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生き物以外に対する犬の怖がりは改善できる~非社会的な恐怖の原因と対策

 犬が人間や他の犬を怖がることを「社会的な恐怖」と呼ぶのに対し、生き物以外を怖がることを「非社会的な恐怖」と呼びます。フィンランド国内に暮らす犬の飼い主を対象とした大規模なアンケート調査により、犬の非社会的な恐怖を助長していると思われる各種の要因が明らかになりました。

犬を怖がらせる非社会的な刺激

 調査を行ったのはフィンランドにあるヘルシンキ大学獣医生物科学部のチーム。Facebookや犬種協会を通じて犬の飼い主を対象としたオンラインのアンケート調査を行い、生き物以外の存在を怖がる「非社会的な恐怖心」(non-social fear)を助長している要因が何であるかを検証しました。非社会的な刺激を日常生活で頻繁に遭遇する花火、雷、見知らぬ場所、歩行面や高い場所に限定して統計的な計算を行ったところ、以下のような結果になったといいます。
文中用語解説
  • 犬の体格分類小型犬=体高35cm以下/中型犬=体高36~49cm/大型犬=体高50cm以上
  • 社会化スコア生後7週齢から4ヶ月齢の期間、見知らぬ人や犬、市の施設、車やバスで訪れる家以外の場所とどのくらい接する機会があったかを7つの質問を通して0~35で評価したもの。数値が高いほど社会化が進んでいる
  • 歩行面キラキラ輝く床や格子状の足場など少し変わった面
  • 初飼育犬を飼うのが初めての飼い主
  • 単身独身という意味ではなく、結婚ステータスに関わらず同居人がいない状態のこと
  • 大家族子供2人以上+大人2人以上
  • 運動飼い主が付き添って行う散歩や遊び
  • 活動・訓練アジリティ、服従クラス、ハンティング
  • たびたび訓練年に数回~月に1回
  • オッズ比(OR)標準の起こりやすさを「1」としたとき、どの程度起こりやすいかを相対的に示したもので、数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味している(※OR0.5なら標準より50%起こりにくく、1.5なら標準より50%起こりやすい)
Hakanen, E., Mikkola, S., Salonen, M. et al. Sci Rep 10, 13774 (2020). DOI:10.1038/s41598-020-70722-7
Active and social life is associated with lower non-social fearfulness in pet dogs

花火への恐怖

【犬たちの元データ】
平均4.8歳/メス51.9%/恐怖反応あり=2,881頭/恐怖反応なし=6,732頭
以下の数字はオッズ比(OR)↓
  • 初飼育:初めてではない=1.53:1
  • 未手術:不妊手術済み=0.75:1
  • 訓練なし:たびたび訓練=1.26:1
  • 訓練なし:最低週1で訓練=1.41:1
  • 単頭飼い:多頭飼い=1.44:1

雷への恐怖

【犬たちの元データ】
平均4.7歳/メス51.8%/恐怖反応あり=1,704頭/恐怖反応なし=7,809頭
以下の数字はオッズ比(OR)↓
  • 未手術:不妊手術済み=0.67:1
  • 単頭飼い:多頭飼い=1.45:1
  • 大型犬:小型犬=0.72:1
  • 訓練なし:たびたび訓練=1.23:1
  • 訓練なし:最低週1で訓練=1.36:1
  • 1日の運動量1~2時間:3時間以上=0.83:1
  • 1日の運動量2~3時間:3時間以上=0.78:1

