犬の被毛色と皮膚の脆弱性
調査を行ったのは明治大学農学部を中心としたチーム。日本国内に暮らす69頭のトイプードル(平均年齢7.07歳/0~15歳)を対象とし、一部の獣医師間で囁かれている「薄い色のトイプードルは皮膚が弱い」という風説に科学的な根拠があるかどうかを検証しました。
調査方法
30頭はふれあい施設(未避妊メス26+避妊メス2+去勢オス2)、39頭は主として関東地方にある一般家庭で飼育されている普通のペット犬(避妊メス10+未避妊メス6+未去勢オス7+去勢オス15+不明1)という内訳です。
皮膚の脆弱性を示す指標としては「皮膚伸長インデクス(SEI)」が採用されました。これは後頭稜~しっぽの付け根までの長さを「1」としたとき、背中~腰の皮膚を限界まで上に持ち上げたときの長さがどの程度になるかを計測するというもので、14.5%を超える場合は皮膚伸張性が亢進していると判断されます。調査では背中の皮膚を用いて68頭、首の皮膚を用いて39頭のSEIが算定されました。 さらに全頭の頬粘膜からDNAサンプルを採取し、被毛色の生成に関与する以下の遺伝子に関し塩基配列の特徴を解析しました。
皮膚の脆弱性を示す指標としては「皮膚伸長インデクス(SEI)」が採用されました。これは後頭稜~しっぽの付け根までの長さを「1」としたとき、背中~腰の皮膚を限界まで上に持ち上げたときの長さがどの程度になるかを計測するというもので、14.5%を超える場合は皮膚伸張性が亢進していると判断されます。調査では背中の皮膚を用いて68頭、首の皮膚を用いて39頭のSEIが算定されました。 さらに全頭の頬粘膜からDNAサンプルを採取し、被毛色の生成に関与する以下の遺伝子に関し塩基配列の特徴を解析しました。
犬の被毛色関連遺伝子
- MC1RMC1R(Melanocortin1 receptor)は黒いユーメラニンと黄色いフェオメラニンのどちらが生成されるかを決定付ける遺伝子
- TYRP1TYRP1(Tyrosinase-related protein1)はユーメラニンの生成媒介物質の酸化を触媒するメラニン細胞酵素をエンコードする遺伝子
- MLPHMLPH(Melanophilin)は被毛や皮膚の明るさを決定づける遺伝子
- CBD103CBD103(Canine β-defensin-1)は黒い被毛の生成に関与する遺伝子
- MFSD12MFSD12(Major Facilitator Superfamily Domain Containing 12)はクリーム~ホワイト色の被毛の生成に関与する遺伝子
- ASIPASIP(Agouti-signaling protein)はユーメラニンとフェオメラニンの分布パターンや生成量を決定づける遺伝子
調査結果
調査の結果、SEIの平均値は背中で7.36%、頚部で8.64%だったといいます。異常値の目安である14.5%を超えた犬は2頭だけで、ともに頚部計測値だったとも。
得られたデータと犬たちが有する様々な属性を統計的に解析したところ、背部SEIと性別および背部SEIと年齢との間に有意な関係性が見られたといいます。
その一方、犬たちの被毛色を黒、灰色、赤、クリーム、白に分けた上で、被毛色の生成に関与している各種遺伝子とSEIとの間に何らかの関わりがあるかどうかを精査しましたが、「ASIP遺伝子のR96C変異」以外統計的に意味のある関連性は認められませんでした。ただしこの関連性は統計的な有意に達しておらず「どうやらそういう傾向がありそうだ」といったレベル止まりです。
こうした結果から調査チームは、巷(ちまた)で噂されている「薄い色のトイプードルは皮膚が弱い」という風説には科学的な根拠がないとの結論に至りました。 Factors associated with canine skin extensibility in toy poodles
Mizuki Takeda, Nobuaki Arai, Yuzo Koketsu, Yasushi Mizoguchi, The Journal of Veterinary Medical Science(2021), DOI:10.1292/jvms.21-0266
得られたデータと犬たちが有する様々な属性を統計的に解析したところ、背部SEIと性別および背部SEIと年齢との間に有意な関係性が見られたといいます。
その一方、犬たちの被毛色を黒、灰色、赤、クリーム、白に分けた上で、被毛色の生成に関与している各種遺伝子とSEIとの間に何らかの関わりがあるかどうかを精査しましたが、「ASIP遺伝子のR96C変異」以外統計的に意味のある関連性は認められませんでした。ただしこの関連性は統計的な有意に達しておらず「どうやらそういう傾向がありそうだ」といったレベル止まりです。
こうした結果から調査チームは、巷(ちまた)で噂されている「薄い色のトイプードルは皮膚が弱い」という風説には科学的な根拠がないとの結論に至りました。 Factors associated with canine skin extensibility in toy poodles
Mizuki Takeda, Nobuaki Arai, Yuzo Koketsu, Yasushi Mizoguchi, The Journal of Veterinary Medical Science(2021), DOI:10.1292/jvms.21-0266
トイプードルは皮膚が弱い?
