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タウリン~安全性と必要量から拡張型心筋症との関係性まで

 ドッグフードのラベルに記された「タウリン」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

タウリンとは?

 タウリン(taurine)とは体のほとんどすべての組織に存在している含硫アミノ酸の代謝中間体。食品としては特にイカやタコといった魚介類に多く含まれているほか、体内ではもっぱら肝臓においてシステインから合成されます。 タウリンの分子構造  タウリンは必須アミノ酸のようにタンパク質の素材として重要というわけではなく、タウリンそのものが機能を発揮するという意味で重要です。心筋、筋肉、脾臓、脳、肺、骨髄などに多く含まれており、胆汁酸の抱合、酸化防止、浸透圧の調整、細胞膜の安定化、カルシウムの調整などに関わって、各器官が正常に機能するようにサポートしています。

タウリンは安全?危険?

 タウリンを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?
 タウリンは日本の食品衛生法では「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)」に区分されていますので、原則として薬理作用を示して人間向けの健康食品などに添加することはできません。ただし原材料に使用していることをラベルに記載して購入を煽らないとか、主成分ではなく添加物として使用していることを明記してある場合に限り、食品添加物として使用できるというダブルスタンダードになっています。実際、タウリンは厚生労働省によって既存添加物の調味料として認可されており、数値的な使用基準も特に設けられていません。定義は「魚介類又は哺乳動物の臓器又は肉から得られた、タウリンを主成分とするもの」です。 タウリンを豊富に含む魚介類  動物用医薬品として用いられるタウリンは、牛、馬、豚、鶏等に対する栄養補給や中毒時の注射剤として使用されています。数十年に渡る使用歴から安全性に関する問題は認められておらず、また余ったタウリンは尿中に速やかに排泄されることから、過剰症や中毒などの副作用は引き起こさないものみなされています。
 EFSA(欧州食品安全機関)ではペットフードを含めた動物向けの飼料中0.2%(100g中0.2g程度=2000ppm)までは安全だろうとの見解を示しています。また人においては1日6g、体重1kg当たり1日100mgくらいまでは安全としています。
 JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)では香料として用いる限り使用基準が設けられておらず、また国際がん研究機関(IARC)によって発がん性も確認されていません。
タウリンの安全性情報・概要
  • 厚生労働省=微量なら既存添加物
  • IARC=発がん性なし
  • EFSA=人の上限100mg/体重1kg/日
  • JECFA=香料として使用基準なし
  • ペットフード=猫の必須栄養素
 なおビーグル犬3頭を対象とした13週間におよぶ亜急性毒性試験が行われ、体重1kg当たり1日200~800mgのタウリンが静脈経由で投与されましたが、試験期間中に全身状態の悪化を示す中毒症状や摂食量、飲水量、体重増加の異常は認められなかったといいます。また心電図検査、眼科的検査、尿検査、血液学的検査において異常は認められなかったとも出典資料:タウリンの食品健康影響評価書)。よほど大量のタウリンをサプリメントなどの形で継続的に過剰摂取しない限り、副作用は出ないものと推測されます。

犬のタウリン必要量は?

 猫とは違い、タウリンは犬の必須栄養素にカウントされていませんので、必要量は定められていません。ただしタウリンの前駆体となるメチオニンおよびシステインに関しては目安となる数値があります。
 例えば以下は「欧州ペットフード工業会連合」(FEDIAF)が定めている「メチオニン+システイン」の合計摂取推奨量です。ドライタイプでもウェットタイプでも、ドッグフードの乾燥重量100g中における値で示されています。カッコ内はそのうちメチオニンが占める割合です。
FEDIAF・2018年
  • 妊娠中のメス犬=0.7g(0.35g)
  • 14週齢未満の子犬=0.7g(0.35g)
  • 14週齢以降の子犬=0.5g(0.26g)
  • 成犬=0.76g(0.4g)~0.88g(0.46g)
 また以下は「米国飼料検査官協会」(AAFCO)が定めている摂取推奨量です。ドライタイプでもウェットタイプでも、ドッグフード100kcal中における値で示されています。カッコ内はそのうちメチオニンが占める割合です。
AAFCO・2016年版
  • 妊娠中のメス犬=0.7%(0.35%)
  • 授乳期の子犬=0.7%(0.35%)
  • 成犬=0.65%(0.33%)
 必須栄養素でないにもかかわらず、ドッグフードのパッケージに「タウリン」と記載されている場合は、後述する拡張型心筋症との関係性が話題になったため、消費者の不安を解消するために現物を添加しているものと推測されます。

