、犬が一体どこに痛みを抱えているかを判断します。

棘突起テスト

 「棘突起(きょくとっき)テスト」とは、背骨の関節や筋肉に痛みがあるかどうかをチェックする時の手技です。椎間関節や脊柱筋の障害を見つけるときに用いられる「棘突起テスト」 背骨の出っ張り部分(棘突起)を人差し指と親指でつまみ、軽く左右に動かして犬の反応を観察してみましょう。もし犬が痛みを感じている場合、身悶えしたり離れようとします。

犬の背中のマッサージテクニック

 以下では犬の背中に対して用いられる主なマッサージテクニックと施術上のコツを解説します。個々のテクニックの具体的な方法に関しては基本テクニックを参考にしてください。

背中の軽撫法

【やり方】犬の毛並に沿ってゆっくりと手の平を這わせていきます。静電気が発生しないよう、腕まくりをして衣類と被毛が接触しないようにするのがコツです。 犬の背に対する軽撫法(ストローク)

背中の軽擦法

【やり方】指先にやや力を入れ、背骨の脇にある小さな筋肉に対して圧力を加えます。この時、妙に硬くなっている部分がないかどうかもチェックしましょう。もしある場合は、痛みに対する屈曲反射の可能性を考慮します。犬の背に対する軽擦法(エフララージ)

背中の圧迫法

【やり方】背骨沿いの筋肉に対し指先で圧迫を加えます。ちょうど人間で言う「指圧」のような感じです。ゆっくりと押していき、同じだけの時間をかけてゆっくりと指を外していくのがコツです。犬の背中にあるツボで図示した経穴も指圧してみましょう。ただしあまりグイグイ強い力で押し付けないで下さい。ヘルニアがあった場合、逆に症状を悪化させてしまいます。

背中の揉捻法

【やり方】背中の皮をつまみあげて伸ばしてあげましょう。滅多にありませんが、皮膚が異常に伸びるような場合は「エーラス・ダンロス症候群」という結合組織の病気である可能性もあります。その場合は皮膚が裂けてしまう危険性があるため、無理に伸ばさないよう注意します。犬の背に対する揉捻法(ペトリサージ)

背中の摩擦法

【やり方】前足の付け根から背骨にかけての領域には、「広背筋」と呼ばれる非常に大きな筋肉が付着しています。指や手の平を用いて円刺激や往復刺激を加えてあげましょう。やりやすいよう、犬を横向き(横臥位)にしても構いません。犬の背中にあるリンパで図示したリンパ液の流れをイメージしながら力を加えましょう。前足の付け根(脇の下)にある腋窩リンパ中心に向かって体液を押し流すのがコツです。犬の背に対する摩擦法(フリクション)は広背筋に対して有効

背中の叩打法

【やり方】犬が嫌がらないようであれば、手の平を丸くしてリズミカルに叩く「カッピング」や、手首の力を抜いて、空手チョップをする「ハッキング」をやってみましょう。叩打法によるマッサージ~カッピングとハッキングの模式図 人間で言うとちょうど「肩たたき」のような感じですが、犬は体が小さいため、人間に対して行うような強い力を用いないよう注意してください。また丈夫な背骨領域だけに限ります。
背中が終わったら尻のマッサージにもチャレンジしてみましょう!