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犬の唾液腺嚢腫~症状・原因から治療・予防法まで

 犬の唾液腺嚢腫(だえきせんのうしゅ)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の唾液腺嚢腫の病態と症状

 犬の唾液腺嚢腫とは、唾液を分泌している「唾液腺」と呼ばれる腺組織が、袋状に腫れ上がってしまうことです。「腫瘍」が細胞の増殖によってできた塊を意味しているのに対し、「嚢腫」は細胞以外の成分を細胞成分が包み込むことで袋を形成した状態を意味しています。 腫瘍と嚢腫の比較模式図  犬の唾液は、「耳下腺」(じかせん)、「顎下腺」(がっかせん)、「舌下腺」(ぜっかせん)、「頬骨腺」(きょうこつせん)という大きい唾液腺と、軟口蓋、唇、舌、頬に散在している小さい唾液腺との共同作業によって作り出されています。腺内で作り出された唾液は、専用の管を通って口の中に放出されますが、この管のどこかに障害があると、途中で唾液が漏れて水たまりを作ってしまいます。このようにして発生するのが「唾液腺嚢腫」です。漏れ出した唾液の周囲は、炎症の結果として生じた肉芽組織で覆われ、ちょうど膨らんだ水風船のような状態になります。
 唾液腺嚢腫の主な症状は、肉眼でも確認できるような大きなふくらみが口の周辺にできることです。嚢腫がどこに発生するかによって以下のように呼び方が変わります。なお、唾液腺や唾液管に炎症が起こっていない場合は、それほど痛みはありません。
嚢腫の呼称と症状
犬の唾液腺の模式図~耳下腺・顎下腺・舌下腺・頬骨腺
  • 頚部粘液嚢腫 主に舌下腺が障害された時に発生します。嚢腫ができるのは顎の下から首の上にかけてです。
  • 舌下粘液嚢腫 主に舌下腺が障害された時に発生します。嚢腫ができるのはベロの下で、カエルのように見えることから「ガマ腫」とも呼ばれます。食事中に傷つけてしまい、唾液に血が混じってしまうこともしばしばです。
犬の唾液腺嚢腫~頚部粘液嚢腫とガマ腫
  • 咽頭粘液嚢腫 主に舌下腺が障害された時に発生します。嚢腫ができるのは口の奥です。大きくなりすぎると、舌の運動異常、呼吸困難、嚥下困難といった症状を引き起こします。
  • 頬骨粘液嚢腫 主に頬骨腺が障害された時に発生します。嚢腫ができるのは眼球の真下です。嚢腫が眼球を圧迫したときは眼球突出、視神経を圧迫したときは外斜視などを引き起こします。
  • 耳下腺粘液嚢腫 主に耳下腺が障害された時に発生します。嚢腫ができるのはいわゆるエラの部分です。
  • 複合粘液嚢腫 複数の唾液腺が同時に障害された時に発生します。

犬の唾液腺嚢腫の原因

 犬の唾液腺嚢腫の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の唾液腺嚢腫の主な原因
  • 外傷 唾液腺と口腔とをつなぐ唾液管に何らかのストレスが加わり、管が破損してしまうと、そこから液漏れが発生して嚢腫を引き起こします。具体的には、ケンカやじゃれあいによる噛み傷、交通事故、リードを強く引っ張ることによる首への圧迫、手術に伴う医原性の外傷などです。
  • 唾石 唾液腺内部や唾液管内に生じた結石のことを「唾石」(だせき)といいます。この唾石が管内を閉塞することによって管が破裂し、嚢腫につながることがあります。
  • 遺伝(?) ミニチュアプードルジャーマンシェパードダックスフントシルキーテリアにやや多いとされます。また猫に比べ犬での発症率は約3倍です。
  • 不明 唾液腺嚢腫の原因は多くの場合不明です。

犬の唾液腺嚢腫の治療

 犬の唾液腺嚢腫の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の唾液腺嚢腫の主な治療法
  • 外科手術 ただ単にたまった唾液を抜いただけでは多くの場合再発してしまいますので、根治を目指して唾液腺自体を切除することもあります。不足分の唾液は、他の残った唾液腺が少しずつ代償してくれます。
  • 投薬治療 唾液腺炎を伴っている場合は、病原菌を特定して抗生物質や抗菌薬が投与されることもあります。
  • 首に負担を掛けない 首輪による締め付けが唾液腺の破損を招く危険性があるため、ハーネス(胴輪)に切り替えるようにします。また、しつけと称してリードをぐいっと引っ張る手技(ジャーク / ラピッドチェック)を行うのもやめた方がよいでしょう。