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犬の尿路結石症(尿石症)~症状・原因から予防・治療法まで

 犬の尿路結石症について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の尿路結石症とは?

 尿路結石症(尿石症, urolithiasis)とは、体の中で尿を作り出す器官のどこかで尿に含まれる成分が結晶化し、石のように固くなって留まった状態のことです。
 結石が腎臓内にできたときは腎結石、尿管内にできたときは尿管結石、膀胱内にできたときは膀胱結石、尿道内にできたときは尿道結石と呼び、前2者(腎+尿管)をまとめて「上部尿路結石症」、後2者(膀胱+尿道)をまとめて「下部尿路結石症」と呼ぶこともあります。 犬の泌尿器解剖模式図~上部尿路(腎臓+尿管)と下部尿路(膀胱+尿道)  結石を形成する尿中成分としては以下のようなものが各国で報告されています。
成分アメリカカナダチェコ
シュウ酸カルシウム50.0%51.7%38.5%
ストルバイト43.5%40.9%41.5%
尿酸14.9%3.7%12.0%
シスチン2.7%0.7%6.0%
シリカ4.0%0.8%×
アパタイト(燐灰石)35.8%×0.3%
ブルシャイト1.4%×1.6%
キサンチン0.3%××
リン酸カルシウム×2.2%×
  • アメリカ元データは2006年1月から2018年12月までの期間、アメリカのカリフォルニア大学デイヴィス校付属ラボに送られてきた合計10,444の尿石サンプル。うち5,747(55.0%)では1サンプル中に複数の成分が検出されたため合計が100%を超えています出典資料:L.Kopecny, 2021)
  • カナダ元データは1998年から2014年までの期間、カナダ獣医尿石センターに送られてきた合計75,674の尿石サンプル出典資料:D.M.Houston, 2017)
  • チェコ元データは1997年から2002年までの期間、チェコ共和国内にある鉱物学解析センターに送られてきた合計1,366の尿石サンプル出典資料:M.Sosnar, 2005)
 カリフォルニア大学デイヴィス校の調査が示しているように、1つの結石の中に複数の成分が含まれていることは決して珍しいことではありません。ある1つの結石だけに焦点を絞って予防策を講じても別の結石が形成される可能性は常にあります。
 犬における報告例が特に多いストルバイト結石、尿酸結石、シュウ酸カルシウム結石、シスチン結石に関しては2016年、ACVIM(米国獣医内科学会)が最新の医学的エビデンスに基づき、治療に関するガイドラインを公開しました。以下で1つずつ内容をご紹介します。
ACVIM Small Animal Consensus Recommendations on the Treatment and Prevention of Uroliths in Dogs and Cats
J.P. Lulich, A.C. Berent, L.G. Adams, J.L. Westropp, J.W. Bartges, C.A. Osborne, Journal of Veterinary Internal Medicine Volume 30, DOI:10.1111/jvim.14559

尿石の検査・診断

 犬の尿路結石症では以下のような検査を通して結石の場所、大きさ、組成などが判定されます出典資料:Shipov A., 2016 | 出典資料:L G Adams, 2013)
一般的な尿石検査
  • 血清生化学検査腎機能の評価
  • 尿の成分分析尿pH・潜血・膿尿・円柱尿・結晶尿の確認
  • 尿培養細菌感染の有無を確認し、感染している場合は抗菌薬を選定するために細菌を特定
  • 腹部画像エックス線検査や超音波検査で結石の場所と閉塞箇所を特定
  • 前行性腎盂造影腎盂から造影剤を注入してエックス線撮影
  • CTスキャン設備が整っており、なおかつ飼い主が費用を負担できる場合
犬の膀胱結石のエックス線および超音波検査における所見

尿石の成分解析

 治療方針を決める上で尿石の成分を解析することは必須です。結石の現物を取り出せた場合は、以下のような技術を用いて成分を明らかにすることもできます出典資料:L.A.Koehler, 2009)
成分解析方法
  • 量的解析光学結晶学的な解析法で成分の構成比率までわかる。具体的には偏光顕微鏡、赤外分光法、エネルギー分散型X線分析など。
  • 質的解析測色学的な解析法で構成成分はわかるが割合まではわからない。またシリカやキサンチンの解析には向いていない。
 解析ラボによってまちまちですが、上記した方法で結石の成分を細かく判定することができます。しかし結石を体外に取り出せた時点で治療が完了していることもありますので、解析の必要性に関しては個々のケースによりけりです。

