トップ犬の心を知る犬の習性オス犬が片足を上げておしっこをする

オス犬が片足を上げておしっこをする理由は?~なぜわざわざ苦しい姿勢を取るのか

 オス犬が片足を上げておしっこをするという習性について動画や写真を交えて解説します。座ってすれば楽なはずなのに、オス犬の多くは片足をあげておしっこをします。この行動にはどのような意味があるのでしょうか?

解説「片足を上げておしっこをする」

 オス犬の足上げ排尿(RLU, Raised Leg Urinationとも)という習性には幾つかの意味が含まれています。
同じ犬でも、メス犬と違ってオス犬は片足を上げておしっこをするという習性があります。  まず第一は「自分の男っぷりをメスにアピールする」という意味です。オス犬の掛け尿が始まるのは、生後8~9ヶ月頃だとされています。そしてこの時期は、メス犬が最初の発情期を迎える時期でもあります。こうした事実から考えると、オス犬は尿中の男性ホルモン(テストステロン)をメスの鼻に近いところに残すことで、自分の存在をアピールしているという意味がありそうです。
オス犬のペニスは一定方向を向いていますので、人間のように自分の手で小便の方向を決めることはできません。  オス犬の掛け尿が持つ第二の理由は「衛生管理」です。解剖学的に見たとき、オス犬のペニスは前方を向くように付いていますので、そのまま排尿すると胸にまでおしっこが掛かってしまいます(左図参照)。ですから下半身をややねじった状態で排尿すると自分の胴体を汚さずにおしっこできるのです。これが掛け尿のもつ衛生面での理由です。
 そして掛け尿の持つ第三の意味は、「縄張りの主張」です。以下では、動物学者B.Hartが1974年に行った調査結果をご紹介します。これは、犬を新しい場所やしばらく訪問していなかった場所に連れて行ったとき、どういう頻度で尿マーキングをするかを調べたものですが、新奇な場所に連れてこられてすぐの時間帯において、マーキングの回数が突出していることがお分かりいただけるでしょう。こうした傾向は、おしっこを掛けることで、自分のテリトリーをいち早く確立したいという本能的な衝動の結果なのかもしれません。 Dr.ハートの動物行動学入門(チクサン出版社)
新奇な場所における犬の尿マーキング回数
新奇な場所に連れてこられた犬の尿マーキング回数
 そして掛け尿が持つ最後の意味は、「鎮静剤」です。自分の高まった感情を鎮める行動はカーミングシグナルと呼ばれますが、その中に「おしっこをする」というものがあります。犬が緊張感の高まった状況に陥ると、唐突に足を上げておしっこをしたり、おしっこは出ないものの、足だけを上げる「エアーオシッコ」という動作を見せることがあります。これが掛け尿が持つ「カーミングシグナル=鎮静剤」としての意味です。
 このように掛け尿という習性の理由は色々ありますが、去勢(きょせい=オス犬の不妊手術)をして男性ホルモンが体内に残っていないはずのオス犬でもこの行為を行うので、掛け尿という習性は 遺伝子の中に組み込まれた行動プログラムであることは間違いないようです。 犬がおしっこをする オス犬の生殖器の病気 犬の不妊手術
片足を上げておしっこをする・まとめ
  • メスに男性ホルモンを嗅がせるため
  • 排尿時、自分の腹を汚さないため
  • ライバルに対してテリトリーを主張するため
  • 高ぶった感情を鎮めるため

動画「片足を上げておしっこをする」

 以下でご紹介するのは、犬が後足を上げておしっこをする姿をとらえた動画です。勢い余って逆立ちするような格好になっていますが、この方がより高い場所に自分の匂いを残すことが出来そうですね。さらに極端な例では、木の幹を足場にして高くジャンプし、空中でおしっこをする犬もいるとか。
 ちなみに後足を挙げて尿をするという行為は、メス犬にも見られることがあります。Bekoffが自由に放浪する犬の排尿行動を詳しく観察したところ、オス犬の97.5%が足上げ排尿であったのに対し、メス犬では67.6%がしゃがみこんでの排尿だったといいます。逆に言えば、30%以上はオス犬のように足挙げ排尿するともいえます。
 明確な理由は分かりませんが、支配性の強いメス犬や、避妊手術を受けていないメス犬に多く見られ、また繁殖能力の強い(すなわちライバルとなりうる)メス犬が近くにいる場合に頻出することから、体の大きな魅力的なオス犬に、自分の臭いをかいでもらいやすくすることが目的だと考えられます。
元動画は→こちら
ミドニング
 尿による匂い付けをマーキングと呼ぶのに対し、糞(ふん)による匂い付けはミドニング(middening, middenとは「肥やしの山」の意)と呼ばれます。幸い犬ではこのミドニングを行うことはめったにありませんが、他の動物種ではしばしば観察される現象です。
 例えばガゼルやトピといったレイヨウ類の多くは、縄張りの中の特定の場所に糞をし、また大型のネズミは後足で壁や直立した物体によじ登り、なるべく高い場所に糞をこすり付けます。また犬の近縁種であるオオカミにおいては、岩の上や獣道の交差点など、目立つ場所に糞を残す行動が観察されています。