トップ犬のしつけ方屋外で必要となるしつけ犬のヒールのしつけ

犬のヒール(ツイテ)のしつけ

 ヒールとは、飼い主を追い越さない状態で左側に寄り添って歩くこと、ツイテとは逆に右側に寄り添って歩くことです。飼い主との散歩中、犬が車に轢かれたり通行人に蹴られる危険性をなくすためには、あらかじめ両方をマスターしておかなければなりません。

ヒールのしつけの必要性

 リーダーウォークのしつけでは、飼い主のそばに近づいてリードが緩んだ状態にするという行動に対してごほうび与えてきました。しかし「飼い主のそば」には以下の図で示すような様々なバリエーションがあります。 リーダーウォークのしつけで強化していたのはリードが張らない状態で歩く事まで  散歩をしている途中、リードが緩んでいれば犬がどこにいてもいいというわけではなく、車道との位置関係や人通りによって右側にピタッと寄り添って欲しいとか左側にピタッと寄り添って欲しいといった状況が多々あります。そんな時に役立つのが「ヒール」や「ツイテ」のしつけです。「ヒール」は飼い主の体よりも犬の鼻先が前に出ない状態で左にポジショニングすることで、「ツイテ」はその逆です。図で示すと以下のようになります。 「ヒール」や「ツイテ」では、犬の鼻先が飼い主の身体よりも前に出てはいけない  「ヒール」や「ツイテ」をしつけておく事は、犬の身の安全を守る上でとても重要です。例えば以下に示すような事件や事故は、犬がしっかりとヒールポジションやツイテポジションを取っていれば防げたと考えられます。
犬の散歩中の事件・事故
  • 1996年・北海道登別市にある国道36号で、近くに住む女性が走ってきた乗用車にはねられ頭を強く打ち、およそ5時間後に死亡した。散歩させていた犬が車道に飛び出し、それを追いかけてはねられたものとみられている。
  • 1998年・奈良近鉄大阪線の踏切で、犬を散歩させていた男性が6両編成の特急にはねられて即死した。踏切内に迷い込んだ犬を助けようと遮断機を持ち上げて線路内に入ったものとみられている。男性が胸に抱いていた犬も死亡した。
  • 2008年・愛知歩道で男性会社員がチワワを散歩している途中、前を歩いていた男(44)が突然振り返り、無言で犬の腹部を蹴り上げた。犬は内臓破裂で死亡した。男は器物損壊容疑で逮捕され、調べに対し「犬が怖かった」と供述している。
 このように「ヒール」や「ツイテ」には、散歩中に出くわす危険から犬の体を遠ざけてあげるという意味があるのです。それでは具体的にしつけの方法を見ていきましょう。
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犬のヒールのしつけ・基本方針

 犬のヒールのしつけに際して、飼い主はまず以下のことを念頭に置きます。
してほしい行動
ヒール(ツイテ)の言葉で犬が飼い主の横に陣取ること
してほしくない行動
ヒール(ツイテ)の言葉をかけても犬が落ち着かずうろうろすること
 してほしい行動と快(ごほうび・強化刺激)、してほしくない行動と不快(おしおき・嫌悪刺激)を結びつけるのがしつけの基本であり、前者を強化、 後者を弱化と呼ぶことは犬のしつけの基本理論で述べました。これを踏まえて犬にヒールやツイテをしつける場合を考えて見ましょう。
強化
「ヒール(ツイテ)の言葉で犬が飼い主の横に陣取った」瞬間に快を与える
弱化
「ヒール(ツイテ)の言葉をかけても犬がうろうろした」瞬間に不快を与える
 犬のヒール(ツイテ)のしつけに際しては強化の方が効果的です。例えばなかなか自分の左側に来ない犬を、リードをガツンと引っ張ることで引き寄せたとします。首に激しい衝撃が加わって痛みを感じた犬は、それ以降リードを見るだけで怖がってしまうかもしれません。あるいは飼い主のことを嫌な人間だと認識し、そばに寄ることを拒絶するようになるかもしれません。犬にとって楽しい遠足であるはずの散歩の時間を、不安と苦痛に満ちたお仕置きの時間にしてしまうのはかわいそうですよね。
 ですから犬に「ヒール」や「ツイテ」をしつけるときは、正しい行動にごほうびを与えて伸ばしてあげる正の強化が基本方針となります。
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犬のヒールのしつけ・実践