尿石のGuesstimate

 結石が尿路の中に留まっている状態で構成成分を知ることができれば時間と費用の短縮になり、また治療計画を立てやすくなります。しかし各種の画像検査を行っても、せいぜい「○○の可能性が高い」という推測ができる程度です。ミネソタ尿石センターは「Guess=当て推量」と「Estimate=評価」を合体させた「Guesstimate」という造語でこの難しさを表現しています。例えば以下のように、尿pH、エックス線密度、好発品種などのヒントから可能性が高い尿石を推測していきます出典資料:L.A.Koehler, 2009)
体内尿石の推定ヒント
  • ストルバイト尿pH:中性~アルカリ/エックス線密度:+~++++/性別:85%超がメス/好発年齢:2~9歳
  • シュウ酸カルシウム尿pH:酸性~中性/エックス線密度:++~++++/性別:70%超がオス/好発年齢:5~11歳
  • 尿酸(プリン)尿pH:酸性~中性/エックス線密度:0~++/性別:85%超がオス/好発年齢:1~4歳
  • シスチン尿pH:酸性~中性/エックス線密度:+~++/性別:94%超がオス/好発年齢:1~7歳

複数の成分からなる尿石

 尿路結石が単一の成分だけから構成されているなら話は単純ですが、実際には複数の成分が含まれていることがあり、診断や治療を難しくしています。ミネソタ尿石センターの例を取ると、主成分が70%以上の複合型尿石を「コンパウンド型尿石」と定義した場合、1981年から2007年の期間中に解析した尿石のうち8.8%までもがこのタイプだったといいます出典資料:L.K.Ulrich, 2009)犬の尿石断面模式図~1つの尿石内に複数の層が含まれる
  • 病巣(nidus)尿石が形成される最初期の部分(中心にあるとは限らない)
  • 結石(stone)尿石の中で最も割合が多い部分
  • 外殻(outer shell)完全(ひとつづき)な同心円状の外層
  • 表層結晶(surface crystal)不完全(とぎれとぎれ)な尿石の外層
 2007年のデータでは、コンパウンド型3,236サンプルのうち35%に相当する1,183が病巣部にシュウ酸カルシウム(一水和物/二水和物)、外殻にストルバイトを含んでいたといいます。また病巣部にストルバイトを含んでいるサンプルが全体の40.5%(1,311)を占めており、外殻としてはシュウ酸カルシウム(229)、プリン(113)、ブルシャイト(38)が多かったとも。 コンパウンド型尿石の一例~病巣部ストルバイト+外層部シュウ酸カルシウム  尿石がミックス型(主成分が70%に届かない混合型尿石)やコンパウンド型(主成分が70%以上の混合型尿石)である場合、時として相反する治療法を必要とすることがあります。こまめな検査を通じて治療に対する反応をモニタリングし、治療を止めるタイミングや切り替えるタイミングを慎重に判断する必要があります。

ストルバイト結石

 ストルバイト(struvite)とはリン酸、マグネシウム、アンモニウムからなる尿石の一種。情報源によっては「ストバイト」と表記されることもありますが、当ページ内では英語の発音に合わせて「ストバイト」に統一します。
 犬においてはエックス線不透過性が中等度で、ウレアーゼを産生するバクテリア(ブドウ球菌など)に感染した尿路とアルカリ性に傾いた尿によって形成されます。犬の上部尿路結石(腎結石や尿管結石)のおよそ20~30%はストルバイト性とされています。 犬の尿路から採取されたストルバイト結石の肉眼所見

