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犬との正しいふれあい方・完全ガイド~基本原則から注意点まで

 犬同士の間で用いられる犬語を知らなかったり誤解していたりすると、思わぬトラブルに発展することもあります。ありがちな間違いや勘違いをあらかじめ予習し、犬と円滑にコミュニケーションが取れるようになりましょう!犬語の話し方(文春文庫)

犬と猫の間に生じる誤解

 一般的に犬と猫は仲が悪いというイメージがありますが、「犬の言葉」・「猫の言葉」という観点から両者の関係を見ると、「仲が悪くなるのも仕方が無いなぁ」と思われるような理由が、確かにいくつかあります。もし犬と猫を同居させている場合は、以下に述べるような点に注意して観察してみると、両者を仲良くさせるヒントが見つかるかもしれません。
 なお2010年、テルアビブ大学動物学部のジョセフ・ターケル教授が、犬と猫が一緒に仲良く暮らす秘訣の一部を突き止めました。それは、猫が犬より先にペットとして飼われている状態で、犬が1歳未満、猫が6ヶ月未満の時期に一緒に暮らし始めると、2匹は意気投合する確率が高いというものです。その理由として教授は、犬と猫は、両者に共通の言葉を持っており、さらに猫は犬に固有の言葉を、逆に犬は猫に固有の言葉を理解するようになるという点を挙げています。犬と猫が一緒に仲良く暮らす秘訣

しっぽを上げる

 しっぽを挙げるという動作は、犬にとって「体を大きく見せる動作=優位性の誇示」という意味があるのに対し、猫にとっては「母猫に排泄を促してもらう子猫の動作=友好や甘え」という意味があります。
 こうした解釈の違いから、しっぽを挙げて親愛の情を示してきた猫に対し、犬が悪感情を抱いてしまうという状況が起こりえます。 しっぽを上げるのは、犬にとっては優位性の誇示、猫にとっては友好や甘え

しっぽを垂らして毛を逆立てる

 しっぽを垂らすという動作は、犬にとって「体を小さく見せる動作=自信のなさ・屈服」という意味があるのに対し、猫にとっては「毛を逆立てて体を大きく見せる警告の動作=攻撃の予兆」という意味があります。
 こうした解釈の違いから、「近づくなよ!」というメッセージを発している猫に、犬が堂々と近づいてしまうという状況が起こりえます。 しっぽを垂らして毛を逆立てるのは、犬にとっては屈服、猫にとっては身構え

仰向けになる

 仰向けになるという動作は、犬にとって「腹部を見せて敵対心が無いことを示す動作=屈服・服従心」という意味があるのに対し、猫にとっては「獲物を捕まえて猫キックを食らわせる前の動作=攻撃の予兆」という意味があります。
 こうした解釈の違いから、相手を痛めつけてやろうと身構えている猫に、犬が興味本位に近づいてしまうという状況が起こりえます。ただし仰向けにゴロンと寝転がるという動作には、猫の世界でも「遊ぼうよ!」という友好の証であることもあるため、両者の関係は犬が猫の発している空気を読めるかどうかに左右されます。 猫の言葉・気持ち 仰向けになるのは、犬にとっては服従心、猫にとっては攻撃前の姿勢

前足を上げる

 前足を上げるという動作は、犬にとって「母犬にお乳をねだる動作=友好・甘え」という意味があるのに対し、猫にとっては「猫パンチを放つ前の準備動作=攻撃の予兆」という意味があります。
 こうした解釈の違いから、ジャブを打とうと待ち構えている猫に、犬が遊び感覚で近づいてしまうという状況が起こりえます。
 ちなみに犬が前足を挙げる動作はパピーリフトとも呼ばれ、上位者に対して甘えたり何かを要求するときによく出ます。犬がお手をすぐ覚えてしまうのは、この動作がそもそも上位者に対して親愛の情を示す動作だからです。 犬が軽くタッチする 前足を上げるのは、犬にとっては甘えや友好、猫にとってはパンチ前の準備

