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グレインフリーのドッグフードはやはり犬の心臓に悪い?

 拡張型心筋症の原因になっているとしてにわかに疑いの目を向けられた「グレインフリー」のドッグフード。ゴールデンレトリバーを対象とした調査により、少なくともこの犬種においては食事内容と病気との間に強い因果関係があることが判明しました。

ゴールデンレトリバーを対象とした調査

 調査を行ったのはカリフォルニア大学デイヴィス校の医療チーム。2016年1月から2018年7月の期間、拡張型心筋症の好発犬種とし知られるゴールデンレトリバーを対象とし、食事内容と心筋症との因果関係を検証しました。
拡張型心筋症
 拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy, DCM)とは、心臓のポンプ機能を生み出す心筋が拡張することで十分な収縮力を得られなくなり、血液循環量の低下や心臓弁の機能不全が起こる病気。体液が胸部や腹部に貯留することにより、咳や呼吸困難を引き起こしたり、うっ血性心不全に進行したりする。犬の拡張型心筋症正常な心臓の断面図と拡張型心筋症の模式図
 調査に参加したのは拡張型心筋症およびその発症因子として疑われているタウリン欠乏症の両方を発症したゴールデンレトリバー24頭(メス8頭+オス16頭 | 平均年齢6歳 | 平均体重32.4 kg | うち11頭はうっ血性心不全を併発)と、臨床上健康なゴールデンレトリバー52頭(平均年齢5.1歳 | 平均体重27.7kg | メス犬28頭+オス犬24頭)。
 犬たちの食事内容を詳しく調べた所、拡張型心筋症を発症した24頭中23頭(96%)ではグレインフリーもしくは豆類(エンドウマメ | レンズ豆 | ひよこ豆)リッチもしくはその両方を組み合わせた餌が与えられていたと言います。これらの市販フードは、メーカーの自称でAAFCOが定める成分規格をクリアしたものでしたが、どれ1つとして事前に給餌試験を行っていたものはありませんでした。
 調査チームは心筋症を発症した犬たちの食事内容を変更し、サプリメントとしてタウリンの補給を行ったところ、23頭(96%)では心エコー検査のパラメーターが改善しました。またうっ血性心不全を併発していた11頭中9頭ではうっ血状態が改善し、5頭では利尿薬自体が必要なくなり、5頭は利尿薬の投与量が半分になったと言います。
 こうした結果から調査チームは、少なくともゴールデンレトリバーにおいては、グレインフリーを中心とした食事によりタウリン欠乏症に陥り、結果として拡張型心筋症が引き起こされている可能性が極めて高いとの結論に至りました。
Taurine deficiency and dilated cardiomyopathy in golden retrievers fed commercial diets
Kaplan JL, Stern JA, Fascetti AJ, Larsen JA, Skolnik H, et al. (2018), PLOS ONE 13(12): e0209112. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0209112

食事内容と拡張型心筋症の関係

 拡張型心筋症を発症した犬に給餌されていたフードを調べた所、世界小動物獣医療協会(WSAVA)の世界栄養委員会(Global Nutrition Committee)が推奨している基準値を満たしたフードは1つもありませんでした。また13種類のうち12種類ではラベルに「グレインフリー」と記載されており、10種類ではラベルの最初の5項目中に豆類が記載されていた(=含有量が多いという事)とのこと。
 一方、臨床上健康な52頭中、全血タウリン濃度が250nmol/mLを超えていた27頭の食事内容を調べた所、11頭(40.7%)では上記基準値を満たしていることが確認されました。
 こうした事実から調査チームは「グレインフリー」や「豆類が豊富に含まれる」という栄養内容は拡張型心筋症の発症に強く関わっているのではないかと疑っています。ちなみに給餌期間が判明していた22頭を調べた所、中央値で814.5日(182~3558日)でした。イメージ的には、2年ちょっとで発症するということになります。

グレインフリーは犬の体に悪い?

 グレインフリーというラベルで売り出されているフードに多く含まれているのは、ウサギ肉、鹿肉、バイソン、ラム肉、猪肉など、一風変わった動物性タンパクです。しかし、これらの肉はアミノ酸組成がよくわかっておらず、犬の体内に入った後の利用性に関しても不明な部分が多々あります。ウサギ肉ではタウリンの含有量が少なく、ラム肉では前駆物質である含硫アミノ酸が少ないとのデータもありますので、マイナーな肉類がタウリン欠乏症を招いた可能性は否定できません。
 グレインフリーフードはまた、小麦、米、とうもろこしといった穀類(グレイン)を避けて豆類を豊富に含んでいることがあります。しかし一般的に豆類はタウリンの前駆物質である含硫アミノ酸(システインやメチオニン)が少なく、タンパク分解阻害成分やフィチン酸塩が含まれています。さらに豆類に豊富に含まれる食物繊維がタウリンを枯渇させる可能性も指摘されています。ですから、メジャーな穀類の代替成分として用いられた豆類が体内におけるタウリン濃度を低下させてしまう可能性は十分にあるでしょう。