危険因子

 米国で行われた最近の調査では、ストルバイトを成分として含む尿石のうち49.8%が7歳未満の犬たちから採取されたものであり、7歳以上の犬たちに比べて2.5倍もリスクが高かったと報告されています。またサンプル全体の62.0%までもが4歳未満の犬たちで構成されていたとも。さらに96.9%までもが膀胱内から採取されたものでした出典資料:L.Kopecny, 2021)
 ストルバイトだけに焦点を絞ってリスクファクターを解析した別の調査もあります。カナダ・オンタリオ獣医大学は2007年10月から2010年12月までの期間、アメリカ国内にある787の非専門動物病院に蓄積された電子医療記録を参照し、ストルバイト尿石を発症した患犬と尿石症の発症歴がない健常犬たちとの属性を統計的に比較しました出典資料:C.C.Okafor, 2013)。その結果、メス犬に限り避妊手術がリスク(OR3.41)となっていた一方、未手術のメスと未去勢のオスを比較した場合は前者の方がハイリスク(5歳までの限定)だった言います。尿に関しては酸性に傾いたpH、白血球もしくは赤血球の存在、タンパク濃度30 mg/dL超、ケトン濃度5 mg/dL以上がリスクと判定されました。その他「小型犬」および「超小型犬(トイ)」では中型・大型犬より高い発症リスク(OR2.43~5.43)が確認されましたが、この点に関しては「大型犬のリスクが高い」という真逆の調査報告が共存しており、解釈を難しくしています出典資料:D.M.Houston, 2017)

食事療法

 無菌性であれ感染性であれストルバイト尿石の治療では医学的な溶解が行われます。理由は食事療法に対する反応がよく結石が容易に溶けてくれること、麻酔や手術のリスクを最小限に留めることができること、医療費が安価で済むことなどです。
 無菌性のストルバイト結石(膀胱内)ならば、食事療法によって通常2~5週間以内に溶解します。医学的方法による尿石溶解が尿道閉塞につながるという憶測がありますが、はっきりと証明されているわけではありません。
 再発予防に際しては尿を酸性に傾ける低マグネシウム-リンの療法食を与えて結石の前駆物質を減らします。完全に予防することはできないものの発症を遅らせることくらいは可能です。

投薬治療

 結石が無菌性か感染性かを決定する際は、尿沈渣の評価とpHのモニタリングだけでなくバクテリアの培養まで行います。犬においてはウレアーゼ産生性の微生物が結石形成に重要な役割を果たしているため、こうした微生物の適切なコントロールが治療と発症予防につながります。
 尿路感染の早期発見には定期的な尿検査が必要で、再発予防のためには少なくとも月に1度の尿検査を3ヶ月間くらい行い、バクテリアの有無をモニタリングすることが必要です。細菌尿が認められる場合は抗菌薬によって細菌や炎症副産物の排出を助けます。

外科手術

 尿管が閉塞しているときはステントを挿入して腎機能を改善した上で、有効成分を含んだ尿を尿管結石に接触させます。また抗菌薬によって細菌や炎症副産物の排出を助けます。尿石再発のうち最大で1割弱は膀胱切除術に起因しているため、外科手術は可能な限り避けるのが基本です。

シュウ酸カルシウム結石

 シュウ酸カルシウム結石(calcium oxalate urolith)とはシュウ酸とカルシウムからなる結石の一種。形成メカニズムは完全に解明されていないものの、何らかの一次疾患が高カルシウム血症を招き、結果として高カルシウム尿とシュウ酸カルシウム結石形成を引き起こすのではないかと見られています。 犬の尿路から採取されたシュウ酸カルシウム結石の肉眼所見

危険因子

 米国で行われた最近の調査では、シュウ酸カルシウムを成分として含む尿石のうち79.5%が7歳以上の犬から採取されたものであり、7歳未満の犬たちに比べてリスクが4.4倍も高かったと報告されています。また未去勢オスに比べて去勢オスのリスクが3.2倍だったとも。ちなみに97.8%までもが膀胱内から採取されたものでした。
 ミックスを基準としたとき純血種全体のリスクが3.5倍と推定され、具体的な犬種別では以下のようなリスクが確認されました出典資料:L.Kopecny, 2021)。ORはオッズ比のことで、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示しています(OR2ならリスクが2倍)。
シュウ酸カルシウムリスク犬種(OR)
 シュウ酸カルシウム結石だけに焦点を絞ってリスクファクターを解析した別の調査もあります。カナダ・ゲルフ大学は2007年10月から2010年12月までの期間、アメリカ国内にある787の非専門動物病院に蓄積された電子医療記録を参照し、シュウ酸カルシウム結石を発症した患犬と尿石症の発症歴がない健常犬たちとの属性を統計的に比較しました出典資料:C.C.Okafor, 2014)。その結果、7歳未満、オス(OR7.77)、不妊手術(OR2.58)、トイブリード(対中型犬でOR3.15)、小型犬(対中型犬でOR3.05)、過去1年での膀胱炎の病歴(OR6.49)におけるリスクが確認されたといいます。尿に関しては酸性尿(対中性尿でOR1.94)、赤血球(OR6.2)、白血球(OR1.62)、タンパク濃度30 mg/dL(OR1.55)がリスクファクターと推定されました。