前足を伸ばしてストレッチ

 前足を伸ばしてストレッチという動作は、犬にとって「噛みつきやすい場所へわざと首を差し出す動作=遊びへの誘い」という意味があるのに対し、猫にとっては「全身の筋肉を伸ばす動作=単なるストレッチ」という意味があります。
 こうした解釈の違いから、寝起きでストレッチしている猫に、犬が飛び掛るというという状況が起こりえます。
 ちなみに頭を低く下げてお尻を持ち上げ、しっぽを大きく振る動作はプレイバウ(犬のお辞儀)とも呼ばれ、犬の代表的な言語の一つです。 犬がおじぎをする 前足を伸ばしてストレッチするのは、犬にとっては遊びへの誘い、猫にとっては単なるストレッチ

すり寄る

 すり寄るという動作は、犬にとって「相手をどかせて自分の強さと大きさを証明する動作=優位性の誇示」という意味があるのに対し、猫にとっては「相手に自分の臭いをこすり付ける動作=親愛の証」という意味があります。
 こうした解釈の違いから、擦り寄って甘えてきた猫に対し、その行動を「自分への挑戦」と受け取った犬がつっけんどんな態度を取るという状況が起こりえます。 すり寄るという行為は、犬にとっては優位性の誇示、猫にとっては親愛の情

犬種による犬語の理解度

 イギリス・サウサンプトン大学のデボラ・グッドウィンらは、犬の外見がオオカミに似ているかどうかという基準で数種類の犬種を選び出し、犬同士の社会的言語に対する理解度について調査しました。その結果、犬の外見がオオカミに近いほど、より多くの社会言語、すなわち犬語を理解するという結論が導き出されます。

犬種と社会的言語の語彙

 犬種と社会的言語の語彙に関する実験に用いられた犬種は以下です。
オオカミに似ている順
 さて、上記犬種に関し、研究者たちが15種類に及ぶ優位性、および服従性の犬語に関して調査したところ、シベリアンハスキーが全ての言語を理解したのに対し、キャバリアキングチャールズスパニエルはわずか2種類しか理解できなかったそうです。
 こうした言語能力格差の理由ははっきりとしないものの、キャバリアの語彙が生後3~4週の子オオカミレベルで止まっているのに対し、シベリアンハスキーの言語能力は成長してから身に付けたと思われるものが多かったといいます。こうしたことから、外見がオオカミに近い犬ほど、成長過程で習得すべき犬の社会的言語を、より多くマスターするという奇妙な関連性が見いだされました。

犬の語彙格差を実生活に生かす

 犬種によって社会的言語能力に開きがあるという事実は私たちのペットライフにも応用できそうです。
 T&D保険グループのペット&ファミリー少額短期保険株式会社は2012年9月、20~70代の愛犬家の男女955人を対象に、「愛犬とのお散歩意識調査」(インターネット調査)を実施しました。その結果、散歩中に何らかのトラブルに遭遇した人が約4割で、そのうち約5割(55.9%)の人が「犬同士のトラブル」を挙げています。このトラブルの背景には、飼い主のしつけ不足という問題のほか、犬語のボキャブラリー不足という犬側の問題もあるような気がします。 愛犬とのお散歩意識調査 ペット&ファミリー少額短期保険株式会社の「愛犬とのお散歩意識調査」(2012)  たとえば、犬の社会的言語を習得し切れていない、外見がオオカミからかけ離れた犬は、相手の犬が発している警告や攻撃のサインを見落として、向かっていってしまうかもしれません。逆に、相手が服従の姿勢を示しているにもかかわらず、深追いして攻撃してしまうという状況も考えられます。こうした犬語に対する理解不足が犬同士のトラブルを作り出しているのなら、散歩やドッグランなど、飼い犬が他の犬と接する状況においては、何らかの工夫を凝らしたほうがよさそうです。
 具体的には、道端で見知らぬ犬が近づいてきたときは、すかさずオスワリフセの命令を出すなどです。「座る」・「伏せる」という行為は相手に対する敵対心がないということを示す犬語ですので、相手の犬を怒らせることもありませんし、こちらの犬が飛び掛っていくことも予防できますね。
 いずれにしても、全ての犬が等しく犬の社会的言語を理解できるわけではなく、犬種によって犬語に対する理解度には大きな格差があるという点は、飼い主として抑えておいたほうがよさそうです。