犬におけるタウリンの参照値

 犬の体内におけるタウリンの正常な濃度がどのくらいなのかに関してはよくわかっていません。過去に行われた調査では、以下のような値が報告されています。
犬におけるタウリン参照値
  • Torres et al(2003)12頭の臨床上健康なビーグル犬のタウリン平均濃度
    ✓血漿=109(±8)nmol/mL
    ✓全血=291(±25)nmol/mL
  • Delaney et al(2003)131頭の様々な犬種に属する臨床上健康な犬のタウリン平均濃度
    ✓血漿=77(±2.1)nmol/mL
    ✓全血=266(±5.1)nmol/mL
 血清(serum)濃度に関しては再現性が低いため、検査項目としての価値はあまりないと考えられています。過去の報告では「178nmol/mL」程度と推測されています。
 今回の調査では、診断が下った時点での全血平均タウリン濃度を計測したゴールデンレトリバー19頭のうち、16頭は200nmol/mLを下回り、残りの3頭は200~250nmol/mL範囲内、全体の平均濃度は142.7nmol/mLでした。また血漿タウリン濃度を計測した7頭における中央値は28nmol/mLでした。一方、臨床上健康な52頭の平均全血濃度は279.1±51.5だったと言います。
 調査チームはこうした値を基にして、ゴールデンレトリバーにおけるタウリンの正常範囲、およびタウリン欠乏症の診断基準を暫定的に示しています。値は犬種や体の大きさによって異なる可能性があるため、下記の値を全ての犬に即座に適応するわけにはいきません。
タウリン欠乏症診断基準値・ゴールデンレトリバー編
  • 全血濃度→250nmol/mL以下
  • 血漿濃度→60nmol/mL以下

食事療法と心臓機能の変化

 拡張型心筋症を発症した24頭に対し、タウリンサプリメント(中央値1,500mg)を1日に2回経口投与するよう指示が出されました。またそのうち13頭に関してはL-カルニチン(中央値2,000mg/日)が同時に処方されました。
 その後16頭を追跡調査したところ、14頭における全血タウリン平均濃度が「413.6nmol/mL」に改善したといいます。また15頭では心エコー検査の著明な改善が見られました。変化が見られるまでの期間は、中央値で8ヶ月だったと言います。
 調査チームは、食餌が原因で発症した拡張型心筋症に対してはタウリンとL-カルニチンの両方を与えることを暫定的に推奨しています。ただしL-カルニチンは処方しなくても改善が見られたため、本当に必要かどうかに関しては今後さらなる検証が必要だとも。

犬とタウリン欠乏症

 タウリンは心臓の中で最も多く見られる遊離アミノ酸であることから、濃度勾配が心筋の機能や収縮能力に影響を及ぼしていると推測されています。その一例が、不足したときに発症する拡張型心筋症です。
 拡張型心筋症のほかでは、網膜の病変、視覚消失、生殖能力の低下、成長の遅延、中枢神経系機能不全、脊柱の奇形、血小板凝集亢進、好中球の機能不全などとの関連性が指摘されています。
 犬の体内においては肝臓や中枢神経系にあるメチオニンやシステインがトランススルフレーション経路(含硫基移動)を経てタウリンが生成されます。しかし人間のようにタウリンが欠乏したときにグリシンで胆汁酸を抱合することができません。その結果、人間よりもタウリン欠乏の悪影響を受けやすいと考えられています。

飼い主の注意点

 タウリンは心臓の健康維持に重要な役割を担っているにもかかわらずペットフードの必須検査項目には入っておらず、含有値がわからないことが少なくありません。また患犬が食べていたドッグフードのうち、事前に給餌試験を行っていたものは1つもありませんでした。つまりペットフードメーカーすら長期的に給餌した時の影響を把握していないのが現状なのです。
 臨床上健康と判断されたゴールデンレトリバー52頭のうち、全血タウリン濃度が欠乏症に近い値を示しているものが結構含まれていました。こうした事実から「タウリン欠乏症予備軍」および「拡張型心筋症予備軍」が、潜在的にかなりの数に上るのではないかと推測されています。
 発症のしやすさには犬種、体の大きさ、個体の遺伝性が影響していると考えられます。少なくとも、ゴールデンレトリバーにおいては「グレインフリー」というラベルに飛びつかないほうが無難でしょう。特に人間界における「炭水化物の取りすぎはよくない」という健康志向に感化され、深く考えずにイメージだけでドッグフードを選ぶのは危険です。
グレインフリー騒動の経緯に関しては「グレインフリーのドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係」を、FDA発の続報に関しては「2019年2月のFDA報告」をご参照ください。また「タウリン」では栄養学的な解説をしてあります。