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犬が脱臼したらどうする?~原因・症状から応急処置法まで

 犬が脱臼した場合について病態、症状、原因、応急処置法別に解説します。不慮の怪我や事故に遭遇する前に予習しておき、いざとなったときスムーズに動けるようにしておきましょう。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬が脱臼したときの病態

 脱臼(だっきゅう, dislocation)とは、骨が関節から外れてしまった状態を言います。正常関節と亜脱臼、脱臼関節の違い模式図 関節は二つの骨が筋肉や靭帯につながれる形で構成されていますが、何らかの理由でどちらか一方の骨が本来の位置からずれてしまうことで発生します。二つの骨が完全にずれ、関節面が接触していない状態が「脱臼」、ずれてはいるものの関節面が部分的に接触している状態が「亜脱臼」です。

犬が脱臼したときの原因と症状

 脱臼の原因としては、転倒、衝突、交通事故、落下、急な方向転換、先天的な関節の形成異常など、様々なものが考えられます。関節が存在しているところならどこにでも発生しうるものですが、犬に関しては脱臼部位によって以下のような傾向が見られます。 犬の骨格における関節名一覧

顎関節の脱臼

 顎関節の脱臼、いわゆる「顎が外れた」状態は、ほとんどが交通事故や衝突といった外傷の後に発症します。両側が同時に外れた場合は口を開けた状態、もしくはややしゃくれた状態になり、片側だけが外れた場合は顎がどちらか一方に偏った状態になります。
 外傷以外の原因としては、先天的な顎関節異常が挙げられます。主にバセットハウンドゴールデンレトリバーアイリッシュセッターラブラドールレトリバーバーニーズマウンテンドッグといった中~大型犬に多く、1歳未満の若い時期から発症し、その多くは両側性です。あくびや顎のこすりつけなど、ちょっとした圧力が原因ですぐに顎が外れてしまいます。

肩関節の脱臼

 肩関節の脱臼は、高い場所からの着地や急な方向転換など、腕の付け根に大きな力がかかった時に発症します。腕の骨が外側に脱臼したときは前足を内側に、逆に内側に脱臼したときは前足を外側に寄せて痛みを軽減しようとするのが特徴です。ひじを曲げた状態で固定し、前足が地面につかないようひょこひょこと歩きます。
 外傷以外の原因としては、先天的な肩関節異常が挙げられます。これは腕の骨の先端が十分に発育しないという先天的な病気であり、トイプードルシェットランドシープドッグなど小型犬に多く、3~10ヶ月齢といった早い時期から前足を引きずようになります。腕の骨がずれこむのは100%内側です。

肘関節の脱臼

 肘関節の脱臼は、前足をつっぱって立っているときに、肘の部分に横殴りの圧力が加わった時に発症します。またひじを曲げているときでも、ねじり圧力が加わると外れてしまいます。ひじを曲げた状態で固定し、前足が地面につかないようひょこひょこと歩きます。
 外傷以外の原因としては、先天的な肘関節異常が挙げられます。ヨークシャーテリアミニチュアピンシャーチワワといった小型犬に多いのが「上腕尺骨脱臼」(じょうわんしゃっこつだっきゅう)です。片方、もしくは両方の肘が外側に折れ曲がったまま戻らないという状態が生後3ヶ月以内に見られます。一方、ボクサーラブラドールレトリバーオールドイングリッシュシープドッグブルマスティフといった中~大型犬に多いのが「橈骨頭脱臼」(とうこつとうだっきゅう)です。これは2本ある前腕の骨(橈骨と尺骨)のうち、橈骨の方だけがやや外側に亜脱臼した状態で、4~5ヶ月齢くらいから見られるようになります。尺骨脱臼よりも症状は軽めです。

手根関節の脱臼

 手根関節(しゅこんかんせつ)の脱臼は、高い場所からの着地や急な方向転換など、手首に大きな力がかかった時に発症します。具体的には、レース犬や猟犬、アジリティ犬など、激しい運動を要求される犬が、高速で走っている最中に障害物につまずくといった状況です。ひじを曲げた状態で固定し、前足が地面につかないようひょこひょこと歩きます。