犬とふれあうときの注意

 コンビニの外にかわいい犬がつながれていると、思わずなでてしまいたい衝動に駆られますが、犬の好きな接し方と嫌いな接し方というものが、明らかに存在しているようです。

犬とふれあうときの基本原則

 フランスの心理学者ボリス・シルルニクは、ダウン症の子供と健常な子供が犬に接したときの犬側のリアクションについて研究を行いました。結果、健常な子供と接するときの方が、犬は強い拒否反応を示したそうです。その原因として彼は、子供たちが知らず知らずの内に犬に送っているボディランゲージの存在を挙げていますが、これは同時に私たちが犬と接するときに「やっていいこと・悪いこと」のヒントになってくれそうです。具体的には以下。
犬から拒絶されやすい行動
  • 笑う犬の目には犬歯を見せて威嚇しているように見える
  • いきなり手を出してなでようとする犬の目には広げた手の平が、口をあけた獣の牙のように見える
  • 走りながら近づいてくる自分よりも体の大きな動物が、自分を襲って食おうとしていると感じる
  • じっと目を見つめる犬の世界では、相手の目を凝視するという行為は威嚇・敵対心を意味する
 一方、犬たちが友好的な反応を示したダウン症の子供たちは、じっと犬の目を見つめることはなく、動き方もゆっくりで、正面からではなく横のほうから近づいたといいます。また犬を触ろうとするときの腕の位置は低く、指を内側に曲げていることが多かったとも。
 上記したように、犬が嫌う行動がわかれば、必然的に犬に好かれる行為も見えてきます。私たち人間が犬とふれあうときの基本原則は以下のようにまとめられます。
犬に拒絶されにくい行動
  • 口を開けてむやみに歯を見せない
  • 指は閉じて内側に曲げるようにする
  • 急に腕を伸ばさない
  • 動くときはゆっくりと
  • 犬の顔を凝視しない
  • 犬には体の横を見せるようにする

実生活での犬とのふれあい

 犬とふれあう際の基本原則がわかったら、今度はそれを実生活に応用してみましょう。たとえば「知人の家に遊びに行き、ペットの犬と初対面する」という、日常生活でありそうな場面を想定してみます。

犬との初対面

 まずやってはいけないのは、「キャーかわいい!」と大声を出して歯をむき出しにし、腕を伸ばして犬に駆け寄ることです。理由は、犬からすると「得体の知れない大きな生き物が襲ってきた!」と感じてしまうからです。犬と接するときの基本原則を思い出し、以下のように行動してみましょう。
犬とのコンタクト手順
  • 犬に正面から向き合わず体の横を向ける正面から向き合うと、敵対心があると誤解されますので、体の横を向けるようにします。
  • 犬には気づかない振りをして空中や床などを見る犬の顔を凝視すると、敵対心があると誤解されますので、そっぽを向くような感じで犬から目をそらせましょう。
  • ゆっくりとしゃがむ座るという行為は、犬の世界では攻撃する意図が無いことを意味します。犬が遠くにいる場合は、ゆっくりと斜め方向から接近してしゃがみます。
  • 手の臭いをかがせる興味を持った犬が近づいてきたら、横を向いたままさりげなく手を横に差し出しましょう。このとき、急に腕を伸ばしたり指を広げたりはしないよう気をつけます。
  • ゆっくりと手の平を広げる犬が十分に手のにおいを嗅いだら、ゆっくりと手の平を広げましょう。決して怖いものではないことを理解させます。
  • 手の平におやつをのせる犬が手になれてきたらゆっくりとした動作で手の平におやつをのせます。無理やり食べさせようとするのではなく、犬が自発的に鼻や口を近づけてくるまで待ちましょう。
  • ゆっくりと顔を犬のほうに向けるおやつを食べて敵ではないことを理解してくれたら、ゆっくりと顔を犬に向けます。