当初の予想とは裏腹に、被毛色と皮膚脆弱性との間に明白な関連性は見つかりませんでした。
被毛色と皮膚脆弱性
唯一弱い関連性が確認された「ASIP」に関しては、ユーメラニンとフェオメラニンの分布パターンや生成量を決定づけるほか、カルシウムシグナリングの調整にも関わっている遺伝子です。
イオン化カルシウム(Ca2+)はホルモン分泌、神経伝達物質の放出、酵素やイオンチャンネルの活性化、遺伝子の発現等に関わっていますので、表皮内におけるCa2+の分布がバリア機能に影響を及ぼし、脆弱性という形で表現化する可能性は多少あるかもしれません。ただしトイプードルに限定的かどうかは不明です。
イオン化カルシウム(Ca2+)はホルモン分泌、神経伝達物質の放出、酵素やイオンチャンネルの活性化、遺伝子の発現等に関わっていますので、表皮内におけるCa2+の分布がバリア機能に影響を及ぼし、脆弱性という形で表現化する可能性は多少あるかもしれません。ただしトイプードルに限定的かどうかは不明です。
性別と皮膚脆弱性
皮膚脆弱性と統計的に有意なレベルの関連性が認められたのは年齢および性別でした。
年齢に関しては加齢に伴う自然劣化によってコラーゲン繊維が弱化しますので、連動して皮膚が弱くなっても不思議ではありません。
一方、性別に関してはオスよりもメスのほうがSEIが高い、つまり皮膚が弱いという結果になりました。成長過程にあるオスのマウスはメスに比べてコラーゲンが多いとか、精巣を切除したラットでコラーゲンが少なくなりテストステロンを投与した去勢オスやメスでは増加するという知見から考えると、性ホルモンがコラーゲンの量に影響を及ぼし、結果的に皮膚の強度を左右している可能性が伺えます。
例えばテストステロンを始めとする同化作用を有するホルモンが少ないため加齢に伴うコラーゲンの劣化を抑制することができず、加齢によるコラーゲンの減少に歯止めがかからず皮膚脆弱性につながるなどです。
しかし去勢して男性ホルモンが激減したはずのオス犬でメス犬と同様の脆弱性は確認されませんでしたので、不確かな部分はまだ残されています。またASIP遺伝子の場合と同様、トイプードルに限定的な現象かどうかも不明です。
年齢に関しては加齢に伴う自然劣化によってコラーゲン繊維が弱化しますので、連動して皮膚が弱くなっても不思議ではありません。
一方、性別に関してはオスよりもメスのほうがSEIが高い、つまり皮膚が弱いという結果になりました。成長過程にあるオスのマウスはメスに比べてコラーゲンが多いとか、精巣を切除したラットでコラーゲンが少なくなりテストステロンを投与した去勢オスやメスでは増加するという知見から考えると、性ホルモンがコラーゲンの量に影響を及ぼし、結果的に皮膚の強度を左右している可能性が伺えます。
例えばテストステロンを始めとする同化作用を有するホルモンが少ないため加齢に伴うコラーゲンの劣化を抑制することができず、加齢によるコラーゲンの減少に歯止めがかからず皮膚脆弱性につながるなどです。
しかし去勢して男性ホルモンが激減したはずのオス犬でメス犬と同様の脆弱性は確認されませんでしたので、不確かな部分はまだ残されています。またASIP遺伝子の場合と同様、トイプードルに限定的な現象かどうかも不明です。
エーラス・ダンロス症候群
皮膚の脆弱性は単なる体質の範囲内ですが、「皮膚無力症」となるとひとつの疾患になります。人医学でエーラス・ダンロス症候群と呼ばれるこの皮膚疾患では、コラーゲン繊維の形成不全により皮膚が以上に伸びたり以上にもろくなったりします。
犬においては遺伝疾患で優性遺伝、劣性遺伝の両方が確認されていますが、原因遺伝子の一つである「TNXB遺伝子」の変異(Gly967Asp)に関しては、チワワとプードルの一部で確認されています。
日本国内でも症例報告がありますので、まれではありますが「少しぶつかったくらいですぐに怪我をする」とか「ブラシをかけただけなのに皮膚が裂ける」といった奇妙な症状が見られる場合は疑ってみる必要があるでしょう(:Ueda, 2011)。
日本国内でも症例報告がありますので、まれではありますが「少しぶつかったくらいですぐに怪我をする」とか「ブラシをかけただけなのに皮膚が裂ける」といった奇妙な症状が見られる場合は疑ってみる必要があるでしょう(:Ueda, 2011)。