トップ2019年・犬ニュース一覧9月の犬ニュース9月9日

奇形を持って生まれた子犬たちはどうなる?~「商品にならない」を理由としたブリーダー(繁殖業者)による間引き問題

 生まれたばかりの子犬を対象とした調査により、かなり高い確率で奇形を有した状態で生まれていることが明らかになりました。こうした子犬たちがブリーダー(繁殖業者)の元で生まれた場合、一体どうなるのでしょうか?

子犬の奇形率・種類・原因

 調査を行ったのはブラジルにあるサンパウロ州立大学(UNESP)の獣医学チーム。2017年1月から2019年4月の期間、大学付属の動物病院を病気、奇形、通常出産、帝王切開を目的として受診した母犬(1~7歳)を対象とし、生まれてきた子犬たちが一体どのくらいの割合で先天的な奇形を有しているかを検証しました。
先天的な奇形
口蓋裂、水頭症、巨大舌症など肉眼で確認できる外部的なものから、心臓、門脈、泌尿生殖器など医療検査をしなければわからない内部的なものまでを含む。犬の先天的な奇形の中で最も頻繁に見られる口蓋裂

奇形の保有率と死亡率

 178腹(※1腹=1回の出産)から生まれた合計803頭の子犬を目視検査、各種医療検査、死後解剖などを通してチェックしたところ、腹数ベースでは24.7%(44/178腹)、出産頭数ベースでは8%(64/803頭)の割合で奇形が確認されたといいます。また何らかの奇形を持って生まれた子犬64頭のうち、68.7%に相当する44頭までもが生後30日齢を待たずして死んでしまったとも。死亡した44頭のうち61.4%(27/44)が出産後0~2日齢、38.6%(17/44)が出産後3~30日齢というタイミングでした。

先天的な奇形の種類

 先天的な奇形としては全部で27種類が確認され、特に多かったのが口蓋裂(35.9%, 23/64)と水頭症(18.8%, 12/64)でした。また単一の奇形のみを有していた割合が81.2%(52/64)、複数の奇形を同時に保有していた割合が18.8%(12/64)でした。

死亡の原因

 死亡した44頭の原因としては誤嚥性肺炎(6頭, 13.6%)、心肺機能不全(3頭, 6.8%)、消化管の閉塞(3頭, 6.8%)、消化管と尿道の閉塞(1頭, 2.3%)などがある一方、生存や健やかな成長が見込めないとして安楽死となった子犬も16%(7頭)確認されました。その他「不明」というものも多く確認されました。

奇形発症の原因

 そもそも奇形が発症する原因としては、4.5%(2/44)で近親交配が確認されました。また2.2%(1/44)では母犬が妊娠初期に肺炎の治療でドキシサイクリン(催奇形性あり)を投与されていることが判明しました。しかし上記した母犬以外に関しては、奇形を誘発する危険因子として知られている栄養学的な要因、毒物や化学物質の摂取、外傷、感染、放射線暴露の兆候は見られませんでした。このことから遺伝的な要因が大きいのではないかと推測されています。
 全体の奇形発生率が8.0%(803頭中64頭)であるのに対し、非純血種のそれは7.1%(140頭中10頭)、純血種のそれは8.1%(663頭中54頭)だったことから、純血種の方が統計的に15%(オッズ比1.15)ほど奇形発症リスクが高いと算出されました。また調査対象となった23犬種のうち、少なくとも1頭の奇形が確認された割合は60.8%(14犬種)に達しました。
Incidence of congenital malformations and impact on the mortality of neonatal canines
Keylla Helena Nobre Pacifico Pereira, Luiz Eduardo Cruz dos Santos Correia, et al., Theriogenology(2019), https://doi.org/10.1016/j.theriogenology.2019.07.027

奇形を有した子犬たちはどうなる?

