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犬も反省する?

 犬の都市伝説の一つである「犬も反省する」について真偽を解説します。果たして本当なのでしょうか?それとも嘘なのでしょうか?

伝説の出どころ

 「犬も反省する」という都市伝説の出どころは、過去に発表された著作物の中における逸話的な報告、および現在ネット上に出回っている数多くの写真や動画だと思われます。

過去の著作物に見る犬の反省

 「犬の反省」に関しては、過去の著作物において数多くの言及がなされています。そしてそれらの具体的な内容を調べてみると、犬の反省にはおおよそ、以下のような項目が含まれるようです。 Domestic Dog Cognition and Behavior
犬の反省の具体的内容
  • アイコンタクトを避ける
  • ごろんと仰向けになる
  • 前足を差し出す
  • 飼い主の前から身を隠す
  • しっぽと頭を下げて耳をたたむ
  • 舌をちょろちょろ出す
  • じっと動かなくなる
  • 低い位置で尻尾を振る
 古い所では「種の起源」で有名なイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンが、1872年の著書「人及び動物の表情について」の中で「アイコンタクトを避ける」と述べています。またノーベル医学生理学賞を受賞した動物学者コンラート・ローレンツも、1954年の著作「人イヌにあう」の中で、犬が悪さをした時の「やましい心」について言及し、「ごろんと仰向けになる」とか「前足を差し出す」といったしぐさを反省の現れだとしています。 服従的な犬が見せる典型的な姿勢~能動的服従と受動的服従  このように、権威のある科学者が犬の反省や良心といったことに関して言及すると、一般の人たちも「犬にも人間と同じような良心の呵責や罪の意識というものがあるのかもしれないな」と感化されてしまうことでしょう。

現代の媒体に見る犬の反省

 インターネットの普及により、写真や動画の共有サイトがたくさん生み出され、世界各地に暮らしている犬たちの面白い表情やしぐさを簡単に閲覧できるようになりました。その中でも人気を集めているのが、犬の反省顔をとらえた動画です。例えば、以下をご覧ください。
Denver Official Guilty Dog Video
 以下でご紹介するのは、反省している(?)犬の表情を捕らえた瞬間の動画です。飼い主が外出中、どちらかの犬が猫用パウチを破り、中の物を食べてしまったようですが…犯人はどちらでしょう? 元動画は⇒こちら
 動画のタイトルは「やましさを感じた犬」(Guilty Dog)となっており、見る限り、確かに犬はやましさを感じて反省しているかのような表情を浮かべています。こうした動画を見た多くの人が「犬にも人間と同じような反省心があるんだ」という印象を強めたとしても不思議ではありません。あるいは過去、同じ表情に出くわしたことある犬の飼い主が「あの表情には反省という意味があったんだ! 」という風に、解釈を後付けするというパターンもあるでしょう。
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伝説の検証

 自分が散らかした部屋の中にたたずみ、しょんぼりした顔を見せている犬は、果たして本当に反省しているのでしょうか?この問題を科学的に検証した調査報告があります。

2009年の実験

 2009年、「犬から見た世界」(白揚社)などの著作で知られるアレクサンドラ・ホロウィッツ女史は「犬の反省顔というのは、人間の擬人化が産み出した単なる幻想ではないか?」という仮説のもと、検証実験を行いました(→出典)。
 調査の対象となったのは、14組の飼い主と犬のペア。犬は自宅室内に入れられた後、飼い主から「食べてはいけない」という指示を受け、部屋の中におやつとともに残されます。その後、実験者は飼い主を室内に呼び戻し、「犬がおやつを食べてしまいましたよ」と告げ口します。このとき重要なのは、犬が実際におやつを食べてしまった「犯罪パターン」と、実験者がおやつを隠してしまった「冤罪パターン」を順番に振り分けたことです。その結果、犬のリアクションに面白い変化が現れました。それは、おやつを勝手に食べてしまったわけではないのに、なぜか反省顔を見せる犬が現れたということです。そしてこの傾向は、犬が言いつけを守ったにもかかわらず、飼い主が犬を叱り付けた時に顕著になったといいます。 犬が飼い主に叱られた時に見せる「反省顔」(Guilty Look)  こうした結果からホロウィッツ女史は「犬の反省顔は自分が犯した罪に対して反省しているわけではなく、飼い主が無意識的に出している微妙な空気を感じ取り、”怒られるかもしれない”と警戒しているだけである」との結論に至りました。つまり、犬の反省顔は人間による擬人化だったというわけです。