犬のタウリン欠乏症

 ドッグフードがAAFCOやペットフード工業会の基準を遵守している限り、十分な量のタウリンが含まれていますので、不足するということはまずありません。しかし何らかの理由により体内におけるタウリン濃度が低下し、タウリン欠乏症を発症してしまうことがあります。

食事からのタウリン摂取

 タウリンは植物には含まれていませんが、哺乳動物の体組織や魚介類に豊富に含まれています。ドッグフードの原料がよほど特殊なものに偏っていない限り、含有量が足りなくなるということはありません。
 例えば以下は、アメリカのFDA(食品医薬品局)が2018年7月以降、グレインイフリー(※米、小麦、とうもろこしなどのメジャーな穀類を除外した)とラベリングされた製品とされていない製品を対象として成分分析を行った結果です(※M+C=メチオニン+シスチン)。
検査成分穀類あり平均穀類なし平均
タンパク質28.8%29.6%
脂質15.2%16.6%
タウリン0.13%0.14%
シスチン0.3%0.29%
メチオニン0.59%0.55%
M+C0.89%0.84%
食物繊維8.6%12.1%
粗繊維2.5%4.6%
不溶性繊維7.2%11.7%
水溶性繊維1.46未満1.41未満
でんぷん37.4%26%
難消化性でんぷん2.15%2.15%
塩化コリン3289ppm2731ppm
コリン2453ppm1979ppm
 グレインフリーだろうとなかろうとタウリンの含有率に差は見られず、またタウリンの前駆物質である含硫アミノ酸「メチオニン+システイン」の値に関しても、AAFCOが定める最低基準である「0.65%」を満たしています。
 一方、手作りフードでベジタリアンやヴィーガンフードを犬に給餌している場合は、タウリンも前駆体も足りなくなる危険性がありますので、場合によってはサプリメントという形で補給する必要があります。

体内でのタウリン生合成

 人を始めとする哺乳動物は肝臓から胆汁中へ分泌される胆汁酸(脂質の消化吸収を助ける分子)をタウリンもしくはグリシンによって抱合して体内を循環させます(※犬はタウリン抱合のみ)。仮に食事中のタウリンが足りない場合でも、主として肝臓においてメチオニンやシステインから自力でタウリンを合成することができますので、欠乏症に陥るということはまずありません。
 タウリンの合成にはCSADと呼ばれる酵素が関わっており、猫においてはこの酵素の活性が非常に低く、タウリン欠乏症を発症しやすいことがわかっています。しかし犬においては十分な活性がありますので、肝臓が健康である限り合成が滞って不足になるということはありません。

タウリン欠乏症の原因

 タウリンは基本的に食事から摂取します。また食事中のタウリンが少なくても、タウリンの前駆物質である含硫アミノ酸(メチオニン+シスチン)があれば、肝臓内で自動的に生合成されますので、欠乏症に陥ることはまずありません。しかしなぜか体内におけるタウリン濃度が低くなってしまう犬が一部にいます。完全には解明されていませんが、欠乏症の発症メカニズムとしては以下のようなものが想定されています。 犬の体内におけるタウリンのターンオーバー模式図

タンパク質の消化不良

 タウリンの前駆物質である含硫アミノ酸(システインとメチオニン)を吸収するためには、タンパク質を消化してアミノ酸まで分解する必要があります。しかし何らかの理由で消化不良が起こると、含流アミノ酸が不足して十分な量のタウリンを合成できなくなり、最終的には欠乏症に陥ります。
 例えばラムの副産物をレンダリングする工程でタンパク質の劣化が起こり、回腸におけるタンパク質の消化率を67%、システインの消化率を29%にまで低下させるといった報告があります。また栄養学の素人が手作りのベジタリアンフードを与えることでアミノ酸バランスが崩れることも大いにありえるでしょう。

含硫アミノ酸不足

 犬の消化吸収能力が正常でも、ドッグードの中にそもそも前駆物質である含硫アミノ酸が不足していては十分な量のタウリンを合成できません。例えば豆腐(ダイズ)ベースのフードなどです。

タウリンの合成が不十分

 前駆物質は十分でも、タウリンの合成が不十分では欠乏症に陥ってしまいます。
 例えば猫においては、スルフィノアラニンデカルボキシラーゼおよびシステインジオキシゲナーゼと呼ばれる合成酵素の活性が低いため、タウリン欠乏症が容易に起こります。犬においても上記した酵素の活性度が先天的に低い個体や犬種がいるかもしれません。また重度の肝不全を抱えている場合も合成が停滞してしまうでしょう。実際、平均体重37.9kgの大型犬6頭と12.8kgの中型犬6頭における体内でのタウリン合成能力を比較したところ、大型犬のほうが低かったという報告があります出典資料:Ko, 2007)