目新しい場所への恐怖

【犬たちの元データ】
平均4.6歳/メス52.3%/恐怖反応あり=883頭/恐怖反応なし=6,062頭
以下の数字はオッズ比(OR)↓
  • 未手術:不妊手術済み=0.37:1
  • 未手術オス:未手術メス=0.81:1
  • 未手術オス:去勢済みオス=0.45:1
  • 未手術オス:避妊済みメス=0.61:1
  • 未手術メス:去勢済みオス=0.61:1
  • 未手術メス:避妊済みメス=0.75:1
  • 去勢済みオス:避妊済みメス=1.23:1
  • 訓練なし:たびたび訓練=1.67:1
  • 訓練なし:最低週1で訓練=1.84:1
  • 単身:子供2人=0.66:1
  • 単身:大家族=0.57:1
  • 夫婦:大家族=0.70:1
  • 年齢との相関5歳くらいをピークにした山型で、特に高齢層では低くなる犬の目新しい場所への恐怖と年齢との相関グラフ
  • 社会化スコアとの相関社会化スコアが低いほど目新しい場所への恐怖心は強まる犬の目新しい場所への恐怖と社会化スコアとの相関グラフ

歩行面や高所への恐怖

【犬たちの元データ】
平均5.1歳/メス52.2%/恐怖反応あり=1,720頭/恐怖反応なし=1,212頭
以下の数字はオッズ比(OR)↓
  • 大型犬:小型犬=0.40:1
  • 中型犬:小型犬=0.37:1
  • 単頭飼い:多頭飼い=1.88:1
  • 初飼育:初めてではない=1.49:1
  • 訓練なし:たびたび訓練=2.06:1
  • 訓練なし:最低週1で訓練=2.26:1

犬の非社会的恐怖への対策

犬種は「花火」「雷」「歩行面・高所」に対する恐怖心と関わっていました。過去に行われた数多くの調査では犬の怖がりという側面には遺伝が関わっている可能性が示唆されています。また怖がり傾向に関連していると思われる特定の遺伝子座を特定した報告もあります。当調査でもケアーンテリアが3つの項目において怖がりトップ5にランクインしたのに対し、チャイニーズクレステッドドックはほとんどの項目で最低ランクでしたので、恐怖心の度合いには遺伝的な脆弱性が存在している可能性がうかがえます。
社会化の度合いは「花火」「雷」「目新しい場所」に対する恐怖心と関わっていました。脳が柔軟な社会化期において、なるべく多くの外界刺激に触れさせておくことの重要性が改めて示されています。
同居犬の存在は「花火」「雷」「歩行面・高所」に対する恐怖心と関わっていました。他の犬がそばにいることで単純に恐怖が緩和されたのかもしれません。犬には他の犬や人間の反応を参考にして自分の態度を決める「社会的参照」の能力がありますので、同居犬に怖がりな傾向がなかった場合、「あ、怖がる必要はないんだ」と判断した可能性もあります。
活動や訓練への参加頻度は4つの非社会的な刺激すべてに対する恐怖心と正の相関関係を示しました。その一方、運動量に関しては1日の運動量が多い犬の方が雷への恐怖心が強まる傾向が確認されています。一見矛盾するようですが、「運動」がただ漫然と犬を歩かせるのに対し、「活動・訓練」では特定の指示に従わせるなど条件付け訓練が明白に含まれます。こうした訓練(しつけ)を通じて飼い主に対する愛着が強まると、愛着理論が言うところの「安全基地効果」が生まれ、飼い主が近くにいることで恐怖心が軽減した可能性があります。当調査において訓練の方法までは明記されていませんが、愛着を強化するにはご褒美ベースの「正の強化」が基本であることは言うまでもありません。
まとめ
 飼い主の主観で問題とみなされる行動を犬が繰り返し示す場合、生活満足度が下がると同時に犬に対する愛着が弱くなり、結果として飼育放棄されるリスクが高まります。先天的な「犬種」「年齢」「体格」はどうしようもありませんが、生後間もない時期における社会化トレーニングや、日常的に行うしつけや訓練の方は後天的に介入が可能です。当調査により犬の非社会的な恐怖心の原因と対策が見えてきましたので、飼い主としてはヒューマンアニマルボンドを維持するためできる限りの努力はしてあげたいものです。
日常生活でできそうな創意工夫に関しては以下のページをご参照下さい。 子犬の社会化期 犬のしつけ方