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犬の股関節形成不全(股異形成)~症状・原因から治療法まで筋骨格系の病気を知る

 犬の股関節形成不全(こかんせつけいせいふぜん)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の股関節形成不全の病態と症状

 犬の股関節形成不全とは、太ももの骨と骨盤とを結合する股関節の形が先天的に異常な状態を言います。近年では股異形成(こいけいせい)とも言われます。 犬の正常な股関節と形成不全を起こした股関節の、レントゲン写真比較  X線撮影による形成不全の評価は、7段階に分けられます。国によって評価方法はまちまちですが、現在主流なのは「FCI」、「OFA」、「BVA」の3つです。「FCI」(国際畜犬連盟)の評価法はヨーロッパや日本、「OFA」(動物整形外科基金)の評価法はアメリカ、「BVA」(英国獣医師協会)の評価法はイギリスで採用されています。ちなみにFCI評価法においては、「A~B=正常な股関節」、「C=軽度の股異形成」、「D=中等度の股異形成」、「E=重度の股異形成」です。
FCIOFABVA
A-1Excellent0
A-2Good1~3
B-1Fair4~6
B-2Borderline7~8
CMild9~18
DModerate19~30
ESevere30~
 犬の股関節形成不全の症状としては以下のようなものが挙げられます。一般的に、子犬のころははっきりとした症状を示さず、生後6ヶ月頃から徐々に異常の徴候が見られるようになります。これは、成長とともに大きくなるはずの骨盤の骨が不完全で、太ももの骨がすっぽりとはまるソケット部分が小さすぎるために起こる現象です。
犬の股関節形成不全の主症状
  • 歩行時に腰が左右に揺れる
  • うさぎ跳びやスキップのようなしぐさ
  • 後足をうまく折りたためない
  • 運動を嫌う
  • 股関節の脱臼
 以下でご紹介するのは股関節形成不全を患ったロットワイラーの子犬の動画です。典型的な症状として、ウサギのように両足で飛び跳ねるバニーホップ(bunny hop)と呼ばれる特徴的な動きを見せています。ご自身のペットがこのような動きを見せた場合は、獣医さんに診察してもらったほうが無難でしょう。出現するのは20秒頃です。 元動画は→こちら

犬の股関節形成不全の原因

 犬の股関節形成不全の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の股関節形成不全の主な原因
  • 遺伝  股関節形成不全が発生する理由の、およそ7割が遺伝に関係しているといわれています。日本において血統書の発行を行っているジャパンケンネルクラブでも、股関節形成不全症(HD)と肘関節異形成症(ED)という項目を新設し、専門機関によるチェックを取り入れて遺伝による本症の発症確率を何とか下げようとしています。
  • 発育期の生育環境  骨が急速に成長する生後60日の間に、股関節に対してどのような力が加わるがという要因が、骨盤の形成に影響していることが近年わかってきました。この時期に肥満や過度の運動(ものを引っ張らせるなど)を行うと、異形成を起こしやすいといわれます。
     またアメリカとカナダに暮らしている患犬14万頭を対象として行われた大規模な統計調査では、「生まれた季節」と「居住地の緯度」が疾患の発症に関わっている可能性が示されています。具体的には夏(6~8月)生まれの犬に比べて冬(12~2月)や春(3~5月)生まれの犬では10%以上発症リスクが増加し、緯度が50度超の地域に暮らしている犬に比べて30度未満に暮らしている犬では2倍以上発症リスクが増加すると推計されています。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
  • 大型犬・超大型犬  股関節形成不全は性別による発症頻度の差はありませんが、小・中型犬よりも、ゴールデンレトリバーラブラドールレトリバージャーマンシェパードなどの大・超大型犬に圧倒的多数で発症します。これは、前者よりも後者のほうが成長の度合いが数倍も大きく、生後60日の間に急激に体重が増加するため、股関節へ過度のストレスがかかりやすいからだと考えられています。なお、イギリスのケンブリッジ大学が公開している犬の遺伝疾患データベースでは、当症を発症しやすい犬種として42種を挙げています。

犬の股関節形成不全の治療

 犬の股関節形成不全の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の股関節形成不全の主な治療法
  • 安静療法  犬がまだ成長期にあり、症状が軽度と判断された場合は、安静にすることが治療、および悪化の防止になります。運動は軽めに抑え、肥満にならないよう食事量に気をつけながら股関節が正常に成長するのを待ちます。
  • 投薬治療  ある程度症状が進行し、犬が痛みを感じているような場合は、投薬治療が施されます。抗炎症薬や鎮痛薬を投与して痛みをコントロールすると同時に、食事と運動制限を行い、症状の悪化を防ぎます。
  • 外科治療  投薬治療がきかず、運動機能に明らかな障害が見られるないような重症例の場合は、外科手術が施されます。骨盤の3箇所の骨を切断する方法や、太ももの骨を切除して関節を人工的に形成する方法(線維性偽関節形成術)、内ももに走っている恥骨筋を切除する方法など幾つかの方法があり、犬の年齢や症状にあわせて適宜選択されます。なお高額な治療法としては、股関節をそっくり人工関節に入れ替えるものや、骨盤のくぼみを人工的に形成するというものもありますが、国内においてはまだあまり普及していないのが現状です。