犬のなで方

 犬があなたのことを敵ではないと認識してくれたら、今度はなでるという行為にチャレンジしてみましょう。ここでやってはいけないのは、指を広げて急に頭の上に手を伸ばすという行為です。理由は、犬からすると「殴られる!」と感じてしまうからです。犬に不要な恐怖心を抱かせないよう、以下のように行動してみましょう。
犬のなで方・手順
  • 犬に対して体の横を向け、ゆっくりとしゃがむ  犬に対して「自分は敵ではない」ことを伝えます。
  • 握った手を犬の前にもっていくゆっくりと手を近づけ、犬に臭いをかがせます。臭いを嗅がせるのは犬に対してあいさつすることと同じです。
  • 犬に向き合い、手を下に移動する犬が手の嗅ぎ終わったら、ゆっくりと向き合い、まずは手を犬の目よりも下に移動させましょう。犬はあまり目がよくありませんので、突然目の前に動く物体が現れると、人間の手とは認識できず、反射的に噛みついてしまうことがあります。
  • ゆっくりと犬の胸元にタッチするいきなり頭や肩に手を置くのは、相手に対する挑戦と受け取られかねませんので、まずは胸元をゆっくりとタッチします。
  • 徐々に触る位置を上げていく犬が抵抗しないようなら、敵でないことをわかってくれた証拠です。徐々に胸元から上を触りましょう。なでるのは首や背中を先にし、デリケートな頭は一番最後にします。

犬のなだめ方

 犬があなたのことを、「自分の縄張りを荒らす敵」、もしくは「飼い主に危害を加える侵入者」とみなし、激しく吠え立ててくるかもしれません。そんなときは犬語を用いて以下のようになだめてみましょう。これらの行動は、相手を落ち着かせるという意味からカーミングシグナルとも呼ばれます。
犬のカーミングシグナル
  • 犬から目線をそらし、横を向く相手から目線をそらせるという行為は、争う気が無いということを意味します。これで「まあ、仲良くしましょうや」、というメッセージを伝えます。
  • まばたきやあくびをするまばたきやあくびは、相手を落ち着かせるときに出る典型的なカーミングシグナルです。これで「争う気はありませんから落ち着いて」というメッセージを伝えます。
  • 床に興味がある振りをして犬を無視する他のものを注視するという行為は、「目線をそらせる」と同様、相手に対して敵対心を抱いていないことを意味します。訳もなく床や窓の外眺めたりしましょう。これで「あなたをどうこうするつもりはありません」というメッセージが伝わります。
 以上が一般的な犬のなだめ方ですが、こうした数々のカーミングシグナルを出しても犬の興奮状態が治まらないようなときは、縄張り意識が強く、家の中から出て行くまで吠え続ける可能性があります。
 そんなときはいさぎよくふれあいをあきらめて、その場から立ち去りましょう。しかし、あわてて背中を向けて走り出さないようにします。これは、犬には狩猟本能というものがあり、背中を向けて走るものを追いかける習性があるためです。
 狩猟本能を掻き立てないよう、まずは犬から目線をそらし、2~3歩ずつ、後ろ向きにゆっくりと出口のほうに向かいましょう。その後、体をゆっくりと横に向け、犬の視界から消えるようにします。またこの場合はこちらの接し方の問題というよりも、犬の側の問題ですので、飼い主に無駄吠えのしつけをするようお願いするのが得策です。