食事療法

 シュウ酸カルシウム結石を予防するためには尿濃度を薄め、尿の酸性化を防ぎ、過剰なタンパク質の摂取を避けることが必要です。
 尿濃度を薄めるためには十分な量の水を摂取したり、水分を75%以上含んだウェットフードを与えることで尿を希釈します。臨床上健康な犬を対象とした12~19日間の給餌試験では、水分含量73%のウェットフードで犬の相対的過飽和値が13から8にまで低下したと報告されています。尿比重の目標値は1.020以下です。
相対過飽和度(RSS)
尿石のリスクを評価するための指標。RSSの値が高いほど結晶ができやすく、低いほどできにくい。
 犬の尿がpH6.6以下の酸性に傾くとシュウ酸カルシウム結石ができやすくなるため、尿の酸性度がpH6.5未満になるようデザインされた薬や食事は避けることが推奨されています。
 動物性タンパク質を多く含む食事(10g超/100 kcal)の消費は尿中のカルシウム放出を増加させると同時にクエン酸塩の放出を低下させ、結果としてシュウ酸カルシウム結石の形成につながる可能性がありますので、タンパク質の素材にも配慮が必要です。

投薬治療

 シュウ酸カルシウム結石が見られた患犬においては、血液検査を行い血中のカルシウム濃度を計測することが必要です。高カルシウム血症を示している場合は、クエン酸塩や利尿薬を投与してカルシウム濃度を調整することがそのまま予防につながります。
 クエン酸塩の効果に関しては、シュウ酸カルシウム結石を生成した283人の人間を対象とした5つの調査で34%に相当する97人が結石を再発したり、遺残結石を保有していたとされています。グループ別の再発率に関してはクエン酸塩を摂取している患者で14.8%(20/135)、摂取していないプラセボ患者で52%(77/148)だったとも。犬における調査は不十分ですが、実験室レベルではクエン酸の投与によって犬の腎細胞からシュウ酸カルシウム一水和物結晶が溶解・乖離したとの予備的な報告があります。
 利尿薬に関しては、尿細管におけるカルシウムの再吸収を促進すると同時に、間接的に骨へのカルシウム沈着と腸管からのカルシウム吸収に影響を及ぼすチアジド(サイアザイド)系の利尿薬が用いられます。しかし尿を酸性に傾けて結石形成のリスクが高まることもあるため、尿のpHをチェックした上でクエン酸カリウムによる微調整が必要となることもあります。結石症を患う犬を対象とした調査ではヒドロクロロチアジド(2 mg/kg q12h)の投与により、尿中カルシウム濃度が55%低下したとの報告もあります。

外科手術

 シュウ酸カルシウムが膀胱結石を形成しており、再発性が高いと考えられる場合は、体に対する負担が最小限になるような治療計画を立てます。
 シュウ酸カルシウムが尿管結石を形成している場合は、長期的ならステント留置、もしくはステント留置と体外衝撃波結石破砕術のコンビネーションが考慮されます。

尿酸尿石

 尿酸尿石(urate urolith)は尿酸が結晶化して形成される尿石。原因は高尿酸尿や濃縮尿、酸性に傾いた尿などです。尿酸はプリン体の代謝産物であり、肝臓に運ばれてウリカーゼの作用でアラントイン(尿酸を酸化して生成される窒素化合物)になります。水への溶解性が高く、尿中に排出されやすいのが特徴です。
 尿酸を運搬する遺伝子(SLC2A9など)に変異があったり、肝内門脈の奇形があったりすると正常な代謝が行われず、高尿酸尿になり尿酸尿石を形成しやすくなります。 犬の尿路から採取された尿酸塩尿石の肉眼所見