2014年の実験

 2014年、イギリス・ケンブリッジ大学とクロアチア・リエカ大学の共同チームは、飼い主からしばしば寄せられる「犬のご挨拶は自分のしでかした悪さを許してもらうために行うのだ」という報告が、果たして本当なのかどうかを検証するための実験を行いました(→出典)。
 やり方は先述したホロウィッツ女史の実験と似ています。まず実験室内に犬とおやつを置き去りにして、飼い主をいったんその部屋から立ち去らせます。 犬におあずけを命じた後退室し、犯罪と冤罪の両パターンを設定する  その後、犬が実際におやつを食べてしまう「犯罪パターン」と、実験者がおやつを隠す「冤罪パターン」を設定し、飼い主を部屋に呼び戻します。「犬のご挨拶はやましいことがあるときに行う」という仮説が正しければ、おやつを実際に食べてしまった「犯罪パターン」の犬で、より多くご挨拶が観察されるはずです。しかし結果は「犯罪パターン」の犬も「冤罪パターン」の犬も、ほぼ同じ確率でこの行動を見せたと言います。また飼い主の方も、犬のご挨拶行動だけから、その犬が実際におやつを食べてしまったのかどうかは判断できなかったとも。
 こうした結果から研究チームは「飼い主がしばしば報告する”犬のご挨拶”という行動には、自分のしでかした悪さに対する反省は含まれていない」との結論に至り、2009年に行われたホロウィッツ女史の調査結果を改めて支持するものとなりました。
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伝説の結論

 私たち人間の目から見ると反省しているかのように見える犬の表情は、犬の内面にある罪悪感とは全く無関係であることがわかりました。ですから「犬も反省する」という都市伝説は、犬に全く罪悪感はないとまでは言い切れないものの、「罪悪感が表情や行動として現れる」という点から考えると嘘と言えそうです。犬が自分の行った行動に関して記憶していられるのはせいぜい数秒~数分程度です。基本的に過去をあまり振り返らないようにできている犬にとって、数時間前にしでかした悪さを思い返し、そこからネガティブな感情を抱くといった芸当を行うのは、ほとんど不可能だと考えられます。

反省顔がもたらす弊害

一見、反省しているかのように見える犬の服従顔  犬の反省顔に関する議論には、実は福祉に関する問題が含まれています。例えば飼い主が「犬の反省顔は罪悪感の表れである」という思い込みを抱いていたらどうなるでしょう。飼い主が犬を叱り付け、首尾よく反省顔を引き出すことができたら、「自分の叱責が犬の心に響いている!」と勘違いし、適切なしつけをしないまま「これでもう同じ悪さはしないだろう」という希望的観測を抱いてしまいます。その結果、自分が叱られている意味を理解できなかった犬は再び同じミスを繰り返し、飼い主は再び同じことでイライラさせられることでしょう。これでは健全な「ヒューマンアニマルボンド」(人と動物の絆)を築くことなどできません。

反省顔を正しく理解する

 叱られているときに犬が見せる反省顔は、自分の行為に対して罪悪感を抱いた結果ではなく、ただ単に飼い主から伝わってくるネガティブな空気を感じて恐れを抱いた結果です。例えば、10分前に粗相した場所に犬を連れて行き、そこに鼻を押し付けるとか、留守番中に鉢植えを倒してしまった犬に延々と説教を食らわせるといった方法で犬をしつけるとします。 粗相の現場に犬を連れていき、鼻を押し付けるのはナンセンス  犬を叱り付けている最中、視線を逸らせたりしっぽを股の間に挟むしぐさが見られるかもしれません。しかしこうした表情やしぐさが現れた最大の理由は、飼い主が怒っていることを何となく感じ取り、反射的に服従姿勢を示すことで相手をなだめようとしているからです。最初のセクションで紹介した犬の反省と関連付けられている多くの行為と、犬が恐怖を抱いた時に見せる服従姿勢が、かなりの部分で重なっている点からもお分かりいただけるでしょう。一例を挙げれば、「アイコンタクトを避ける」、「ごろんと仰向けになる」、「しっぽと頭を下げて耳をたたむ」などです。
 犬をしつける際に必要なのは、恐れを抱かせることではなく、正しい行為をほめて伸ばしてあげることです。詳細は以下のページにまとめてありますのでご参照ください。 犬のしつけの基本知識
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