 腹数ベースで見た時、同腹仔(※1回の出産で生まれたきょうだい犬たち)の中で少なくとも1頭に奇形が見られる割合は24.7%と算定されました。平たく言うと4回に1回は少なくとも1頭の子犬が奇形を持って生まれるということです。しかし当調査の追跡期間が生後5週間だけだったため、成長してから発現する奇形を含めると実際はもっと高い値になるのではないかと推測されています。また動物病院を受診した母犬とその出産胎子だけが調査対象となっているため、そもそも動物病院すら受診しないまま見殺しにされた子犬たちを含めると、実際の奇形率はもっと跳ね上がるのではないかと考えられています。

「商品」にならない子犬たち

 海外においても日本国内でおいても「ブリーダー」(繁殖業)という職業があり、純血種を用いた人為的な繁殖によって子犬を出産させ、商品として販売しています。正確な統計はありませんが、日本では年間40万頭~60万頭くらいの子犬が市場に流通しているのではないかと推測されています。
 試みに今回の調査で得られた「8.0%」という奇形出生率を当てはめてみると、名目上「健康優良児」として販売対象となる子犬たちの裏には、3万5千~5万2千頭もの奇形胎子が生まれていることになるでしょう。
✓40万頭←「ペット産業CSR白書2018年版」(人と動物の共生センター)
✓60万頭←「犬を殺すのは誰か」(朝日出版社)

奇形を持った子犬たちの運命

 日本国内で仮に年間3万5千~5万2千頭の奇形胎子が生まれているとして、これらの子犬たちは一体どこにいくのでしょうか?大きく分けて自然死、終生飼養、譲渡、間引きという分岐があると考えられます。

自然死

 今回の調査でも示されたように、先天的な奇形を持って生まれた子犬の多くは母乳を飲めないことに起因する栄養失調や誤嚥性肺炎などが原因で自然死してしまいます。

終生飼養

 売りに出されない犬たちはブリーダーが責任を持って終生飼養しなければなりません。日本国内においてこれは単なる倫理的な問題ではなく、2013年の動物愛護法改正によってしっかりと明文化された義務です。 改正動物愛護法~第一種および第二種動物取扱業者に関する詳説

里親募集(厄介払い)

 奇形や障害を持って生まれた子犬の一部は「里親募集」という美名に隠れて間接的に厄介払いにされています。TwitterなどのSNSなどを見ればそうした事例をすぐに見つけることができます。

間引き

 ブリーダー(繁殖業者)によって間引きされるというパターンもあります。例えば今回の調査では、子犬の予後を悲観しての安楽死処分が16%で行われました。しかし「健やかな成長が見込めない」という判断基準は国によっても人によっても曖昧ですので、場合によっては普通の生活を送れるような子犬が間引かれることもあるでしょう。「足がまっすぐではない」というだけで商品としても繁殖犬としても使うことができないこうした子犬たちの面倒を見るのは、よほど裕福で時間に余裕があるブリーダーだけです。

ブリーダー(繁殖屋)による間引き問題

 ブリーダー(繁殖屋)による利己的な間引き問題はかなり見過ごされているのではないかと考えられます。
 2016年1月5日、環境省の自然環境局総務課長から各都道府県・指定都市中核市動物愛護管理主管部(局)長あてに「第一種動物取扱業者に対する監視、指導等の徹底について」(犬猫等健康安全計画の遵守)という通知が出されました。内容は、犬猫等販売業者における平均死亡率と比較して、あまりにも高い数字を出している業者に対しては監視と指導を強めるよう指示するものです。詳しくは以下の記事をご覧ください。環境省が販売業者における犬や猫の平均死亡率を通知 平成26年度、販売業者における犬と猫の全国平均死亡率  しかしこうした指導にはあまり意味がありません。なぜなら「死亡した子犬の数」はブリーダーの都合でいくらでも改ざんが可能だからです。例えばある繁殖業者のもとで1年間に50頭の子犬が生まれたとしましょう。そのうちの7頭は死産で、4頭は新生子期に死亡、3頭は口蓋裂といった先天的奇形を持っていたため間引きしたとします。死亡した子犬に人間のような死体遺棄罪は適用されませんので、奇形胎子を「自然死した」とか「最初からいなかった」ことにしてしまえばいかようにも数字をコントロールできてしまいます。
 自分の都合で子犬達の命を奪う間引き問題に関してはブリーダー自身が自主的に発信しない限りなかなか見えてこない部分です。行政による殺処分問題は今現在も矢面に立たされていますが、「人間の都合で犬の命を奪う」 という根っこの部分に関してはブリーダーの間引き問題も同じ次元でしょう。飼育されていた犬たちが行政機関に殺される「殺処分問題」、商品として消費者に届くまでの間に死んでしまう「流通死問題」の以前に、商品として使えない犬たちの命が秘密裏に奪われている「間引き問題」があるということです。 犬・猫の生産(繁殖業)~シリアスブリーダーと繁殖屋・パピーミルの違いは?