危険因子

 米国で行われた最近の調査では、尿酸を成分として含む尿石のうち62.0%が7歳未満の犬たちから採取されたものであり、7歳以上の犬たちに比べてリスクが3.3倍も高かったと報告されています。特に4~7歳までの年齢層に多く、サンプル全体の35.7%を占めていたとも。さらに未去勢オスのリスクは去勢オスの1.4倍だったそうです。ちなみに96.9%までもが下部尿路(膀胱 or 尿道)から採取されたものでした。
 ミックスを基準とした時、以下の犬種において高いリスクが確認されました。別の調査でもハイリスク犬種として挙げられているダルメシアンに関しては、遺伝的に高尿酸血症を発症しやすいことが確認されています出典資料:D.M. Houston, 2017)。ORはオッズ比のことで、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示しています(OR2ならリスクが2倍)。
尿酸尿石リスク犬種(OR)

食事療法

 犬においてはプリン体制限、尿の濃度を薄める、アルカリ尿の維持、利尿食、キサンチンオキシダーゼ阻害剤(allopurinol: 15 mg/kg PO q12 h)を4週間継続すれば、多くの場合尿酸尿石が溶解します。例えばダルメシアンを対象とした調査では40%で効果あり、30%で部分的に効果ありという報告があります。
 尿酸の前駆物質であるプリン体は内臓肉や魚と言った動物性の高タンパク食に多く含まれるため、低たんぱく食を心がけます。タンパク質の摂取不足に配慮した高タンパク低プリン体の特別な療法食も売られています。
 水の摂取量を増やすため、水分量の多い食事(水分含量75%超)が望ましく、尿の比重に関し犬では1.020以下を目標値とします。

投薬治療

 遺伝的に尿酸塩トランスポーターの遺伝子に変異を抱えており、高尿酸尿になりやすい犬への食事療法が奏功しなかった場合はキサンチン酸化酵素阻害剤(アロプリノールなど)の投与を検討します。キサンチン酸化酵素阻害剤はキサンチンが尿酸に変換するのを阻害し、結果として尿酸結石を予防してくれる効果を持つ薬です。
 どの程度投与するかは動物の体内におけるプリン体生成量、食餌中のプリン体の総量、尿のpH、尿量などによって個々に変動するため慎重に決めなければなりません。例えば尿酸結石を発症した病歴がある10頭の犬に過剰なアロプリノール(9~38 mg/kg/d)を投与したところ、キサンチン尿石を形成したとの報告もあります。ACVIMでは犬の尿酸結石予防を目的としたアロプリノールの適量として「5~7 mg/kg q12-24 h」を推奨しています。
 なおプリン体制限食を摂取していない犬に対し、キサンチン尿石の形成を妨げる目的でキサンチン酸化酵素阻害剤を投与することは推奨されていません。また門脈のシャントを抱えた犬に対するキサンチン酸化酵素阻害剤の有効性に関してはよくわかっていません。

外科手術

 ヨークシャーテリアパグなど肝内門脈の変異を抱えた犬種では脈管の外科的な矯正術を考慮します。
 また尿酸塩が尿管結石として目詰まりを起こしている場合は、尿管ステントと医薬品・食事療法を組み合わて治療を進めます。例えば尿管ステント受けた44頭の犬を対象とした調査では、最長で1,158日間留置し続けたという結果が出ていることから、長期的な留置が可能であると推測されています。ステントの設置がうまくいかなかった場合は、体外衝撃波結石破砕術や皮下尿管バイパス、従来の外科手術といった他の選択肢を考慮します。

シスチン尿石

 シスチン尿石(cystine urolith)とは、近位尿細管におけるシスチンの再吸収が減少することによって形成される尿石の一種。シスチン尿症と呼ばれる遺伝性疾患によって引き起こされることもあります。 犬の尿路から採取されたシスチン尿石の肉眼所見