タウリンの排出量が多すぎる

 タウリンの合成は正常でも、体外に排出される量が多すぎると結果として欠乏症に陥ってしまいます。タウリンの具体的な排出経路は尿、胆汁酸、便です。
 例えば米ぬかが多い食事をとると胆汁酸の分泌が促進され、タウリンを巻き込みながら糞便として体外に排出されるようになります。また食物繊維が腸内細菌叢(フローラ)のバランスを変化させ、タウリンの分解量が増えて便中への喪失量が増えてしまうというケースも考えられます。ドッグフードに頻繁に用いられているビートパルプがタンパク質の消化率を低下させると同時に便中へのタウリン排出量を増やし、結果として血漿タウリン濃度を低下させるという報告もあるようです出典資料:Ko, 2016)

タウリンと拡張型心筋症

 2018年7月、アメリカの食品医薬品局であるFDAがある種のドッグフードと拡張型心筋症との関連性を指摘したことで、タウリンと当疾患との関連性にスポットライトが当たりました。結論から言うと、グレインフリーのドッグフードと拡張型心筋症との因果関係は証明されていません

原材料とタウリン欠乏

 ドッグフードの原材料とタウリン欠乏の関係性は、早くも2000年代初頭から報告されてきました。しかし20年以上たった今もなお、明確な因果関係は証明されていません。
 例えばさまざまな種類の市販ドッグフードを給餌されている131頭の犬を対象とした調査では、フードの原材料とタウリン濃度との間に以下のような関連性が見られ、拡張型心筋症の原因になっているのではないかと疑いの目を向けられています出典資料:Delaney, 2003)
原材料とタウリン濃度の関係
  • 全血中の平均濃度が低い→玄米・米ぬか・大麦
  • 全血中の最低値→ラム・ラムミール・米
  • 血漿中の含硫アミノ酸平均濃度が低い→動物の肉類・七面鳥・玄米・米糠・大麦
 上記したような報告がある一方、「食事からのタウリン摂取」で示したように、グレインフリーのフードとそうでないフードのタウリンやその前駆体の含有量に違いは見られませんでした。実際、12頭のビーグルを対象としてグレインベースのフード(ソルガム・ミレット・スペルト小麦)とグレインフリーのフード(えんどう豆・じゃがいも・タピオカ澱粉)を28日間ずつ給餌して全血、血漿、尿、便中のタウリン濃度を計測したところ、両フードの間で違いは見られなかったという報告もあります出典資料:Pezzali, 2020)
 調査間で見られる違いには、ドッグフードに用いられている原材料だけでなく、犬の方の体質なども絡み合っているものと考えられます。

犬の体質とタウリン欠乏

 犬のタウリン欠乏症にはフードの原材料だけでなく犬の体質も関わっているようです。
 例えば拡張型心筋症を抱えた76頭の犬と臨床上健康な犬47頭の血漿タウリン濃度を比較したところ、両グループの間に何の違いも見られなかったものの、低濃度(25nmol/mL未満)だった13頭のうちコッカースパニエルとゴールデンレトリバーだけで7頭を占めていたなどの事例があります出典資料:Kramer, 1995)。またゴールデンレトリバーを対象として近年行われた調査でも、この犬種においてはグレインフリーを中心とした食事によりタウリン欠乏症に陥り、結果として拡張型心筋症が引き起こされている可能性が極めて高いとの結論に至っています出典資料:Kaplan, 2018)

因果関係はいまだ不明

 FDAを発端とした各種の報道により、拡張型心筋症の患犬数が近年になって急速に増えたかのような印象を受けますが、実はアメリカ疾病管理予防センター(CDC)が人間の患者を対象として行っているような疫学調査は行われていないため、そもそも拡張型心筋症の有病率変動に関してはよくわかっていないのが現状です。
 「グレインフリーを食べる→タウリン欠乏症に陥る→拡張型心筋症を発症する」という関係性は、今もFDAが中心となって症例データを収集して調査している最中です。「タウリン欠乏症の原因」で解説したどれか、もしくは複数の項目が絡み合って発症しているものと考えられますが、メカニズムの解明は今後の課題です。
 グレインフリー騒動の発端から最新情報までは以下のページで詳しく解説してありますので、愛犬に「グレインフリー」ブランドを給餌している方はぜひ確認してみてください。 グレインフリーのドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係 グレインフリーのドッグフードはやはり犬の心臓に悪い? 【2019年2月のFDA報告】グレインフリーのドッグフードと拡張型心筋症との関係性
心臓の機能維持には、タウリンだけでなくL-カルニチンも重要な役割を担っています。栄養学の知識がないまま手作りフードを与え続けるとさまざまな欠乏症を招きますのでご注意ください。