 基本方針を理解したところで、いよいよ実践に入りましょう。まずはしつけに入る前に「犬のしつけの基本理論」で述べた大原則、「犬をじらせておくこと」「一つの刺激と快不快を混在させないこと」「ごほうびと罰のタイミングを間違えないこと」「しつけ方針に家族全員が一貫性を持たせること」を念頭においてください。まだマスターしていない方は以下のページを読んで「すべきこと」と「すべきでないこと」が何であるかを把握しておきます。 犬のしつけの基本

しつけの準備

 実際にヒールやツイテのしつけに入る前に、以下のような準備を終わらせておきましょう。

集中できる環境を作る

 「ヒール」や「ツイテ」のしつけにはある程度のスペースが必要になりますので、人通りや騒音が少ない練習場所を屋外のどこかで見つけておきます。庭がある場合は庭、部屋が十分に広い場合は室内でも構いません。
 また犬の集中力は10分~15分ほどです。集中力がなくなってきたらいさぎよくしつけを中断してその日の夜や翌日に改めて再開しましょう。飼い主がしつけを焦って犬の感情を無視して強引に行ってしまうと、しつけ自体が犬にとっての苦痛になってしまいます。

ごほうびを用意する

 犬をある特定の行動に対して積極的にさせるためには、何らかの快(強化刺激)を与える必要があります。以下は代表的な犬に対するごほうびです。
犬に対するごほうびいろいろ
  • おやつおやつをごほうびとして使う場合は犬がおいしいと感じるもの+カロリーの低いものを選ぶようにしましょう。与えるときは犬が満腹にならないよう、なるべく少量だけにします。
  • ほめる高い声で「よーし」や「いいこ」や「グッド」などの声をかけてあげます。言葉と同時に軽く一回なでてあげてもかまいません。ただしあまり激しく撫で回してしまうと犬が興奮しすぎて集中力がなくなってしまうため、軽くにとどめておきます。
  • おもちゃおもちゃを選ぶときは、あらかじめ犬に何種類かのおもちゃを与えておいて一番のお気に入りを確かめておきます。ただし一度与えると回収するのが困難になるため、しつけセッションの最後に与えるようにします。

リーダーウォークをマスター

 「ヒール」や「ツイテ」はリーダーウォークの発展型ですので、まずは犬をリードに慣らしリーダーウォークのしつけを終えていなければなりません。

後ろからのヒールポジション

 まずは犬が飼い主の後ろにいる状態からヒールポジションに移動する練習をします。ここで言うヒールポジションとは、左側にいる犬の鼻先が飼い主の身体よりも前方に出ていない状態のことです。
 右手でリードを持ち、自分の左側に犬を配置して軽くたるむくらいの長さにします。その状態で5mくらいの距離を往復運動してみましょう。方向転換するときは「回れ右」です。 Training a Dog to Heel _ Teacher's Pet With Victoria Stilwell リードをつけた状態で飼い主が回れ右をすると、犬は自然と遅れた状態になる  飼い主が方向転換するたび外回りを歩いている犬は少し遅れます。飼い主はそのタイミングを見計らい、左手に持っていたごほうびで、犬の鼻先を自分の左側に誘導してあげましょう。ヒールポジションに着いた瞬間「いいこ」などとほめごほうびを与えます。 ごほうびを与えるタイミングは、犬がヒールポジションに着いた瞬間  しばらく歩いたら再び回れ右で方向転換し、犬を少し遅れた状態にします。飼い主は再び左手で犬を誘導し、ヒールポジションに着いたタイミングでほめてごほうびを与えます。与えるときは、犬の鼻先が自分の体を越えていないことを確認して下さい。

前からのヒールポジション

 犬が飼い主よりも前にいる状態からヒールポジションにさせる練習をします。犬の気を引くおもちゃなどを床や地面に置き、その周辺を反時計回りでぐるぐる歩きます。 How to Train a Dog to heel 勇み足で前に出た犬がヒールポジションに戻った瞬間ごほうびを与える  犬は中心にあるおもちゃに気を引かれ、飼い主の横に出たり前方に出ようとします。リードがピンと張ったら飼い主は歩くのをやめ、犬が自発的に戻ってくるのを待ちます。犬がなかなかこちらを向かない場合は、名前を連呼するのではなく、口笛やキッシングノイズ(口先で出すチュッチュッという音)などで気を引いてください。犬の注意がこちらに向き直ったら、ヒールポジションに着いたタイミングで左手に持ったごほうびを与えます。 犬が左側にしても向かい合った状態ではごほうびを与えてはいけない  犬が前方から戻ってきた場合、ただ単に左側に来たタイミングではなく、しっかりとヒールポジションに着いたタイミングでごほうびを与えるようにします。犬の鼻先を誘導しながら自分の左側でぐるっと腕を回すとうまくポジションに誘導できるでしょう。犬がヒールポジションに着いたタイミングで「いいこ」などとほめごほうびを与えます。 犬をヒールポジションにさせるためにはごほうびを持った手で犬を誘導する  ごほうびを与えたら再び反時計回りで歩きはじめ、犬がおもちゃに気を引かれるたびに立ち止まり、同じプロセスを繰り返しましょう。