危険因子

 米国で行われた最近の調査では、シスチンを成分として含む尿石は統計的にメス(1.8%)よりオス(98.2%)のほうが多く、去勢済みのオスに比べ未去勢のオスのリスクが16.7倍だったと報告されています。また7歳未満の犬たちにおけるリスクは7歳以上の犬たちに比べて3.9倍高かったとも。特に2~7歳の年齢層で多く、サンプル全体の60.8%を占めていました。ちなみに97.8%までもが下部尿路(膀胱 or 尿道)から採取されたものでした。
 ミックスを基準とした時、以下の犬種においてリスクが確認されました出典資料:L.Kopecny, 2021)。ORはオッズ比のことで、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示しています(OR2ならリスクが2倍)。
シスチン結石リスク犬種(OR)

食事療法

 シスチンの溶解性は尿のpHがアルカリに傾くにつれて上昇するので、アルカリ性に傾けることが基本的な治療方針となります。
 シスチンの前駆物質であるメチオニンは動物性の食品やナッツ、豆腐、小麦といった植物性食品に多く含まれるため、食餌の中からこうした素材を省くようにします。またシスチン尿症を抱えた5頭の犬を対象とした調査では、カルニチンとタンパク質の摂取不足によって拡張型心筋症が引き起こされたという報告があることから、タウリンとカルニチンを摂取することが推奨されています。
 シスチン尿症を示した人間の尿を対象とした実験では、pHが7.5を超えるまでアルカリに傾けるとチオール結合性薬剤の効果が高まり、シスチンが可溶化します。シスチン尿症を示した犬に低タンパクで尿をアルカリ性に傾けるようなウェットフードを給餌したところ、通常のウェットフードに比べ、24時間でシスチンの排泄が20~25%減少したとの調査結果があります。
 シスチン尿石の再発を予防するためには、尿を希釈し、動物性タンパク質を制限し、ナトリウム摂取量を減らし、尿pHをアルカリに保つことが必要です。尿の希釈に際しては水分含量75%以上のフードなどによって水の摂取量を増やし、尿比重を1.020以下に保つようにします。
 遺伝的な素因により尿細管においてシスチンの再吸収が行われないとシスチン尿症を発症し、反復的なシスチン尿石の形成につながりますので、日常的なモニタリングが必要です。

投薬治療

 尿が酸性に傾いている犬や猫に対してはクエン酸カリウムを始めとするアルカリ塩の投与が推奨されています。目標は尿のpHが7.5に近づくまで徐々にアルカリ化することです。
 またシスチン尿症を示した犬に低タンパクで尿をアルカリ性に傾けるようなウェットフードを給餌した上で、チオプロニンを投与したところ(15-20 mg/kg PO q12 h)、 18ケース中100%の割合でシスチン尿石が溶解したとの報告があります。
 特にシスチン尿石が繰り返し形成される動物においては、シスチン濃度を下げてシスチンの溶解性を高めるため、既存の治療法にチオプロニン(15 mg/kg PO q12h)を加えることが推奨されています。ただし発熱、貧血、リンパ節の腫れといった副作用を伴うため、動物の病状や体質を事前によく勘案することが必要です。なおシスチンの結晶化を妨げるL-シスチンメチルエステル(L-cystine methyl esters)のような物質も提案されていますが、現時点ではその有効性に関する研究が追いついていません。

外科手術

 シスチンが膀胱結石を形成しており再発性が高いと考えられる場合は、体に対する負担が最小限になるような治療計画を立てます。
 シスチンが尿管結石を形成している場合は、尿管ステントと医薬品・食事療法を組み合わせます。ステントがうまくいかなかった場合は、体外衝撃波結石破砕術や皮下尿管バイパス、従来の外科手術といった他の選択肢を考慮します。
 なお不妊手術がアンドロゲンの体内濃度を変化させることで尿中のシスチン濃度を低下させる可能性が示唆されていますが、すべての症例で認められている現象ではありません出典資料:J Florey, 2017)。犬種に関わらず不妊手術を行っていない場合の発症リスクが4.5倍との推計があるものの、シスチン結石を予防することだけを目的に手術を推奨してよいかどうかは熟考を要します。
部位別の各論に関しては腎結石尿管結石膀胱結石尿道結石をそれぞれご参照ください。