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犬の緑内障

 犬の緑内障(りょくないしょう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の緑内障の病態と症状

 犬の緑内障とは、眼球の内圧(眼圧)が高まることによって網膜や視神経が影響を受け、視野が悪化した状態を言います。
 眼圧が高まる原因は、眼球の中を循環している「房水」(ぼうすい)と呼ばれる液体の還流悪化です。通常であれば、毛様体(もうようたい)という部分で産生された房水は、眼球の前方(前房)に向かって流れていき、角膜の末端にある「隅角」(ぐうかく)と呼ばれる部位を経てスポンジ状の組織(線維柱帯やシュレム管)から吸収されます。しかし何らかの理由でこの流れが悪くなると、行き場を失った房水が眼球内部にたまり、まるで水風船を膨らませるように眼球を内部から押し広げようとします。この状態が「眼圧の上昇」です。 眼球内における防水の流れ  眼圧が上昇すると、眼球の後ろの方にある網膜や視神経を圧迫し、以下に示すような症状を見せるようになります。犬の場合、眼圧計測値が25~30mmHg以上で、視覚に何らかの障害が見られるときに緑内障と診断されます。
緑内障の主症状
犬の緑内障~眼圧が高まったために眼球が膨張し、飛び出したような「牛眼」を示している
  • 散瞳(瞳孔が開きっぱなしになる)
  • 眼球突出(牛眼)
  • 角膜炎結膜炎
  • 視野の狭まり
  • 失明

犬の緑内障の原因

 犬の緑内障の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。緑内障の原因である房水の還流悪化は、主として隅角における障害によって引き起こされます。隅角の通り道が狭くなって発症するパターンが「閉塞隅角型」(へいそくぐうかくがた)、隅角は正常だけれども、その先にある吸収部位(線維柱帯やシュレム管)の不調で発症するパターンが「開放隅角型」(かいほうぐうかくがた)です。ですから、隅角を狭めたり、吸収部位の目詰まりを起こすようなあらゆることが、緑内障の遠因になりえます。 緑内障の発症パターン~開放隅角と閉塞隅角
緑内障の主な原因

犬の緑内障の治療

 犬の緑内障の治療法としては、主に以下のようなものがあります。日本国内で行われた調査では、症状が現れてから3日以内に病院を受診した場合の視力保持率が55.0%であるのに対し、4日目の保持率は8.9%に急落することが確認されています(→詳細)。こうしたデータから、緑内障に起因する犬の失明を防ぐためには、発症から3日以内に何らかの治療を行うことが強く推奨されます。
緑内障の主な治療法
  • 基礎疾患の治療  別の疾病によって緑内障が引き起こされている場合は、まずそれらの基礎疾患への治療が施されます。
  • 投薬治療  明白な基礎疾患が見つからない場合は、眼圧を正常範囲内に抑え込むような薬を投与して症状の悪化を防ぎます。具体的には縮瞳剤やプロスタグランジン関連薬(房水の流出促進)、炭酸脱水酵素阻害薬(房水の産生抑制)、高浸透圧薬(硝子体の脱水による減圧)などです。しかし投薬治療だけで病気をコントロールすることは難しく、1年以内に90%以上の確率で失明してしまうといわれています。また、症状が片目だけに出ていても、8ヶ月以内に50%の確率でもう片方の目にも症状が出る可能性が高いため、無症状の目に対する予防措置も必要です。
  • 外科手術  薬などの内科的治療によって改善が見込まれないときは、外科手術によって眼房水の排出を強制的に促します。具体的には、房水の流出を促進する「濾過法」や、房水を産生している毛様体を調整する「毛様体光凝固術」、「毛様体凍結術」などです。また、緑内障によって完全に視覚が失われ、なおかつ痛みの原因になっているような場合は、眼球の摘出術が行われることもあります。