指示語を覚えさせる

 犬が後ろからのヒールポジションと前からのヒールポジションに十分慣れたら、今度は「ヒールポジションにつく」という行動と指示語とを結びつけていきます。
 前のステップで行ったように、まずは時計回りの往復運動してみましょう。少し遅れた犬を自分の左側に誘導し、ヒールポジションにつくタイミングで「ヒール!」と指示語をはっきりと1回だけ発音します。ヒールポジションに着いたらほめてごほうび与えましょう。 Phase 2 Halti Heel (K9-1.com)ヒールポジションにつく事と指示語を結びつける  同様に、中央に犬の気を引くおもちゃを置いた状態で反時計回りに移動します。飼い主の横や前方に出た犬を自分の左側に誘導し、おやつでヒールポジションにつかせると同時に「ヒール!」と指示語をはっきりと1回だけ発音します。ヒールポジションに着いたらほめてごほうび与えましょう。

指示語だけでヒール

 ヒールポジションにつくことと指示語とが頭の中で結び付いたら、指示語をしっかり覚えているかどうかをテストします。これは室内でも構いません。
 まずノーリードの犬に背中を向けて立ち、アイコンタクトを取った状態ではっきりと1度だけ「ヒール!」と指示を出してみます。犬がしっかりとヒールポジションに来てくれたら成功です。指示語と行動が結びついていることを意味しています。今度は犬に正面を向けた状態で立ち、1度だけ「ヒール!」と指示を出してみます。犬がぐるっと回ってヒールポジションについてくれたら成功です。もし犬が指示語に従わない場合や、近くには来るけれどもヒールポジションには付いてくれないような場合は、行動と言葉とのリンクがまだ弱いという証拠です。もう一度前のステップに戻り、ヒールポジションにつく瞬間に指示語を発するという練習を繰り返しましょう。

ハンドシグナルを教える

 先天的な病気や老化などで犬の耳が不自由な場合、言葉による指示ではなくハンドシグナルが必要になります。またたとえ耳が不自由でなくても、騒音に満ちた外の環境で指示語が全く聞こえないような時、ハンドシグナルを覚えていればスムーズに飼い主の意図を犬に伝えることができるでしょう。

犬の耳が不自由な場合

 耳が不自由な犬にヒールをしつける場合、後ろにいる状態からヒールポジションに着いたタイミング、および前にいる状態からヒールポジションに着いたタイミングでごほうびを与えるまでは耳が聞こえる犬に対するものと同じです。それぞれ後ろからのヒールポジション前からのヒールポジションをご参照下さい。
 耳が聞こえる犬の場合、次の段階ではヒールポジションにつく瞬間に指示語を聞かせていましたが、耳が不自由な犬の場合は指示語の代わりにハンドシグナルを出してあげます。シグナルは日常的に行う動作とは違ったものにしてください。例えば「手のひらを後ろに向けて腕を斜め45度に突き出す」などです。ヒールポジションにつく瞬間にハンドシグナルを出すという練習を繰り返すことにより、犬の頭の中ではハンドシグナルという視覚的な情報と「ヒールポジションに着く」という動作とが結びついていきます。 Training a Dog to Heel _ Teacher's Pet With Victoria Stilwell 犬がヒールポジションにつく瞬間ハンドシグナルを見せてあげる

犬の耳が不自由でない場合

 犬の耳が不自由でない場合、まずは「指示語だけでヒール」までのステップを終わらせておきます。指示語と行動との結びつきを学習しているため、後は指示語という聴覚的な情報とハンドシグナルという視覚的な情報を結びつけるだけです。
 まずは室内での練習から始めましょう。犬に背中を向けて立ちアイコンタクトを取ります。犬がこちらに注意を向けていることが確認できたら、事前に決めていたハンドシグナルを見せ、その直後に「ヒール」という指示を出します。例えば「手のひらを後ろに向けて腕を斜め45度に突き出す」など、日常生活ではあまり用いないような動作です。犬の学習を促すため、シグナルは指示語と同時に出すのではなく「ハンドシグナル→指示語」という時間差をつけて出してください。
 この練習を10回ほど繰り返したら、少しずつ指示語を出すときの声のボリュームを下げていきます。いきなりささやき声にすると、犬が何をしていいのか分からなくなりますので、少しずつ声量を下げるようにしてください。最終的にはハンドシグナルを見せるだけでヒールポジションにつける状態にします。 How to Train a Dog to heel 飼い主と向かい合った犬をごほうびで誘導してヒールポジションに導く  犬が背中を向けた飼い主からのハンドシグナルをマスターしたら、今度は正面を向いた飼い主からのハンドシグナルにも反応できるよう練習します。左手に近づくだけで回り込んでくれない場合は、「前からのヒールポジション」で述べたような方法(上図)で犬を誘導し、ヒールポジションにつかせます。

