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ミニチュアダックスフントは巨大食道症(食道アカラシア)に注意!

 犬の口と胃袋を結ぶ食道の異常により、食べた物をすぐに吐き戻してしまう巨大食道症(食道アカラシア)。日本においてはなぜかミニチュアダックスフントにおける発症率が異常に高いことが明らかになりました。

巨大食道症の統計調査・日本編

 調査を行ったのは東京大学大学院農学生命科学研究科のチーム。2012年1月から2017年8月の期間、東京大学附属動物医療センターを受診した犬の中から巨大食道症と診断された患犬を対象とし、生存期間に影響を及ぼす因子が何であるかを統計的に調べました。
巨大食道症
 巨大食道症(食道アカラシア)とは犬の口と胃袋を結ぶ食道の異常により、食べた物をすぐに吐き戻してしまう消化器系の病気。犬の食道アカラシア(巨大食道症)  生まれつき発症するパターンを「先天性」、生まれた後で発症するパターンを「後天性」と区分します。後天性はさらに、原因がわかっている「二次性」と原因不明の「特発性」とに細分されます。
 二次性巨大食道症の原因として多いのは重症筋無力症アジソン病(副腎皮質機能低下症)、キー・ガスケル症候群 (自律神経失調症)、多発性根神経炎、甲状腺機能低下症、多発ミオパチー、食道がんなどです。 犬の食道アカラシア
 調査の結果、28頭(年齢中央値8.2歳 | 体重中央値5.5kg)の犬が基準を満たし、なんとそのうち半数に相当する14頭までもがミニチュアダックスフント だったと言います。発症リスクを計算したところ他の犬種に比べ4.33倍という極めて高いものでした。
 調査チームはさらに、犬種以外の因子と生存期間との関係性を精査しました。その結果、逆流した食べ物が誤って気管に入る「誤嚥性肺炎」(ごえんせいはいえん)を発症している場合、生存期間が有意に短くなり、3ヶ月生存率が低下してしまうことが明らかになりました。具体的には、非発症グループの生存期間が未到達(調査期間中に死亡数が半分に満たなかった)に対して発症グループが114日、非発症グループの3ヶ月生存率が100%(18/18頭)に対して発症グループ60%(6/10頭)というものです。
Clinical features and prognosis of canine megaesophagus in Japan
Taisuke Nakagawa, Akihiro Doi, Koichi Ohno, The Journal of Veterinary Medical Science 2019

なぜミニチュアダックスに多い?

 今回の調査で報告されたミニチュアダックスフント の多くは、よくわからない原因で後天的に発症した特発性巨大食道症でした。この犬種においてなぜ4倍近い発症リスクがあるのかに関してはよくわかっていません。ただ、日本のミニチュアダックスフントで特異的に報告されている炎症性大腸直腸ポリープ、特発性多発関節炎、無菌性脂肪織炎といった免疫疾患が関わっている可能性はあるでしょう。免疫システムが攻撃対象を自分自身の食道としてしまった場合、神経や筋肉が機能不全に陥り、後天的に巨大食道症を発症してしまうというメカニズムです。
 一方、先天性巨大食道症に関しては遺伝的な好発犬種が報告されています。具体的には以下に示すような中~大型犬です。
先天性巨大食道症・好発犬種一覧
 また小型犬のミニチュアシュナウザーフォックステリアに関しては常染色体優性遺伝の可能性が示唆されています。

巨大食道症に多い症状

 患犬を診察した時点で多かった症状は以下の項目です
  • 食後に吐く=28頭(100%)
  • 体重減少=14頭(50%)
  • 咳=8頭(29%)
  • 食欲不振=6頭(21%)
  • 発熱=1頭(4%)
 ミニチュアダックスフントは椎間板ヘルニアを始めとする筋骨格系の疾患にかかりやすい事は多くの飼い主が知っています。しかし特に日本においては、よくわからない理由によって巨大食道症(食道アカラシア)を発症しやすいということも覚えておいた方がよいでしょう。
 病院を受診した犬たちの年齢中央値は8.2歳でしたので、たとえ今まで何の問題がなくても、老境に入ったタイミングで「食べた物を吐き戻す」といった特徴的な症状を示すようになるかもしれません。

巨大食道症の治療

 今回の調査では「食事するときに上半身を高くする」という保存療法と、投薬治療(5-HT4受容体拮抗薬 | 消化管機能改善薬)や外科治療(食道への給餌チューブ挿入)との間で明白な成績差が見られませんでした。また3ヶ月生存率は85.7%、全体の平均生存期間は648日間でした。
 過去に海外で行われた調査では「3ヶ月生存率は38%」(Boudrieau et al.)とか「生存期間中央値は90日」(Mcbreaty et al.)と報告されています。しかしこれらの調査は、最大で8割近い犬たちが獣医師の判断で安楽死処分となった結果です。
 食事をするときの姿勢に気をつけ、誤嚥性肺炎をちゃんと防ぐことができれば、場合によっては2年近く暮らしていくことが可能ですので、予後を過剰に悲観するのは早計でしょう。ちなみに28頭中、完全治癒は3例、部分治癒は10例、無反応~悪化は15例でした。

吐き戻しを予防する方法

 食後の吐き戻しとそれに付随する誤嚥性肺炎を予防する方法は、食後しばらくの間上半身に傾斜をつけ、食べ物が逆流しないようにすることです。低下した食道の機能を重力の作用で補うという形になります。以下は一例です。特殊なテーブルや椅子は市販されているわけではありませんので、場合によっては飼い主自身がDIYで手作りする必要があります。
 巨大食道症を患うイギリスのラブラドールレトリバー「バック」はチャリティ団体と大学研究者が協力して製作した特製ディナーテーブルを使用して吐き戻しを予防しています。↓ Mirror(2018.11.28) 巨大食道症を患うイギリスのラブラドールレトリバー「バック」の食事風景  先天性の巨大食道症を患うミシガン州のラブラドールレトリバー「ティンク」は手製の椅子で食事を取ります。毎食後、5分間は飼い主が背中を擦り、赤ん坊のようにゲップを吐き出させるそうです。↓ FOX1(2017.11.8) 巨大食道症を患うラブラドールレトリバー「ティンク」の食事風景  巨大食道症を患うイギリスのキャバリアキングチャールズスパニエル「ロン」の飼い主は、米国で売られている逆流防止専用椅子「Bailey Chair」を買おうとしましたが国内では販売されていませんでした。最終的にはDIYで自作したものを使っています。↓ Mirror(2015.12.10) 巨大食道症を患うイギリスのキャバリアキングチャールズスパニエル「ロン」の食事風景  以下はFacebookの公開グループ「Megaesophagus in Dachshunds」で紹介されていた逆流防止チェアです。多くの飼い主は、自分で設計して犬の体のサイズに合った椅子を作っているようです。↓ 巨大食道症(食道アカラシア)の犬向けに作られた逆流防止椅子その1 巨大食道症(食道アカラシア)の犬向けに作られた逆流防止椅子その2 巨大食道症(食道アカラシア)の犬向けに作られた逆流防止椅子その3
Bailey Chair
 以下でご紹介するのはアメリカ国内で市販されている逆流防止専用椅子「Bailey Chair」です。残念ながら日本国内における取扱はないようですので、見よう見まねで手作りするしかありません。
 作り方がどうしてもわからない場合は、クラウドソーシングなどを通じて得意な人に作ってもらうという選択肢もあるでしょう。 元動画は→こちら