膝関節の脱臼

 膝関節の脱臼には、大きく分けて「脛骨脱臼」(けいこつだっきゅう)と「膝蓋骨脱臼」(しつがいこつだっきゅう)の2種類があります。両者に共通する症状は、足を引きずる、歩くリズムがおかしいなどです。
 脛骨脱臼とは太ももの骨とすねの骨が脱臼してしまうことで、多くの場合、関節の中にある前十字靭帯や後十字靭帯および半月板の損傷を伴います。この脱臼が起こるのは膝に対してよほど大きな力が加わったときだけです。
 膝蓋骨脱臼は、いわゆる「膝のお皿」が本来あるべき位置からずれてしまった状態のことです。小型犬に多いとされてきましたが、ラブラドールレトリバーといった中~大型犬でも症例が散見されます。外側に抜けるよりも内側に脱臼する方が圧倒的に多いとされます。脛骨脱臼との最大の違いは、外傷によるものが少ないという点です。

股関節の脱臼

 股関節脱臼は、足の付け根に大きな力が瞬間的に加わった時に発症します。落下や転倒などをあらゆる外傷が原因となりますが、最も多いのは交通事故です。骨が完全に成長していない子犬の場合は太ももの骨が折れてしまい、成犬よりも重症化する傾向にあります。脱臼するのはほとんどが頭背側方向で、これが全体の90%を占めます。後足が地面につかないよう、スキップするかのようなおかしなリズムで歩くようになります。
 外傷以外の原因としては、先天的な股関節の異常が挙げられます。最も多いのが股関節形成不全です。これは遺伝性・進行性の病気であり、股関節のゆるみと関節の変形が時間とともに進行するという特徴を持っています。通常は両側性で、大型犬~超大型犬に多いとされます。

足根関節の脱臼

 足根関節(そっこんかんせつ)の脱臼は、足の先に大きな力が加わった時に発症します。足の裏を構成している長い骨(中足骨)が、ちょうどテコのレバーになって力を増幅して伝えてしまうため、重症化する傾向があり、多くの場合骨折捻挫を伴います。症状は、後足が地面につかないようケンケン歩きをするなどです。

尾椎間関節の脱臼

 尾椎間関節(びついかんかんせつ)の脱臼は、比較的小さな力でも起こりえます。具体的には、しっぽをドアに挟む、飼い主がしっぽを踏んづける、着地に失敗して尻餅をつく、子供がいたずらで引っ張るなどです。しっぽが途中で折れ曲がっていたり、垂れたまま動かないといった症状を呈します。またしっぽの神経(尾骨神経)は腰のあたりで「馬尾」(ばび)と呼ばれる神経の束と接続しているため、ときに排尿・排便困難と言った「馬尾症候群」を併発することもあります。

犬が脱臼したときの応急処置・治療法

 犬が脱臼したときの治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬が脱臼したときの主な治療法
  • 脱臼の整復  脱臼した関節を元の状態に戻すことを整復(せいふく, reduction)といい、基本的には獣医さんに任せます。軽度のものであればその場で整復することもありますが、痛みを強く犬が暴れてしまうという観点から、通常は全身麻酔をかけて行います。
     股関節の場合、犬に関しては90%近くが上前方への脱臼と相場が決まっています。脱臼した側を上にして寝かせ、太い紐を太ももの内側に引っ掛けて整復します。
  • 患部の固定 脱臼部に再び力が加わらないよう、サポーター(スリング)で固定して使用を制限します。固定期間は、脱臼した場所や重症度によりけりです。以下で一例を示します。脱臼した犬に対する前肢と後肢のスリング(一例)
  • 外科手術  骨折や靭帯の断裂を伴っている場合、および膝蓋骨が脱臼した場合は、外科手術によって損傷部の治療が行われます。膝蓋骨の脱臼は癖になりやすいため、再発しないような処置が施されます。