ごほうびを徐々に減らす

 体高が低い小型犬の場合、飼い主はごほうびを与えるごとにしゃがんだり腰をかがめたりしなければなりません。これでは体が持ちません。またヒールポジションを取るたびにおやつを与えていると、犬が肥満に陥ってしまう危険性もあります。ですから飼い主は「おやつ」というごほうびから「ほめる」というごほうびに緩やかにシフトしていかなければなりません。
 最初のうちはうまくできるたびにおやつを与えて構いませんが、徐々に与える回数を「2回に1回→ 3回に1回→ 4回に1回・・・」といった具合に減らしていきます。最終的には「いいこ」などのほめ言葉だけで済ませるようにしましょう。ただし間欠強化の原理で犬の行動を強化するため、犬の大好きなとっておきのおやつをたまにランダムで与えるようにします。そうすることで犬は、まるで万馬券を当てた人のようにその行為に病み付きになり、いい意味でやめられなくなります。

気の散る環境でヒール

 犬が指示語とハンドシグナルを覚えたら、今度は実際に外に出て気の散る環境の中でヒールの練習をしましょう。人の多い場所だと犬を常に左側に歩かせることが難しいこともありますので、なるべく人通りが少ない場所からスタートするようにします。散歩の最中、犬が飼い主より遅れたり前に行き過ぎたタイミングで「ヒール」と指示語を出してみます。練習通りにヒールポジションに着いてくれたら大成功です。また指示語を封印してハンドシグナルだけ見せる練習もします。少しずつ騒音の大きい場所、人通りの多い場所に移動し、確実にヒールポジションにつけるよう繰り返し練習しましょう。

ツイテをしつける

 「ツイテ」とは、犬の鼻先が飼い主の体からはみ出さない状態で右側に陣取ることです。ちょうど「ヒール」とは対極にあります。 飼い主の左側に寄り添うのがヒール、右側に寄り添うのがツイテ  犬がヒールをしっかりとマスターしたら、今度はツイテの練習も行いましょう。しつけの手順はヒールの場合とまったく同じですが、向きや方向はすべて逆になります。リードを持つ手は右ではなく左、往復運動するときの方向転換は回れ右ではなく回れ左などです。指示語は任意ですが、日常生活ではあまり使わない言葉にして下さい。例えば「ツイテ」などです。ハンドシグナルも日常的に用いる動作とは違うものを選ぶようにします。例えば「手のひらを後ろに向けて腕を斜め45度に突き出す」などです。
 指示語とハンドシグナルを覚えさせ、気が散る環境でも確実に「ツイテ」のポジションを取れるようにしておきます。

ポジショニングゲーム

 犬がヒールとツイテをマスターしたら、忘れないための復習も兼ねて家の中でゲームをしましょう。
 犬から2~3m離れた地点に背中を向けて立ち、「ヒール」もしくは「ツイテ」と指示語を発してみます。犬がしっかりと指示語を聞き分けてくれたら正解です。ほめてごほうびを与えましょう。同じ要領で、犬に向かい合って立ち「ヒール」もしくは「ツイテ」と指示を発してみます。犬がぐるっと回り込んで正解できたらほめてごほうびを与えましょう。
 ハンドシグナルも忘れないように復習を行います。犬から2~3m離れた地点に背中を向けて立ち、「ヒール」もしくは「ツイテ」のハンドシグナルを出してみましょう。犬がしっかりとハンドシグナルを見分けてくれたら正解です。ほめてごほうびを与えましょう。同じ要領で犬に向かい合って立ち「ヒール」もしくは「ツイテ」のハンドシグナルを出します。犬がぐるっと回り込んで正解できたらほめてごほうび与えます。
 日ごろからこうした練習をゲーム感覚で行っていると、屋外を散歩しているときでも、飼い主の指示語やハンドシグナルに敏感に反応してくれるようになります。
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